
日立市総合計画・ひたち成長戦略プラン・立地適正化計画(多極ネットワーク型コンパクトシティ)
南北に細長くJR常磐線5駅を抱える日立市が、総合計画・立地適正化計画・都市計画マスタープランを連動させ、駅を核とした多極ネットワーク型コンパクトシティへ都市構造を再編する計画体系の事例。2025年改定で防災指針を組み込んだ点が特徴。
茨城県日立市は、市政運営の最上位計画である「日立市総合計画(令和4〜13年度/2022〜2031年度)」、土地利用と都市施設の配置を定める「立地適正化計画」、それらを空間面で具体化する「都市計画マスタープラン」を連動させ、人口減少下でも生活利便性を維持できる都市構造への再編を進めている。総合計画は基本構想・基本計画の体系をとり、施策の重点を示す基本計画部分を「ひたち成長戦略プラン」として6つの大綱に整理している。 (参考:日立市総合計画(令和4〜13年度)について(日立市))
都市構造の将来像として掲げられているのが「多極ネットワーク型コンパクトシティ」である。南北に細長い市域に並ぶJR常磐線の5駅(南から大甕・常陸多賀・日立・小木津・十王)を拠点として位置づけ、駅前や幹線道路沿道に医療・福祉・商業などの都市機能を誘導・集積し、それらを鉄道・ひたちBRT・路線バスで結ぶことを目指している。立地適正化計画は2020年(令和2年3月)に最初に策定され、2025年(令和7年3月)の改定で防災指針の追加など災害リスクへの対応が強化された点が、この計画体系を理解するうえでの要点となる。 (参考:日立市都市計画マスタープラン(日立市)、日立市立地適正化計画(日立市))
日立市は日立製作所の企業城下町として発展し、戦後の最盛期には20万人を超える人口を擁したが、製造業の構造変化や若年層の流出を背景に人口減少が続いている。総合計画は、人口減少・少子高齢化に加え、激甚化する自然災害やパンデミックといった「急変動社会」への対応を明示的な策定動機として掲げており、すべての世代が生き生きと安心して暮らせるまちづくりを基本方針に据えている。 (参考:日立市総合計画(令和4〜13年度)について(日立市))
日立市の地理的条件はまちづくりの制約であると同時に、計画の前提を規定している。市域は太平洋と阿武隈高地に挟まれた南北に細長い形状で、市街地はJR常磐線と国道6号の沿線に帯状に連なる。この構造は、駅を核とした拠点形成に適する一方で、人口が減少すると各拠点の都市機能を維持しづらくなり、低密度に拡散したままでは公共交通もインフラ維持も非効率になるという課題を抱える。総合計画の都市像である目標年次2040年・想定人口14万人という設定は、こうした縮小を前提に「どこに人と機能を残すか」を選択する必要性を示している。 (参考:日立市都市計画マスタープラン(日立市))
なお、人口の見通しは計画文書によって異なる前提で運用されている。総合計画・都市計画マスタープランが将来都市像として2040年に14万人を想定するのに対し、人口の社会増減対策を担う総合戦略の見直しでは、2040年度の目標人口を13万5000人と前期計画より5000人引き下げる調整が行われた。これは国立社会保障・人口問題研究所の推計(約12万5000人)を1万人上回る水準であり、自然体の減少を施策で押し戻す「政策目標」としての性格を持つ。複数の計画が異なる人口前提を併用している点は、計画体系を読み解くうえで注意が必要である。 (参考:日立市総合戦略策定 40年度人口13万5000人(茨城新聞))
計画体系は3層構造で運用されている。最上位の総合計画が市政全体の方向性と6大綱からなる「ひたち成長戦略プラン」を示し、都市計画マスタープランが将来都市像と土地利用方針を空間的に描き、立地適正化計画が居住と都市機能を誘導する具体的な区域と施策を定める。立地適正化計画は都市計画マスタープランの一部と位置づけられ、3者は相互に整合を図りながら、茨城県が定める都市計画区域マスタープランとも調整されている。 (参考:日立市都市計画マスタープラン(日立市)、日立市立地適正化計画(日立市))
立地適正化計画では、居住を誘導する「居住誘導区域」と、商業・医療・福祉などの都市機能を誘導する「都市機能誘導区域」を設定する。日立市の都市機能誘導区域は16地区で構成され、JR各駅周辺を中心に配置されている。これらの区域を一定の人口密度を保ちながら維持し、区域間を公共交通で結ぶことで「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を実現する設計である。区域の実効性を担保するため、誘導区域の外側でまとまった規模の開発や建築を計画する際は、都市再生特別措置法に基づき、工事に取りかかる30日前までに市へ届け出る仕組みが設けられており、緩やかな立地誘導が運用されている。 (参考:日立市立地適正化計画(日立市)、立地適正化計画に係る届出制度(日立市))
2020年に策定された立地適正化計画は、2025年(令和7年3月)に改定された。改定では、災害リスク情報をもとに誘導区域を見直し、新たに防災指針を盛り込んだうえで、誘導施策と評価指標を更新・中間評価する作業が行われた。とりわけ防災指針の組み込みは、コンパクトシティ施策が「人を集める区域」を扱う以上、その区域が浸水・土砂災害などのリスクをどう避けるかという安全性の観点を計画本体に統合する動きであり、近年の都市再生特別措置法の趣旨に沿った対応にあたる。 (参考:日立市立地適正化計画(日立市))
計画は抽象的な区域設定にとどまらず、拠点ごとの具体的な整備計画として展開されている。代表例が常陸多賀駅周辺地区整備計画で、「くらしとにぎわい 次代に紡ぐまちづくり」を理念に、駅東口広場とアクセス道路の整備、東西自由通路と駅舎の一体整備、空き店舗活用やエリアマネジメント体制の構築などに取り組む。これは立地適正化計画における常陸多賀駅前の都市機能誘導区域と連動した動きであり、駅前の交通結節機能の強化と中心部の空洞化対策を一体で進める意図がある。 (参考:常陸多賀駅周辺地区の持続可能なまちづくり(日立市)、常陸多賀駅周辺で地区整備計画が進行中(健美家))
第一の特徴は、地形が計画の骨格を規定している点である。多くの地方都市が中心市街地への単核集約(コンパクトシティ)を志向するなか、南北に細長い日立市はそもそも単核に集約できない。そのため5つの駅を結ぶ「多極ネットワーク型」を採用し、各駅周辺に機能を残しつつ公共交通で連携させる構造を選んでいる。これは「コンパクト・プラス・ネットワーク」という国の都市政策の考え方を、線状の市街地という固有条件に当てはめた具体例といえる。 (参考:日立市都市計画マスタープラン(日立市)、コンパクトシティ政策について(国土交通省))
第二の特徴は、コンパクトシティ計画に防災の視点を後から統合した点である。2025年改定で災害ハザード情報に基づく誘導区域の見直しと防災指針の追加を行ったことは、「居住を誘導する区域」と「災害リスクの高い区域」が重なる矛盾を、計画の更新サイクルのなかで補正する取り組みである。誘導区域を一度設定して終わりにせず、リスク情報の更新に合わせて区域を再点検する運用は、立地適正化計画を「動的な計画」として扱う姿勢を示している。 (参考:日立市立地適正化計画(日立市))
第三の特徴は、上位計画と公共交通施策・拠点整備が同じ都市軸の上で連動している点である。日立市は日立電鉄線の廃線跡を転用したひたちBRTでレベル4自動運転の営業運行に取り組むなど、駅と駅を結ぶ公共交通の更新を並行して進めており、立地適正化計画が描く「拠点を公共交通で結ぶネットワーク」と、実際のモビリティ施策が同じJR常磐線・国道6号沿線という軸上で重なっている。計画上の区域設定と、移動手段の整備、駅前整備が同じ空間で噛み合うよう設計されている。 (参考:常陸多賀駅周辺地区の持続可能なまちづくり(日立市))
本事例は単発の事業ではなく長期計画の体系であるため、成果は数値的な達成度より「計画の整備と更新がどこまで進んだか」という観点で確認できる。2026年6月時点で確認できるのは、総合計画(2022年策定)・都市計画マスタープラン・立地適正化計画(2020年策定、2025年改定)の3層が整備され、立地適正化計画には16地区の都市機能誘導区域と居住誘導区域、誘導区域外の届出制度が運用段階に入っていることである。 (参考:日立市立地適正化計画(日立市)、立地適正化計画に係る届出制度(日立市))
計画が具体施策へ落ちている証左として、常陸多賀駅周辺地区整備計画のように誘導区域と連動した拠点整備が動き出している点が挙げられる。駅舎・自由通路の一体整備や東口広場の整備、エリアマネジメント体制の構築などが事業段階に位置づけられており、区域設定という「線引き」が現地の整備へ接続している。 (参考:常陸多賀駅周辺地区の持続可能なまちづくり(日立市))
一方で、計画の最終的な目的である人口・都市構造の安定化が達成されたかは現時点では評価できない。目標人口が総合計画の14万人と総合戦略の13万5000人で異なる前提を併用していること自体が、人口減少のトレンドに対して計画値の調整が続いている状況を示している。立地適正化計画の評価指標は2025年改定で中間評価が行われた段階にあり、誘導の実効性(誘導区域内への居住・機能の集約がどこまで進んだか)の検証はこれからの局面にある。 (参考:日立市総合戦略策定 40年度人口13万5000人(茨城新聞)、日立市立地適正化計画(日立市))
第一に、コンパクトシティの形は地形に従って設計すべきだという示唆がある。日立市は中心市街地への単核集約ではなく、5駅を結ぶ多極ネットワーク型を選んだ。線状・分散型の市街地を持つ自治体が、教科書的な「中心への集約」をそのまま当てはめると現実と乖離する。自地域の市街地が線状なのか面状なのか、複数の生活圏を抱えるのかを見極め、それに応じた拠点配置とネットワークを設計する発想は、地形条件の異なる他地域でも応用できる。 (参考:日立市都市計画マスタープラン(日立市))
第二に、誘導区域は一度引いて終わりではなく、災害リスク情報の更新に合わせて見直す対象だという点である。日立市は2025年改定で防災指針を追加し、ハザード情報を踏まえて区域を点検した。立地適正化計画を策定済みの自治体にとって、「策定後の改定で防災と整合をとる」というプロセスそのものが参考になる。居住を誘導した区域が後にリスク区域と判明する事態を避けるため、改定サイクルにリスク再点検を組み込む運用は再現性が高い。 (参考:日立市立地適正化計画(日立市))
第三に、計画体系の実効性は「区域設定」と「拠点の具体整備」「公共交通施策」を同じ都市軸の上で噛み合わせられるかにかかっている、という示唆である。日立市では立地適正化計画の誘導区域、常陸多賀駅前の整備、ひたちBRTなどの交通施策がJR常磐線・国道6号という同一軸上に重なっている。計画文書を作るだけでは都市構造は変わらず、誘導区域の線引きと、駅前整備・移動手段の更新を同じ場所で連動させて初めて人と機能の集約が進む。複数の計画・事業を空間的に重ね合わせて運用する視点は、縦割りになりがちな計画行政への実践的な教訓となる。 (参考:常陸多賀駅周辺地区の持続可能なまちづくり(日立市))
第四に、複数計画が異なる人口前提を併用する状況をどう扱うかという論点がある。日立市では総合計画(14万人)と総合戦略(13万5000人)で目標人口が異なる。これは計画ごとに役割と前提が違うためだが、対外的な説明や施策の優先順位づけでは混乱を招きうる。他地域が計画を改定する際は、各計画が用いる人口前提の意味(将来都市像としての想定か、政策目標か、推計値か)を整理して示すことが、計画間の整合と住民への説明責任の両面で重要になる。 (参考:日立市総合戦略策定 40年度人口13万5000人(茨城新聞))
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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