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沼津市まちなか居住促進計画 - 土地の共同化から空きビル暫定活用へ軸足を移し、書店・カフェの開業につなげた10年計画
沼津市まちなか居住促進計画 - 土地の共同化から空きビル暫定活用へ軸足を移し、書店・カフェの開業につなげた10年計画

沼津市まちなか居住促進計画 - 土地の共同化から空きビル暫定活用へ軸足を移し、書店・カフェの開業につなげた10年計画

沼津市まちなか居住促進計画 - 土地の共同化から空きビル暫定活用へ軸足を移し、書店・カフェの開業につなげた10年計画

静岡県
沼津市
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沼津市が2015年度を初年度に策定した10年計画。地権者の土地共同化支援から出発し、2021年度以降は空きビルの暫定活用実験「_for now」へ施策の重心を移し、書店やカフェの開業という具体的な成果につなげた政策転換の記録。

沼津市まちなか居住促進計画 - 土地の共同化から空きビル暫定活用へ軸足を移し、書店・カフェの開業につなげた10年計画

概要

沼津市まちなか居住促進計画は、沼津市が平成27年度(2015年度)を初年度とする10年間の計画期間で策定した、中心市街地の住宅・居住環境に関する個別計画である。上位計画である第4次沼津市総合計画のもと、その下位計画「中心市街地まちづくり計画」を実行に移す計画として位置づけられ、対象区域は沼津駅を中心に概ね1km圏内の「まちなか」である。(参考:沼津市まちなか居住促進計画 1 はじめに

計画が掲げる目標は「まちなかで、自分らしく暮らす」という一文に集約され、子育て世帯、元気な高齢者、独立志向の若者など多様な世代がそれぞれのライフスタイルを実現できる住環境の構築を目指している。(参考:沼津市まちなか居住促進計画 3-2 まちなか居住の目標

この事例の特徴は、10年間の実施記録が沼津市公式サイト上に個別ページとして蓄積され続けている点にある。当初の施策は遊休地の地権者同士による土地の共同化支援に重点が置かれていたが、2019年前後のシンポジウムや検討会を経て、2021年度からは長期間空いたままのビルを「とりあえず(_for now)」使ってみる暫定活用実験へと軸足を移した。この転換を経て、自家焙煎コーヒー店や独立系書店など、実際に営業を続ける店舗の開業に結びついている。(参考:沼津市まちなか居住促進計画

背景・課題

人口減少とまちなかの空洞化

沼津市の総人口は平成6年(1994年)の213,360人をピークに減少に転じ、東日本大震災以降は沿岸部を中心に転出が加速し、計画策定時点の平成27年1月1日現在で199,152人となっていた。将来推計では2010年の202,302人が2030年には164,569人まで約20%減少すると見込まれ、なかでも「まちなか」(中心部)は2010年の28,529人から2030年に22,255人へと、市平均を上回るペースでの人口減少が想定されていた。(参考:沼津市まちなか居住促進計画 1 はじめに沼津市まちなか居住促進計画 2 まちなか居住に係る現状と課題

住宅地図をもとにした直近10年間の土地利用変化の分析では、まちなか(沼津駅から1km圏)の空き家は約30件から約170件へ、空き地・駐車場は約670件から約920件へと増加しており、建物のある土地が空き地・駐車場や空き家に転じる件数は、空き地から建物が新築される件数の約2.8倍に達していた。地元建設関連事業者へのヒアリングでは、津波被害への懸念による沿岸部不動産価格の低迷、土地の細分化による共同化の困難さ、老朽建築物の解体費用(アスベスト対応を含む)の高さ、地権者がバブル期の資産価値イメージを引きずっていることによる売買・賃貸の折り合いの付きにくさが、空洞化を助長する要因として挙げられていた。(参考:沼津市まちなか居住促進計画 2 まちなか居住に係る現状と課題

「住宅整備が難しい」という構造的な課題認識

計画は現状分析の結論として、まちなかには活用可能な既存の建築ストックや、学校等の都市機能が集約された利便性の高い都市構造、狩野川や富士山の眺望といった地域資源がある一方で、「住宅整備が難しい」「多様なニーズに応じた住宅・住環境を手頃な価格で求めることが難しい」「魅力的なまちなか居住のイメージが広がっていない」という3点を課題として整理していた。単身世帯の比率が市平均より高く、共同住宅の割合が高いという世帯構成の特徴も踏まえ、住宅供給側の事情だけでなく、まちなか居住という選択肢自体の認知度の低さが課題として位置づけられていた。(参考:沼津市まちなか居住促進計画 2 まちなか居住に係る現状と課題

取り組みのプロセス

第1期:土地の共同化支援を軸とした始動(2015〜2017年度)

計画策定と同じ平成27年度、市は「まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣」制度を開始した。空き家・空き店舗・空き地・青空駐車場を持つ地権者からの相談に応じて、市街地再開発協会所属コンサルタントや建築士などの専門家を派遣する制度で、公開されている派遣実績記録によれば、平成27〜29年度の3年間に9件・27回の派遣が行われ、うち6件・20回が「土地の共同化・組織の立ち上げ」に関する助言だった。この時期の施策は、老朽化した狭小敷地を地権者同士でまとめ、共同で建て替えるという再開発型のアプローチに重点が置かれていたことがうかがえる。(参考:まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣

第2期:シンポジウムと検討会による軌道修正(2019〜2021年度)

平成30年度から令和元年度にかけてはアドバイザー派遣の実績記録が一時途絶える一方、市は民間の住宅関連事業者を委員に招いた「住宅施策のあり方検討会」(令和元年度、全3回)を開催し、中心市街地の現状を共有したうえで、住宅市場の実態に見合った施策の方向性を検討した。平成31年2月25日には「沼津の住まいを考えるシンポジウム」を開催し、筑波大学准教授・藤井さやか氏の講演と立地適正化計画の説明を通じて、工務店経営者や宅建業者、市民など21名が住まいをめぐる課題について意見を交わした。(参考:住宅施策のあり方検討会沼津の住まいを考えるシンポジウム

令和2年度には「住宅施策検討会」(全3回)を継続し、土地・建物の所有者を対象にした利活用意向調査の結果を踏まえ、居住促進策を検討した。令和3年3月11日には第2回シンポジウム「まちなかでの『住まい方』を考えるシンポジウム」を会場・オンライン合計40名の参加で開催し、遊休不動産を活用した「リノベーションまちづくり」の実践者((株)まちの灯台阿久根・石川秀和氏、(株)サルトコラボレイティヴ・加藤寛之氏)を招いてトークセッションを行った。このシンポジウムを境に、施策の重心は大規模な土地共同化から、個別の空きビルを対象とした小規模な実験へと移っていく。(参考:住宅施策検討会まちなかでの「住まい方」を考えるシンポジウム

第3期:「_for now」プロジェクトによる空きビル暫定活用(2021〜2023年度)

令和3年度以降、市は「先導モデルケース支援業務委託」として3年連続で異なる長期空きビルを対象に暫定活用の実証事業を実施した。受託者はいずれも合同会社Reiverと株式会社勝亦丸山建築計画による共同体で、「_for now」というプロジェクト名のもと、対象物件を清掃・簡易整備した上でSNS発信と内覧会により暫定入居者を募集し、数か月間のトライアル運営を行うという共通の手法を用いた。(参考:先導モデルケース支援業務委託vol.1先導モデルケース支援業務委託vol.2先導モデルケース支援業務委託vol.3

vol.1(令和3年度)は、さんさん通り沿いで10年以上空いていた「旧かとう靴店」(1979年建設・鉄骨造4階建て)を対象に、10人の暫定入居者を約4か月間受け入れた。vol.2(令和4年度)は同じくさんさん通り沿いの「丸天ビル」(1964年建設・鉄筋コンクリート造5階建て、地下1階と3階・4階の合計3フロアが10年超にわたり空いたままだった)を対象に12人を約6か月間受け入れ、延べ数百人の交流が生まれた。vol.3(令和5年度)は添地町の「大興ビル」(1981年建設・鉄筋コンクリート造4階建て、3階の2部屋が10年以上空床)の3階をシェアオフィス・交流スペースとして活用し、5回のトライアル利用と、受託者が自主的に企画した「添地の未来を考える会」という勉強会を3回開いた。(参考:先導モデルケース支援業務委託vol.1先導モデルケース支援業務委託vol.2先導モデルケース支援業務委託vol.3

これと並行して、令和4・5年度には「担い手育成業務委託」として、空きビルの利活用を企画から実現まで一貫して担える人材を掘り起こし、育てる事業を実施した。vol.1は新規事業を始めたい意欲を持つ一般参加者を対象に、実在の物件を題材として2日間で事業計画を練り上げ、審査員への公開プレゼンテーションを行う「_for now SCHOOL」を開催し、3組のスクール生のうち最優秀者には対象物件を半年間無償で使用できる特典が与えられた。vol.2は対象を沼津市内外で活動する建設施工業者に絞り、「_for now SCHOOL〜construction〜」として限られた予算でも居心地の良い空間に仕上げる改修のコツを実践者から学ぶプログラムを、2024年2月に3日間にわたり開催した。(参考:担い手育成業務委託vol.1担い手育成業務委託vol.2空きビル活用スクール記事(静岡新聞アットエス)

継続するアドバイザー派遣(2020年度〜現在)

アドバイザー派遣制度自体は令和2年度以降も継続しているが、令和7年度までの実績は10件・15回で、うち8件・13回が建築士や賃貸不動産経営管理士による「既存建物の利活用」相談となっている。第1期に多くを占めていた土地の共同化・組織立ち上げの相談は、この期間では令和4年度と令和7年度にそれぞれ1件確認できるのみである。(参考:まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣

この事例の特徴

施策転換の経緯を10年間公開し続けている

沼津市はこの計画について、当初の土地共同化重視の施策が具体的な建て替え・共同化の成果に十分結びつかなかったことを踏まえ、シンポジウムや検討会を経て空きビル暫定活用へと施策の重心を移すという軌道修正の過程を、10年間にわたり公式サイト上の個別ページとして公開し続けている。アドバイザー派遣実績の一覧表は年度ごとの相談内容まで開示されており、施策転換の前後を第三者が定量的に検証できる形になっている点は、行政計画の公開のあり方として特徴的である。(参考:まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣

同一の受託者が3年間の実証事業を通貫して担った

先導モデルケース支援業務委託のvol.1〜3は、いずれも合同会社Reiverと株式会社勝亦丸山建築計画による共同体が受託しており、対象物件は用途も築年数も異なる3棟(店舗併用住宅・複合ビル・オフィスビル)だったが、清掃・簡易整備→SNS発信・内覧会→数か月のトライアル運営→本入居移行という一貫した手法が繰り返し適用された。単年度・単発の委託ではなく同じ担い手が複数物件で経験を蓄積したことで、「_for now」という手法自体が沼津市内で再現可能なノウハウとして定着している。(参考:先導モデルケース支援業務委託vol.1先導モデルケース支援業務委託vol.3

「企画する人」と「つくる人」を分けて育成した

担い手育成業務委託は、vol.1で新規事業のアイデアを持つ一般参加者(企画する人)を対象にした後、vol.2ではあえて対象を建設施工業者(つくる人)に絞り込んでいる。空きビル活用は魅力的な事業アイデアがあっても、それを低コストで実現できる施工者が地域にいなければ広がらないという課題認識に基づくもので、需要側と供給側の担い手を段階的に育成する設計は、単発のアイデアソンやリノベーションスクールとは異なる特徴である。(参考:担い手育成業務委託vol.2

調査時点の成果

アドバイザー派遣は10年間で19件・42回

まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣は、平成27年度から令和7年度までの累計で19件・42回の実績を積み上げている。前半(平成27〜29年度)は土地の共同化に関する相談が中心だったのに対し、後半(令和2年度以降)は既存建物の利活用に関する相談が中心となっており、公開データから施策の重心移動を裏付けることができる。(参考:まちなか土地・建物活用アドバイザー派遣

3棟の空きビルから複数の営業店舗が生まれた

「_for now」プロジェクトを通じて、10年以上空いていた3棟のビルに実際の店舗・事業が生まれている。vol.1の対象物件では、暫定入居者の1人が2021年に約4か月間の期間限定営業を行った後、2022年5月頃から仮店舗営業を続けながら内装工事を進め、2023年1月12日に自家焙煎コーヒー店「チャトラコーヒー」として正式オープンした。担い手育成業務委託vol.1の最優秀者は、無料使用権を得た物件をリノベーションし、独立系書店「リバーブックス」を2023年9月に開業、2024年3月には前職の出版社を退職して専業化している。vol.2の対象物件周辺では入居希望者の一部が音楽スタジオを開業し、vol.3の対象物件では受託者によるシェアオフィス運営と物件オーナーによるレンタルスペース運営が、2024年7月時点でも継続していた。(参考:先導モデルケース支援業務委託vol.1担い手育成業務委託vol.1先導モデルケース支援業務委託vol.2先導モデルケース支援業務委託vol.3沼津の自家焙煎コーヒー店 プレオープンの様子沼津に自家焙煎コーヒー店 コーヒーでつながる場提供

書店の集積という副次的な効果

2024年6月時点の報道では、沼津駅南側で唯一の書店だった「マルサン書店仲見世店」の閉店から1年以上空白があった後、2023年に開業したリバーブックスに続き、翌年には隣接する三島市内にも独立系書店が相次いで開業し、3店舗の集積によって「点が面になった」ことで書店巡りを目的に沼津・三島エリアを訪れる客層が生まれたと報じられている。当初は1棟の空きビル活用実験だった取り組みが、エリア全体の店舗構成の変化にまで波及していることを示す事例である。(参考:【書店ルポ】沼津駅後編

他地域への示唆

「共同化ありき」で始めると成果が出るまでに時間がかかる

沼津市の10年間の記録は、老朽建築物が密集する中心市街地において、地権者同士の土地共同化から着手する再開発型のアプローチが、少なくとも初期の3年間では目に見える建て替え成果に結びつかなかったことを示している。土地の細分化や地権者間の資産価値認識のズレは多くの地方都市に共通する構造的な制約であり、共同化支援そのものを否定するものではないが、「まず共同化、次に活用」という順序にこだわらず、個別物件の暫定活用を並行して進めるという選択肢が、より早く目に見える成果を生む可能性を示唆している。

「とりあえず使ってみる」ことが貸し手の心理的障壁を下げる

長期入居契約を前提とした賃貸借は、実績のない事業者への物件提供に慎重な所有者にとってハードルが高い。沼津市の3事例はいずれも、数か月間のトライアル運営という期間限定・低リスクの枠組みを設けることで、所有者が「まず試してみる」という判断をしやすくしている。この手法は、老朽物件の活用に消極的な地権者を抱える他地域でも、契約形態の工夫次第で応用可能な再現性の高いアプローチである。

企画力と施工力を分けて育成する視点

多くの空き家・空きビル活用施策は、アイデアを持つ担い手の発掘に重点を置きがちだが、沼津市は担い手育成の2年目にあえて建設施工業者を対象としたプログラムを設けている。低コストな改修を実現できる地域の施工者が育たなければ、優れた事業アイデアも実現には至らないという視点は、企画系の人材育成に偏りがちな他地域の空き家活用施策にとって参考になる。

参照元

2026年7月時点の調査内容に基づいて作成

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