
東急バス 小型EVバスによる自動運転実証(世田谷・用賀)
東急バスが自社開発した小型EVバスで、世田谷区・用賀の生活道路と幹線道路を走る自動運転(レベル2)路線バス化の実証。2025年の走行試験から2026年の一般客試乗へ段階を進め、乗客自身がLINEで予約・決済・認証する無人運行前提の運行体制まで検証した、交通事業者が自ら継続運用する「内製モデル」を読み解く。
東急バス小型EVバスによる自動運転実証は、東急バス株式会社が自社で開発・運用する小型EVバスを用いて、東京都世田谷区・用賀の既存バス路線上で自動運転(レベル2)の実用化を検証する取り組みである。専用に整備した空間ではなく、住宅地の狭い道から環状八号線のような交通量の多い幹線までを含む一般道を舞台に、路線バスとして継続的に営業運行できる体制を組み立てられるかを試す。2025年5月には一般客を乗せない走行試験を、2026年6月には用賀駅〜関東中央病院〜用賀駅を巡る約3.5kmで一般客向けの試乗を実施し、走行環境と運行方法の両面で段階的に検証を積み上げてきた。(参考:東急バス「自動運転小型EVバスの一般向け試乗を実施します」(2026年5月27日)、世田谷区「自動運転小型EVバスの走行試験について」)
この事例の中心にあるのは、車両メーカーやスタートアップが主導して実証が終われば撤収する形ではなく、バス事業者自身が自動運転システムを開発し、調整・整備まで自前で担うことで「実証を事業へつなげる」ことを志向している点である。移動サービスの担い手であるバス会社が、持続可能な事業モデルとして自動運転を内製化しようとする構図こそが、この事例の核心である。(参考:東急バス「当社開発の自動運転小型EVバスを使用した東京都内住宅街のバス路線における走行試験を実施します」(2025年4月24日))
自動運転バスへの取り組みの背景には、暮らし方の変化や高齢化とともに移動の目的・手段がばらけてきたこと、そしてバス業界が直面する運転士不足がある。担い手が限られても地域の足を維持し続けられる仕組みづくりが課題であり、東急バスが自動運転技術と遠隔監視の検証に着手したのは2020年で、以降、場所と条件を変えながら実証を重ねてきた。用賀の実証ルートが東急田園都市線・用賀駅を起点に関東中央病院を結ぶ形をとっているのも、通院を含む生活動線という確実な移動需要に自動運転を接続する狙いがうかがえる。(参考:東急バス(2025年4月24日)、東急バス(2026年5月27日)、東急「渋谷で自動運転小型EVバスに乗ってみた」)
技術面の課題は、専用空間ではない一般道での走行そのものにある。用賀周辺は住宅街の狭い生活道路と交通量の多い幹線道路が混在し、路上駐車、道路工事、横断歩道の歩行者、自転車、交差点での右折といった判断が連続する。こうした環境で路線バスとして安定して走れるかが問われた。加えて、無人運行を見据えると、車両の自動走行だけでなく、乗務員が担ってきた案内・運賃収受・本人確認といった運行業務をどう省人化するかという、車両の外側の課題も同時に解かねばならない。(参考:東急バス(2025年4月24日)、東急(渋谷体験レポート))
用賀での実証は、走行環境と運行方法の難易度を意図的に上げながら段階を踏んでいる。第一段階の2025年5月7日〜20日(9〜19時)には、用賀駅〜関東中央病院〜美術館バス停〜用賀駅の約5.9kmで走行試験を実施した。自動化の水準は、係員が運転席に座って周囲を見守り続けるレベル2で、速度は最高30km/hに抑えられ、この段階では一般の乗車はできない検証専用の運行だった。車両には東急バスが新たに開発した10人乗りの自動運転小型EVバスを用い、住宅地の細い道と、環状八号線をはじめとする交通量の多い幹線道路の双方を走った。(参考:世田谷区「自動運転小型EVバスの走行試験について」、東急バス(2025年4月24日))
第二段階として、2026年6月2日〜30日の火・木曜日、午前10時〜午後1時に、用賀駅〜関東中央病院〜用賀駅の約3.5kmの往復ルートで一般客向けの試乗を運賃無料で実施した。途中バス停での乗降も可能とし、実際の路線バスに近い形で運行された。ここで導入されたのが、将来の無人運行を前提とした予約・決済・認証の仕組みである。乗車にはLINE公式アカウント「東急バス 自動運転」での会員登録と事前予約が必要で、予約時に発行される電子チケットを車内の読み取り端末で認証すると乗車できる。会員登録から予約、認証までを乗客の手元操作で完結させる設計とし、乗務員が担ってきた収受・確認の業務をどこまで機械と利用者に肩代わりさせられるかを試した。(参考:東急バス(2026年5月27日)、日本経済新聞「東急バス、東京・世田谷で自動運転バス実証 乗客が予約と決済」)
車両とシステムの構成にも、事業者による内製・継続運用の思想が表れている。ベース車両は市販のトヨタ「ハイエース ワゴン グランドキャビン」で、EV化と自動運転化を実施。車体各所に約20個のカメラ・マイクやLiDARセンサーを備え、急速充電で約1時間充電すれば約100km走行できる。自動運転ソフトには名古屋大学発の「ADENU」をカスタマイズして採用した。EV化・改造は東急テクノシステム株式会社(川崎市)が担い、自動運転システムの搭載・調整は東急バスが行う分担で、運行事業者側でシステムの調整・整備ができる体制を築いた点が特徴である。運行中は東急バス本社(目黒区)に設けた遠隔コントロールセンターで監視する。(参考:東急(渋谷体験レポート)、世田谷区「自動運転小型EVバスの走行試験について」)
用賀の実証は、東急バスが積み重ねてきた一連の検証ロードマップの一部でもある。2020年12月に静岡県伊東市・伊豆高原駅付近に遠隔コントロールセンターを設置して以降、2021年度からは静岡県の「しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト」を継続受託、2022年9月と2023年3月には川崎市麻生区・横浜市青葉区の多摩田園都市エリア(郊外住宅地)で遠隔監視による運行管理を、2024年5月には他社と組み、別々のエリアを走る2社2台の自動運転バスを1人の監視者がまとめて運行管理する、バス業界では初となる共同実証まで進めた。用賀の後、2025年9月29日〜10月31日には、スクランブル交差点や明治通り・国道246号を含む渋谷駅周辺の約4.1kmでも実証を重ねている。(参考:東急バス(2026年5月27日)、東急バス「自動運転小型EVバスを使用した渋谷駅周辺エリアにおける走行試験を実施します」)
第一の特徴は、バス事業者が自動運転システムを自ら開発・保有し、調整・整備まで自前でこなす「内製・自走モデル」を明確に掲げている点である。多くの自動運転バス実証はメーカーやソフト開発企業が主導し、実証期間が終わると車両ごと撤収されがちで、地域には仕組みが残りにくい。東急バスは市販車をベースに、運行事業者の手で調整・整備できるシステムに仕立て、使いこなすための経験を社内に貯め込みながら、実証後も自力でサービスを回し続けられる事業化の道筋を探っている。(参考:東急バス(2025年4月24日))
第二の特徴は、走行環境の難易度を段階的に引き上げる実証設計である。郊外住宅地(多摩田園都市エリア)から始め、用賀の生活道路と幹線道路が混在する市街地、そして交通量が極めて多い渋谷駅周辺へと、走行の難しさを意図的に引き上げている。用賀の中でも、2025年は一般客を乗せない走行試験、2026年は一般客が実際に乗る試乗へと運行方法の段階も上げており、技術と運用の両輪で慎重に検証を積み上げている。(参考:東急バス(2026年5月27日))
第三の特徴は、自動運転を「車両を自動で走らせること」にとどめず、案内・運賃収受・本人確認といった運行オペレーション全体の無人化まで分解して検証している点にある。乗客自身がLINEで予約・決済・認証を完結させる仕組みは、無人運行時に乗務員がいなくても運賃収受と乗車管理が回るかを問うものであり、車両の自動化と運行体制の無人化を切り分けて設計している。走ることだけに焦点を当てがちな実証が多いなかで、事業として成立させるための運行設計まで射程に入れている点が示唆的である。(参考:東急バス(2026年5月27日)、日本経済新聞)
2025年5月の走行試験に試乗した保坂展人世田谷区長は、用賀駅・関東中央病院・世田谷美術館を巡回するルートで、路上駐車や道路工事、横断歩道を渡ろうとする歩行者や自転車、交通量の多い交差点での右折といった一般道特有の場面を低速ながら次々に処理し、係員が乗るレベル2ながらほとんどを自動運転で走ったと自身のX投稿で報告している。試乗者個人の所感という留保は付くものの、市街地の一般道で路線バスとして走れる見通しを示す材料といえる。(参考:保坂展人 世田谷区長(2025年5月14日)、世田谷区「自動運転小型EVバスの走行試験について」)
運行方法の面でも、2025年に一般客が乗車できなかった段階から、2026年には一般客が実際に乗り、自ら予約・決済・認証を行って乗車する段階へと到達した。これは無人運行に向けた運行体制の検証が、机上ではなく利用者を交えた実運用の水準に進んだことを意味する。一方で、利用者数や安全性評価の集計といった定量的な実績は本調査時点で公表されておらず、システム不具合時の対応や予約システム、運行体制には改善すべき点が多いとされ、実用化は早くても数年先を見据えた継続的な検証段階にある。(参考:東急バス(2026年5月27日)、東急(渋谷体験レポート))
第一に、自動運転バスを「実証で終わらせない」ためには、運行事業者自身がシステムを扱える体制づくりが鍵になる。メーカー主導の実証は華やかでも、事業者側に調整・整備の能力が残らなければ、実証後の継続運用や面的展開が止まりやすい。地域交通を担う事業者や、それを支える自治体が自動運転を検討する際は、車両性能だけでなく「実証後に誰が運用し続けられるか」を初めから設計に組み込む発想が参考になる。
第二に、走行環境の難易度を段階的に上げる実証ロードマップは、他地域でも応用できる進め方である。いきなり最難関の環境で試すのではなく、郊外住宅地から市街地、繁華街へと段階を刻み、あわせて一般客を乗せない試験から乗せる試乗へと運行方法も一段ずつ上げていく設計は、安全性を担保しながら合意形成と技術検証を並走させたい地域にとって現実的なモデルとなる。
第三に、無人運行の事業性は車両の自動化だけでは決まらないという視点である。用賀の実証は、乗務員が担ってきた案内・収受・認証を利用者側にオフロードすることで省人化を図っており、無人化を目指す地域は「走行の自動化」と「運行オペレーションの無人化」を分けて検討する必要がある。ただし、予約・決済・認証を利用者自身に委ねる方式は、通院など高齢者の移動需要に応える一方で、デジタル操作に不慣れな層には新たなハードルを生む。誰の移動を支えるための自動運転かという目的に照らし、省人化と利用しやすさのバランスを地域ごとに設計することが問われる。
2026年07月時点の調査内容に基づいて作成
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