
長野市第2期SDGs未来都市計画(環境共生都市「ながの」の実現)
長野市が2024年度から取り組む第2期SDGs未来都市計画。令和元年東日本台風で千曲川堤防が決壊した経験を踏まえ、市域の約6割を占める森林資源とバイオマスを軸に、自治体新電力の設立や森林マネジメント体制の構築を通じて循環型・脱炭素社会を目指す。
長野市は2021年5月に内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、同年7月に令和3〜5年度を計画期間とする第1期計画を策定した。第1期の終了を受けて、令和6〜8年度(2024〜2026年度)を計画期間とする「長野市第2期SDGs未来都市計画」を策定し、「誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造~環境共生都市『ながの』の実現~」を基本ビジョンに掲げている。 (参考:長野市第2期SDGs未来都市計画 - 長野市公式ホームページ)
計画の核にあるのは、市域の約63%を占める森林資源と、製材業・食品製造業・きのこ栽培業などから発生するバイオマス資源の活用である。「循環型社会の実現」「豊かな自然環境の保全と持続可能な活用」「脱炭素社会の構築と地域経済への波及」「連携強化と人づくりの推進」「SDGs理解の促進と情報発信」という5つの目標を掲げ、2030年には「自然の循環と経済の発展を両立させる、長野らしい産業を持続可能な形で創造・再構築する」ことをあるべき姿として設定している。背景には、令和元年(2019年)の東日本台風で千曲川の堤防が決壊し甚大な被害を受けた経験があり、森林の保水・防災機能への理解と、地域資源を生かした脱炭素の取り組みが一体的なテーマとして計画に組み込まれている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
長野市では平成17年度(2005年度)と平成22年度(2010年度)の2度の市町村合併を経て中山間地域が市域に編入され、現在は森林が市域面積のおよそ63%を占めるに至っている。この豊富な森林は長野圏域(長野市を含む9市町村)に共通する資源であり、保水・土壌保全・二酸化炭素吸収などの公益的機能を保つことが、川の上流域と下流域それぞれで暮らす住民の安全を確保するための課題として位置づけられている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
2019年10月12日夜から13日未明にかけて、東日本台風による大雨で千曲川流域の護岸崩落や堤防の欠損・越水が相次いだ。長野市穂保地先(長沼地区、千曲川左岸57.5k付近)では堤防が約70mにわたって決壊した。この一帯には支所や学校、医療機関、社会福祉施設、長野新幹線車両センターなどが集まっており、浸水被害は周辺に広く及んだ。長野市内の浸水面積は約1,541ha、最大浸水深は約4.3mに達し、住家被害は全壊1,038件を含む計4,296件、人的被害は災害関連死13人を含む死者15人、重症2人、軽傷92人にのぼった。長野市分の被害額は1,108億9,000万円(令和2年3月19日時点)と算定されている。この災害の記憶と教訓が、森林保全と気候変動対策を結びつける計画の出発点になっている。 (参考:令和元年東日本台風災害対応検証報告書 第2章 被害概要)
森林の多面的機能への関心が高まる一方で、長期にわたる林業の低迷や従事者の高齢化・担い手不足を背景に、間伐や作業道の整備といった管理作業が滞りがちになっている。所有者側の高齢化も進み、所有者や境界が判然としない土地も増えている。こうした状況の中、長野市には間伐材や果樹剪定枝など未利用の「未利用バイオマス資源」と、食品加工残渣やきのこ廃培地など「廃棄物系バイオマス資源」が相当量存在しており、第2期計画策定にあたってはこれらをいかに活用へつなげるかが課題として挙げられている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
長野市を含む長野圏域9市町村を合計した自然動態を見ると、出生数から死亡数を差し引いた減少幅は2018年の2,814人から2022年の3,968人へと4年間で約1.4倍に広がっており、加えて15〜24歳層を中心に転出超過という社会動態上の課題も抱えている。人口減少と高齢化が進み東京圏への集中も続くことを前提とすれば、圏域人口は2040年前後に45万人程度まで落ち込み、2020年時点から8万人超が失われるとの見通しが示されている。こうした縮小局面のなかで、森林や耕作放棄地といった地域資源をいかに産業として再構築するかが、計画全体の経済面の課題設定につながっている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
長野市は2021年5月にSDGs未来都市に選定されると同時に、同年6月には「長野市バイオマス産業都市構想」を策定した。この構想は関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)の共同審査を経て、2022年2月に全国3地域(長野市、北海道雄武町、宮崎県川南町)の一つとしてバイオマス産業都市に認定された。認定を機に、市内外の産学官団体で構成する「長野市バイオマス産業都市構想推進協議会」が設置され、木質バイオマスの燃料化や食品廃棄物のバイオガス化など、複数のプロジェクトが並行して具体化に向けて進められることになった。 (参考:長野市がバイオマス産業都市に認定されました - 長野市公式ホームページ、誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造 取組成果(内閣府))
2022年12月には「長野市森林経営管理計画」を策定し、森林環境譲与税を活用した森林経営管理を開始した。これと並行してデジタル技術の活用にも取り組んでおり、森林の境界・所有者・樹種・作業道といった情報を一元的なデータとして整備したうえで、行政と民間の双方がそれを使いこなせる体制づくりを進めている。所有者自身が手入れをできない森林については、代わって管理を担える森林組合やNPOを市が仲介する仕組みも設けており、所有者の高齢化や担い手不足という構造的な問題への対応を図っている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
2023年6月、長野市とカナデビア株式会社(旧・日立造船)は共同で自治体新電力会社「ながのスマートパワー株式会社」を設立し、同年10月から電力供給を開始した。電力の調達先は、長野広域連合が運営するごみ焼却発電施設「ながの環境エネルギーセンター」で、発電された電力のうち余剰分をカナデビアとの契約に基づき買い取る形をとっている。供給先は市立の小中学校・高校計77校を含む、合計96カ所の市有施設に及ぶ。生じた利益は再生可能エネルギー事業に再投資される仕組みとなっており、バイオマス産業都市構想や2050年ゼロカーボン宣言と連動する具体策として位置づけられている。 (参考:長野市とカナデビア株式会社による自治体新電力会社「ながのスマートパワー株式会社」 - 長野市公式ホームページ)
市全域の施策と並行して、中山間地域の各地区では地域特性に応じた小規模な実証も進められている。鬼無里地区では、里山の整備作業で出た支障木を地元NPOが薪へと加工し、家庭用の薪ユーザーだけでなく飲食店やキャンプ場、入浴施設といった業務用の需要先にも供給している。七二会地区では住民自治協議会と住民有志による「七二会森林整備クラブ」が主体となり、私有林の間伐を後押ししている。浅川地区では障害者の就労機会と林業を組み合わせる「林福連携」の枠組みを使い、地区内で切り出した木材から薪や炭を作って販売することで、里山景観の維持と雇用拡大を同時に狙う活動が続けられている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
長野市は平成25年度(2013年度)から信州大学と共同で、資源作物「ソルガム」の活用に関する調査研究に取り組んでいる。取り組みの背景には耕作放棄地問題があり、市内農地の22.9%(約1,425ha)がすでに放棄地となっていて、その67.6%を中山間地域が占める状況にある。ソルガムには、子実を食品として利用できるほか、収穫後に残る茎葉をバイオマス燃料(バイオブリケット)に転用できるという特性があり、産官学の協議会「信州そるがむで地域を元気にする会」を中心に、放棄地の解消と燃料資源の確保を両立させる取り組みとして展開されている。 (参考:信州そるがむで地域を元気にする会 - 長野市公式ホームページ)
森林分野では、森林所有者向けの「森林オーナー学習会」、整備の基礎技能を学ぶ「趣味の林業講座」、新規就業者への就業準備支援補助金を伴う「フォレストワーカー育成事業」、子ども向けの「SDGs環境・森林教育プログラム」など、担い手のフェーズに応じた育成メニューが用意されている。これとは別に、2021年度からは首都圏在住者を対象とした起業家創出プログラム「NAGA KNOCK!」を実施しており、市内企業の経営者とともに約半年間かけて新規事業を立ち上げるプロセスを通じて、独立起業や地域への継続的な関わりを促してきた。同プログラムの事務局はNPO法人ETIC.が務めてきたが、長野市が主体となって実施する形は令和7年度(2025年度)をもって区切りを迎える。その後の令和8年度(2026年度)からは、ETIC.が自主事業として引き継いで継続していく方針が示されている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026)、ながの起業家創出プログラム"NAGA KNOCK!"(ナガノック!) - 長野市公式ホームページ)
市民向けにはバイオマス資源の意義を伝える「バイオマス利活用キャンペーン」や、先進事例を紹介する「SDGs未来都市ながのReport(ナガリポ)」を通じた情報発信を行っている。市外に向けては「NAGANO」ブランドの発信に力を入れる一方、2019年に始まったEUの国際都市間協力(IUC)プロジェクトをきっかけに築いたフィンランド・トゥルク市とのつながりを維持し、循環型経済や再生可能エネルギーの分野で情報のやり取りを続けている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
多くのSDGs未来都市計画が環境・経済・社会の3側面を並列的に掲げるのに対し、長野市の計画は「令和元年東日本台風で千曲川の堤防が決壊した」という具体的な被災経験を起点に、森林の保水機能(防災)、二酸化炭素吸収(脱炭素)、木材資源の産業利用(経済)という3つの意味を同じ森林管理施策の中に統合している。抽象的な「持続可能性」の掲げ方ではなく、地域が実際に経験した脅威を軸に据えることで、施策の必然性を住民や事業者に説明しやすい構成になっている。
木質バイオマス(端材・おが粉・間伐材・果樹剪定枝)と廃棄物系バイオマス(きのこ廃培地・食品廃棄物・ソルガム茎葉)を、燃料・堆肥・飼料・電力といった複数の用途に振り分けられるよう設計している点も特徴である。実際、内閣府への報告では、8プロジェクトのうち一部が中断している一方でそれぞれの具現化に向けて民間事業者による事業計画が推進されていることが示されており、計画全体としては特定の1プロジェクトの停滞が全体の破綻に直結しない設計になっており、進捗にばらつきが出ることを前提とした事業ポートフォリオの組み方がうかがえる。 (参考:誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造 取組成果(内閣府))
ながのスマートパワーは、長野広域連合のごみ焼却発電という既存インフラの余剰電力を、市立学校をはじめとする市有施設という自治体自身が持つ需要家に供給し、その利益を再エネ事業に再投資する構造になっている。自治体が発電設備を新設するのではなく、既存の広域インフラと自らの施設需要を組み合わせて資金循環を作った点は、初期投資を抑えながら「地域内経済循環」を具体化する一つのやり方といえる。 (参考:長野市とカナデビア株式会社による自治体新電力会社「ながのスマートパワー株式会社」 - 長野市公式ホームページ)
市全体の方向性は総合計画推進本部会議やSDGs有識者会議が検証する一方、実際の事業は市内外の産学官団体で構成する推進協議会や、鬼無里・七二会・浅川といった各地区のNPO・住民組織が個別に担っている。行政が全ての事業を直営せず、地区の実情に応じた小規模な実証を積み重ねながら、成果が出たものを他地区や他の連携市町村へ展開していくという二層の推進体制を採っている。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
「複数バイオマス資源のバイオブリケット化プロジェクト」は、2022年2月に原料の破砕・乾燥ラインの整備を終え、市内で得られる多様なバイオマス原料を使った製造試験を重ねてきた。現時点では、事業を担う企業が自社工程内で石炭コークスの代替燃料としてバイオブリケットを利用する段階にあり、2025年度以降は一般消費者向けの薪代替品としての販売開始が視野に入っている。並行して進む「薪・ペレットストーブと木質ペレット・ブリケット利用促進プロジェクト」でも薪ストーブの量産機がすでに完成しており、2025年度中の一般販売開始が予定されている。 (参考:誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造 取組成果(内閣府))
ながのスマートパワーは2023年10月の供給開始以降、市立小中学校・高校全77校を含む96カ所の市有施設へ継続的に電力を供給している。長野市バイオマス産業都市構想推進協議会の構成団体数は、2025年8月8日時点で市内外の産学官あわせて44に上っており、認定から3年以上が経過した現在も、複数の民間事業者が構想に基づく整備計画を進めている状態にある。 (参考:長野市とカナデビア株式会社による自治体新電力会社「ながのスマートパワー株式会社」 - 長野市公式ホームページ、誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造 取組成果(内閣府))
一方で、内閣府への報告では8プロジェクトのうち一部が中断していることが示されており、全てのプロジェクトが計画通りに進捗しているわけではない。長野市はバイオマス産業都市構想の中間評価によって各プロジェクトを見直しながら、推進協議会を通じたサポートを続けるとしており、進捗のばらつきを織り込んだ運営が実際に行われていることがうかがえる。 (参考:誰もが自分らしく活躍できる活気に満ちた長野圏域の創造 取組成果(内閣府))
第2期計画では、未利用バイオマス利用率を2020年度の49%から2030年に61%へ、廃棄物系バイオマス利用率を2020年度の92%から2030年に98%へ、再生可能エネルギーによる電力自給率を2021年度の57.9%から2026年に70%へ引き上げるといった数値目標が設定されている。これらはあくまで計画上の到達目標であり、2026年8月時点で目標年次のいずれにも到達していないが、49%や57.9%といった現状値自体が、施策開始前の起点として整理されている点は、他地域が自らの現在地を測る上でも参考になる。 (参考:長野市 第2期SDGs未来都市計画(2024~2026))
森林資源や耕作放棄地といった地域資源を「発電用」「食品用」など単一の出口だけに限定せず、燃料・堆肥・飼料・食品といった複数の用途に振り分けられるよう設計しておくことで、特定の事業者や販路が停滞しても仕組み全体は継続できる。実際に長野市でも一部プロジェクトが中断する一方で構想全体は維持されており、未利用資源を活用する施策を検討する他地域にとって、最初から出口を複線化しておく設計思想は参考になる。
ながのスマートパワーは、発電事業者と契約して電力を調達し、供給先を自ら管理する市立学校等の公共施設に限定することで、新規の発電設備投資を伴わずに事業を立ち上げている。自治体が需要家(公共施設群)を自前で持っているからこそ実現しやすいモデルであり、同様に多数の公共施設を抱える他自治体にとっても、既存の広域インフラ(ごみ焼却発電等)と組み合わせる形で再現しやすい仕組みといえる。 (参考:長野市とカナデビア株式会社による自治体新電力会社「ながのスマートパワー株式会社」 - 長野市公式ホームページ)
長野市は44団体規模の推進協議会という緩やかな連合体に事業の実装を委ねることで、行政が全てを直営するよりも民間の速度で事業を進められる体制を作った。ただしその裏返しとして、協議会参加事業者の経営判断によってはプロジェクトが中断するリスクも抱えることになる。他地域が同様の協議会型の推進体制を採る場合、進捗の一部が計画通りに進まないことを前提に、中間評価で見直しを行う仕組み自体をあらかじめ制度化しておくことが重要になる。
令和元年東日本台風という具体的な被災経験を、森林保全・脱炭素・産業振興という複数の政策目的を束ねる論理的な支柱として位置づけた点は、同様に水害や土砂災害を経験した他の中山間地域の自治体にとっても応用可能な構成方法である。防災対策と環境政策を別々の計画として並立させるのではなく、「なぜ森林を守る必要があるのか」という住民に伝わりやすい実体験を起点に統合的な計画を組み立てるアプローチは、属人的な取り組みに依存せず、他地域の災害経験にも転用できる考え方といえる。
2026年08月時点の調査内容に基づいて作成
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