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「明日の危機」産・官・学・民連携による交通防災まちづくり社会実験
「明日の危機」産・官・学・民連携による交通防災まちづくり社会実験

「明日の危機」産・官・学・民連携による交通防災まちづくり社会実験

「明日の危機」産・官・学・民連携による交通防災まちづくり社会実験

東京都
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東京都江東区・豊洲で続く防災展示・社会実験シリーズ「明日の危機」。豊洲スマートシティ推進協議会と東京大学が、海抜ゼロメートル地帯からの広域避難をバスやモビリティで検証し、防災を「交通」の問題として捉え直す産・官・学・民連携の取り組みを紹介する。

「明日の危機」産・官・学・民連携による交通防災まちづくり社会実験

概要

東京都江東区の豊洲エリアで続く「明日の危機」は、「交通」と「防災」を一体で考える展示・社会実験のシリーズである。主催は、豊洲に関わる企業・東京都・江東区が連携するまちづくり組織「一般社団法人豊洲スマートシティ推進協議会」で、東京大学の研究室が学術面から協働する。2022年3月の初回以降、毎回テーマを更新しながら継続し、2024年9月13日〜10月5日の金・土計8日間には、メブクス豊洲2階の「ミチラボ」で第4回「明日の危機 〜産・官・学・民 連携〜」が開催された。災害がもたらす脅威、江東区や湾岸地域が抱える防災の実情、いざというときの逃げ方、暮らしに役立つ防災知識などを来場者に伝える内容となっている。 (参考:とよすと「『明日の危機 〜産・官学・民 連携〜』がメブクス豊洲で計8日間開催へ」シミズの次世代まちづくり「防災」

特徴は、防災展示にとどまらず、海抜ゼロメートル地帯からの広域避難をバスやモビリティで実際に試す「避難訓練」を社会実験として組み込んでいる点にある。江東区の城東地区(亀戸・砂町・大島など)は海抜ゼロメートル地帯で、大規模水害時には広域避難が課題となる。一方、再開発で高台となった豊洲は、その受け皿となりうる。「どこへ、どうやって逃げるか」という交通の問いと防災を接続したのが、この一連の取り組みである。 (参考:ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」とよすと「豊洲の未来が見えてくる東大の研究展示」

背景・課題

江東区を含む東京東部の低地は、荒川・江戸川に挟まれた海抜ゼロメートル地帯を抱える。展示で示された想定によれば、荒川・江戸川が決壊した場合、決壊からおよそ3〜4時間後には江東区まで浸水が及び、1日ほどで一帯が水没、その後2週間前後は水が引かないと想定されている。城東地区(亀戸・砂町・大島など)はハザードマップ上、高潮時に建物2階まで浸水しうる地域とされる。台風による水害が全国で深刻化するなか、この低地特有のリスクをどう住民に伝え、どう備えるかが出発点となっている。 (参考:ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」

このような低地では、その場にとどまる「垂直避難」や「在宅避難」だけでは対応しきれず、浸水域の外へ逃げる「広域避難」が必要になる場面がある。しかし数万人規模の住民を限られた時間で安全な場所へ動かすことは容易ではなく、とりわけ高齢者や要介護者など避難行動要支援者の輸送が大きな課題となる。「逃げる」という防災の根幹が、実は「交通」の問題でもあることが、この取り組みの問題意識の核にある。 (参考:とよすと「江東区のゼロメートル地帯からバスで豊洲へ、『水害時事前避難訓練』」

主体となる豊洲スマートシティ推進協議会は、清水建設を中心に、豊洲に関わる企業と東京都・江東区が連携して設立されたまちづくり組織である。協議会は2020年9月から、LINEと防災チャットボット(SOCDA)を使って住民・就労者が安否や被災状況を登録・共有する全住民参加型の防災訓練を実施するなど、デジタルを活かした災害対応の基盤づくりを進めてきた。「明日の危機」は、こうした素地の上に、東京大学の交通防災まちづくり研究を重ねて生まれている。 (参考:とよすと「豊洲スマートシティ推進協議会、全住民参加型の実験」とよすと「『明日の危機 〜産・官学・民 連携〜』」

取り組みのプロセス

学術研究を土台にした「交通防災まちづくり」

東京大学の交通・都市・国土学研究室(羽藤英二教授)は、次世代都市・交通デザイン研究体の社会連携講座を通じて、約3年をかけて、臨海部で交通と防災を一体化したまちづくりをどう進めるべきかを研究してきた。その背景にあるのが、臨海部の既存の鉄道・道路インフラを新たな交通網に見立てる「海の手線」構想で、建築や都市構造、水辺空間、交通、防災、社会基盤といった多面的な観点から、湾岸エリアの将来像を構想するものである。「明日の危機」の展示は、この研究成果を住民に開き、対話する場として機能してきた。 (参考:とよすと「湾岸エリア〜都心をむすぶ"海の手線"」ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」

第1回(2022年3月)水害編・三拠点の広域避難

シリーズ初回は「明日の危機 江東区防災ミュージアム」として、2022年3月、水害をテーマに開催された。大島四丁目団地(知るミュージアム)、都営豊洲四丁目アパート(感じるミュージアム)、ミチノテラス豊洲という3拠点を、参加者がタクシーやモビリティで移動しながら学ぶ構成で、地元の江東区民を中心に、のべ110人ほどが体験に加わった。会場では、想定最大規模の高潮氾濫時の水位を赤いレーザー光で示し、暗闇のなかで腰まで水に浸かる状況を疑似体験できる展示や、ドローンを使った緊急時の運送網、運河沿いに自動運転モビリティを走らせる将来構想などが提示された。取り壊しを控えた都営アパートを「感じるミュージアム」として使うなど、地域の資源を生かした演出もなされた。 (参考:ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」とよすと「豊洲の未来が見えてくる東大の研究展示」

第2回(2022年11月〜12月)首都直下地震編・在宅避難

第2回は「明日の危機 〜首都直下地震編〜」として、2022年11月17日〜12月17日にミチノテラス豊洲・メブクス豊洲2階「ミチラボ」で開催された。「自宅避難で何日間過ごせるのか、避難所へ移動した方がいいのか」を来場者が自分ごととして検討できるよう、日数の経過に伴う行動表やハザードマップ、帰宅困難者向けスペースの体験を用意。配送用三輪自転車(STREEK)などシェアモビリティの防災活用も示した。地域の防災拠点を担う「KO-TO防災ステーション構想」を掲げ、自宅に戻れなくなった人を想定した避難訓練を、国土交通省・東京都・江東区と連携して行っている。展示構成には國學院大學の研究者も加わり、産官学民の協働が広がった。 (参考:とよすと「あなたはいつまで自宅避難できる?『明日の危機 〜首都直下地震編〜』」シミズの次世代まちづくり「防災」

第3回(2023年9月)関東大震災100年・バス事前避難訓練

第3回は「明日の危機 〜関東大震災100年〜」として2023年9月にメブクス豊洲で開催。関東大震災の発生から100年の節目にあたる2023年9月1日に、水害を想定した事前の避難訓練が行われた。西大島駅前から大新東株式会社のバスで木場・豊洲駅交差点・新豊洲を経由しミチノテラス豊洲まで避難するルートを実走し、所要時間27分・平均時速約16km/hを計測。ゼロメートル地帯から避難行動要支援者をバスで輸送し、約3万人の避難を48時間以内に完了できるかを検証する狙いがあった。江東区は前年2022年12月にバス事業者の大新東と災害時協力協定を結んでおり、この訓練はその体制を実地で試す機会となった。 (参考:とよすと「江東区のゼロメートル地帯からバスで豊洲へ、『水害時事前避難訓練』」シミズの次世代まちづくり「防災」

第4回(2024年9月〜10月)産・官・学・民連携の集大成

第4回「明日の危機 〜産・官・学・民 連携〜」は2024年9月13日〜10月5日の金・土計8日間、ゆりかもめ市場前駅近くのメブクス豊洲2階「ミチラボ」で開催された。災害の脅威や湾岸・江東区の防災の実情、避難の取り方、役立つ防災情報を発信しつつ、過去の取り組みもパネルで振り返る構成。会期中の9月21日には「豊洲場外マルシェ」を防災マルシェとして併催し、日常のにぎわいの場に防災を持ち込む工夫もみられた。この第4回開催に先立つ2024年5月9日には、江東区と協議会が防災支援協定を締結し、モビリティを使った避難実証の実施や、住民を巻き込んだ防災体制づくりを両者で進めることを取り決めている。 (参考:とよすと「『明日の危機 〜産・官学・民 連携〜』がメブクス豊洲で計8日間開催へ」江東区「豊洲スマートシティ推進協議会と防災支援協定を締結しました」

この事例の特徴

「防災」を「交通」の問題として捉え直す

一般的な防災イベントが、備蓄・初期消火・避難所運営といった「その場での対応」に焦点を当てがちなのに対し、本シリーズは「ゼロメートル地帯からどう逃げるか」という広域避難=交通の問題を中心に据えている。バスやシェアモビリティで人を動かす実証、避難ルートの所要時間計測、要支援者輸送の検証など、移動手段の確保を防災の核に置く視点は、交通工学の研究室が深く関与しているからこそ成立する独自性といえる。 (参考:とよすと「江東区のゼロメートル地帯からバスで豊洲へ」シミズの次世代まちづくり「防災」

展示と社会実験を毎回セットで更新

「明日の危機」は、来場者に見せる「展示」と、実際に人やモビリティを動かす「社会実験(避難訓練)」を組み合わせ、回ごとにテーマ(水害→首都直下地震→関東大震災100年→産官学民連携)を更新してきた。学びの場と検証の場を一体化し、毎年論点を入れ替えることで、単発の啓発で終わらない継続性を生み出している。 (参考:シミズの次世代まちづくり「防災」とよすと「『明日の危機 〜産・官学・民 連携〜』」

地域の地理を逆手に取った「高台=避難の受け皿」発想

再開発で高台化された豊洲(ミチノテラス豊洲はデッキ上に整備されている)を、低地・城東地区からの広域避難の受け皿として位置づけている点も特徴的である。自地区内の防災にとどまらず、隣接する低地との「広域地域連携」を前提に設計されており、第3回の趣旨「産学官民における交通防災拠点整備と広域地域連携」にもその思想が表れている。再開発で生まれた新しい都市基盤を、周辺地域の安全を支える資源として読み替える発想といえる。 (参考:ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」シミズの次世代まちづくり「防災」

大学の長期ビジョンを住民との対話に開く回路

東大の「海の手線」構想という長期の都市ビジョンを、展示という形で住民に開き、フィードバックを得る回路になっている。ドローン物流や運河沿いの自動運転モビリティといった将来像を「見せる」ことで、目前の避難対策と将来のまちづくりを地続きで語る場をつくり出している。研究を論文の中に閉じず、地域の防災啓発と接続している点に、社会連携講座という枠組みの強みが表れている。 (参考:とよすと「湾岸エリア〜都心をむすぶ"海の手線"」ASCII「東大生が考える『もしも東京で大災害が起きたら』」

調査時点の成果

確認できる範囲で、次のような結果が挙げられる。

一方で、避難所要時間や輸送可能人数といった検証はあくまで実験段階のものであり、実災害時に約3万人規模の避難が時間内に完了できるかは、本取り組みの中で引き続き問われている論点である。また、来場者の防災行動がどの程度変化したかといった啓発効果を定量的に示すデータは、公表情報からは確認できなかった。

他地域への示唆

防災を「交通計画」と接続する

低地や中山間地など、その場にとどまる避難だけでは対応しきれない地域では、「どこへ・どの手段で・何分で逃げられるか」を交通の問題として設計する必要がある。豊洲の取り組みは、避難ルートの実走計測や要支援者のバス輸送検証といった形で、防災を交通計画と接続する具体的な方法を示している。避難計画を机上の想定で終わらせず、実際にモビリティを動かして所要時間や輸送力を測る発想は、多くの地域で応用できる。

近隣地域との「広域避難の受け皿」関係を結ぶ

自地区の安全確保だけでなく、隣接する低地からの避難者を受け入れる「受け皿」として高台や新市街地を位置づける広域地域連携の発想は、行政区を越えた防災連携のヒントになる。受け入れ側・送り出し側の双方が、平時から避難ルートと輸送手段を共有しておくことの重要性を示している。

バス・モビリティ事業者との平時からの協定

要支援者を含む大量輸送には、バスやシェアモビリティ事業者の協力が欠かせない。江東区が大新東と災害時協力協定を結び、それを訓練で実地検証している点は、輸送資源を平時から防災体制に組み込む手順として参考になる。協定を結ぶだけでなく、実際の避難ルートで所要時間や輸送力を計測しておくことで、有事の判断材料になる。

継続のための「常設の主体」と「テーマ更新の仕組み」

単発で終わりがちな防災啓発を継続させているのは、まちづくり組織(協議会)という常設の主体と、大学の研究という更新され続けるテーマ源が組み合わさっているからである。一方で、これは大規模再開発で官民連携体制と研究連携が整った豊洲だからこそ成立している面もある。同様の基盤を持たない地域では、まず継続の担い手となる主体と、毎回の論点を供給する外部知(大学・専門家など)をどう確保するかが、再現にあたっての先決課題になる。

参照元


2026年6月時点の調査内容に基づいて作成

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