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杉並区創業支援等事業計画(特定創業支援等事業)
杉並区創業支援等事業計画(特定創業支援等事業)

杉並区創業支援等事業計画(特定創業支援等事業)

杉並区創業支援等事業計画(特定創業支援等事業)

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産業競争力強化法に基づき杉並区が2014年10月に認定を受けた創業支援等事業計画。商工会議所・診断士会・信用金庫等5機関が相談から融資優遇まで役割分担し、令和6年度は区の創業者数204件で、令和5・6年度と2年連続で目標180件を上回った。

杉並区創業支援等事業計画(特定創業支援等事業)

概要

杉並区は、2014年1月施行の産業競争力強化法に基づき、同年10月に「創業支援等事業計画」の国認定を受けた。区の産業振興センターを中心に、東京商工会議所杉並支部、NPO法人杉並中小企業診断士会、西武信用金庫、日本政策金融公庫の4団体・機関と連携し、創業を目指す人・創業間もない事業者に向けて、無料の経営相談窓口、段階別のセミナー、専門家派遣、開業後の助成金までを一貫して提供する体制を組んでいる。 (参考:創業支援等事業計画|杉並区公式ホームページ

この計画のもとで実施される事業のうち、経営・財務・人材育成・販路開拓の知識習得を目的に4回以上かつ原則1か月以上継続して行われるものは「特定創業支援等事業」として国から認められる。これを修了した創業者は、法人設立時の登録免許税半減、信用保証枠の拡大、日本政策金融公庫の融資要件緩和など、複数機関にまたがる優遇措置を横断的に受けられる。同種の計画は全国の大半の市区町村が策定しており、2026年6月25日時点で全国1,580市区町村・1,414件が認定されている。杉並区固有の制度というより、法定の枠組みを地域の実施体制でどう運用するかという事例である。 (参考:産業競争力強化法に基づく認定を受けた市区町村別の創業支援等事業計画の概要|中小企業庁

令和6年度実績では、区の支援を通じた創業者数は204件で、目標値180件を令和5年度に続き2年連続で上回った。一方、この統計が示すのは相談・セミナー利用者のうち開業に至った件数であり、開業後の事業継続率や廃業状況を追跡した公開データは確認できなかった。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

背景・課題

法定の認定制度という共通基盤

2014年1月20日施行の産業競争力強化法は、市区町村が民間の創業支援等事業者(地域の金融機関や商工会議所・商工会、NPO法人など)と連携し、ワンストップの相談窓口整備や創業セミナーの開催などを盛り込んだ計画を策定し、国の認定を受ける仕組みを設けた。認定を受けた自治体の創業支援等事業のうち一定の要件を満たすものは「特定創業支援等事業」として、修了者に登録免許税の軽減や政策金融公庫の融資要件緩和といった支援策が横断的に適用される。杉並区はこの枠組みに基づき2014年10月に計画の認定を受けている。 (参考:創業支援等事業計画|杉並区公式ホームページ起業時に活用したい特定創業支援事業~杉並区|れいさいネット

住宅都市としての産業基盤の弱さ

杉並区は住宅地としての性格が強く、区自身も創業支援の位置づけについて、住宅都市としての性格を保ちながら地域に産業を根付かせ発展させることを目的とすると説明している。区内で新たに創業する事業者をいかに住宅都市の中に定着させ、地域経済の担い手として根付かせるかが課題として意識されてきた。 (参考:創業支援等事業計画|杉並区公式ホームページ

商店街の担い手不足との連動

杉並区産業振興計画の実績資料では、創業支援の拡充が区内の創業促進と商店街活性化を同時にねらう施策として位置づけられており、創業スタートアップ助成の実績記録には商店会加盟数が併記されている。新規開業者を、空き店舗が課題となりやすい地域の商店街の新たな担い手として取り込む狙いがうかがえる。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

取り組みのプロセス

1. 相談体制の整備——経営相談から創業特化の窓口へ

区産業振興センターは平日8時30分から17時まで、中小企業診断士による無料の「創業・経営相談」窓口を常設し、これとは別に経営指導員・税理士・弁護士が対応する「専門相談窓口」を設けている。令和6年度の相談件数は創業相談355件・経営相談1,528件の計1,883件で、コロナ関連融資への対応で相談員を一時増員した令和2年度の5,633件(うち創業相談303件)から漸減し、令和4年度以降は1,700〜2,000件台で推移している。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ創業・経営相談|杉並区公式ホームページ

2. 段階別セミナーの提供と、属性別プログラムへの再編

入門講座「すぎなみ創業塾」(4日間)、事業計画作成に踏み込む「すぎなみ創業スクール」(NPO法人杉並中小企業診断士会が運営)、連続講座形式の「実践!創業セミナー」といった段階別のセミナー体系を整備してきた。近年は対象を絞ったセミナーへの再編が進み、令和6年度は6月に「女性のための創業セミナー」(全4回・毎週土曜)、10月に「女性と若者のための創業セミナー」(全4回・毎週土曜)を実施した。いずれも定員20名に対し、応募者はそれぞれ30名・26名だった。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ杉並区の創業・起業支援事業|東京都創業ネット

3. 特定創業支援等事業としての認証と優遇措置

相談・セミナーのうち、経営・財務・人材育成・販路開拓の知識習得を目的に4回以上かつ原則1か月以上継続して行われるものは「特定創業支援等事業」の要件を満たし、修了者には区が「支援を受けたことの証明書」を発行する。この証明書により、株式会社設立時の登録免許税は資本金の0.7%から0.35%に軽減されるほか、信用保証協会が扱う創業関連保証は無担保・第三者保証人なしの利用枠が1,000万円から1,500万円へ引き上げられ、利用可能な時期も事業開始6か月前まで前倒しされる。さらに日本政策金融公庫の新創業融資制度では自己資金要件(開業資金の10分の1以上)が撤廃され、東京都の創業融資制度では貸付利率が0.4%優遇、区独自の創業支援資金についても信用保証料が補助される。1枚の証明書が、複数機関の異なる優遇措置の適用条件を兼ねる仕組みになっている。 (参考:創業支援等事業計画|杉並区公式ホームページ起業時に活用したい特定創業支援事業~杉並区|れいさいネット

4. 開業後の資金支援——家賃・HP作成助成と商店会加盟の連動

創業後6か月以内の事業者を対象に、事業所家賃とホームページ等作成費の一部を助成する「創業スタートアップ助成事業」を実施している。令和6年度は家賃助成33件、ホームページ等作成助成29件が交付された。申請の実績記録には商店会への加盟状況も記録されており、同年度は17件が商店会に加盟している。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ創業スタートアップ助成事業|杉並区公式ホームページ

5. 独自インキュベーション施設という先行的な蓄積

杉並区は、特定創業支援等事業の枠組みが導入される以前の2003年2月、JR阿佐ケ谷駅から徒歩2分の立地に区立インキュベーション施設「阿佐谷キック・オフ/オフィス」を開設している。新産業分野での創業予定者・創業3年未満の事業者を対象に約10平方メートルの個室9室を最長2年間提供し、中小企業診断士による専門相談を継続的に受けられる。これまでに50以上の事業者が施設を巣立っており、法定計画の認定より前から区が独自に運営してきたハード面の支援拠点が、後年の計画認定と組み合わさる形になっている。 (参考:杉並区創業支援施設 阿佐谷キック・オフ/オフィス|東京都創業ネット

この事例の特徴

1. 全国共通の法定スキームを、5機関の役割分担で運用している

特定創業支援等事業自体は中小企業庁が定める全国共通の制度であり、2026年6月時点で全国1,580市区町村・1,414件の計画が認定されている。したがって杉並区の取組それ自体が制度として独自というわけではない。特徴は運用体制にあり、行政(産業振興センター)、経済団体(東京商工会議所杉並支部)、専門家団体(NPO法人杉並中小企業診断士会)、地域金融機関(西武信用金庫)、政策金融機関(日本政策金融公庫)という性格の異なる5者が、相談・教育・証明書発行・融資という機能を分担しながら、1つの認定計画のもとに統合されている点にある。

2. セミナーの対象を属性別に絞り込む設計へ転換した

一般公募型の「すぎなみ創業塾」「すぎなみ創業スクール」に加えて、近年は「女性のための創業セミナー」「女性と若者のための創業セミナー」という対象を明示したセミナーを開催している。令和6年度はいずれも定員20名に対して応募がそれを上回った(30名・26名)。ただし公開資料からは一般公募型セミナー時代との定量比較や参加者の内訳までは確認できず、属性を絞ったこと自体の効果を単独で切り出して評価することはできない。

3. 開業支援の受け皿として商店街を明示的に組み込んでいる

創業スタートアップ助成の実績記録に商店会加盟数を含めている点は、単なる開業資金の給付にとどまらず、新規開業者を商店街という既存の地域商業インフラの担い手として位置づける設計を示している。区の産業振興計画自体が、創業支援の拡充を「創業促進」と「商店街の活性化」を同時に図る施策として記述しており、創業支援と商業まちづくりの連動が明文化されている。

4. 成果指標を毎年度の行政資料として公表し、目標を更新している

区は「創業支援による創業者数」と「商工相談窓口の満足度」を産業振興計画の政策指標として位置づけ、実績値を毎年度公表している。令和4年度から6年度にかけて創業者数は162件→219件→204件、満足度は95%→96%→95%で推移し、満足度は3年間とも目標値90%以上を上回った一方、創業者数が目標値180件を上回ったのは令和5・6年度の2年で、令和4年度(162件)は目標に届いていない。総合計画の改定に合わせて目標値自体も見直されており、単発の事業としてではなくPDCAサイクルの中で継続的に運用されている。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

調査時点の成果

区の支援を通じた創業者数は2年連続で目標を上回る

令和4年度162件、5年度219件、6年度204件と推移し、目標値180件を上回ったのは令和5・6年度の2年で、令和4年度は162件と目標に届いていない。令和5年度から6年度にかけても219件から204件へ減少しており、単調な増加傾向ではない。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

相談窓口の満足度は高水準で安定

商工相談窓口の利用者満足度は令和4年度95%、5年度96%、6年度95%と、目標値の90%以上を継続して上回っている。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

開業後助成・保証料補助の利用実績

令和6年度は創業スタートアップ助成として事業所家賃助成33件、ホームページ等作成助成29件が交付され、創業支援資金に係る信用保証料補助は52件だった。相談件数(創業相談355件)や助成件数を比較すると、相談から実際の助成利用に至る事業者は一部にとどまることがうかがえるが、公開資料には相談から開業・助成利用までの転換率を追える形の統計は示されていない。 (参考:杉並区産業振興計画に基づく令和6年度の主な取組実績|杉並区公式ホームページ

インキュベーション施設は50以上の事業者を輩出

2003年開設の「阿佐谷キック・オフ/オフィス」からは、これまでに50以上の事業者が巣立っている。個室9室・最長2年という小規模な施設だが、2003年の開設から20年以上にわたり継続的に運営されている。 (参考:杉並区創業支援施設 阿佐谷キック・オフ/オフィス|東京都創業ネット

追跡できない領域:開業後の事業継続・廃業の状況

区が公表する指標は「創業者数」までであり、支援を受けて開業した事業者のその後の存続率、売上、雇用創出といった中長期の追跡データは確認できなかった。特定創業支援等事業の証明書発行数についても、区の公開資料からは把握できていない。

他地域への示唆

1. 法定認定はスタートラインに過ぎず、差別化は運用設計に宿る

特定創業支援等事業の認定自体は全国1,580市区町村がすでに得ており、認定を受けること自体は他地域との差別化にならない。杉並区の場合、相談窓口から段階別セミナー、証明書発行による複数機関の優遇措置、開業後の家賃・HP助成、一部はインキュベーション施設入居という一連の流れを、性格の異なる5つの機関が役割分担しながら運用している。他地域が同種の計画を実効性あるものにするには、認定取得それ自体ではなく、地域の商工団体・金融機関・専門家団体をどう機能分担させるかの設計に注力する必要がある。

2. 助成要件に地域の別の課題を組み込む

杉並区は創業スタートアップ助成の実績に商店会加盟数を記録し、創業支援を商店街活性化という別の政策課題と結びつけている。創業支援単体では地域への実店舗定着まで誘導しにくいが、既存の地縁組織(商店会)への参加を助成実績の一部として可視化することで、新規開業者と地域商業の接点を作りやすくする。商店街の担い手不足に悩む他地域にとって、創業助成の設計に地域組織への参加を組み込む視点は応用可能である。

3. 属性を絞ったセミナーは応募超過を生みうるが、単独では効果を語れない

一般公募型から「女性のための」「女性と若者のための」という属性限定のセミナーへの再編は、令和6年度実績で定員を上回る応募を集めている。属性を絞ったプログラム設計は関心層への訴求力を高める可能性がある一方、杉並区の公開データでは一般公募型時代との定量比較ができないため、効果を過大に一般化すべきではない。他地域で同様の再編を検討する際は、対象を絞る前後の応募倍率や参加者属性を記録し、比較可能な形でデータを残すことが望ましい。

4. 政策指標を毎年度公表し、目標を更新し続ける運用は再現可能

「創業支援による創業者数」「相談窓口満足度」という2つの指標を、産業振興計画の実績資料として毎年度公表し、総合計画改定のタイミングで目標値を見直す運用は、特定の地域資源や属人的な体制に依存せず、他地域でもそのまま導入できる仕組みである。一方で、この指標だけでは創業した事業者がその後どうなったかまでは把握できない。創業者数という入口の指標に加えて、開業後数年の事業継続率のような出口側の指標を持つことが、支援策の実質的な効果検証には必要になる。

参照元


2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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