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地域のたすけあいネットワーク(地域の目)
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地域のたすけあいネットワーク(地域の目)

地域のたすけあいネットワーク(地域の目)

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杉並区が20か所の地域包括支援センター「ケア24」を核に、ボランティアの「あんしん協力員」と152の企業・団体「あんしん協力機関」で高齢者を見守る仕組み。協力機関は5年で1.7倍に増えた一方、個人ボランティアと個別登録者は減少するという内実を、区の実績データから追う。

地域のたすけあいネットワーク(地域の目)

概要

杉並区の「地域のたすけあいネットワーク(地域の目)」は、区内20か所の高齢者総合相談窓口「ケア24」(地域包括支援センター)を核に、ボランティアの「あんしん協力員」と、事業趣旨に賛同した企業・団体である「あんしん協力機関」が、ひとり暮らしの高齢者や高齢者だけで暮らす世帯を対象に、日常的な見守りを行う仕組みである。担当課は保健福祉部高齢者在宅支援課高齢者見守り連携係で、区内で増加している消費者被害・特殊詐欺被害の防止に向け、消費者センターや警察署とも連携している。 (参考:地域のたすけあいネットワーク(地域の目)|杉並区公式ホームページ

なお杉並区には、名称が似た「地域のたすけあいネットワーク(地域の手)」という別制度もあるが、こちらは災害時に自力避難が困難な人を対象とした安否確認・避難支援の仕組みであり、日常の見守りを目的とする「地域の目」とは対象・目的が異なる別事業である。本稿が扱うのは「地域の目」のみである。 (参考:地域のたすけあいネットワーク(地域の手)|杉並区公式ホームページ

区が公表する実績データによれば、あんしん協力機関は令和2年度の88団体から令和6年度には149団体へと5年で約1.7倍に増加し、令和7年12月22日時点ではさらに152団体に達している。その内訳は警察・消防から郵便、宅配、薬局、銀行、不動産、理美容室まで多岐にわたる。一方で、見守りを担うボランティアである「あんしん協力員」は433人から388人へ、個別の見守りを希望して登録した高齢者は122人から79人へと、いずれも減少傾向にある。制度の広がりと、個人単位の参加の縮小が同時に進んでいる点が、この事例の実態である。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要|杉並区公式ホームページあんしん協力機関一覧(令和7年12月22日現在)|杉並区公式ホームページ

背景・課題

独居であること自体が、社会的孤立のリスク要因になっている

杉並区が令和7年度に実施した高齢者実態調査(要介護・要支援認定を受けていない65歳以上区民5,500人を無作為抽出、有効回答3,603人、回答率65.5%)を、社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センターが分析した令和8年3月のレポートによれば、社会的孤立(LSNS-6による判定)が見られる割合は独居世帯で44.2%、高齢者のみ世帯で32.7%、その他の世帯で29.9%と、独居世帯で有意に高かった(P<0.001)。性別でみると男性の独居世帯では64.8%に社会的孤立が認められ、特に顕著だった。 (参考:杉並区高齢者実態調査結果データに基づく独居高齢者の分析レポート(令和8年3月)|杉並区公式ホームページ

同レポートは、独居高齢者の生活基盤の脆さも定量的に示している。「世帯年収150万円未満」の割合は独居世帯で39.6%(高齢者のみ世帯10.2%、その他世帯8.8%)、「暮らしが大変苦しい・やや苦しい」の割合は独居世帯で37.1%(高齢者のみ世帯26.2%、その他世帯28.6%)といずれも独居世帯が最も高い。家族・親族のネットワークについても、「少なくとも月1回会ったり話をしたりする家族・親族がいない」と答えた独居高齢者は24.9%にのぼり、他の世帯類型(高齢者のみ世帯5.4%、その他世帯3.8%)を大きく上回った。友人・知人による関係がこれを部分的に補ってはいるものの、家族という最も身近な安全網が独居高齢者では相対的に薄いことが、行政や地域による見守りの必要性を裏づけている。 (参考:杉並区高齢者実態調査結果データに基づく独居高齢者の分析レポート(令和8年3月)|杉並区公式ホームページ

消費者被害・特殊詐欺被害の増加という区の危機感

杉並区は事業の説明において「区内で増加している『消費者被害』や『特殊詐欺被害』を防止するため、消費者センターや警察署とも連携しています」と明記している。ひとり暮らし高齢者は、詐欺や点検商法などの被害に日常的に気づきにくい立場にあり、家族以外の第三者が日常の変化に気づく仕組みが求められていた。 (参考:地域のたすけあいネットワーク(地域の目)|杉並区公式ホームページ

新しい組織を作らず、既存の相談窓口網を核に据えた

杉並区は高齢者の総合相談窓口として、区内を担当圏域ごとに分けた20か所の地域包括支援センター「ケア24」を設置している。見守りネットワークを新たな専門組織として立ち上げるのではなく、既に区内全域をカバーしているこのケア24の相談機能に接続する形で設計した点が、この事業の出発点になっている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

取り組みのプロセス

1. 20か所のケア24が圏域ごとに見守りネットワークを分担する

区内は上井草・下井草・善福寺・上荻・西荻・清水・荻窪・南荻窪・阿佐谷・成田・松ノ木・高円寺・梅里・和田・久我山・高井戸・浜田山・堀ノ内・永福・方南の20圏域に分けられ、それぞれにケア24が置かれている。あんしん協力員・あんしん協力機関の申込みや相談の窓口は、居住地を担当するケア24が担う。区全域を一つの事務局で管理するのではなく、圏域ごとの相談窓口が見守りネットワークづくりの単位になっている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

2. 「ゆるやかな見守り」と「個別の見守り」の二層構造

あんしん協力員の活動は二つに分かれる。一つは「ゆるやかな見守り」で、日常生活や業務の中で地域の高齢者に自然に目を配るというもの。もう一つは「個別の見守り」で、見守りを希望して登録した高齢者に対し、あんしん協力員が定期的に自宅を訪ねたり、電話をかけたりして見守る。見守りを希望する側(おおむね65歳以上のひとり暮らし、または高齢者のみの世帯)には費用負担がない。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

チラシは見守りの着眼点として、「夜になっても電気がつかない」「新聞受けに新聞や郵便物が溜まっている」「洗濯物を干したまま」といった具体的なサインを挙げている。協力員が普段と異なる様子に気づいたときは、担当のケア24へ連絡する仕組みになっている。個別訪問というコストの高い見守りを希望者に絞り込み、それ以外の高齢者は日常の接点の中でゆるやかにカバーするという、二段階の設計になっている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページあんしん協力機関を募集しています|杉並区公式ホームページ

3. 152団体に及ぶあんしん協力機関 — 業種を横断して見守りの担い手を広げる

あんしん協力機関は、事業の趣旨に賛同した団体が、日常の業務を通じて高齢者にゆるやかな見守りを行う仕組みである。令和7年12月22日時点の一覧では152団体が登録されており、業種は官公署(杉並・荻窪・高井戸の各警察署、杉並・荻窪の各消防署、東京都水道局)、インフラ・公的機関(東京ガス、東京電力パワーグリッド、日本郵便、社会福祉協議会、民生児童委員協議会)、町会・商店街(杉並区町会連合会、方南銀座商店街振興組合など)、NPO(9団体)、医療・福祉(65団体、区内最多)、配食(13団体)、新聞販売店や運送業者などの配達(9団体)、金融・生保(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、城南信用金庫など7団体)、小売(セブン‐イレブン・ジャパン、いなげやなど)、不動産(6団体)、葬祭・理美容室などその他(16団体)に及ぶ。 (参考:あんしん協力機関一覧(令和7年12月22日現在)|杉並区公式ホームページ

医療機関・薬局・訪問看護ステーションが業種別で最も多いのは、高齢者との接触頻度の高さを反映していると考えられる。同時に、銀行や不動産会社、理美容室、クリーニング店といった生活のあらゆる場面に協力機関が組み込まれている点が、この一覧の特徴である。 (参考:あんしん協力機関一覧(令和7年12月22日現在)|杉並区公式ホームページ

4. 気づきをケア24に集約し、地域連絡会で情報を共有する

あんしん協力員が異変に気づいた場合の報告先はケア24に一本化されている。あわせて、あんしん協力員は地域ごとの「地域連絡会」に参加し、他の協力員の活動状況や地域の情報を交換する。チラシは具体例として「『最近よく転ぶ』と困っている人がいる→ケア24に連絡してみよう」「屋根などの点検商法の相談が多いみたい→地域連絡会でみんなに共有しよう」を挙げており、個別の異変はケア24へ、地域に共通する傾向は地域連絡会で、という情報の流れを想定している。地域連絡会への参加は、協力員が高齢者や認知症に関する学習機会を得る場としても位置づけられている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

5. 上位の生活支援体制整備事業と連結させる

「地域の目」は、高齢者見守り連携係が所管する見守り関連事業(高齢者緊急通報システム、高齢者安心コール、安心おたっしゃ訪問、高齢者火災安全器具給付など)の一つに位置づけられている。さらに区は、住民主体の支え合い活動を推進する「生活支援体制整備」事業(区全域を第1層、ケア24圏域を第2層とする協議体を設置し、生活支援コーディネーターを配置する枠組み)とも接続しており、あんしん協力員が参加する「たすけあいネットワーク全体連絡会」を、生活支援体制整備側の「ささえあいシンポジウム」と合同で開催している。個別の見守り事業を、より広い地域の支え合いの枠組みの中に位置づける運用がとられている。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要|杉並区公式ホームページ

この事例の特徴

1. ボランティアの善意だけに依存せず、日常の商取引接点に見守りを埋め込んだ

多くの高齢者見守りネットワークは、地域住民のボランティア確保を出発点にする。杉並区の設計は、それに加えて郵便配達、宅配便、新聞配達、電気・ガス検針、金融機関の窓口対応、薬局での服薬対応といった、高齢者が制度への登録意識なしに日常的に接している業務そのものを見守りの機会として取り込んでいる。協力機関にとって新たな業務が発生するわけではなく、既存の業務の中で「気づいたら伝える」という一点だけが追加される設計であり、参加のハードルが低い。

2. 具体的な異変のサインをチラシで共有し、協力員ごとの判断基準のばらつきを抑えた

「夜になっても電気がつかない」「新聞受けに新聞や郵便物が溜まっている」「洗濯物を干したまま」という3つのサインは、専門知識がなくても誰でも気づける具体性を持つ。見守りの基準を抽象的な「異変」ではなく、生活動線上で観察可能な事実に落とし込むことで、協力員・協力機関の経験や熱心さにかかわらず一定の水準で気づきを拾える設計になっている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

3. マスコットキャラクターで「気軽さ」を可視化した

事業には「みまもり まりも君」「みまもり まりんちゃん」という専用マスコットが設定されている。見守りというと重い介護・福祉の文脈で語られがちだが、キャラクターを前面に出すことで、あんしん協力員としての参加や見守り希望の登録を、より心理的なハードルの低いものとして提示しようとしている。 (参考:あんしん協力員として活動したい方、見守りを希望する高齢者の方|杉並区公式ホームページ

調査時点の成果

あんしん協力機関は5年で1.7倍に増え、区内の生活インフラの大部分を巻き込んだ

区の実績データによれば、あんしん協力機関は令和2年度の88団体から令和3年度137団体、令和4年度145団体、令和5年度148団体、令和6年度149団体と着実に増加し、令和7年12月22日時点では152団体に達している。医療・福祉分野だけで65団体、警察・消防・水道といった官公署から金融機関、不動産会社、理美容室まで、生活のあらゆる場面をカバーする体制が5年間で構築された。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要|杉並区公式ホームページあんしん協力機関一覧(令和7年12月22日現在)|杉並区公式ホームページ

一方、個人ボランティアと個別登録者はいずれも減少傾向にある

同じ実績データでは、あんしん協力員は令和2年度433人から令和3年度407人、令和4年度425人と一時持ち直したものの、令和5年度407人、令和6年度388人と、5年間で約10%減少した。個別の見守りを希望して登録した高齢者も、令和2年度122人から令和6年度79人へと約35%減少している。組織単位の協力機関が拡大する一方で、個人単位の参加(担い手側のボランティアと、受け手側の登録者の双方)は縮小しているという、二つの指標が逆方向に動く構図が実績データから読み取れる。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要|杉並区公式ホームページ

個別登録の減少が、見守りの届く範囲の縮小を直接意味するとは限らない

「個別の見守り」は登録制であるのに対し、「ゆるやかな見守り」は協力機関の日常業務を通じて登録の有無にかかわらず及ぶ。個別登録者数の減少は、より手厚い個別訪問・電話を希望する層が減っていることを示す一方で、あんしん協力機関の拡大により、登録せずとも日常的な目が届く高齢者の母数はむしろ広がっている可能性がある。ただし、この点を裏づける「ゆるやかな見守り」側の効果を示す独自の指標は、区の公表資料からは確認できなかった。制度の重心が、限られた個人ボランティアによる濃い見守りから、多数の組織による薄く広い見守りへと移りつつあることは実績データから確認できるが、その結果として見守りの実効性が高まったか否かは、現時点の公開情報だけでは評価できない。 (参考:令和7年版(令和6年度実績)杉並区保健福祉事業概要|杉並区公式ホームページ

他地域への示唆

1. 見守りネットワークは、新設せず既存の相談窓口インフラに接続する

杉並区は見守り専用の新組織を作るのではなく、既に区内全域をカバーしていた地域包括支援センター(ケア24)の相談機能に、あんしん協力員・協力機関という新しい役割を接続する形で制度を組み立てた。相談窓口網が既に整備されている自治体であれば、新規の見守り事業を一から立ち上げるより、既存窓口に協力員・協力機関の登録機能を追加するほうが、立ち上げコストと住民側の窓口の分かりやすさの両面で有利になりうる。

2. ボランティア確保が先細るリスクを見越し、業種横断の機関連携を並走させる

杉並区の実績データが示す「協力機関は増加、個人ボランティアは減少」という構図は、他地域にとっても示唆的である。地域の担い手となるボランティア層自体が高齢化・減少していく中で、個人の善意だけに依存した見守り体制は長期的に先細るリスクを抱える。あんしん協力員個人の募集と並行して、郵便・宅配・金融・小売といった、地域に元々存在する業務ネットワークを協力機関として制度に組み込んでおくことは、ボランティア人材の増減に左右されにくい見守りの基盤を確保する方法として、他の自治体でも応用可能である。

3. 見守りの基準は「気づける事実」まで具体化して共有する

「電気がつかない」「新聞が溜まっている」といった具体的なサインの提示は、見守りの担い手が専門職ではなくボランティアや一般の事業者である場合に特に有効である。抽象的な「異変に気づいたら」という呼びかけだけでは、担い手の経験や関心によって気づきの精度にばらつきが生じる。生活動線上で客観的に観察できる項目まで踏み込んで共有することは、多様な担い手を巻き込む見守りネットワークに広く応用できる工夫である。

4. 参加者数の増減は、担い手側と受け手側、個人と組織を分けて評価する

杉並区の事例は、「協力機関数」という一つの指標だけを見れば右肩上がりの成功に見えるが、「あんしん協力員数」「個別登録者数」まで分解すると異なる実態が見えてくる。見守りネットワークの成果を評価する際は、組織の参加数と個人の参加数、担い手側の数と受け手側の登録数を別々の指標として追跡し、どの層が伸び、どの層が縮んでいるかを分けて見ることが、制度の実効性を見誤らないために必要である。

参照元


2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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