
しおまち(潮待ち)観光MaaS実証実験
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
福山市鞆の浦で生まれたグリーンスローモビリティの実証実験を、JR西日本の観光型MaaS「setowa」のプラットフォームに接続し、電動レンタサイクル・定額タクシー・グリーンスローモビリティの3プランをスマホで予約・決済できるようにした事例。
広島県福山市は、鞆の浦地区の狭い路地や坂道を高齢者や観光客が安全に移動できるようにするため、2018年11月に小型電動車両「グリーンスローモビリティ」の実証調査を行い、調査終了後わずか4カ月、2019年4月には全国で初めてとなる営業タクシー事業「グリスロ潮待ちタクシー」へと発展させた。この地域発の交通サービスを、JR西日本が瀬戸内エリア全域で展開する観光型MaaSアプリ「setowa」のプラットフォームに接続し、電動レンタサイクル+路線バス、定額タクシー、グリーンスローモビリティという3つの周遊プランをスマートフォンで検索・予約・決済できるようにしたのが、2020年度に実施された「しおまち(潮待ち)観光MaaS実証実験」である。実施主体は日本旅行を幹事社とするコンソーシアムで、福山市もこれに参加した。すでに地域で動いていた小さな交通サービスを、広域MaaSという既存の器に載せることで、独自アプリを開発せずに観光客の周遊利便性を高めようとした点が特徴である。(参考:グリーンスローモビリティを活用した「しおまち(潮待ち)モビリティ」実証事業について(福山市・Wayback Machine)、「しおまち(潮待ち)観光MaaS」実証実験中!(福山市・Wayback Machine))
鞆の浦がある鞆町は、江戸時代に潮待ちの港として発展した歴史ある町で、2017年10月のユネスコ「世界の記憶」登録、同年11月の国の重要伝統的建造物群保存地区選定に続き、2018年5月には日本遺産にも認定され、年間200万人規模の観光客を集める地域となっていた。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
一方で、鞆町の人口は過去30年間で半分程度の約3,700人まで減少し、高齢化率も47.8%と福山市全体(28.5%)を大きく上回る水準にあった。江戸期からの区画がそのまま残る町並みは道幅が狭く、三叉路やクランク、急な坂道が多い。加えて近年の観光客増加により、通り抜け車両や観光目的の車が地区内に入り込み、住民の日常的な移動や緊急車両の通行を妨げる状況が生じていた。港湾を横断する橋を架けて交通を処理する計画もあったが、歴史的景観を損なうとして中止され、山側にバイパスを通す方針に転換された経緯がある。福山市はこうした課題に対応するため2018年3月に「鞆まちづくりビジョン」を策定し、安心して歩ける生活道路の整備、通過交通の抑制、観光客が回遊しやすい環境づくり、高齢者の外出・買い物への支援などを検討課題として位置づけた。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
地区内では鞆鉄道の路線バス2本と地元タクシー会社2社が運行していたが、道路事情からバスやタクシーが通行できるエリアは限定的で、運行本数も多くはなかった。狭い路地や坂道でも安全に走行でき環境負荷も小さい小型電動車両「グリーンスローモビリティ」(4人乗り以上で時速20km未満に速度を抑えて公道を走る電動車)は、こうした移動課題と低炭素化を同時に解決できる手段として国土交通省が全国普及を進めており、福山市はこの実証調査に応募した。(参考:グリーンスローモビリティを活用した「しおまち(潮待ち)モビリティ」実証事業について(福山市・Wayback Machine)、第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
もう一つの背景として、観光客が福山駅と鞆の浦を移動する際の「周遊のしやすさ」自体も課題だった。従来は路線バスかタクシーで移動するしかなく、複数の交通手段や体験を組み合わせた旅程をスマートフォン一つで計画・予約できる仕組みは存在していなかった。JR西日本は瀬戸内海西側エリアを周遊型の観光地として育てる「せとうちパレットプロジェクト」を2018年5月から進めており、その一環として2019年10月から観光型MaaSアプリ「setowa」の実証実験を瀬戸内海地域全体で開始していた。(参考:「setowa」と多面的なインフラ整備で瀬戸内ならではの旅を創出(LIGARE)、せとうちエリアにおける「観光型MaaS『setowa』」実証実験開始について(JR西日本))
1. グリーンスローモビリティの実証調査(2018年11月)
福山市はこの国土交通省の事業(グリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業)への参加を申請し、全国5地域の一つとして採択された。2018年11月16日から29日までの2週間、鞆町内で7人乗りの小型電動車両を使い、「暮らしおたすけルート」(鞆鉄道が運行、病院などを経由してバス停へ接続する定時定路線)、「絶景おもてなしルート」(アサヒタクシーが運行、観光施設を巡る不定期便)、離島向けの「走島おでかけルート」(地域ボランティアが運行)の3ルートを無料で試験運行した。(参考:グリーンスローモビリティを活用した「しおまち(潮待ち)モビリティ」実証事業について(福山市・Wayback Machine)、第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
2. 営業タクシー事業「グリスロ潮待ちタクシー」の開始(2019年4月)
実証調査の結果を踏まえ、福山市は調査終了後わずか4カ月というスピードで、2019年4月19日にアサヒタクシーと連携したグリーンスローモビリティの営業タクシー事業「グリスロ潮待ちタクシー」を開始した。使用したのはヤマハ製の5人乗り車両1台で、走行区域は鞆町平地区と鞆鉄鋼団地を結ぶ約4km、運賃は通常のタクシーとほぼ同じ水準とした。ドアがない車体構造は安全性の観点から運輸局・警察との協議が必要だったが、道幅が狭く交差点数が限られる鞆町の道路条件を安全性の根拠として説明し、認可を得た。(参考:グリスロで全国初のタクシー事業が始まります(国土交通省)、鞆の浦でグリスロタクシーが運行開始(ヤマハ発動機)、第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
3. 広域観光型MaaS「setowa」の展開(2019年10月〜)
並行して、JR西日本は瀬戸内海地域全体を対象に観光型MaaSアプリ「setowa」の実証実験を2019年10月から開始し、2020年9月から期間を定めない本格展開へ移行した。現地の鉄道やバス、タクシー、船舶、レンタサイクル、レンタカーといった交通手段を一括で検索・予約・決済できる旅行支援アプリで、対象エリアは広島県全域と岡山・山口・愛媛の一部にまたがった。(参考:せとうちエリアにおける「観光型MaaS『setowa』」実証実験開始について(JR西日本)、JR西日本が本格稼働した観光型MaaS「setowa」、その取り組みと今後の展望とは?(TravelVoice))
4. 「しおまち(潮待ち)観光MaaS実証実験」の採択と実施(2020年度)
2020年度には、福山市も加わる日本旅行幹事社のコンソーシアムが提案した「しおまち(潮待ち)観光MaaS実証実験」が、国土交通省の全国公募事業「日本版MaaS推進・支援事業」に採択された。新たなアプリを開発するのではなく、既存の「setowa」を予約・決済の基盤として使い、その上に福山駅と鞆の浦を結ぶ3種類の周遊商品を載せる形をとった。具体的には、電動アシスト自転車と路線バスを組み合わせて福山駅・鞆の浦間を往復する商品(2020年11月3日〜12月27日)、定額運賃のタクシーで両地点を移動する商品(2020年11月1日〜12月31日)、鞆の浦の狭い路地や坂道をグリーンスローモビリティで巡る商品(既存の「グリスロ潮待ちタクシー」をアプリ経由で購入できるようにしたもの)の3本柱である。このうち自転車を使う商品では、鞆の浦に加えてばら公園、阿伏兎観音、明王院(国宝)まで足を延ばせるコースを設定した。(参考:「しおまち(潮待ち)観光MaaS」実証実験中!(福山市・Wayback Machine))
5. 関連する低速モビリティサービスの拡充(2020年3月)
MaaS実証と前後して、鞆町では低速モビリティを使ったサービス拡充が続いた。2020年3月23日には、福山市が鞆鉄道に運行を委託する定時定路線バス「鞆の浦グリスロバス」(平日運行、約4.7km、均一運賃170円)が、同年3月28日には土日祝限定で福山駅と福山城天守閣を結ぶ「グリスロ城まちタクシー」(運賃200円)がそれぞれ運行を開始した。地域交通とMaaSの実証は、単発の実験で終わらせず段階的にサービスを積み増していく形で進められた。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
1. 自前のアプリを作らず、広域プラットフォームに「乗る」設計
多くの観光型MaaS実証が独自アプリやシステムの構築から始めるのに対し、この事例では福山市・日本旅行のコンソーシアムはJR西日本がすでに瀬戸内海全域向けに開発・運用していた「setowa」に自地域のプランを商品として登録する形をとった。地域側は交通手段の商品設計とオペレーションに集中し、検索・予約・決済のシステム開発や集客導線は広域プラットフォーム側の資産をそのまま活用できる。実際、広島電鉄の「MOBIRYデジタルチケットサービス」をはじめ他の地域MaaSも同様の形で「setowa」に接続しており、瀬戸内エリアの複数の地域MaaS施策が一つのプラットフォームに相乗りする構図になっていたと捉えられる。(参考:せとうちMaaS「setowa」好調 周遊パス4月以降も発売 JR西の狙いは(乗りものニュース))
2. 「実証→即事業化」という短いサイクル
2018年11月の現地実証調査から、2019年4月の営業タクシー開始まではわずか4カ月だった。この速さを支えたのは、実証期間中に集めた定量的な満足度・支払意向データである。住民の57%・観光客の73%が本格運行を必要と回答し、有料であっても利用したいとする声も住民44%・観光客58%にのぼった。数字による裏付けがあったことで、長期の検討期間を置かずに事業化の判断ができたと考えられる。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
3. 1つの車両プラットフォームで住民の足と観光の足を両立
グリーンスローモビリティは、平日の「暮らしおたすけルート」では鞆鉄道が病院や公共施設を結ぶ生活の足として、観光需要が多い時間帯の「絶景おもてなしルート」ではアサヒタクシーが観光案内を兼ねた周遊の足として運行するという、運行主体とルート設計を使い分ける形で、同じ車両区分を2つの異なるニーズに充てている。これにより、住民向け・観光客向けに別々の交通システムを新設するコストをかけずに、双方の課題に対応している。(参考:グリーンスローモビリティを活用した「しおまち(潮待ち)モビリティ」実証事業について(福山市・Wayback Machine))
4. 景観保全とのトレードオフを、道路インフラではなく車両側で解決
鞆町では過去に、渋滞緩和のため港湾を横断する橋を架ける計画があったが、歴史的景観を損なうとして中止された経緯がある。この事例は、道路や橋といった恒久インフラに手を加えるのではなく、既存の狭い道路幅にそのまま収まる小型・低速の車両を導入することで、町並みを変えずに移動課題を緩和するアプローチをとっている。ドアがない車体構造は法規上の課題となったが、道幅が狭く交差点が少ないという鞆町の道路条件そのものを安全性の説明材料とすることで、車両を大幅に改造せずに運行許可を得ている。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
1. 実証調査段階での明確な利用実績と支持
2018年11月の2週間の実証調査では、利用者数は暮らしおたすけルートが369人、絶景おもてなしルートが702人で、合わせて延べ1,071人がグリーンスローモビリティに乗車した。乗車した利用者のうち7割がドアのない構造による乗り降りのしやすさを評価し、同じく7割が鞆町の道幅に対する速度感を肯定的に捉えるなど、車両特性への評価は概して好意的だった。70歳代女性の利用が目立ち、高齢者の外出支援という当初の狙いに合致する利用実態が確認されている。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
2. 全国初の営業事業化と関連サービスの拡充
実証調査を経て2019年4月に開始された「グリスロ潮待ちタクシー」は、グリーンスローモビリティを補助事業としてではなく通常の営業タクシーとして商業運行する全国初の事例となった。これに続き、2020年3月には定時定路線の「鞆の浦グリスロバス」、福山城公園を周遊する「グリスロ城まちタクシー」が相次いで開始され、単発の実証で終わらず複数のサービスへと展開している。(参考:グリスロで全国初のタクシー事業が始まります(国土交通省)、第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
3. デジタル連携が実証期間後も継続
「しおまち(潮待ち)観光MaaS実証実験」でつくられた「setowa」経由のデジタル予約の仕組みは、実証期間の終了後も存続している。「setowa」は2022年11月に「tabiwa by WESTER」へと名称変更・機能拡張されたが、2026年時点でも「グリスロ潮待ちタクシー」の乗車チケットは同アプリ上で検索・購入が可能であり、実証で構築した接続が一過性のキャンペーンで終わらず、継続的な予約導線として機能していることが確認できる。(参考:鞆の浦 グリスロ潮待ちタクシー(tabiwa by WESTER)、せとうち観光ナビ「setowa」が「tabiwa by WESTER」にリニューアル(JR西日本))
4. 残された課題としての採算性
一方で、収益性は実証当初から一貫した課題として指摘されている。グリーンスローモビリティは定員が4〜6人程度と輸送力に限りがあるため、運賃収入のみで運転手の人件費などの運行コストをまかなうのは容易ではない。福山市担当者は路線バスとの連携強化を、アサヒタクシー担当者は貨物輸送など新たな用途開拓を、それぞれ採算改善の方向性として挙げている。実証で得られた高い満足度・利用意向と、事業として自立する難しさが併存している点は、この事例をフラットに評価するうえで踏まえておくべき事実である。(参考:第15回 広島県福山市:住民の足としてグリーンスローモビリティを営業運転(日経BP))
1. 広域MaaSプラットフォームへの「相乗り」という選択肢
観光型MaaSに取り組もうとする自治体は、独自アプリの開発から着手しがちだが、この事例は近隣で稼働中の広域MaaSプラットフォームに自地域のプランを商品登録する形で参加する道を示している。システム開発費や利用者獲得のコストを負担せずに、デジタル予約・決済の仕組みを短期間で実装できる点は、財源や技術リソースが限られる自治体にとって再現性の高いアプローチである。ただし、その分プラットフォームの継続・仕様変更(今回の「setowa」から「tabiwa by WESTER」への移行のような)に地域側の取り組みが左右されるという依存関係も生じる点は留意が必要となる。
2. 小規模な実証で得た定量データを、迅速な事業化判断の根拠にする
実証調査から営業化までの4カ月という短さは、経験や勘ではなく、利用者アンケートで得た満足度・支払意向という具体的な数字が意思決定を後押ししたことによる。長期間の検討を重ねるより、小規模でも定量的な検証を行い、閾値を決めて次の段階に進む判断基準を先に持っておくことは、他地域の実証実験でも応用できる進め方である。
3. インフラ整備ではなく車両側の工夫で、景観保全と移動課題の両立を図る
歴史的景観を守るために道路・橋梁といった恒久インフラの新設を避けた地域では、狭い道路幅にそのまま収まる小型・低速車両の導入が、まちの姿を変えずに移動課題を緩和する代替策になり得る。地権者合意や大規模な公共事業が必要な土木インフラと違い、車両単位の投資は小さく始めて効果を検証しやすいという再現性がある。
4. 収益化の壁は前提として織り込み、複線的な収入源を最初から設計する
グリーンスローモビリティのような小型・低速交通は、輸送力の小ささゆえに運賃収入だけでの自立が難しいという構造的な課題を抱える。他地域が同種の取り組みを検討する際は、実証段階の高い満足度をそのまま事業の持続可能性と同一視せず、路線バスなど既存交通網との連携や、貨客混載など複数の収入源を当初から組み合わせる設計を検討する必要がある。
2026年09月時点の調査内容に基づいて作成
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