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江東区協働事業提案制度(区民の提案を区との協働事業に育てる「自由提案・課題提案」二本立ての公募制度)
江東区協働事業提案制度(区民の提案を区との協働事業に育てる「自由提案・課題提案」二本立ての公募制度)

江東区協働事業提案制度(区民の提案を区との協働事業に育てる「自由提案・課題提案」二本立ての公募制度)

江東区協働事業提案制度(区民の提案を区との協働事業に育てる「自由提案・課題提案」二本立ての公募制度)

東京都
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東京都江東区が平成22年度から続ける、市民活動団体の提案を区との協働事業として実現する公募制度。団体の発想を起点とする「自由提案」と、区が課題を示す「課題提案」の二本立てで、三者協議・公開プレゼンテーション・区民協働推進会議の審査を経て、役割と責任を分担した協働事業を生み出す仕組みを紹介する。

江東区協働事業提案制度(区民の提案を区との協働事業に育てる「自由提案・課題提案」二本立ての公募制度)

概要

江東区協働事業提案制度は、地域で活動する市民団体ならではの発想や専門知識を行政サービスに生かし、団体と区が互いの役割と責任を分け合いながら、地域のさまざまな課題の解決に手を携えて取り組むための公募の仕組みである。区内で活動するNPO・ボランティア団体・町会自治会・公益団体などが「区と一緒に取り組みたい」事業を提案し、審査を経て採択された事業を、提案団体と区の担当課が協働で実施する。平成22年度(2010年度)に始まり、令和7年度(2025年度)まで継続している、江東区の協働推進策の柱の一つである。 (参考:協働推進の取組み - 江東区過去の協働事業提案制度(平成22年度~令和元年度)- 江東区

この制度の骨格は、二つの提案ルートにある。一つは団体の自由な発想による「自由提案」、もう一つは区が課題(テーマ)を提示し、それに対して団体が専門性・ノウハウを活かして応える「課題提案」である。提案は書類による仮審査と、提案団体・区担当課・運営側による協議を経たのち、公開プレゼンテーション(本審査)にかけられ、第三者組織である「江東区区民協働推進会議」が採否を審査する。採択された事業は翌年度の協働実施を目指して具体化される。 (参考:令和6年度協働事業提案制度 - 江東区令和3年度課題提案にかかる募集テーマについて - 江東区

背景・課題

江東区は、下町の伝統を残しながら、豊洲市場の移転や臨海部の大規模開発、東京2020大会のレガシーなどを通じて急速に姿を変えてきた地域である。人口は令和6年(2024年)に約54万人へと拡大し、子育て・防災・環境・多文化共生といった区民ニーズも多様化している。こうした変化のスピードと幅に行政サービスだけで追いつくことは難しく、地域で活動する団体の知恵や機動力を行政の事業に接続する仕組みが求められていた。 (参考:江東区長期計画(後期)概要版(PDF)

江東区はこうした認識のもと、区政運営の基本に「協働」を据えてきた。協働を進める第一歩として、まず区の姿勢を明確にし職員の共通認識とするため、組織を横断した中堅・若手職員のワークショップ方式で「区民協働推進に関する基本的考え方」をまとめ、その過程で町会・自治会、ボランティア、NPO、公益法人と意見交換を重ねた。そこで掲げられたのが、協働するための基本姿勢としての「対等性」「相互理解」「評価」の三つである。協働は、共催・実行委員会・事業協力・事業委託・補助助成・情報交換など多様な形態を取りうるが、いずれも行政と団体が対等の立場で互いを理解し、成果を評価し合う関係を前提とする。 (参考:協働推進の取組み - 江東区協働の推進 - 江東区

ただし、理念として「協働」を掲げても、団体の善意やアイデアが具体的な区の事業に結びつくとは限らない。団体側には「区と一緒にやりたいが、どこに、どう持ち込めばよいか分からない」という壁があり、行政側にも「どの団体に、どの課題を任せられるか分からない」という壁がある。この双方向の壁を制度的に取り払い、提案を受け止めて協働事業へと育てる「回路」をつくることが、提案制度に求められた役割だった。 (参考:協働推進の取組み - 江東区

取り組みのプロセス

二つの提案ルート ―― 自由提案と課題提案

制度の入口は二本立てになっている。「自由提案」は、団体が自らの問題意識や強みを起点に、区と協働したい事業を自由な発想で提案するボトムアップのルートである。一方「課題提案」は、区の各担当課が解決したい地域課題をあらかじめテーマとして提示し、それに対して団体が専門性を活かした解決策を提案するルートである。たとえば令和3年度の課題提案では、障害者支援課による「成人の発達障害者に対する家事トレーニングの取組」、温暖化対策課による「二酸化炭素排出量の削減に繋がる省エネ行動の普及啓発」といったテーマが区側から示された。年度によって構成は変わり、令和6年度は課題提案の募集を行わず自由提案のみとするなど、運用は柔軟に調整されている。 (参考:令和3年度課題提案にかかる募集テーマについて - 江東区令和6年度協働事業提案制度 - 江東区

対象団体と対象外の線引き

提案できるのは、区内で1年以上継続して公益的な活動を行っている団体で、5人以上の会員で組織されていることが要件とされる。NPO法人、ボランティア団体、町会・自治会、公益団体のほか、営利を目的としない社会貢献活動を行う事業者も対象に含まれる。一方で、営利を目的とする事業、学術的な研究を目的とした事業、国・都やその外郭団体から助成を受けている事業などは対象外とされ、「区との協働で地域課題を解決する」という制度の趣旨に沿った提案に絞り込まれている。区の負担には1事業あたりの上限が設けられており、大型の補助ではなく、役割分担を前提とした中小規模の協働事業を生み出す設計になっている。 (参考:「江東区協働事業提案制度」(令和7年度)- 補助金ポータル協働推進の取組み - 江東区

事前相談から審査・採択までの流れ

提案にあたっては、まず事前相談が用意されている。提案を検討する団体は、江東区ボランティア・地域貢献活動センターに事業提案書(案)を持ち込み、相談を受けながら提案を練り上げることができる。提出された提案は、まず仮審査(書類審査)にかけられ、これを通過した提案について、提案団体・区の担当課・運営側による「三者協議」が行われる。ここで事業の実現可能性や役割分担を擦り合わせ、合意に至った事業が公開プレゼンテーション(本審査)に進む。公開プレゼンテーションでは、提案団体と区担当課が事業内容を説明し、審査員である区民協働推進会議の委員と質疑応答を行う。最終的な採否は、第三者性を持つ「江東区区民協働推進会議」が審査して決定する。 (参考:令和3年度協働事業提案制度の選考結果について - 江東区令和6年度協働事業提案制度 - 江東区

採択後 ―― 翌年度の協働実施

採択された事業は、その年度のうちに区の担当課と詳細を詰め、原則として翌年度に協働事業として実施される。たとえば令和7年度に募集・採択された事業は令和8年度の実施を目指す。提案から実施までに一定の準備期間を置き、団体と区が協議を重ねて事業を作り込む段取りになっており、「提案を採択して終わり」ではなく「採択をスタートラインとして協働事業を立ち上げる」プロセスが制度に組み込まれている。 (参考:協働推進の取組み - 江東区令和6年度協働事業提案制度 - 江東区

市民活動を段階で支える支援メニューの一部として

協働事業提案制度は、江東区の市民活動支援の中で単独で存在しているわけではない。区は、地域のつながりを育む新たな取り組みを後押しする「ステップアップ事業補助金」など、活動の段階に応じた支援メニューを併せて用意している。比較的初期の団体の先駆的・実験的な活動を補助金で支え、さらに区との協働で公共サービス化を目指す段階では提案制度につなぐ、という重層的な支援構造が組まれている。団体情報を集約するコミュニティ活動支援サイト「ことこみゅネット」も、団体同士や行政との接点づくりを下支えしている。 (参考:ステップアップ事業補助金 - 江東区協働推進の取組み - 江東区

この事例の特徴

ボトムアップ(自由提案)とトップダウン(課題提案)を一つの制度で扱う

多くの自治体の提案公募は、団体側の自由な発想を募る形に偏りがちである。江東区の制度は、これに加えて、区の担当課が解決したい課題をテーマとして提示する「課題提案」を組み合わせている点が特徴的である。自由提案は地域に眠る課題やニーズを行政が拾い上げる回路として、課題提案は行政が抱える具体的な課題に団体の専門性を呼び込む回路として機能する。一つの制度の中に、住民起点と行政起点の二つの協働の入口を併存させることで、協働が生まれる接点を広げている。 (参考:令和3年度課題提案にかかる募集テーマについて - 江東区令和6年度協働事業提案制度 - 江東区

「三者協議」で担当課を巻き込み、役割分担を事前に固める

この制度のプロセスで目を引くのが、公開プレゼンテーションの前に置かれた「三者協議」である。協働事業は、団体だけでなく区の担当課が実務の一翼を担って初めて成立する。仮審査の段階で提案団体・担当課・運営側が顔を合わせ、誰が何を担うかを協議して合意に至った事業だけが本審査に進む設計は、「提案は良いが現場の担当課が動けない」という協働事業にありがちな破綻を、採択前に防ぐ仕組みになっている。協働の基本姿勢である「役割と責任の分担」を、理念ではなく審査プロセスとして実体化させている点に独自性がある。 (参考:令和3年度協働事業提案制度の選考結果について - 江東区協働推進の取組み - 江東区

第三者組織による公開審査で透明性を担保する

採否を決めるのは行政の内部判断ではなく、外部委員からなる「江東区区民協働推進会議」である。しかも審査の核となる本審査は公開プレゼンテーションの形を取り、提案内容と質疑が公の場で交わされる。行政が自らの課題を委ねる相手を選ぶ過程に第三者性と公開性を持ち込むことで、特定団体への偏りや不透明な選定への懸念を抑え、制度への信頼を支えている。 (参考:令和6年度協働事業提案制度 - 江東区

量より質 ―― 少数を深く育てる選択的な制度

採択は毎年度ごく少数に絞られており、平成22年度の開始から令和元年度までの採択は概ね年1〜2件のペースで、制度を通じて生まれた協働事業は十数件にとどまる。これは、補助金を広く薄く配るタイプの制度ではなく、行政と団体が深く関わる協働事業を少数厳選して育てる、選択的な制度であることを示している。採択件数の多寡で成果を測るのではなく、一件ごとの協働の質と継続性に重きを置く設計といえる。 (参考:過去の協働事業提案制度(平成22年度~令和元年度)- 江東区

調査時点の成果

約15年の継続と、分野を横断する協働事業の蓄積

制度は平成22年度から令和7年度まで、形を少しずつ変えながら継続している。これまでに採択された事業を見ると、朗読・読書活動の人材育成(朗読の会マザー・グース)、外国にルーツのある児童生徒への日本語・学習支援(外国語ボランティア・コートーク)、視覚障害者などへの「ことばの道案内」作成(ことばの道案内)、コミュニティガーデンによる花とみどりのまちづくり(みどりネットKoto)、薬剤師会による服薬支援の「ブラウンバッグ推進」、子育て家庭への家庭訪問型支援(こうとう親子センター)など、子育て・福祉・環境・文化・多文化共生と幅広い分野にわたる。行政の縦割りの分野区分に収まりにくいテーマほど、専門性を持つ団体との協働が活きていることがうかがえる。 (参考:過去の協働事業提案制度(平成22年度~令和元年度)- 江東区

採択事業が継続的な公共サービスへ ―― 「外遊び型みどりの子育てひろば」

採択をきっかけに、継続的な公共サービスへと育った事業もある。令和5年度に採択されたNPO法人マザーツリー自然学校の「みどりの子育て支援事業(公園の自然を活用した乳幼児の外遊び推進)」は、公園の緑地で乳幼児が自然にふれて遊ぶ機会を広げる協働事業で、その後「外遊び型みどりの子育てひろば」として定例の取り組みに発展した。豊洲公園・南砂三丁目公園・旧中川水辺公園といった区内の公園で、予約不要・出入り自由の形で乳幼児と保護者が自然のなかで過ごせる居場所が開かれている。公園を所管する区の部門と、自然体験の専門性を持つNPOが組むことで、既存の公共空間(公園)が子育て世代の日常的な居場所へと転換した事例であり、提案制度が単発のイベントにとどまらない持続的な成果につながりうることを示している。 (参考:外遊び型 みどりの子育てひろば(南砂三丁目公園)- 江東区NPO法人マザーツリー自然学校

制度として定着し、運用を更新し続けている

調査時点(2026年6月)では、令和7年度の募集を経て令和8年度の実施に向けた協働事業の準備が進む段階にある。課題提案の有無を年度ごとに調整するなど運用は固定化しておらず、事前相談から三者協議、公開審査に至る一連の流れは制度として定着している。一方で、各事業が採択後にどの程度継続し、地域に定着したかという中長期の効果検証は、個別事業の追跡を通じて引き続き確認していく必要がある段階にある。 (参考:令和6年度協働事業提案制度 - 江東区過去の協働事業提案制度(平成22年度~令和元年度)- 江東区

他地域への示唆

「自由提案」と「課題提案」を併設し、協働の入口を二つ持つ

協働の提案公募を設計する際、団体の自由提案だけにすると、行政が本当に困っている課題と提案がかみ合わないことがある。逆に行政課題の提示だけにすると、地域に眠るニーズを取りこぼす。江東区のように二つのルートを併設し、年度ごとにどちらを重視するかを調整できる仕組みは、行政起点と住民起点の双方の協働を一つの制度で扱える点で応用しやすい。テーマを出す担当課を毎年度募ることは、行政内部に「協働で解きたい課題」を考える機会を生む副次的効果もある。

採択前の「三者協議」で現場の担当課を巻き込む

協働事業が頓挫する典型は、提案は採択されたものの、実務を担う担当課が動けない・乗り気でないというケースである。江東区のように、本審査の前に提案団体と担当課が役割分担を協議し、合意に至った事業だけを採択候補に進める段取りは、この破綻を制度的に防ぐ実装として参考になる。提案を「審査して選ぶ」だけでなく「現場と一緒に作り込んでから選ぶ」という発想は、補助金型の公募に協働の実質を持たせたい自治体にとって示唆が大きい。

第三者・公開の審査で、行政が委ねる相手を選ぶ正当性を確保する

行政が自らの課題解決を外部団体に委ねる以上、選定の公平性・透明性は制度の信頼を左右する。外部委員からなる会議体による審査と、公開プレゼンテーション形式の本審査は、その正当性を担保する標準的な型として導入しやすい。属人的な関係や随意の選定に依存しない仕組みであり、再現性が高い。

補助から協働へ、段階で支える支援の階段を設計する

市民活動は、立ち上げ期・成長期・公共サービス化の段階で必要な支援が異なる。江東区が、初期段階を補助金(ステップアップ事業補助金等)で、公共サービス化の段階を協働事業提案制度で支える重層構造を持つことは、「補助金を出して終わり」になりがちな市民活動支援を、成熟度に応じて引き上げる設計として参考になる。単発の公募制度を作るだけでなく、その前後にどの支援をつなぐかをセットで考えることが、協働の担い手を継続的に育てる鍵になる。

「少数を深く」を成果指標に据える

採択件数の多さを成果と見なすと、制度は浅く広い補助に流れやすい。江東区の制度が示すのは、年に1〜数件でも、行政と団体が深く関わり、公園を活用した子育て居場所のように継続的な公共サービスへ育つ事業を生み出すことに価値があるという考え方である。協働制度を評価する際に、件数だけでなく「採択事業がその後どれだけ続き、地域に定着したか」を追う視点が、制度の本質的な成否を見極めるうえで重要になる。

参照元


2026年6月時点の調査内容に基づいて作成

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