
筑波大学循環における自動運転バス実証と地域ライドシェア
つくば市が運転手不足という同じ課題に対し、基幹路線「筑波大学循環」へのレベル2自動運転バス実証(2027年度レベル4目標)と、交通空白地を補う4市連携の公共ライドシェアを同時並行で展開。需要の濃淡と時間軸に応じて移動手段を使い分ける二層構造の地域交通戦略を整理した事例。
つくば市は、バス・タクシー運転手の不足という共通の課題に対し、二つの異なる時間軸の手段を同時並行で動かしている。一つは、関東鉄道バスの基幹路線「筑波大学循環」(つくば駅〜筑波大学、約10km)を舞台にしたレベル2自動運転バスの実証走行で、2027年度のレベル4(特定条件下で運転者が不在となる自動運転)実装を目標に据えた将来への布石である。もう一つは、つくば市など茨城県内4市が連携して2025年1月に始動した「地域連携公共ライドシェア」で、運転手不足ですでに減便・空白が生じている地域の足を、いま支えるための即応策にあたる。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市、つくば市で自動運転バスの実証を実施 - KDDI)
自動運転バス実証は、つくば市・筑波大学・関東鉄道・KDDIの4者が中核となり、ティアフォーなど協力企業を含む「つくば自動運転社会実装推進事業コンソーシアム」(2025年8月5日設立)として、国土交通省の自動運転社会実装推進事業の採択を受けて実施された。2025年11月21日〜2026年1月23日(土日祝除く)に1日4便・1周約40分で運行し、報道によれば累計約1,300人が乗車、座席を埋めた状態での乗車率は95.9%、導入への賛成は93.1%にのぼった。本事例は、先端技術の実装を急ぐのではなく、需要の濃淡と時間軸に応じて移動手段を配分する「地域交通の組み替え」として読み解ける点に価値がある。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市、つくば市で“住民の足”として自動運転バス - Impress Watch)
取り組みの根底にあるのは、全国の地方都市に共通するバス運転手の不足である。日本バス協会の推計では、バス運転手は2024年度の約10万8千人から2030年度には約9万3千人へ減り、2030年度には約3.6万人が不足する見通しとされる。2024年4月からは運転手の時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)も加わり、便数を維持すること自体が難しくなっている。 (参考:バス運転手不足の現状 - 日本経済新聞、ドライバー不足の実態 - トラベルボイス)
つくば市域でも、その影響は具体的な減便・廃止として現れている。地域の路線バスを担う関東鉄道は、運転手不足を背景に2024年12月のダイヤ改正でつくば・土浦など複数市町の路線を減便し、さらに2026年4月の改正では一部路線の廃止に踏み込んだ。市のコミュニティバス「つくバス」も減便されており、公共交通をどう維持するかが市政の現実的な課題となっていた。 (参考:関東鉄道バスが32路線で減便 - NEWSつくば、ダイヤ改正のお知らせ - 関東鉄道)
こうした課題に対し、実証の舞台に選ばれた「筑波大学循環」は示唆的である。この路線はつくば駅と筑波大学の構内を結ぶ基幹路線で、学生・教職員を中心に通学・通勤の反復需要が見込める。需要が薄く本数の少ない郊外路線ではなく、需要が確かに存在する路線をどう持続させるかという、運転手不足のもう一方の側面に正面から向き合う設定になっている。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市)
加えて、つくば市が自動運転を交通維持の選択肢に据えられた背景には、長年の技術的・制度的な蓄積がある。市は2007年から市街地で自律走行ロボットの技術チャレンジ「つくばチャレンジ」を続け、2011年には全国で初めて「モビリティロボット実験特区」の認定を受けて搭乗型移動支援ロボットの公道実証を重ねてきた。2022年にはスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定され、産業技術総合研究所や筑波大学が集まる研究学園都市としての人材・知見も近接する。先端モビリティの社会実装に踏み出しやすい土壌が、市内に形成されていた。 (参考:つくばチャレンジの取組 - つくば市、スーパーシティ型国家戦略特別区域 - つくば市)
将来の自動運転に先立ち、市はまず足元の交通空白に手を打った。2025年1月27日、つくば市・土浦市・下妻市・牛久市の4市が連携し「地域連携公共ライドシェア」を始動。これは道路運送法に基づく自家用有償旅客運送の枠組みを用い、一般のドライバーが自家用車で人を運ぶ、いわゆる公共ライドシェア型の仕組みである。地域のドライバーを「ドライバーバンク」に登録し、AIオンデマンド配車アプリ「mobi」で予約・配車する。運営はWILLERグループのCommunity Mobilityに委託し、運行管理を関東鉄道が担う、官民連携の体制を採った。 (参考:地域連携公共ライドシェア - つくば市、茨城県4市が公共ライドシェアを開始 - レスポンス)
対象は4市内に設定された4エリア(つくば・土浦、筑波山、下妻、牛久)で、買い物・通院・公共施設利用などを想定し、既存の公共交通が動かない時間帯や交通空白地を補う位置づけとした。予約制のオンデマンド運行で、2027年3月末までの実証として、国のデジタル田園都市国家構想交付金を財源に運営される。市長は始動にあたり「2024年問題といわれるドライバー不足でコミュニティバスや路線バスが減便となっている。交通空白地の解消のため4市が連携して取り組みたい」と、その狙いを説明している。 (参考:地域連携公共ライドシェア - つくば市、公共ライドシェアの利用者募集 - NEWSつくば)
自動運転バスは、いきなり本格運行を目指すのではなく、走行範囲と難易度を年度ごとに段階的に引き上げる形で進められた。最初の令和5年度(2024年1月)は筑波大学構内のみの約4kmを定員10名の小型EVで周回する実証で、まず社会受容性や遠隔監視体制を確かめた。次の令和6年度(2025年1月)は、つくば駅〜筑波大学の約10kmという既存路線のルートへ範囲を広げ、6か所のバス停に停車する形にした。 (参考:令和5年度の実証実験 - つくば市、つくば市の自動運転バス実証 - ケータイWatch)
そして今回の令和7年度(2025年11月21日〜2026年1月23日)は、関東鉄道バス「筑波大学循環」の全バス停に停車する、実際の路線運行に近い形へと踏み込んだ。車両はティアフォー製の小型EVバス「Minibus 2.0」(定員28名、自動運転走行時の乗車定員は16名。BYDの車両をベースに自動運転化したもの)を用い、運転手が同乗するレベル2で1日4便・1周約40分を無料・事前予約制で運行した。構内限定から路線の一部、そして全バス停へと、受容性と技術の成熟を同時に確かめながら範囲を広げていったことが、このプロセスの特徴である。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市、つくば市で自動運転バスの実証を実施 - KDDI)
推進体制は、つくば市・筑波大学・関東鉄道・KDDIの4者を中核に、自動運転技術を提供するティアフォー、高精度3次元地図を担うアイサンテクノロジー、運行支援やリスク評価を担うA-Drive・パーソルビジネスプロセスデザイン・SOMPOリスクマネジメントなどが加わったコンソーシアムである。安全面では、車内をAIでモニタリングし、異常な動きを検知すると遠隔監視センターからバスを停止して通報する仕組みを組み込み、運転手不在のレベル4運行を見据えた運用の検証も進めた。市は2026年度に有料での定常運行(10月予定)へ移行し、2027年度のレベル4実現を目指すとしている。 (参考:つくば市で自動運転バスの実証を実施 - KDDI、つくば市で“住民の足”として自動運転バス - Impress Watch)
第一の特徴は、運転手不足という単一の課題に対し、自動運転バスと公共ライドシェアという性質の異なる二つの手段を、需要の濃淡と時間軸で使い分けている点である。反復需要が確かにある基幹路線(筑波大学循環)は自動運転による「省人化での維持」を、需要が薄く既存交通が届きにくい地域や時間帯は人が運転するライドシェアによる「即応的な補完」を担う。すべてを自動運転で置き換えようとするのでも、すべてをライドシェアで賄おうとするのでもない、手段の適材適所が設計されている。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市、地域連携公共ライドシェア - つくば市)
第二に、自動運転バスを「実際に需要のある路線」「信号交差点を含む混在交通の一般道」で走らせている点である。国内のレベル4先行事例は、福井県永平寺町の専用道を走る低速カート、茨城県境町の一般道だがオペレーターが同乗する小型バス、日立市のひたちBRTのように専用道を活用するものが多い。つくばは、学生・市民の実需を伴う既存路線を、歩行者や自転車が行き交う一般道で走らせる難所に挑んでおり、レベル4到達自体は後発ながら、最も実用に近い条件での検証を積んでいる。 (参考:全国初のレベル4移動サービス(永平寺町) - 国土交通省、つくば市で“住民の足”として自動運転バス - Impress Watch)
第三に、構内限定から路線の一部、全バス停へと、走行範囲を年度ごとに段階的に拡げてきた進め方である。社会受容性の確認と技術的な成熟、そして運行体制の構築を一度に問うのではなく、小さく始めて確かめながら広げることで、住民の不安と技術的リスクの双方を抑えながら本格運行へ近づける設計になっている。市・大学・交通事業者・通信事業者・技術企業が一つのコンソーシアムを組む官民学連携の体制も、この段階的な検証を継続的に支えている。 (参考:自動運転バスの実験走行について - つくば市、つくば市で自動運転バスの実証を実施 - KDDI)
自動運転バス実証では、利用と受容の両面で具体的な数字が確認できる。報道によれば、実証期間中の累計乗車人数は約1,300人で、座席が埋まると100%となる着座定員制のもとで乗車率は95.9%に達した。さらに、自動運転バスの導入に賛成する回答は93.1%にのぼり、KDDIは「ここまで高い乗車率で住民に乗ってもらっているのは日本でも類を見ない」と自社の取り組みを評価している。実需のある路線で高い利用率と受容を確認できたことは、本事例の中心的な成果といえる。 (参考:つくば市で“住民の足”として自動運転バス - Impress Watch、自動運転バスの実験走行について - つくば市)
一方で、技術的な課題も率直に表れている。市長は、信号のない交差点で人・自転車・自動車の往来が激しい場所では急ブレーキが頻発したと指摘し、道路側へのセンサー設置など車両単体ではない仕組みでの安全性向上が必要だとの認識を示した。混在交通の一般道を走るという難所は、高い受容率の裏で、レベル4へ進むうえで越えるべき壁を具体的に可視化している。運転手が不在となるレベル4では、車内で急病人が出た場合の対応など、運用面の備えも残る論点とされる。 (参考:つくば市で“住民の足”として自動運転バス - Impress Watch)
地域連携公共ライドシェアは、4市全体でドライバー登録が76人(つくば・土浦41人、筑波山15人、下妻3人、牛久17人)となり、運行開始時に目標としていた人数を確保して担い手づくりが進んだ。利用者数などの運行実績は調査時点で公表された数値を確認できなかったが、運転手不足が顕在化するなかで、地域住民が運び手として参加する仕組みが立ち上がったこと自体が一定の前進といえる。 (参考:公共ライドシェアの運行開始 - NEWSつくば、ドライバー76名で運行 - トラベルボイス)
最も再現性のある学びは、移動手段を「需要の濃淡」と「対応の時間軸」で配分する考え方である。運転手不足という同じ課題でも、反復需要のある基幹路線には省人化のための自動運転を、需要が薄い地域や空白時間帯には人が運転するライドシェアを、というように、課題の現れ方に応じて手段を組み合わせる発想は、研究都市でなくとも応用できる。「自動運転かライドシェアか」ではなく、両者をどう役割分担させるかという問いの立て方が、他地域にとっての出発点になる。
二つ目は、小さく始めて段階的に広げる進め方の有効性である。つくばは構内限定の短距離から始め、年度ごとに路線・停留所を拡げて受容性と技術を同時に確かめた。実需のある路線を最初の対象に選び、走行範囲を一気に広げないこの設計は、住民の不安と技術的リスクを抑えながら社会実装へ近づける、再現しやすい手順といえる。最初の路線をどこにするかは、話題性ではなく需要の確かさと経路の単純さで選ぶ、という判断基準も参考になる。
三つ目は、成果と課題を分けて捉える視点である。つくばの事例は、95.9%という高い乗車率を示す一方で、信号のない交差点での急ブレーキという一般道特有の難しさを率直に開示している。混在交通の一般道での自動運転がまだ発展途上であることを直視できる点に、この事例の参照価値がある。ただし、つくばが備える筑波大学・産業技術総合研究所の集積やスーパーシティ特区といった条件は他地域に等しくあるわけではなく、技術提供企業や運行体制をどう確保するかは地域ごとに固有の論点となる。移植できるのは個別の技術や予算の規模ではなく、手段を需要に合わせて配分し、段階的に検証を積むという設計思想である。
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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