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IT企業向け市内体験型視察ツアー - 3,000社への働きかけから絞り込む沼津市のサテライトオフィス誘致モデル
IT企業向け市内体験型視察ツアー - 3,000社への働きかけから絞り込む沼津市のサテライトオフィス誘致モデル

IT企業向け市内体験型視察ツアー - 3,000社への働きかけから絞り込む沼津市のサテライトオフィス誘致モデル

IT企業向け市内体験型視察ツアー - 3,000社への働きかけから絞り込む沼津市のサテライトオフィス誘致モデル

静岡県
沼津市
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沼津市が令和7年度に始めた、首都圏IT・ICT企業約3,000社への働きかけから9社のオンライン相談、5社の合同視察ツアーへと段階的に絞り込むサテライトオフィス誘致事業。個人の人脈頼みだった過去の進出事例を、民間事業者への委託によって再現性のあるプロセスへ転換する試み。

概要

沼津市は令和7年度(2025年度)から、首都圏のIT・ICT企業を対象とした「IT企業向け市内体験型視察ツアー」事業を開始した。既存の「沼津市ITオフィス等進出事業費補助金」の対象となりうる企業に対し、市内の労働・住環境を実際に体験してもらうことでサテライトオフィス開設の意思決定を後押しすることが狙いである。(参考:令和7年度 IT企業向け市内体験型視察ツアー業務委託に係る公募型プロポーザルの実施について/沼津市

事業の実務は公募型プロポーザル方式で選定した民間事業者に委託され、公募仕様書では「首都圏企業等約3,000社へのアプローチ」→「9社程度のオンライン相談会」→「5社程度の合同視察ツアー(1泊2日)」という、数値目標を伴う3段階の絞り込みプロセスが要求水準として明記されている。令和7年4月18日に受託者選定の公募を開始し、5月27日の選考会を経て6月中旬の契約締結を予定、履行期間は令和8年3月31日までとされた。財源は国の「新しい地方経済・生活環境創生交付金事業」である。(参考:令和7年度IT企業向け市内体験型視察ツアー業務委託 契約候補者選定に係るプロポーザル参加要領/沼津市令和7年度IT企業向け市内体験型視察ツアー業務委託 公募仕様書/沼津市

背景・課題

補助金制度だけでは動かなかった立地決定

沼津市はすでに、市内に新たにITオフィス等を開設する企業に対し、建物賃借料や通信回線利用料等を助成する「沼津市ITオフィス等進出事業費補助金」を運用していた。しかし公募仕様書は、本事業の目的を「補助制度のみならず、進出検討企業に対し本市における労働・住環境等について積極的に発信することにより、さらなるIT企業の市内移転・サテライトオフィス立地促進を図る」と説明しており、金銭的な補助制度だけでは進出の意思決定を十分に動かせていないという市側の認識がうかがえる。(参考:沼津市ITオフィス等進出事業費補助金/沼津市公募仕様書/沼津市

先行進出事例が経営者個人の人脈に依存していた

市が紹介する先行進出企業の経緯を見ると、進出の決め手は必ずしも制度によるものではなかった。ブリッジインターナショナル社の沼津進出は、同社社長が日本アイ・ビー・エム時代から面識のあった沼津市の元市長と、沼津市出身のアイエスエフネット社長が橋渡し役となったことがきっかけであったと説明されている。名古屋に本社を置くREVOLEA社の場合は、浜松市・下田市の既存拠点との中間地点であり東京へのアクセスも良いという立地条件が2020年頃の進出の決め手になったとみられる。いずれも沼津市が能動的に作り出した営業プロセスの結果というより、企業側の個別事情や経営者の人脈に依存する部分が大きい進出であった。(参考:サテライトオフィスとは"地方の優秀な人材に最先端の活躍の場を提供する仕組み"−ブリッジインターナショナル(株)吉田社長×沼津市/サテライトオフィスしずおかテレワーク環境の良さが東海地方で第1位 サテライトオフィスを開設するなら沼津市がオススメ/サテライトオフィスしずおか

令和5年の視察ツアーが残した課題

沼津市は令和7年度事業に先立ち、令和5年(2023年)2月22日にも東京の企業1社を招いた視察ツアーを実施している。人事採用担当者向けの「人材確保セミナー」、行政職員との交流会、ぬましんCOMPASS・シンマチ・沼津工業高等専門学校の見学、市内企業とのDX推進状況に関する意見交換会を組み合わせた内容だったが、参加は1社にとどまり、市が自ら個別に声をかける形の実施だったとみられる。令和7年度事業は、この先行実施を土台にしつつ、「企業とのネットワークや企業情報の収集力・分析力を有する」専門の民間事業者に委託することで、リード獲得から視察までの一連のプロセスを体系化・スケール化しようとする試みと位置づけられる。(参考:『サテライトオフィス誘致に係る視察ツアー』を開催しました/沼津市参加要領/沼津市

取り組みのプロセス

公募型プロポーザルによる受託事業者の選定

沼津市は令和7年4月18日に募集を開始し、4月21〜25日の質問受付、5月9日のプロポーザル参加申込締切を経て、5月27日に選考委員会によるプレゼンテーション審査(発表15分、質疑応答15分程度)を実施した。評価は「企画提案力」(55点)と「業務遂行能力」(45点)の合計100点満点で、選定委員3名が個別に採点する方式である。結果表によれば応募事業者は1社(結果表では「A社」と匿名表記)のみで、100点満点換算で73.67点を獲得し契約候補者に選定された。事業者名は選考手続きの性質上、公表資料では明らかにされていない。契約は地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に基づく随意契約として締結される。(参考:参加要領/沼津市結果表/沼津市

リード獲得からオンライン相談会へ

公募仕様書が定める業務内容は3段階で構成される。第1段階の「リード獲得」では、首都圏等に本社を置くIT・ICT企業のうち、沼津市ITオフィス等進出事業費補助金の対象業種(情報通信業、コールセンター業)に該当し、かつ沼津市への立地可能性がある企業を抽出し、セミナーやフォームマーケティング、テレマーケティング等の手法で進出意向を確認する。要求水準は「約3,000社へのアプローチ」である。第2段階の「オンライン相談会」では、リード獲得で反応のあった企業との関係構築を継続し、視察ツアー参加のアポイント獲得を図る。参加条件は「サテライトオフィス開設の意思決定に関与できる方」に限定されており、要求水準は「9社程度」とされている。(参考:公募仕様書/沼津市

合同視察ツアーの実施

第3段階の「合同視察ツアー」は1泊2日を基本とし、1社あたりの参加人数は2名以内、受託者の担当者が全行程に同行する。市内での移動費は委託料に含まれる一方、視察ツアー中の食事代等は対象外とされている。訪問先は受託者の提案内容を基に市と協議のうえ決定する仕組みで、要求水準は「参加企業5社程度」である。スケジュールは、8月末までに企業抽出とオンライン相談の案内、8月以降2月末までにオンライン相談・合同視察ツアーの実施、3月末までに業務実施記録や参加者アンケート分析結果等を含む実績報告書の提出という想定で組まれている。(参考:公募仕様書/沼津市

この事例の特徴

マーケティングファネルを仕様書に落とし込んだ設計

一般的な自治体の視察ツアー事業が「関心のある企業に来てもらう」受け身の告知にとどまりがちなのに対し、本事業は「3,000社」「9社」「5社」という数値目標を業務仕様書に明記し、上流(認知・リード獲得)は低コストで広く網をかけ、下流(オンライン相談・現地視察)に進むほど手間のかかる対応に絞り込む設計になっている。母数と絞り込み段階を仕様として可視化することで、委託事業者の提案内容や事業効果を具体的な数値で検証できる形にしている点が特徴的である。(参考:公募仕様書/沼津市

全国で広がる「サテライトオフィス誘致支援」パッケージの一形態

もっとも、この3段階の設計は沼津市が独自に発明したものというより、全国の自治体に向けて複数の民間コンサルティング会社が提供する定型的なサービスパッケージに近い構造を持つ。たとえば株式会社イマクリエは、熊本県錦町の令和5年度事業でフォームマーケティング・テレマーケティングによるリード獲得業務を、岩手県山田町でも同様のフォームマーケティング→テレマーケティング→ニーズ調査という業務を受託しており、「リード獲得」「オンライン相談会」という用語や業務の切り分け方も沼津市の仕様書とほぼ共通している。沼津市の受託事業者名は非公開だが、企業誘致の実務が全国的に類似したサービス市場を通じて標準化されつつある流れの中に、本事業も位置づけられるとみられる。(参考:熊本県錦町における令和5年度錦町サテライトオフィス誘致リード獲得支援業務を完遂/イマクリエ岩手県山田町における企業誘致に向けた外部企業意向調査業務を受託/イマクリエ

属人的な進出実績を制度的なプロセスに転換する狙い

前述の通り、沼津市の先行進出企業は経営者個人の人脈や立地条件との偶然の一致によって実現していた。本事業は、この「たまたま実現した成功」を、特定の首長や職員の人脈に依存せず翌年度以降も繰り返し再現できる業務プロセス(民間事業者への委託によるリード獲得・絞り込み)に転換しようとしている点に、沼津市としての事業設計上の狙いが表れている。(参考:ブリッジインターナショナル記事/サテライトオフィスしずおか

調査時点の成果

令和7年度事業の進捗として確認できる情報

2026年7月の調査時点で、沼津市公式サイト上で確認できる令和7年度事業の情報は、公募・選考プロセスに関するものにとどまる。結果表によれば応募事業者は1社のみで、当該事業者が契約候補者として選定されたことが確認できる一方、契約締結後の実施状況(実際にアプローチした企業数、オンライン相談会の開催社数、合同視察ツアーへの参加企業数、実績報告書の内容等)は、調査時点で公開資料としては確認できなかった。履行期間である令和8年3月31日はすでに経過しており、市への実績報告自体は行われているとみられるが、その内容が公式サイト上で公開されているかどうかは確認できていない。(参考:結果表/沼津市報道発表資料(令和7年7月分)/沼津市報道発表資料(令和8年3月分)/沼津市

事業とは別に確認できる進出実績

令和7年度事業とは別に、沼津市がサテライトオフィス誘致の実績として公式サイトで紹介しているのは、ブリッジインターナショナル、REVOLEA、セブンセンスマーケティングの3社である。ただし、これらの進出はいずれも本事業が始まる前の経緯によるものであり、令和7年度の体験型視察ツアーを経て新たに進出を決めた企業の事例は、調査時点では確認できなかった。(参考:地域とつながるレンタルオフィスのご紹介/沼津市

他地域への示唆

数値目標付きの仕様書は効果検証の土台になる

「約3,000社へのアプローチ」「9社程度のオンライン相談」「5社程度の視察」という段階ごとの数値目標を業務仕様書に明記する手法は、企業誘致の委託事業において成果を検証可能な形にする一つのモデルになる。同種の視察ツアー事業を検討する他の自治体にとっても、上流の母数と下流の絞り込み数をあらかじめ仕様として明示しておくことは、委託事業者の提案評価や事業効果の事後検証を具体的に行ううえで参考になる。(参考:公募仕様書/沼津市

民間の定型サービスを活用する際は自治体側の目利きが問われる

熊本県錦町や岩手県山田町の事例が示すように、「リード獲得→オンライン相談→視察」という枠組み自体は、複数の自治体向けに提供されている既製のサービスパッケージとして流通している。裏を返せば、この枠組みを導入すること自体は他地域でも十分に再現可能であり、成果を左右するのは受託事業者の企業データベースの質や、実際のテレマーケティング・提案力の巧拙にある。既製の枠組みを採用する自治体には、プロポーザルの評価段階でこうした実務能力をどう見極めるかが問われる。(参考:熊本県錦町における令和5年度錦町サテライトオフィス誘致リード獲得支援業務を完遂/イマクリエ岩手県山田町における企業誘致に向けた外部企業意向調査業務を受託/イマクリエ

実施結果の公開なしに制度の実効性は検証できない

一方で、令和7年度事業の実際の実施結果(何社にアプローチし、何社が相談・視察に進み、何社が最終的に進出を決めたか)が調査時点で公開されていない点は、この種の委託事業に共通しうる課題である。数値目標を仕様書に明記した設計自体は評価できるが、事後的にその達成度を外部から検証できる情報公開が伴わなければ、属人的な誘致からの脱却がどこまで実現したかを確認することは難しい。同種の事業を実施する他地域には、実績報告書の要旨を公表するなど、透明性を確保する運用が求められる。(参考:結果表/沼津市報道発表資料(令和8年3月分)/沼津市

参照元

沼津市公式資料

進出企業・関連団体資料

他地域比較資料


2026年7月時点の調査内容に基づいて作成

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