
杉並冒険遊び場☆のびっぱひろっぱ(子どもプレーパーク事業)
東京都杉並区で2000年に住民有志が始めた冒険遊び場活動が、NPO法人化と区委託事業化を経て2025年4月に3拠点体制へ拡大した事例。プレーリーダー常駐で「自分の責任で自由に遊ぶ」を理念に運営し、草の根活動が段階的に制度化されたプロセスを紹介する。
東京都杉並区では、特定非営利活動法人杉並冒険あそびの会が「杉並冒険遊び場☆のびっぱひろっぱ」の名称で、区内の公園を舞台にした冒険遊び場(プレーパーク)を運営している。「自分の責任で自由に遊ぶ」を合言葉に、泥んこ遊びや水遊び、木工作、たき火、ロープを使った遊具遊びといった、一般の公園では制限されがちな遊びを、プレーリーダーが常駐して支える活動である。(参考:冒険遊び場(プレーパーク)ってなに|NPO法人杉並冒険あそびの会)
活動の起点は2000年10月、公園での「静かに遊びましょう」という掲示や近隣からの苦情をきっかけに、思いきり遊べる場所を求めた住民有志が任意団体「杉並冒険遊び場実行委員会」を発足させたことにさかのぼる。2007年に区内2公園で活動していたメンバーが合流して「杉並冒険遊びの会」となり、2015年2月に特定非営利活動法人として法人化した。(参考:杉並冒険あそびの会について|NPO法人杉並冒険あそびの会、団体訪問:NPO法人杉並冒険あそびの会|すぎなみ協働プラザ)
NPO法人化から3年後の2018年度(平成30年度)4月からは、杉並区の委託事業として「子どもプレーパーク事業」の運営を担うようになった。柏の宮公園・井草森公園の2拠点でスタートし、2025年4月には馬橋公園でも定例開催が始まったことで、常設3拠点体制となった。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ、どこでやってるの?|NPO法人杉並冒険あそびの会)
杉並冒険あそびの会の設立は、一人の保護者の原体験に端を発する。副代表理事は、子どもと公園で遊んでいた際に近隣住民から静かに遊ぶよう注意を受け、公園に「静かに遊びましょう」という看板があることに違和感を覚えたという。当時の公園には周囲への配慮を求める制限が多く、子どもが大声を出し、道具を使い、汚れて遊べる場所は限られていた。(参考:団体訪問:NPO法人杉並冒険あそびの会|すぎなみ協働プラザ)
この課題意識を持った住民が、日本で最初にプレーパークが常設された世田谷区・羽根木公園の活動を知り、杉並区でも同様の場をつくろうと区のボランティア支援窓口や社会教育主事に働きかけ、まず活動の仲間集めから着手したことが、活動開始のきっかけとなった。当初は助成金を財源とする任意団体としての活動であり、行政からの安定した支援がない状態からのスタートだった。(参考:団体訪問:NPO法人杉並冒険あそびの会|すぎなみ協働プラザ)
活動開始から25年以上が経過した現在も、運営上の課題は残る。同会へのインタビューでは、スタッフの高齢化と後継者育成が最大の課題として挙げられており、子育て世代の参加者は遊び場を利用する「サービスの受益者」にとどまる傾向が強く、運営の担い手として関わる住民が広がりにくいことが指摘されている。(参考:団体訪問:NPO法人杉並冒険あそびの会|すぎなみ協働プラザ)
1. 任意団体としての活動開始と組織化(2000年〜2015年)
2000年10月、住民有志が任意団体「杉並冒険遊び場実行委員会」を発足させ、公園での冒険遊び場活動を開始した。2007年には区内の異なる公園で活動していたメンバー同士が合流して「杉並冒険遊びの会」となり、2014年9月に設立趣意書を取りまとめてNPO法人化の準備を進め、2015年2月に特定非営利活動法人として認証された。定款では、子どもの年齢に合わせて自由に遊べる場を用意し、自ら考え行動する力や創造力を子ども自身が伸ばしていくことを法人の目的として掲げている。(参考:杉並冒険遊びの会 設立趣意書|NPO法人杉並冒険あそびの会、杉並冒険あそびの会について|NPO法人杉並冒険あそびの会)
2. 行政の委託事業としての運営体制の確立(2018年度〜)
2015年2月のNPO法人化から3年を経た2018年度4月、杉並冒険あそびの会は杉並区から「子どもプレーパーク事業」の委託を受け、柏の宮公園・井草森公園の2拠点で常設運営される体制を確立した。任意団体時代の助成金頼みの運営から、行政の委託事業という安定した枠組みへの移行は、約20年にわたる活動実績の積み重ねを経て実現したものである。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ、杉並冒険あそびの会について|NPO法人杉並冒険あそびの会)
3. プレーリーダーが支える日常運営
活動の理念は「自分の責任で自由に遊ぶ」「けがと弁当は自分もち」の2つに集約される。遊び場には、道具や遊具を準備し常駐する専門スタッフ「プレーリーダー」が配置され、子どもの「やりたい」という気持ちに寄り添いながら、火起こしをしたりマシュマロを焼いたりする火を使った遊び、水遊び、ノコギリやナイフ・ロープを使った木工作、泥だんごづくりなどの活動を支える。プレーリーダーは子どもを直接指導するのではなく、遊びのきっかけをつくり見守る役割に徹する。ある出張プレーパークの開催報告では、手を出しすぎる保護者に対してプレーリーダーが作業をするのは子ども自身であることを伝え、大人が見守る姿勢を学ぶ機会にもなっている。(参考:冒険遊び場(プレーパーク)ってなに|NPO法人杉並冒険あそびの会、いつもの公園が〔冒険遊び場〕に!プレーパークで遊びました|杉並区公式ホームページ)
年齢を問わず誰でも参加でき(未就学児は保護者と一緒に)、予約なしで無料のまま出入り自由に利用できるという運営方針が一貫している。開催時間はいずれの拠点も午前10時から午後4時までとなっている。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ)
4. 常設拠点と出張拠点による多層的な展開
常設3拠点(柏の宮公園・井草森公園・馬橋公園)に加え、天沼弁天池公園・方南小学校・松渓公園・大宮前公園・都立高井戸公園・和田中央公園の6会場では、季節限定の「出張プレーパーク」が開催されている。常設拠点を核としながら、出張形式で区内の広い範囲にプレーパークの活動を波及させる展開になっている。2025年4月からは馬橋公園での定例開催が始まり、月初の土曜日と月半ばの水曜日を基本に、2か月に一度は第3日曜日にも開催日を設けるスケジュールが組まれ、3つ目の常設拠点として位置づけられた。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ、杉並冒険遊び場★のびっぱひろっぱ 定期開催@馬橋公園|いこーよ)
1. 一住民の違和感を起点に、約20年をかけて段階的に制度化されたプロセス
「静かに遊びましょう」という看板への違和感という個人の原体験から出発した草の根の活動が、任意団体としての活動開始(2000年)、他公園グループとの合流による組織拡大(2007年)、NPO法人化(2015年)、行政の委託事業化(2018年度)という段階を踏んで公共サービスとして定着した。単発の助成金頼みではなく、活動実績を積み重ねながら行政との関係性を段階的に深めてきたプロセス自体に、他地域が参照できる再現性がある。(参考:杉並冒険あそびの会について|NPO法人杉並冒険あそびの会、子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ)
2. プレーリーダーによる「教えない」見守りの専門性
一般的な公園遊具や児童館の指導員とは異なり、プレーリーダーは遊びを教える立場ではなく、子どもの意思を尊重しながら道具や環境を整え、危険と自由のバランスを取る専門職として機能している。保護者の過干渉に気づきを促す場面も含め、「大人が手を出さずに見守る」文化を、遊び場という現場を通じて地域に広げている点が特徴的である。(参考:いつもの公園が〔冒険遊び場〕に!プレーパークで遊びました|杉並区公式ホームページ)
3. 常設拠点と出張拠点を組み合わせたハイブリッド展開
3つの常設拠点に加え、区内6会場での季節限定の出張プレーパークを組み合わせることで、特定の公園に活動を固定せず、区内の広い範囲の子どもや保護者に冒険遊び場の考え方を届けている。常設拠点で運営ノウハウとプレーリーダーの専門性を蓄積しつつ、出張拠点で新たな利用者との接点をつくるという、拠点拡大の二段構えの展開になっている。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ)
拠点数の拡大
2018年度の委託事業化時点で2拠点(柏の宮公園・井草森公園)だった常設拠点は、2025年4月の馬橋公園での定例開催開始により3拠点体制に拡大した。加えて区内6会場での出張プレーパークも継続的に開催されている。(参考:子どもプレーパーク(冒険遊び場)|杉並区公式ホームページ)
25年以上にわたる継続運営
2000年の任意団体発足から数えて25年以上、住民主体の活動が途切れることなく継続し、行政委託事業として制度的に定着している。都市部における子どもの遊び環境の担い手として、一時的な社会実験ではなく恒常的な公共サービスの水準まで到達した点は、定性的な成果として評価できる。(参考:杉並冒険あそびの会について|NPO法人杉並冒険あそびの会)
利用者の反応
出張プレーパークの開催報告では、普段の公園ではできない体験に夢中になる子どもの様子(雨どいを使ったボール転がしに熱中する4歳児の例など)や、プレーリーダーの声かけをきっかけに保護者が「見守る」姿勢の大切さに気づく事例が確認されている。(参考:いつもの公園が〔冒険遊び場〕に!プレーパークで遊びました|杉並区公式ホームページ)
一方で、拠点数の拡大が続く一方、運営側からはスタッフの高齢化と後継者不足が課題として挙げられており、それを支える担い手の裾野拡大は道半ばであることもあわせて確認しておく必要がある。(参考:団体訪問:NPO法人杉並冒険あそびの会|すぎなみ協働プラザ)
草の根活動を公共サービス化する段階的なモデル
杉並の事例が示すのは、行政からの委託ありきで始めるのではなく、住民有志の任意団体としての実績づくり→NPO法人化→行政委託事業化という段階を踏むことで、活動の独自性を保ったまま安定財源を確保できるという道筋である。最初から大きな予算や制度を用意するのではなく、小さな活動の継続と信頼の蓄積を土台にする点は、他地域の住民主体の遊び場・居場所づくり活動にも応用できる。
委託事業化後も残る「担い手」の課題への備え
委託事業として制度化されたことは財政的な持続性をもたらす一方で、運営を支えるスタッフの高齢化や後継者不足という課題は解消されていない。これは、ボランティア・NPO主体で始まった公共サービスが行政委託を受けた後にも共通して直面しうるリスクであり、委託事業化を「ゴール」とせず、次世代の担い手をどう育成・確保するかを並行して設計しておく必要性を示している。
専門職としてのプレーリーダーの位置づけ
冒険遊び場の「自由な遊び」は、指導員が不在で放任されている状態ではなく、プレーリーダーという専門性を持つ人材が安全と自由のバランスを取ることで成立している。属人的な熱意だけに頼らず、プレーリーダーという役割・専門性を組織的に位置づけ、育成の仕組みを持つことが、遊び場の質を長期的に維持するうえでの再現可能なポイントといえる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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