
豊洲のオープンスペース活用ワークショップ
豊洲スマートシティ推進協議会が、毎月開催の「豊洲場外マルシェ」に併せて開いた市民参加ワークショップ。賑わいイベントを入口に、ぐるり公園や広場・水辺の使い方を住民・来街者と考えるプレイスメイキングの取り組みを、XR等のスマートシティ基盤とあわせて紹介する。
東京都江東区の豊洲エリアで、一般社団法人豊洲スマートシティ推進協議会(事務局:清水建設)が、毎月開催される「豊洲場外マルシェ」(2025年12月20日、第46回)に併せて開いた参加無料のワークショップである。テーマは「豊洲のオープンスペースをどう活用したらいいか、街の未来を考える」。会場は新交通ゆりかもめ市場前駅に直結する都市型道の駅「ミチノテラス豊洲」で、午前11時からと午後1時からの2回、来街者や住民が立ち寄れる形で実施された。ダンスパフォーマンスや練り切り体験などの賑わい企画が並ぶマルシェの一角に対話の場を設け、ぐるり公園やビルの間の広場、水辺といったパブリックスペースの使い方を市民とともに描こうとする、プレイスメイキング型の市民参加企画にあたる。(参考:とよすと、my groove プロジェクトページ)
このワークショップは単発のイベントにとどまらず、協議会が継続的に進める「みんなでつかう、とよすのオープンスペースについて考えよう!」というプロジェクトの一環として位置づけられている。同プロジェクトは、豊洲には水辺沿いの遊歩道や建物の合間の広場といった公共空間が数多く存在するという地域特性を前提に、それらをより使いやすく、地域のニーズに合った形へと育てていくことを掲げている。(参考:my groove プロジェクトページ)
豊洲エリアは、豊洲1〜6丁目を中心とした臨海部のまちで、居住人口は約3.7万人、就業人口は約4万人を抱える。タワーマンションや大型商業施設、豊洲市場が集積し、水辺の遊歩道「ぐるり公園」をはじめ良質なオープンスペースに恵まれている一方で、それらが必ずしも十分に活かしきれていないという認識があった。(参考:TOYOSU SMART CITY、my groove プロジェクトページ)
東京都「スマート東京」のデータ連携・活用促進事業に採択された豊洲スマートシティでは、エリアの構造的な課題として「回遊性の不足」が挙げられている。たとえば大型商業施設の来訪者の多くが施設利用後にそのまま直帰し、まちなかを歩き回る動きにつながりにくいこと、地域情報の発信が十分でないこと、地域内・地域間の連携が弱いことなどである。豊富なオープンスペースは、こうした「点」に集中しがちな人の流れを「面」へと広げ、滞在と回遊を生み出す資源になり得るが、その使い方を地域でどう決めていくかが問われていた。(参考:東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
豊洲では、協議会の構成企業が幹事を務める形で「観光・周遊」「モビリティ」「データプラットフォーム」の3つのワーキンググループが動いており、空間の活用と人の流れの設計はその交差点に位置するテーマである。オープンスペースの使い方を行政や事業者だけで決めるのではなく、実際にまちを使う住民・就業者・来街者の声を取り込む仕組みが求められていた。(参考:TOYOSU SMART CITY、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
取り組みの土台にあるのは、まちの拠点づくりと継続的な意見募集の二段構えである。協議会は、ミチノテラス豊洲を「都市型道の駅」と位置づけ、各地の生産者と都市の消費者を食でつなぐ場として「豊洲場外マルシェ」を毎月開催してきた。マルシェは豊洲市場の仲卸による直売やキッチンカー、ワークショップなどで定常的に人を集める場となっており、地域に根づいた集客装置として機能している。(参考:豊洲場外マルシェ)
その上で協議会は、オープンスペースの使い方を考える専用プロジェクトを立ち上げ、まちづくりプラットフォーム上でオープンスペースの情報発信とアイデア募集を常時行っている。募集されるアイデアは「豊洲 × 楽しむ」(仕事帰りの過ごし方やイベント活用)、「豊洲 × 学び」、「豊洲 × 防災」といった切り口で整理され、住民が自分ごととして空間の使い道を提案できるよう設計されている。(参考:my groove プロジェクトページ)
2025年12月20日のワークショップは、この常時募集をリアルな対面の場へと接続する役割を担った。すでに人が集まっているマルシェの会場に参加無料のまちづくりワークショップを併設することで、わざわざ会議室に足を運ばなくても、買い物や食事のついでに立ち寄って意見を出せる導線をつくった。同日のマルシェ会場では、ダンスや紙芝居、練り切り体験などの賑わい企画と並んで対話の場が用意され、世代や立場の異なる来街者が自然に巻き込まれる構成になっていた。(参考:とよすと)
こうした対面の議論を支える基盤として、協議会はデジタルツインを使った合意形成ツールの整備も進めてきた。清水建設とアップフロンティアが共同開発した「XRジオラマビジョン」は、国の3D都市モデル「PLATEAU」をベースに豊洲のまちをXR空間上に再現し、ARグラス「Magic Leap 2」を通じて街の情報やロボットの配置・動線などを立体的に見ながら検討できる仕組みである。2024年3月に体験デモが公開され、同年12月には豊洲スマートパスなどとあわせて実装が進められた。XR上の豊洲ジオラマは、地域事業者や大学と連携した「街の在り方ワークショップ」での活用が想定されており、空間の将来像を視覚的に共有する手段として位置づけられている。(参考:BUILT(ITmedia)、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
第一の特徴は、まちづくりの議論の「入口」を、まちづくり関心層に限定せず、賑わいイベントの来街者全体に広げている点である。一般に公共空間活用のワークショップは、関心の高い住民や登録メンバーが会議室に集まる形になりやすいが、本事例はすでに集客力のある定例マルシェに併設することで、買い物客や家族連れ、就業者など、ふだんワークショップに来ない層が自然に立ち寄れる設計にしている。参加のハードルを下げる工夫が、空間そのものではなくイベントの編成によって実現されている。(参考:とよすと、豊洲場外マルシェ)
第二に、オンラインでの常時アイデア募集と、対面ワークショップ、XRによる空間の可視化という、デジタルとリアルの複数チャネルを組み合わせている点である。プラットフォーム上では「楽しむ/学び/防災」という切り口で継続的に意見を集め、対面では実際に空間を使う人と直接対話し、XRジオラマビジョンでは将来像を立体的に共有する。単発のヒアリングではなく、参加の経路を複線化して空間活用の検討を回していく構えがうかがえる。(参考:my groove プロジェクトページ、BUILT(ITmedia))
第三に、推進主体が単独の行政や一企業ではなく、豊洲にゆかりのある企業が集う官民連携の協議会である点である。事務局を清水建設が担い、自治体やエリアマネジメント組織、大学などと連携しながら、観光・モビリティ・データという複数の機能を横断してオープンスペースのテーマを扱える体制になっている。空間活用を一過性のイベントで終わらせず、継続的な事業の枠組みの中に組み込んでいる。(参考:TOYOSU SMART CITY、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
本ワークショップは2025年12月20日に実施された比較的新しい取り組みであり、調査時点では、参加人数や会場で収集された具体的な意見・アイデアの件数といった定量的な成果は公開情報として確認できていない。この点は、評価にあたって留意すべき制約である。(参考:とよすと)
その上で、客観的に確認できる到達点としては、次の要素が挙げられる。ひとつは、オープンスペースの活用を考える仕組みが単発イベントではなく継続プロジェクトとして立ち上げられ、まちづくりプラットフォーム上で「楽しむ/学び/防災」の切り口による情報発信とアイデア募集が常時行われていること。もうひとつは、合意形成を支えるXRジオラマビジョンが2024年に体験デモから実装段階へと進み、街の在り方を検討するワークショップで使える基盤が整えられていることである。継続的な集客装置である場外マルシェと、これらの仕組みが接続されたことで、住民の声を空間活用の検討に取り込む経路が形になりつつある。(参考:my groove プロジェクトページ、BUILT(ITmedia)、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
第一の示唆は、市民参加の場を「ゼロから集客する」のではなく、既存の定例イベントに相乗りさせる発想である。多くの地域では、公共空間活用のワークショップを開いても参加者が集まらない、来るのは固定メンバーばかりという課題を抱える。すでに人が集まっているマルシェやマーケットに対話の場を併設するアプローチは、専用の動員コストをかけずに多様な層と接点を持つ手段として、定例の賑わいイベントを持つ地域であれば応用しやすい。(参考:とよすと、豊洲場外マルシェ)
第二に、デジタルツインや3D都市モデルを、技術デモではなく市民との合意形成の道具として位置づける視点である。豊洲ではPLATEAUを基盤としたXR上のまち模型を用い、空間の将来像を立体的に共有しようとしている。図面や言葉だけでは伝わりにくい「使い方の変化」を、専門家でない参加者と共有する手段として、国が整備を進める3D都市モデルを活用する余地は他地域にも開かれている。ただし高価なARグラスを前提とした体験は導入コストの面で制約があり、地域の状況に応じて手段の選び方を検討する必要がある。(参考:BUILT(ITmedia)、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
第三に、空間活用の検討を一過性で終わらせないための「継続主体」の重要性である。豊洲では、特定の個人や単発の補助事業ではなく、地域企業が集まる官民連携の協議会が事務局機能を担い、オンライン募集・対面ワークショップ・デジタル基盤を束ねている。属人的な熱意に頼らず、観光・モビリティ・データといった機能横断の枠組みの中にオープンスペースのテーマを組み込む体制づくりは、取り組みの持続性を考えるうえで参考になる。(参考:TOYOSU SMART CITY、東京都 スマート東京 採択プロジェクト)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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