
「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
広島県福山市の港町・鞆で、伝統的建造物や祭礼用具の保存修理費用をふるさと納税で募る広島県・福山市共同のガバメントクラウドファンディング。個人と企業双方からの継続的な寄附と応援パートナー制度により、景観保全と文化継承を支える仕組みを構築している。
「鞆・一口町方衆」応援プロジェクトは、広島県と福山市が2019年4月に開始した、ふるさと納税制度を活用したガバメントクラウドファンディングである。対象地域は瀬戸内海中央部に位置する港町・鞆(福山市鞆町)で、年間約200万人が訪れる観光地であり、2017年に国の重要伝統的建造物群保存地区(約8.6ha)に指定されている。(参考:「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト(広島県)、福山市鞆町伝統的建造物群保存地区(福山市))
寄附金は、伝統的工法による建造物の保存修理・修景、防災設備の整備、伝統行事(お手火神事、八朔の馬出しなど)で使う道具の手入れ・修繕、歴史的建造物を保存活用できる人材(ヘリテージマネージャー)の育成、古文書・資料の調査といった、鞆の町並みと文化を将来へ継承するための費用に充てられる。目標額は6億円で、個人向けのふるさと納税に加え、企業版ふるさと納税による法人からの寄附も受け付けている点が特徴である。(参考:「鞆・一口町方衆」応援プロジェクトとは?、広島県庁の企業版ふるさと納税(ふるさとコネクト))
鞆の浦は江戸時代に「潮待ちの港」として栄え、常夜燈・雁木・波止・焚場・船番所という江戸期の港湾施設5点が一体で現存する、国内でも稀有な港町である。しかし1983年、港の一部(約2ha)を埋め立てて湾の両岸を結ぶ橋を架ける計画が広島県によって策定され、歴史的景観の消滅が危惧されることとなった。(参考:瀬戸の夕凪が包む 国内随一の近世港町(日本遺産ポータルサイト))
この計画をめぐっては、2007年に地元住民163人が広島県を相手に埋め立て免許差し止めを求めて提訴し、2009年に広島地裁が「鞆の景観は国民の財産」として住民側の訴えを認める判決を下した。2009年に就任していた湯崎英彦知事が2012年6月に計画撤回を表明し、2016年2月に広島県が免許交付申請を取り下げたことで、約9年に及んだ訴訟と約33年間の計画は正式に終結した。(参考:鞆の浦景観訴訟が終結 広島県、埋め立て計画を断念(日本経済新聞)、鞆の浦埋立て架橋計画問題(Wikipedia))
計画断念を受け、鞆は2017年11月に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、2018年には日本遺産にも認定された。だが、法的な保存地区指定を得ても、それだけで町並みが維持されるわけではない。鞆町内には江戸期から昭和期にわたり建てられた古い建物が264件今も残っているが、老朽化した建物を伝統的工法で修理するには相応の費用がかかり、所有者個人の負担だけでは維持が難しい。加えて、祭礼用具の修繕や、伝統的建造物の修理を担う技術者(ヘリテージマネージャー)の育成にも継続的な資金が必要であり、景観保全を「守る」段階から「維持し続ける」段階に移すための恒常的な財源確保が課題となっていた。(参考:寄附金使途報告(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
1. プロジェクトの始動(2019年4月)
広島県と福山市は2019年4月、鞆の町並み保存と伝統文化継承を目的とした寄附募集プロジェクトの開始を発表した。当初から、伝統的建造物の保存修理、ヘリテージマネージャーの育成、町並み保存団体への支援、祭礼で使う道具の修理・手入れ、案内板の設置、古文書・資料の調査を寄附の使途として掲げている。(参考:広島県福山市鞆町のまちづくりに係る寄附募集を開始(広島県プレスリリース、PR TIMES))
2. 応援パートナー制度の導入(2019年11月)
同年11月、企業・団体向けの「応援パートナー制度」を開始した。制度に登録した企業は、企業版ふるさと納税の仕組みにより、寄附額の大部分(上限で9割程度)が法人関係税から控除される優遇を受けられるほか、広島県から「応援パートナー」として対外的にPRされる。(参考:お知らせ(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト)、広島県庁の企業版ふるさと納税(ふるさとコネクト))
3. 寄附受領式を通じた継続的な関係構築
以降、ハローズ(2021年)、大和建設・本瓦造船(2021年)、国際ロータリー第2710地区の福山・府中両市11団体(35万円)、テラルホールディングス・広島テレビ放送(2025年)、日本生命保険(2026年)など、個人・企業からの寄附受領式が数年にわたり継続的に開催されている。2019年から2026年までに確認できる寄附受領式・パートナー登録の告知は23件を超え、単発のキャンペーンではなく継続的な資金調達の仕組みとして運用されていることがうかがえる。(参考:鞆の一口町方衆プロジェクト 福山・府中のRCが寄付金(中国新聞デジタル)、お知らせ(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
4. 拠点施設「鞆てらす」の開設(2022年7月)
福山市は、鞆の中心部にあった明治期の空き家「旧松本家住宅」を伝統的技法で改修し、2022年7月に町並み保存拠点施設「鞆てらす」を開設した。1階には建物の直し方に関する解説パネルや、日本遺産にまつわる展示コーナーが設けられている。2階には「鞆まちなみ再生活用相談所」を設置。建物所有者からの修理相談や、空き家と移住希望者とのマッチング支援を行う窓口として機能している。(参考:鞆町町並み保存拠点施設(鞆てらす)(福山市))
5. 寄附金による建造物修理・伝統行事支援の実施
寄附金は、保存地区内の建物所有者が行う保存修理・修景費用の補助や、伝統行事用具の修理・修繕、防災拠点整備の検討、防火水槽の整備構想などに充当されている。2020〜2022年度の3年間では、修理事業34件、応急処置事業22件、管理事業3件が実施された。(参考:寄附金使途報告(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
1. 個人版と企業版のふるさと納税を組み合わせた資金調達
多くの自治体のガバメントクラウドファンディングが個人からの寄附を中心とするのに対し、本事業は個人向けふるさと納税と企業版ふるさと納税を並行して運用している。企業側は税制優遇に加え、社会貢献活動として対外的に発信できるメリットを得られるため、金融機関や地元建設業、放送局など幅広い業種から継続的な寄附を集めている。(参考:「鞆・一口町方衆」応援プロジェクトとは?)
2. PRという非金銭的インセンティブを組み込んだパートナー制度
「応援パートナー制度」は、寄附企業を単なる資金提供者としてではなく、広島県が公式に取り上げ発信する「パートナー」として位置づけている。寄附受領式を都度開催し告知することで、企業側の対外的な発信価値を高め、寄附を一度きりで終わらせない仕組みになっている。(参考:お知らせ(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
3. 資金調達と現場拠点を接続する「鞆てらす」
寄附による修理実績を紹介するだけでなく、鞆てらす自体を空き家改修の実例として展示し、来訪者や住民が保存活用の技法を直接見られる場としている。さらに空き家と移住希望者のマッチング機能を併設することで、建造物保存の取り組みを人口減少・空き家対策という地域課題にも接続している。(参考:鞆町町並み保存拠点施設(鞆てらす)(福山市))
4. ハード(建造物)とソフト(祭礼・人材)を一体で支援する使途設計
寄附の使途は建造物の物理的な保存修理にとどまらず、祭礼用具の修繕という無形の文化財、およびヘリテージマネージャーという専門人材の育成にも及んでいる。建物だけを残しても、それを維持する技術者や、建物とともに続いてきた祭礼が失われれば町の価値は損なわれるという認識のもと、資金の使い道を分散させている。(参考:「鞆・一口町方衆」応援プロジェクトとは?)
5. 大規模な景観保全紛争の帰結として制度化された恒常的財源
本プロジェクトは、約30年にわたる埋め立て架橋計画をめぐる紛争が2016年に決着し、鞆が重要伝統的建造物群保存地区・日本遺産に指定された直後の2019年に始動している。開発を止めるという「守りの決着」の後、老朽化する町並みを維持し続けるための「攻めの財源」を制度として整えた点に、単発の保存運動とは異なる継続性がある。(参考:鞆の浦景観訴訟が終結 広島県、埋め立て計画を断念(日本経済新聞))
1. 累計寄附額は目標6億円に対し約1億4,700万円
公式サイトの表示(2025年10月20日時点)によれば、累計寄附額は147,016,915円で、目標額6億円の約24.5%に達している。寄附者は個人240人、企業・団体142社にのぼる。(参考:「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト トップページ)
2. 2023年7月末時点で約5,612万円を建造物修理等に活用
寄附金使途報告によれば、2023年7月末時点で累計約5,612万円が活用されており、2020〜2022年度の3年間で修理事業34件、応急処置事業22件、管理事業3件が実施された。これは鞆町内に現存する伝統的建造物264件のうち、緊急性の高いものから優先的に手が入れられてきたことを示している。(参考:寄附金使途報告(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
3. 企業・団体からの寄附が継続的に積み上がっている
2019年11月の応援パートナー制度開始以降、2026年7月の日本生命保険による寄附受領式まで、7年近くにわたり企業・団体からの寄附受領式が継続的に開催されている。単年度の一過性の取り組みではなく、複数年度にまたがって寄附企業の裾野が広がり続けていることが確認できる。(参考:お知らせ(「鞆・一口町方衆」応援プロジェクト))
4. 拠点施設「鞆てらす」が保存活用の相談窓口として稼働
2022年7月に開設された鞆てらすは、老朽化した建物の直し方の相談を受け付けるほか、空き家に住みたい人と所有者をつなぐ窓口としても機能しており、寄附金の一部が施設の整備・運営に充てられている。(参考:鞆町町並み保存拠点施設(鞆てらす)(福山市))
1. 個人・企業の二つの寄附チャネルを組み合わせた財源の多様化
単年度の行政予算や個人寄附だけに頼らず、企業版ふるさと納税を並行運用することで、より大口かつ継続的な資金源を確保できる可能性がある。景観・文化財保全に限らず、複数年度にわたる継続的な財源が必要な取り組み一般に応用できる考え方である。
2. 税制優遇に加えたPR型インセンティブの設計
応援パートナー制度のように、寄附企業を自治体が公式に「パートナー」として発信する仕組みは、税制メリットだけでは動きにくい企業の寄附判断を後押しする。全国的な知名度がある景勝地でなくても、自治体側が発信力を提供するという設計自体は他地域でも再現可能である。
3. 資金と現場を結ぶ物理的な拠点の設置
鞆てらすのように、修理実例そのものを展示・相談機能を持つ拠点として整備することで、寄附者・来訪者が保存活用の成果を実感できる接点になる。空き家活用や移住相談といった別の政策課題と接続させることで、単一の目的にとどまらない施設運営が可能になる。
4. 建造物という「ハード」と技術者・祭礼という「ソフト」を同時に支える発想
歴史的建造物の保存は、建物単体の修理だけでは維持できない。伝統工法を扱える技術者(ヘリテージマネージャー)の育成や、地域の祭礼・慣習の継承にも資金を配分する本事例の使途設計は、建造物保存を検討する他地域においても、担い手不足という共通課題への対応策として参考になる。
5. 法的な保存指定の後にこそ、恒常的な財源確保が必要になる
重要伝統的建造物群保存地区の指定や開発計画の中止は、あくまで「これ以上壊させない」という防御的な到達点にすぎない。老朽化が進む町並みを維持し続けるには、指定後も継続的な財源を確保する仕組みが必要であり、この順序性(開発阻止→保存指定→恒常的な資金調達制度の構築)は、同様の景観紛争を経験した他地域にとっても示唆に富む。
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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