
生物多様性シンポジウム2025 自然と人とビジネスが共に進化するふくおか
福岡市が開催した企業・NPO・行政向けシンポジウム。ネイチャーポジティブをテーマに、循環型林業、海洋生態系再生、地下水保全など具体的な実践事例を共有し、自然と経済の共生を探った。
2025年11月25日、福岡市中央区の電気ビル共創館で「生物多様性シンポジウム2025」が開催された。主催は福岡市環境局で、「自然と人とビジネスが共に進化するふくおか」をテーマに掲げ、民間企業、NPO、市民団体、教育機関など多様な主体が参加した。定員100名の対面形式で、参加費は無料。 (参考:生物多様性ふくおかセンター イベント情報)
プログラムは2部構成で、第1部ではネイチャーポジティブの考え方と実践事例を紹介し、第2部ではテーマ別の情報交換会を実施。研究者、木材加工業者、海藻化粧品メーカー、地方銀行、環境テック企業と、専門分野の異なる5名の登壇者が、それぞれの立場から生物多様性をビジネスに組み込む取り組みを語った。 (参考:PR TIMES プレスリリース)
環境省によると、生物多様性関連の新規ビジネス機会は2030年までに年間約47兆円規模に達する見込みとされる。かつてCSR(企業の社会的責任)の文脈で語られてきた自然保全は、投資対象へと位置づけが変わりつつある。一方で、中小企業にとっては「ネイチャーポジティブ経営」への移行をどう進めるかが課題となっていた。 (参考:PR TIMES プレスリリース)
福岡市は2025年1月20日に「生物多様性ふくおかセンター」を開設した。これは生物多様性地域連携保全活動促進法に基づく地域連携保全活動支援センターとして設置されたもので、2025年4月以降は地域生物多様性増進法に基づく地域生物多様性増進活動支援センターへと移行している。センターは情報発信、多様な主体間の連携仲介、市民・企業の行動変容促進を担っており、本シンポジウムもその活動の一環として位置づけられる。 (参考:生物多様性ふくおかセンターとは、環境省 自然共生サイト)
シンポジウムは13時30分から15時55分まで行われ、終了後には16時30分まで情報交換会が設けられた。
第1部:基調講演と事例紹介
基調講演には九州大学大学院芸術工学研究院准教授の木藤健二郎氏が登壇した。木藤氏はランドスケープアーキテクトとして北欧での実務経験を持ち、生物多様性に配慮した公園デザインやグリーンインフラストラクチャーの研究に取り組んでいる。 (参考:九州大学 バイオサーキュラーランドスケープデザイン)
事例・技術紹介では、以下の4つのテーマで実践者が発表を行った。
循環型林業モデル:株式会社八女流の代表取締役・沖雅之氏が、福岡県八女市での取り組みを紹介した。八女流は2019年に設立された地域商社で、福岡県最大の森林面積を持つ八女市の杉を「流域資本」と位置づけ、廃業予定だった製材所を取得して内装材ブランド「八女熟杉」を開発した。「まち」と「森」の連携による持続可能な林業モデルを目指している。 (参考:八女流公式サイト、事業構想オンライン)
海の生態系再生ビジネス:株式会社ヴェントゥーノの代表取締役社長・中野勇人氏が発表した。同社は福岡市に本社を置く海藻化粧品・健康食品メーカーで、2021年に糸島漁業協同組合と「ブルーカーボン推進における地域貢献協定」を締結。海藻養殖を通じた磯焼け対策とCO2吸収に取り組んでおり、この事例は環境省の「我が国におけるブルーカーボン取組事例集」に採択され、2023年のCOP28で国際的にも紹介された。 (参考:ヴェントゥーノ 代表挨拶、PR TIMES ブルーカーボン取組)
熊本ウォーターポジティブアクション:株式会社肥後銀行の地域振興部長・大野隆氏が、熊本地域での地下水保全の取り組みを紹介した。肥後銀行はサントリーホールディングス、日本政策投資銀行、MS&ADインシュアランスグループと連携し、金融的手法を活用した水循環保全の仕組みづくりを進めている。熊本地域は2013年に国連「生命の水」最優秀賞を受賞しており、その実績を基盤に「ウォータークレジット」創出を目指す計画だ。 (参考:ニッキンONLINE)
効果測定と可視化:株式会社シンク・ネイチャーの取締役社長COO・舛田陽介氏が、生物多様性データの活用について説明した。シンク・ネイチャーは琉球大学発のスタートアップで、30万種以上の野生生物データと150以上の生物多様性指標を用いて企業のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応を支援している。 (参考:シンク・ネイチャー公式サイト、電通ニュースリリース)
第2部:テーマ別情報交換会
シンポジウム終了後の情報交換会では、「まちづくり」「山」「海」「グリーンインフラと金融連携」「効果測定」の5つのテーマに分かれ、登壇者との対話形式で意見交換が行われた。 (参考:生物多様性ふくおかセンター イベント情報)
本シンポジウムの特徴は、登壇者の多様性にある。研究(九州大学)、木材加工(八女流)、海藻製品メーカー(ヴェントゥーノ)、地方銀行(肥後銀行)、環境テック(シンク・ネイチャー)と、異なるセクターの実践者が一堂に会した。「まち」「森」「川」「海」「土壌」という複数の生態系にまたがる事例を通じて、ネイチャーポジティブへのアプローチが一つではないことを示している。 (参考:PR TIMES プレスリリース)
もう一つの特徴は、福岡の中小企業を主な対象としていた点である。プレスリリースでは「上場企業では難しい『ネイチャーポジティブを核とした収益事業モデルの構築』を支援する」と明記されており、大企業向けのESG対応とは異なる視点が設けられていた。
また、本シンポジウムは単発のイベントではなく、継続的なプログラムの起点として設計されている。2026年1〜2月には経営層向け・実務者向けの研修を実施し、2026年1〜3月にはコミュニティギャザリング(交流会)を予定している。 (参考:PR TIMES プレスリリース)
本シンポジウムは2025年11月25日開催予定のイベントであり、調査時点(2026年3月)では開催後の成果報告は確認できていない。定員100名に対する実際の参加者数、情報交換会での具体的な連携案件の創出状況、その後の研修・ギャザリングの実施状況については、今後の情報公開を待つ必要がある。
関連する成果として、生物多様性ふくおかセンターは開設直後の2025年1月に株式会社バイオームと連携した「始動!ふくおかいきもの調査隊」を開催するなど、市民参加型の取り組みを展開している。 (参考:バイオーム PR TIMES)
多様なセクターの登壇者構成:生物多様性をテーマとするシンポジウムは、行政や研究者が中心になりがちだが、本事例では林業、水産加工、金融、テクノロジーと、収益事業として取り組む企業の実践者を揃えた。「ビジネスとして成立するか」という視点を持つ参加者に対して、具体的なモデルケースを示している。
継続的なプログラム設計:1回のシンポジウムで終わらせず、研修や交流会へとつなげる設計は、参加者のネットワーク形成と実際のアクションへの移行を意図している。イベント単発で終わらせないための仕組みとして参考になる。
地域資源との接続:八女の森林、糸島の海藻、熊本の地下水と、それぞれの地域が持つ自然資源を活かした事例が紹介された。ネイチャーポジティブは抽象的な概念として語られがちだが、地域固有の資源と結びつけることで具体性を持たせている。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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