
URC都市セミナー「脱炭素社会の実現に向けて」
福岡アジア都市研究所が2025年9月に開催した都市セミナー。福岡市の2040年カーボンニュートラル実現に向けた調査研究報告と、企業のGX推進・サプライチェーン脱炭素化についての提言を共有した。
福岡アジア都市研究所(URC)が令和7年度第1回都市セミナーとして開催した、脱炭素社会をテーマにしたセミナーである。正式タイトルは「脱炭素社会の実現に向けて ~カーボンニュートラルを実装した都市をめざして~」。2025年9月18日に明治安田ホール福岡で開催され、会場とZoomウェビナーによるハイブリッド形式で実施された。セミナーでは、URCが実施した市民・企業の脱炭素行動に関する総合研究の報告に加え、GX人材育成の専門家や環境経済学の研究者による講演が行われた。 (参考:福岡アジア都市研究所セミナー情報)
福岡市は2040年度に温室効果ガス排出量実質ゼロを達成する「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明している。2030年度には2013年度比で50%削減という中間目標を掲げており、これは国の目標(46%削減)を上回る野心的な数値である。 (参考:福岡市ゼロカーボンシティの表明)
こうした目標の実現には、行政の施策だけでなく、市民一人ひとりのライフスタイル変容と、市内事業所の9割を占める中小企業の脱炭素経営が不可欠となる。URCは2024年度の総合研究として「市民と企業の脱炭素型ライフスタイル ~ゼロカーボンシティ福岡へ向けた行動変容に関する研究~」を実施し、その成果を広く共有する場として本セミナーが企画された。 (参考:URC総合研究報告書)
セミナーに先立ち、URCは約1年間にわたる調査研究を実施した。市民調査では、福岡市に住む・働く・学ぶ人々を対象にアンケートとグループインタビューを行い、ライフステージごとの脱炭素行動の傾向を分析した。企業調査では、中小企業を中心に統計データ分析と関係機関へのヒアリングを実施し、事業活動における脱炭素の現状と課題を整理した。 (参考:URC総合研究報告書)
2025年9月18日(木)14:00から16:15まで、以下のプログラムで開催された。会場は明治安田ホール福岡(福岡市博多区中洲)で、定員70名。オンライン参加も可能なハイブリッド形式で、申込は事前登録制とした。
登壇者は3名。URC研究主査の山田美里氏が総合研究の成果報告を担当し、九州大学主幹教授の加河茂美氏が環境経済学の視点からサプライチェーンの脱炭素化について講演した。加河氏は産業連関分析やマテリアルフロー分析を専門とし、国際的な学術賞であるSir Richard Stone Prize、Wassily W. Leontief Memorial Prizeを受賞している研究者である。また、株式会社スキルアップNeXtの石橋和幸氏がGX人材育成の観点から企業の脱炭素推進について提言を行った。 (参考:福岡アジア都市研究所セミナー情報、九州大学教員情報)
URCは福岡市の全額出資により1988年に設立された自治体シンクタンクである。行政の政策研究機関が実施した調査を、セミナー形式で広く市民・事業者に公開するという点で、研究成果の社会還元を意識した取り組みといえる。 (参考:福岡アジア都市研究所組織概要)
総合研究では、市民を「シニア期」「子育て期」「現役就労期」「学生期」に分類し、それぞれの脱炭素行動の特性を明らかにした。シニア層は経済的負担に慎重、子育て世代は時間的制約が大きい、現役就労者は企業の取り組み待ちの傾向がある、学生は関心は高いが行動選択肢が限られるなど、セグメントごとに異なるアプローチが必要であることを示した。 (参考:URC総合研究報告書)
中小企業の脱炭素推進について、「知る」「測る」「減らす」の3ステップのうち「知る」段階が十分に進んでいないという課題を提示した。CO2排出量の計測手法の導入支援や、業種を超えた対話の促進など、具体的な施策の方向性が示された。また、GX人材育成の専門家である石橋氏の参画により、人材育成という切り口からの提言も行われた。 (参考:URC総合研究報告書、日経ESG)
本セミナーは申込受付を終了した時点で定員に達しており、関心の高さがうかがえる。研究成果は『2024年度 URC総合研究報告書「市民と企業の脱炭素型ライフスタイル:ゼロカーボンシティ福岡へ向けた行動変容に関する研究」』として2025年6月に刊行され、URCのウェブサイトで無料公開されている。また、学術的な成果として『都市政策研究(第26号)』にも関連論文が掲載された。 (参考:URC総合研究報告書)
市民の脱炭素行動を促すには、一律のアプローチではなく、ライフステージごとの制約や関心に応じた施策設計が有効である。学生向けには環境プロジェクトへの参加機会、子育て世代には親子で取り組める環境教育など、ターゲットを明確にした働きかけが求められる。
脱炭素に取り組む中小企業への支援は、「知る」「測る」「減らす」という段階を意識することが重要である。まずは脱炭素経営の意義やメリットを伝える啓発活動から始め、CO2排出量の測定支援、そして具体的な削減策の導入支援へと段階的に進めることで、実効性の高い支援が可能となる。
URCのような自治体シンクタンクが調査研究を実施し、その成果をセミナーで還元するという枠組みは、政策立案の基盤づくりと市民啓発を同時に進める手法として参考になる。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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