
福山市総合防災訓練と自主防災組織の連携(南海トラフ地震想定訓練)
この記事は、my grooveを運営する株式会社Groove DesignsがAIを活用し独自に調査・作成したものです。
福山市は2018年豪雨被害を機に始めた全市一斉防災訓練を、内閣府モデル事業を契機に南海トラフ地震・津波想定へ発展させ、自主防災組織主導の避難訓練を段階的に市内ほぼ全学区へ広げている。
広島県福山市は、毎年11月に市内一斉の「福山市総合防災訓練」を実施している。訓練は市内の各学区・地区にある自主防災組織が主体となって企画・運営し、市は緊急速報メールなどの情報伝達基盤の整備や関係機関との調整を担うという役割分担のもとで続けられてきた。もともとは2018年の豪雨災害を教訓に始まった全市一斉訓練だが、2022年度に内閣府・広島県との連携により南海トラフ地震・津波を想定した訓練を6学区・地区で先行実施したことを契機に、津波避難に焦点を当てた「連携訓練」の対象学区を年々拡大している。2025年度(令和7年度)は8学区・地区が市や関係機関と連携した訓練を行い、自主防災組織単独での訓練を含めると市内79学区・地区が参加、津波浸水想定区域を含む42学区・地区には緊急速報メールで避難指示が一斉発令された。国のモデル事業を呼び水に、限定エリアでの実証と改善を積み重ねながら対象を広げていくプロセスが、この事例の中心的な特徴である。 (参考:福山市総合防災訓練を実施(令和7年度)、令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書)
福山市は2018年(平成30年)7月豪雨で、死者3名(関連死1名を含む)、重傷者5名、全壊14件、大規模半壊2件、半壊77件、床上浸水1,250件、床下浸水896件という甚大な被害を受けた。この経験を踏まえ、市は毎年11月第4日曜日前後を「全市一斉総合防災訓練の日」と定め、各学区・地区の自主防災組織が中心となって実践的な訓練を行う体制を整えてきた。市内には災害種別ごとに合計338か所の緊急避難場所を指定し、2021年2月には洪水ハザードマップを全戸配布するなど、水害を主眼とした備えを積み重ねてきた経緯がある。 (参考:令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書)
一方で、南海トラフ地震の発生が長期的に懸念される中、水害を想定した訓練の蓄積だけでは、地震発生から数十分〜数時間で津波が到達する事態への備えとして十分ではないという課題があった。津波は到達までの時間的猶予が短く、浸水想定区域内の住民が短時間で高台や指定避難場所まで移動できるかどうかを、地域特性に応じて検証する必要があったことが、2022年度に内閣府・広島県と連携した先行モデル訓練に取り組んだ背景にある。 (参考:令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書)
また、住民主体の訓練運営には運用面の課題も伴う。福山市が総合防災訓練後に自主防災組織へ行ったアンケート調査(水害想定訓練時、全80学区が対象)では、参加率は8割超(67学区)に達した一方、避難行動要支援者への支援については、避難支援プランに沿って実施できた学区は1割に満たず、避難場所の開錠を誰が担うか(施設管理協力者か自主防災組織か)も学区ごとに対応が分かれるなど、住民主体で訓練を継続していく上での実務的な論点が浮き彫りになっていた。こうした課題への対応も、南海トラフ地震想定訓練を制度設計する際の前提となっている。 (参考:福山市総合防災訓練に係る自主防災組織アンケート結果(概要))
1. 内閣府モデル事業としての先行実施(2022年度)
2022年11月27日、内閣府・福山市の共催により、南海トラフを震源とするマグニチュード9.1の地震で最大震度6強、4時間30分後に最大3.3mの津波が襲来するという想定のもと、新涯学区をはじめとする市内6学区・地区で地震・津波防災訓練が実施された。この訓練は単発のイベントではなく、10月1日・2日の「訓練実施前ワークショップ」(座学によるハザードマップ・警報知識の習得と、学区ごとの地区防災計画の検討)、11月27日の実動訓練(シェイクアウト訓練・津波避難訓練・避難所運営訓練など)、翌年1月22日の「訓練実施後ワークショップ」(訓練を踏まえた地区防災計画策定の議論)という3段階の構成で設計された。参加者は6学区合計で1,767名、メイン会場の新涯小学校だけで628名にのぼった。 (参考:令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書)
2. 「連携訓練」対象学区の段階的な拡大
翌年度以降、市は内閣府モデル事業で得た知見をもとに、市・警察・消防など関係機関が直接連携して支援する「連携訓練」の対象学区を年ごとに入れ替えながら拡大してきた。2023年度(令和5年度、11月26日実施)は蔵王・南・千年・湯田の4学区・地区、2024年度(令和6年度、11月24日実施)は曙・西深津・川口・樹徳・南・蔵王の6学区・地区、2025年度(令和7年度、11月23日実施)は中条・多治米・千年・西深津・引野・深津・本郷・御幸の8学区・地区が対象となった。毎年異なる学区を重点対象とすることで、関係機関が直接関与する濃度の高い訓練支援を、複数年かけて市内全域に行き渡らせる設計になっている。 (参考:福山市総合防災訓練を実施(令和6年度)、福山市総合防災訓練を実施(令和5年度)、福山市総合防災訓練を実施(令和7年度))
3. 訓練当日の全市共通の情報伝達フロー
連携訓練の対象学区であるかどうかにかかわらず、訓練当日の基本フローは市内で統一されている。午前9時に地震発生を知らせる緊急速報メールなどが配信されると、住民は「低く、頭を守り、動かない」というシェイクアウト訓練の3行動をとる。続いて午前9時5分(自治体・年度により表記は前後)に津波警報の発表に伴い、津波の浸水が想定される42の学区・地区では緊急速報メールと防災行政無線を通じて住民に避難指示が伝えられ、住民は近隣の高台や指定された津波避難場所へ移動する。2025年度は、この共通フローに沿った訓練を市内79学区・地区が実施した。 (参考:南海トラフ地震を想定!福山市で大規模な一斉避難訓練を実施!、福山市総合防災訓練を実施(令和7年度))
4. 学区ごとの自主的な訓練プログラムの上乗せ
避難訓練そのものに加え、各学区の自主防災組織は住民の参加意欲を高めるための体験型プログラムを独自に企画している。例えば多治米学区では、避難後に新聞紙でのスリッパ・簡易トイレ作り、段ボールを使ったベッド作り、ビニール袋でのポンチョ・食器作りといった生活再建の体験コーナーを設け、消防車両・警察車両・電気自動車の展示や炊き出しも行った。光学区では、各町内会の一次避難場所への避難訓練に加え、発電機の操作講習、防災倉庫の備蓄点検、災害時対応のキッチンカーの来訪といったプログラムを組み合わせ、2025年11月23日の訓練には420名が参加した。 (参考:11月23日(日)福山市総合防災訓練|多治米学区まちづくり推進委員会、自主防災協議会|光学区まちづくりラボ)
1. 国のモデル事業を「呼び水」にした段階的拡大
いきなり市内全域で高密度の津波避難訓練を展開するのではなく、まず内閣府・広島県との共催で6学区に絞った先行モデルを実施し、そこで得られた知見(避難経路の安全性、避難場所開設の手順、地区防災計画策定の進め方など)を翌年度以降の「連携訓練」対象学区へ順次展開している。対象学区を毎年入れ替えながら拡大する方式は、限られた職員・予算のリソースを特定エリアに集中投下しつつ、複数年で市内全域に行き渡らせるという時間軸を使った展開戦略であり、単年度で一気に全域展開するよりも実務的な負荷を分散できる。
2. 「全市共通の情報伝達」と「学区単位の自主運営」のハイブリッド構造
訓練の骨格(緊急速報メールによる地震発生・津波警報の一斉伝達というタイミングと内容)は市が全市統一で設計する一方、避難訓練後の体験プログラムや訓練の重点項目は各学区の自主防災組織が自律的に企画している。市が担うべき部分(広域の情報伝達インフラ、関係機関との調整)と、地域が担うべき部分(住民の実情に応じた避難行動の細部、参加意欲を高める工夫)を明確に切り分けている点が、住民主体の訓練を形骸化させずに継続させている要因と考えられる。
3. 学区独自の防災力向上サイクル(光学区の例)
光学区自主防災協議会は、総合防災訓練という年1回の機会にとどまらず、独自のハザードマップの作成・配布、避難の呼びかけを「連れ出す」ことに重点を置いたワークショップの実施、広島市豪雨災害伝承館への視察研修など、通年での学習サイクルを回している。「想定にとらわれない」を原則に掲げ、行政が定めた標準的な訓練内容を下敷きにしながら、各学区が自らの地形・世帯構成に応じた工夫を積み重ねている点は、画一的な訓練になりがちな全市一斉訓練の実効性を担保する仕組みといえる。 (参考:自主防災協議会|光学区まちづくりラボ)
1. 対象学区の拡大実績
内閣府モデル事業が始まった2022年度の6学区・地区から、2025年度には市・関係機関が直接連携する「連携訓練」だけで8学区・地区、自主防災組織単独の訓練を含めると79学区・地区へと、訓練の実施範囲が着実に拡大してきた。津波浸水想定区域を含む42学区・地区では、緊急速報メールによる避難指示の一斉伝達も定着している。 (参考:福山市総合防災訓練を実施(令和7年度))
2. 参加人数の実績
2022年度の内閣府モデル訓練では6学区・地区で1,767名(メイン会場628名)が参加した。学区単位では、光学区で2023年11月に500名超、2025年11月に420名が参加するなど、複数年度にわたり数百名規模の住民参加が継続的に確認できる。 (参考:令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書、自主防災協議会|光学区まちづくりラボ)
3. 定性的な効果
内閣府の実施報告書では、訓練前後のワークショップと津波避難訓練を連接させたことで、各学区・地区が津波に対する自治会別の避難場所の確保や避難経路の再確認、要支援者の避難支援対応の必要性について理解を深めたと総括されている。また、津波避難訓練には地域住民に加えて子どもや外国人居住者も参加し、訓練後に家庭内で防災について話し合うきっかけになったことも報告されている。一方で、海抜の低い会場では一次避難場所への集合・点呼を経てから二次避難場所へ移動する手順が、実際の切迫した津波到達時間には適さない可能性があるという課題も同時に指摘されており、訓練の設計自体を継続的に見直す姿勢がうかがえる。 (参考:令和4年度地震・津波防災訓練実施報告書)
1. 国のモデル事業を初期エリア限定の実証実験として活用する
自治体単独で市内全域の津波避難訓練を一から設計・運営するのは負荷が大きいが、内閣府など国のモデル事業に応募し、限定エリアでの先行実施という形で始めることで、専門家の助言(訓練実施報告書では神戸大学名誉教授による総括アドバイスも実施)や運営ノウハウを得ながら低リスクで着手できる。得られた知見を翌年度以降に自前で拡大展開するという二段階の進め方は、同様の課題を抱える他の沿岸自治体でも再現可能な手順である。
2. 「毎年対象学区を入れ替えながら拡大する」という時間軸を使った展開設計
一度に全域展開するのではなく、関係機関が直接支援する「連携訓練」の対象学区を年度ごとに入れ替えていく方式は、限られた人員・予算を前提に段階的にカバレッジを広げたい自治体にとって参考になる。どの学区を翌年度の対象にするかを検討する際の基準(津波浸水リスクの高さ、自主防災組織の体制成熟度など)を明確化しておくことが、展開の透明性と地域間の公平感を保つ上で重要になる。
3. 訓練後アンケートによる運用課題の可視化を制度化する
福山市が自主防災組織向けに実施してきた訓練後アンケートは、避難行動要支援者への支援体制や避難場所の開錠権限といった、住民主体の訓練特有の「誰が何をするか」の曖昧さを具体的に洗い出す機能を果たしている。訓練を実施すること自体を目的化せず、実施後に運用上のボトルネックを定量的に把握し次年度の設計に反映する仕組みは、地域特性に依存せず他の自治体でも導入しやすい取り組みである。
2026年09月時点の調査内容に基づいて作成
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