
ひたちBRT 一般道への自動運転拡張(デジタルライフライン「自動運転サービス支援道」・大甕駅周辺実証)
ひたちBRT専用道のレベル4自動運転を、大甕駅周辺の一般道へ広げる日立市の取り組み。経済産業省「デジタルライフライン全国総合整備計画」の自動運転サービス支援道として、道路側にセンサーやカメラを整備し、面的な社会実装を目指す事例。
茨城県日立市の取り組みは、ひたちBRTの専用道で実現した中型バスのレベル4自動運転を、大甕駅周辺の「一般道」へと広げ、最終的には市内へ面的に展開しようとするものである。出発点となった専用道(南部図書館〜河原子BRT間の約6.1km)でのレベル4営業運行は2025年2月3日に始まり、中型路線バスとして国内初・国内最長距離のレベル4運行となった(その詳細は関連事例「ひたちBRT レベル4自動運転バス営業運行」で詳述)。本事例の主題は、この成果を一般車両や歩行者が混在する開かれた道路空間へどう拡張するか、という次の段階にある。 (参考:国内初!レベル4自動運転の中型バス「ひたちBRT自動運転バス」の運行サービスが開始されました(経済産業省)、各地の取り組み:日立市(RoAD to the L4))
拡張の枠組みを与えているのが、経済産業省が主導し2024年6月18日にデジタル行財政改革会議で決定された「デジタルライフライン全国総合整備計画」である。同計画は、日立市(大甕駅周辺)の一般道を「自動運転サービス支援道」の先行導入地域(アーリーハーベストプロジェクト)に指定した。これは車両側の知能を高めるのではなく、道路側に車両検知センサー・カメラ・通信環境を整備して自動運転車両の走行を支える「道路を賢くする」アプローチである。2025年7月には国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業費補助(自動運転社会実装推進事業)」に採択され、2026年2月16日〜27日(平日のみ、土日祝運休)に大甕駅東口周辺の一般道でレベル2自動運転バスによる実証走行が行われた。専用道に閉じていた自動運転を一般道へ開いていく、その最初の実走行である。 (参考:一般道の自動運転24年度に日立市で 政府デジタルライフライン整備(LIGARE)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
ここで客観的に押さえておくべきは、計画上の目標と実態の段階差である。2023年の構想発表時には2024年度をめどに一般道でレベル4を始めるとされていたが、実際に2026年2月に行われた一般道での実証は、運転者が責任を負うレベル2であった。専用道でレベル4へ到達していても、走行空間が一般道へ変わると到達段階が一段下がる——この差そのものが、本事例の最も実務的な論点である。 (参考:自動運転レーンを一般道に 日立市で24年度、正式発表(日本経済新聞)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
ひたちBRTが自動運転の実装拠点になり得たのは、廃止された日立電鉄線の跡地という、一般車両や歩行者が入り込みにくい連続した専用道を保有していたからである。この閉鎖的な走行空間は、車載センサーが処理すべき不確実性を抑え、自動運転車両の判断負荷を下げる。専用道約6.1kmでのレベル4営業運行(2025年2月開始)は、この「制御しやすい走行空間」を前提に積み上げられた成果だった(実証の積み重ねは関連事例「ひたちBRT自動運転バス実証実験の積み重ね」で詳述)。 (参考:各地の取り組み:日立市(RoAD to the L4)、ひたちBRT(Wikipedia))
しかし、専用道に閉じた自動運転には構造的な限界がある。BRTの全運行区間は道の駅日立おさかなセンター〜JR大甕駅西口〜JR常陸多賀駅の約8.7kmに及ぶが、レベル4で走れるのは専用道の約6.1kmに限られ、その前後の一般道は手動運転に頼らざるを得ない。一本の路線を運転士なしで成立させるには、専用道の外、すなわち一般車両・歩行者・信号と向き合う一般道までを自動化の射程に入れる必要がある。車内無人化という最終目標(関連事例「ひたちBRT 車内無人(運転士レス)レベル4運行への移行」で詳述)の前提として、走行空間を一般道へ広げることが避けられない課題として浮かび上がった。 (参考:大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市)、国内初!レベル4自動運転の中型バス「ひたちBRT自動運転バス」の運行サービスが開始されました(経済産業省))
一般道への拡張には、専用道とは質の異なる難しさがある。見通しの悪い交差点、車道と歩行空間が近接する狭隘な区間、建物の陰からの歩行者の飛び出しなど、車載センサーだけでは捉えきれない事象が一気に増える。日立市は製造業の集積地でもあり、工場周辺など通信が混み合う条件も実環境に含まれる。こうした不確実性の高い空間で自動運転を成立させるには、車両単体の性能向上だけでは限界があり、道路側からの支援が必要になる——この認識が、後述する「自動運転サービス支援道」という国の整備方針につながっている。 (参考:茨城県日立市にて自動運転レベル4を支援する通信システムの検証を開始(NEC)、一般道の自動運転24年度に日立市で 政府デジタルライフライン整備(LIGARE))
一般道拡張の制度的な土台となったのが、デジタルライフライン全国総合整備計画である。政府は2023年9月に中間とりまとめ案を示し、2024年6月18日にデジタル行財政改革会議で計画を決定した。同計画は「ドローン航路」「自動運転サービス支援道」「インフラ管理のDX」を先行3分野に掲げ、このうち自動運転サービス支援道は全体で100km以上の整備を目標とし、高速道路は新東名高速道路(駿河湾沼津SA〜浜松SA間)、一般道は茨城県日立市(大甕駅周辺)が先行(アーリーハーベスト)地域に指定された。日立市は、一般道における自動運転サービス支援道の全国の先行モデルという位置づけを得たことになる。 (参考:デジタルライフライン全国総合整備計画 概要(経済産業省)、デジタルライフライン全国総合整備計画概要 2024年6月(内閣官房))
自動運転サービス支援道の中身は、道路側のインフラ整備である。大甕駅周辺の一般道に車両検知センサー・カメラ・通信環境を整え、道路側で捉えた歩行者や対向車の情報を走行中の自動運転車両へ伝え、車載センサーの認識を外から補強する。構想発表時には、BRT専用道(約6km)と一般道(約2km)を合わせた計約8kmの区間でレベル4自動運転を成立させ、株式会社みちのりホールディングス傘下の事業者がBRTを運行する想定が示されていた。車両を高度化するのではなく、道路に「知能」を持たせて複数の自動運転システムが共通して使えるようにする——この相互運用性の確保が、面的な普及をにらんだ設計思想となっている。 (参考:一般道の自動運転24年度に日立市で 政府デジタルライフライン整備(LIGARE)、自動運転レーンを一般道に 日立市で24年度、正式発表(日本経済新聞))
道路側支援を成り立たせる通信基盤の検証も、並行して進められてきた。2024年度には、NEC・みちのりホールディングス・ティアフォーが総務省「地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)」の実証団体として、日立市でローカル5Gを用いた路車協調と遠隔監視映像の継続性向上を検証している(この通信システム検証の詳細は関連事例「ローカル5G活用 自動運転レベル4通信システム実証」を参照)。見通しの悪い交差点で路側から物標情報を車両へ送る仕組みや、混雑時にも遠隔監視映像を途切れさせない映像制御は、一般道の自動運転を支える具体的な要素技術である。これらが自動運転サービス支援道のインフラとして実装されていく構図にある。 (参考:茨城県日立市にて自動運転レベル4を支援する通信システムの検証を開始(NEC))
実走行の段階は、国の補助事業として具体化した。2025年7月、日立市の取り組みは国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業費補助(自動運転社会実装推進事業)」に採択され、これを受けて2026年2月16日(月)〜27日(金)に、大甕駅東口周辺の一般道でレベル2自動運転バスによる実証走行が実施された(土日祝は運休)。この実証では、自動運転バスへの理解と受容性の向上を目的とした一般向けの試乗も行われている。走行データの蓄積と並んで、一般道を走る自動運転バスを地域住民に体験してもらい、社会的な受け入れを進めることが、この段階の主眼に置かれた。 (参考:大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
第一の特徴は、自動運転の社会実装を「車両の問題」ではなく「道路の問題」として捉え直した点にある。RoAD to the L4を起点とするひたちBRTの取り組みが、専用道という走行環境を活かしつつ主に車両側の技術と運用を磨いてきたのに対し、本事例は道路側にセンサー・カメラ・通信を埋め込む自動運転サービス支援道という別系統の国施策を重ねている。車両を賢くするアプローチには一台ごとに高価なセンサーを積む限界があるが、道路を賢くするアプローチは、整備した一区間を多様な自動運転車が共通して利用できる。インフラ側への投資で安全余裕を生み、面的展開のコストを下げる発想が、この事例を他の自動運転実証と分けている。 (参考:デジタルライフライン全国総合整備計画 概要(経済産業省)、一般道の自動運転24年度に日立市で 政府デジタルライフライン整備(LIGARE))
第二の特徴は、ひたちBRTという既存の実装基盤の上に、別主体・別予算の国プロジェクトを層状に載せて展開している構造である。専用道のレベル4営業運行はRoAD to the L4(経産省・国交省)、一般道の支援道整備はデジタルライフライン計画(経産省)、一般道での実走行は自動運転社会実装推進事業(国交省)と、施策・財源・主体が分かれながら、いずれもひたちBRTの運行と茨城交通・みちのりホールディングス・産業技術総合研究所・先進モビリティといった共通の実装体制を土台に積み上がっている。一つの地域プラットフォームの上に複数の制度をつなぎ込むことで、単発の実証では届かない面的展開へ橋渡ししている。 (参考:各地の取り組み:日立市(RoAD to the L4)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
第三の特徴は、走行空間の違いがそのまま到達段階の違いとして現れている点である。同じひたちBRTの自動運転でも、専用道は2025年にレベル4営業運行へ到達した一方、一般道は2026年2月時点でレベル2の実証段階にある。専用道延伸という「路線の長さ」を広げる第III期延伸計画(関連事例「ひたちBRT第III期延伸計画」で詳述)が空間を量的に拡げる取り組みだとすれば、本事例は同じ場所で走行空間の「質」を専用道から一般道へ深める取り組みであり、両者は自動運転の拡張軸として性質が異なる。一つの市内で、走行空間ごとに到達段階が分かれて併存している状況は、自動運転の難易度が空間条件に強く依存することを具体的に示している。 (参考:大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市)、各地の取り組み:日立市(RoAD to the L4))
制度面では、明確な前進が確認できる。日立市(大甕駅周辺)の一般道がデジタルライフライン全国総合整備計画のアーリーハーベストプロジェクトとして、全国でも数少ない「一般道の自動運転サービス支援道」先行導入地域に指定された。さらに2025年7月には国土交通省の自動運転社会実装推進事業に採択され、一般道での実証走行が国の補助事業として事業化された。専用道で先行したレベル4の取り組みに、一般道側の制度的な裏づけが加わったことになる。 (参考:一般道の自動運転24年度に日立市で 政府デジタルライフライン整備(LIGARE)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
実走行面では、2026年2月16日〜27日に大甕駅東口周辺の一般道でレベル2自動運転バスの実証走行が実施され、住民向けの試乗も行われた。総務省の事業紹介では、この取り組みは「自動運転バスが当たり前に走る街」のモデル構築として位置づけられ、アーリーハーベストの成果を踏まえて先行地域の面的な整備と地域拡大へ進める方向が示されている。専用道に閉じていた自動運転を、現実に一般道で走らせ、市民が乗れる段階まで具体化した点は、面的展開に向けた実質的な一歩といえる。 (参考:自動運転バスが当たり前に走る街…モデル構築へ快走中(総務省 地域社会DXナビ)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
一方で、計画と実態の間には率直に見ておくべき隔たりがある。2023年の構想では2024年度をめどに一般道でレベル4を始めるとされ、専用道約6kmと一般道約2kmの計約8kmでのレベル4化が描かれていた。しかし実際に2026年2月に行われた一般道の実証はレベル2であり、目標として掲げられた一般道レベル4は、調査時点ではまだ実走行として確認できていない。加えて、拡張の起点である専用道のレベル4営業運行自体が2026年4月1日より休止しており、再開時期・理由はいずれも公表されていない。土台となる専用道の運行が止まっている状況は、一般道拡張の見通しを一層慎重に捉える必要があることを示している。 (参考:自動運転レーンを一般道に 日立市で24年度、正式発表(日本経済新聞)、ひたちBRTで自動運転バスの営業運行がスタートします!(2026年4月1日より、運行を休止しています)(日立市))
第一に、自動運転の拡張は「レベル」だけでなく「走行空間」を軸に段階設計すべきだという示唆がある。日立市の経験は、専用道でレベル4に到達しても、一般道では同じレベルが自動的には成立しないことを実証段階の差として可視化した。閉鎖空間と開放空間では、向き合う不確実性の量が根本的に異なる。他地域が自動運転バスを構想する際は、専用空間での成功を一般道へ短絡的に外挿せず、走行空間ごとに別の到達目標とロードマップを置く発想が、過度な期待や工程の破綻を避けるうえで有効である。 (参考:大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市)、自動運転レーンを一般道に 日立市で24年度、正式発表(日本経済新聞))
第二に、「車両を賢くする」のではなく「道路を賢くする」インフラ協調のアプローチは、限られた予算で安全余裕を確保したい地域にとって現実的な選択肢となる。高価なセンサーを車両ごとに積み増すのではなく、見通しの悪い交差点など弱点となる地点に絞って道路側にセンサー・カメラ・通信を整備すれば、その区間を多様な自動運転車が共通して利用できる。道路側インフラの相互運用性を確保しておくことが、一台ずつの最適化では届かない面的な普及への布石になる。技術導入の単位を「車両」から「道路区間」へ移して考える視点は、他地域でも応用が利く。 (参考:デジタルライフライン全国総合整備計画 概要(経済産業省)、茨城県日立市にて自動運転レベル4を支援する通信システムの検証を開始(NEC))
第三に、既存の地域交通基盤を「プラットフォーム」とみなし、その上に複数の国施策をつなぎ込んで面的展開へ橋渡しする組み立て方が参考になる。日立市は、BRT専用道で培った運行体制・実装ノウハウ・官民連携の枠組みを土台に、デジタルライフライン計画(道路インフラ)と自動運転社会実装推進事業(実走行)という別系統の制度・財源を重ねた。単一の実証で完結させず、地域に根づいた基盤の上に制度を積層させることで、専用道から一般道、さらに面的展開へと取り組みを継続させている。共通の実装体制を持つ地域ほど、こうした制度の積み重ねによって展開を加速しやすい。 (参考:各地の取り組み:日立市(RoAD to the L4)、自動運転バスが当たり前に走る街…モデル構築へ快走中(総務省 地域社会DXナビ))
第四に、政策文書に掲げられた目標時期やレベルを、そのまま到達済みの成果と読み違えないことの重要性である。本事例では、計画段階の「2024年度・一般道レベル4」と、実態としての「2026年2月・一般道レベル2実証」との間に明確な差があった。先進地域の構想は、しばしば実装の現実より前のめりに描かれる。他地域の担当者が事例を参照する際は、計画値ではなく実走行で何が確認されたかを切り分けて読み、自らの工程はその現実値を基準に組むことが、堅実な企画につながる。 (参考:自動運転レーンを一般道に 日立市で24年度、正式発表(日本経済新聞)、大甕駅周辺で自動運転バスの実証実験を行います(日立市))
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
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