
日本大学国際関係学部 宍戸ゼミ×沼津市 観光まちづくり探究プロジェクト
沼津市と日本大学国際関係学部の包括協定に基づき、観光学専攻の宍戸ゼミが2021年度から原地区・戸田地区で継続する産学連携プロジェクト。英語版バーマップや観光PR動画など学生発の情報発信ツールを毎年制作している。
沼津市と日本大学国際関係学部は2020年2月、教育・人材育成や地域振興、若年層人口の定着促進などを目的とした包括協定を締結した。この協定に基づき、観光学を専門とする宍戸学教授のゼミナールが2021年度から沼津市を対象としたフィールドワーク型の研究プロジェクトを継続している。(参考:日本大学国際関係学部・短期大学部・大学院国際関係研究科と沼津市との連携協力に関する包括協定の締結について|沼津市公式サイト)
ゼミは研究テーマ別の複数ユニットに分かれ、沼津市を担当するユニットが沼津市観光戦略課・沼津観光協会と連携しながら、英語版バーマップや街歩きマップの制作、観光プロモーション動画の撮影、外国人観光客向けの英語ミニツアーの実施などに取り組んできた。活動成果は沼津市公式観光サイト「沼津観光ポータル」の特設ページで期生ごとに公開されており、2023年5月公開の4期生分の報告(2022年度活動分)から2024年度活動分(6期生)まで、複数年度にわたる記録を確認できる。(参考:日本大学×沼津市 観光プロモーションの取り組み|沼津観光ポータル、「日本大学×沼津市 観光プロモーション」4期生の活動報告を掲載しました!|沼津観光ポータル)
沼津市は2020年2月28日、日本大学国際関係学部・短期大学部(三島校舎)との間で連携協力に関する包括協定を締結し、2021年4月に短期大学部、2022年4月に大学院国際関係研究科を対象に加えた。協定は教育活動・人材育成、地域振興とまちづくり、若年層人口の定着促進、国際交流事業など6分野にわたり、地域課題の解決に学術研究の成果を活用することなどを目的として掲げている。(参考:沼津市公式サイト)
宍戸ゼミが研究テーマに掲げるのは「『観光都市』沼津の現状と課題を踏まえた『沼津ならでは』の誘客施策」であり、県内の高等教育機関で構成する「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」にも同テーマの研究報告書を提出している。中心市街地や沼津港に比べて、周辺地域の観光資源は認知度・情報発信力の面で課題を抱えていた。(参考:「観光都市」沼津の現状と課題を踏まえた「沼津ならでは」の誘客施策|ふじのくに地域・大学コンソーシアム)
対象となった原地区は、白隠禅師(江戸中期の禅僧で、臨済宗中興の祖とされる)の生誕地であり、白隠が住職を務めた松蔭寺をはじめ複数の関連寺院・史跡が点在する。(参考:原駅〜白隠の里地区の歴史を巡る|沼津観光ポータル)
沼津港エリアなどに比べると周辺地域への観光客の関心は相対的に低く、情報発信力の面で課題があるとの指摘もある。(参考:「観光都市」沼津の現状と課題を踏まえた「沼津ならでは」の誘客施策|ふじのくに地域・大学コンソーシアム)
もう一つの対象地区である戸田地区は、旧戸田村時代から人口減少・高齢化が続き過疎地域に指定される港町であり、観光資源はあるものの自治体単独での情報発信には限界があった。(参考:沼津市戸田地区過疎地域持続的発展計画|沼津市公式サイト)
中心市街地についても、訪日外国人観光客向けの多言語対応が十分とは言えず、特に夜間の飲食店選びを支援する英語情報が不足していた。学生が語学力を生かして地域の情報発信を補完することが、ゼミ活動のテーマの一つとなった。(参考:日本大学×沼津市 観光プロモーションの取り組み(旅行ビジネスユニット6期生)|沼津観光ポータル)
ゼミは複数年にわたりテーマ別のユニット制で活動しており、沼津市を担当する「旅行ビジネスユニット」「地域観光ユニット」(年度によっては「宿泊施設ビジネスユニット」も設置)に加え、富士山静岡空港や東伊豆町・熱川温泉旅館協同組合と連携する別ユニットも並行して活動している。これまでの成果物には、沼津市原地区の街歩きマップ、英語版バーマップ、訪日客向けヴィーガン・ベジタリアンマップ、伊豆熱川地区でのスタンプラリー企画などがある。(参考:宍戸ゼミ Shishido Seminar)
2023年5月に沼津観光ポータルで公開された4期生(2022年度活動)の報告では、宿泊施設ビジネスユニット・旅行ビジネスユニット・地域観光ユニットの3ユニット体制で成果がまとめられている。(参考:「日本大学×沼津市 観光プロモーション」4期生の活動報告を掲載しました!|沼津観光ポータル)
直近で活動内容が詳細に公開されているのは2024年度(6期生)である。3名で構成する旅行ビジネスユニットは、沼津市内で開催された国際会議の参加者を対象に、2024年11月13日、三島市内の観光スポットを巡る所要3時間の英語ミニツアーを企画・実施した。行程には楽寿園や源兵衛川の散策、三嶋大社での参拝作法の体験、白滝公園の見学などを盛り込み、川に素足で入ったり神社で手水を体験したりする内容とした。韓国、台湾、フランス、アメリカなど多国籍の参加者、約10名がツアーに参加した。並行して、沼津市中心市街地のバー・ワインバー・居酒屋計12店舗について、英語の説明とイラストに加え来店時に役立つ日本語の基本表現も添えて紹介する「沼津市英語版バーマップ」を作成し、観光案内所や市内のバー・ホテル・レンタカー店舗で配布した。(参考:日本大学×沼津市 観光プロモーションの取り組み(旅行ビジネスユニット6期生)|沼津観光ポータル)
4名で構成する地域観光ユニットは、原・戸田地区の観光資源探究をテーマに、2024年11月10日開催の「はら逸品うまいものフェス」(第8回、来場者4,000人)に出展した。来場者に地域に関するクイズを出したり聞き取り調査を行ったりして地域住民の要望を吸い上げたほか、地元ラジオ局コーストFMの生放送番組にゲスト出演してゼミ活動を紹介した。あわせて、学生の視点で原・戸田地区を一泊二日の行程で紹介する観光プロモーション動画を、白隠禅師ゆかりのコンテンツや戸田の自然体験をテーマにショート・ロング版各2本、計4本制作し、YouTubeとInstagramで公開した。(参考:日本大学×沼津市 観光プロモーションの取り組み(地域観光ユニット6期生)|沼津観光ポータル、令和6年度民間まちづくり活動支援事業 活動報告書「若い世代が参画する原・浮島地区のにぎわい創出イベント」|沼津市公式サイト)
学生が制作した街歩きマップ「沼津市原のススメ」や戸田紹介チラシ、英語版バーマップは、沼津観光協会公式サイトのパンフレットページで一般にも配布されている。(参考:パンフレット|沼津市公式観光サイト【沼津観光ポータル】)
また活動成果は、ふじのくに地域・大学コンソーシアムが運営する「ゼミ・研究室等地域貢献推進事業」の枠組みでも報告されており、2022年2月には「『観光都市』沼津の現状と課題を踏まえた『沼津ならでは』の誘客施策」と題した研究報告書を同コンソーシアムに提出している。(参考:ふじのくに地域・大学コンソーシアム公式サイト)
単発の講義演習やインターンシップではなく、大学と自治体の包括協定という制度的な枠組みの下で、2021年度以降、期生(学年)を超えて4期生から6期生まで継続的に引き継がれている点が特徴である。教員個人の人脈や単年度の事業予算に依存せず、協定という形式知によって連携の継続性を担保している。(参考:沼津市公式サイト、沼津観光ポータル)
ゼミ内をテーマ別の「ユニット」に分ける体制を取り、学生数や地域ニーズに応じてユニット構成自体を年度ごとに見直している(3ユニット体制の年度もあれば、2ユニット体制の年度もある)。ユニットは沼津市担当だけでなく、富士山静岡空港や東伊豆町・熱川温泉旅館協同組合など複数の地域を対象に並行して活動しており、沼津市はそのうちの一つの連携先という位置づけになっている点も特徴的である。(参考:宍戸ゼミ Shishido Seminar)
成果物が行政向けの提言書にとどまらず、英語版バーマップや英語ミニツアーのように、訪日外国人観光客が直接手に取り・体験できる実用的なツールとして仕上げられている点も特徴である。学生自身が英語の解説文やイラストを作成することで、自治体単独では手が回りにくい多言語のインバウンド対応を補う形になっている。(参考:沼津観光ポータル(旅行ビジネスユニット6期生))
大学の外部発表の場であるふじのくに地域・大学コンソーシアムの枠組みを通じて、県内の他大学・他ゼミの取り組みと並んで研究成果が蓄積・公開される仕組みがあることも、単独の自治体・大学間連携にとどまらない特徴である。(参考:ふじのくに地域・大学コンソーシアム公式サイト)
2024年度(6期生)の活動では、旅行ビジネスユニットが実施した英語ミニツアーに海外複数国から約10名が参加し、制作した沼津市英語版バーマップには市内12店舗の情報が掲載された。(参考:沼津観光ポータル(旅行ビジネスユニット6期生))
地域観光ユニットは、来場者4,000人規模の「はら逸品うまいものフェス」に出展して地域住民との接点を持ち、観光プロモーション動画4本を制作してYouTube・Instagramで公開した。(参考:沼津観光ポータル(地域観光ユニット6期生)、沼津市公式サイト)
学生が制作した街歩きマップ「沼津市原のススメ」、英語版バーマップ、戸田紹介チラシは、いずれも沼津観光協会公式サイトで現在も一般向けに配布されており、単年度限りの成果物ではなく継続的に活用される観光コンテンツとなっている。(参考:パンフレット|沼津観光ポータル)
4期生(2022年度活動、2023年5月公開)から6期生(2024年度活動)まで、複数年度にわたる活動記録が沼津観光ポータル上で確認でき、大学と自治体の連携が単年度で終わらず継続していることが確認できる。一方で、これらの活動が沼津市全体の観光客数や消費額といった定量的な指標にどの程度寄与したかを示すデータは、公開情報の範囲では確認できなかった。(参考:沼津観光ポータル)
大学とのゼミ単位の連携を、単発のイベント協力ではなく包括協定という制度の下に位置づけることで、担当教員や個々の学生の卒業・異動を越えて活動の枠組み自体を継続させやすくなる。他地域が大学連携を検討する際、覚書や協定の締結によって連携を属人的な関係から制度的な枠組みに移す設計は再現性が高い。
ゼミ内をテーマ別ユニットに分けることで、限られた学生数でも「宿泊」「旅行商品」「地域資源発掘」といった複数のテーマを同時並行で扱うことができる。地域側が抱える課題を複数の切り口に分解し、それぞれをユニットに割り振る設計は、他の大学連携の体制を検討する際のモデルとして参考になる。
学生が語学力を生かして英語版バーマップやミニツアーといった多言語コンテンツを制作する手法は、外国語学部・国際系学部を持つ大学が近隣にある地域であれば応用可能であり、自治体単独では優先順位が下がりがちな小規模なインバウンド対応コンテンツを補完する実践的な選択肢となる。
一方で、活動内容やユニット構成が年度ごとに変動している実態は、ゼミの自主的な運営に依存する部分の大きさを示してもいる。継続性をさらに高めるには、自治体側が包括協定を土台としつつ、活動記録の引き継ぎや次年度以降の学生への申し送りを制度的に支援する仕組みを持つことが、同種の大学連携を長期的に機能させる鍵になると考えられる。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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