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杉並区デジタル化推進計画(第2次)
杉並区デジタル化推進計画(第2次)

杉並区デジタル化推進計画(第2次)

杉並区デジタル化推進計画(第2次)

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副区長をCIOとする全庁体制で、行政手続のオンライン化、住民情報系システムの標準化、区民ニーズ起点のデータダッシュボード公開などを進める杉並区の行政デジタル化計画(令和6〜8年度)。全国的な標準化遅延を受けた計画修正の経緯も特徴的。

概要

杉並区デジタル化推進計画(第2次)は、令和6(2024)年度から令和8(2026)年度までの3年間を計画期間とする、杉並区の行政デジタル化に関する実行計画である。上位方針である「杉並区デジタル化推進基本方針」(令和6〜12年度の7年間)のもとに位置づけられ、「杉並区総合計画」を構成する個別計画の一つとして、実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次)などと並行して策定・運用されている。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)

計画は「デジタル技術を活用した区民サービスの向上」(方針1)と「行政内部のデジタル化による効率化の推進」(方針2)という2つの柱で構成され、副区長が情報統括の最高責任者(CIO)を兼務する形で部局横断の推進体制を敷き、民間から迎え入れた「デジタル戦略アドバイザー」の助言も取り入れながら進められている。行政手続のオンライン化やキャッシュレス決済の拡大といった区民向けサービスに加え、住民情報系システムの標準化・ガバメントクラウド移行、AI-OCR・RPAによる内部業務の自動化、区民ニーズ調査を起点としたデータダッシュボードの公開など、対象範囲は幅広い。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)

この計画のもう一つの特徴は、全国的にガバメントクラウド移行のスケジュールが遅延するという外部要因を受けて、令和7(2025)年度に一部修正を行った点にある。区民等の意見提出手続き(パブリックコメント)を経て令和8(2026)年1月に修正が決定されており、当初の数値目標をそのまま維持するのではなく、進捗の実態に合わせて計画を組み替える運用プロセスそのものが、他自治体にとっても参考になる要素を含んでいる。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

背景・課題

国は令和2(2020)年12月に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を閣議決定し、あわせて自治体が優先的に対応すべき項目を整理した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」も示した。杉並区はこれまで「杉並区情報化基本方針」に基づき行政運営へのデジタル技術活用を進めてきたが、こうした国の動きや社会状況の変化を踏まえ、従来の方針を土台に内容を刷新する形で「杉並区デジタル化推進基本方針」と「杉並区デジタル化推進計画」を新たに定めた。両計画は、官民データ活用推進基本法第9条第3項に定める「官民データ活用推進計画」としても位置づけられている。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)

計画が挙げる現状認識としては、新型コロナウイルス感染拡大を契機にスマートフォン等を利用したオンライン申請へのニーズが高まった一方、区の窓口サービスは依然として来庁を前提とする部分が多く残っていたことがある。子ども分野では、保育園等との連絡・相談へのデジタル活用を求める保護者の声があり、高齢者・障害者などデジタル機器の操作に不慣れな層への配慮(デジタルデバイド対策)も同時に求められていた。区はこうした課題に対し、「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」という3原則を掲げつつ、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を進める方針を明示している。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)

行政内部に目を向けると、情報システムの導入・運用コストを抑えつつ、限られた予算の中で効果的な投資を行う必要があるという課題や、デジタル分野に精通した人材の庁内外からの確保、サイバー攻撃等に備えた情報セキュリティ対策の必要性が指摘されていた。また、住民情報系システムについては、国の「地方公共団体情報システム標準化基本方針」により全国の自治体が同時期に標準化・ガバメントクラウドへの移行を求められており、杉並区に限らず全国的にシステム構築作業の遅れが生じるという構造的な課題を抱えていた。この点は後述するとおり、令和7年度の計画修正で顕在化することになる。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

取り組みのプロセス

1. 行政手続のオンライン化と窓口サービスの改善

マイナポータルや東京電子自治体共同運営電子申請サービスを活用し、スマートフォン等から手続を完結できる範囲を段階的に拡大した。あわせて、死亡に伴う諸手続を一括で案内する予約制の「おくやみコーナー」を設けたほか、転入・転出などの異動手続でも必要書類の作成負担を軽くする工夫を取り入れている。手数料や施設使用料の支払いについても、令和5(2023)年12月、本庁舎区民課の窓口に電子決済の選択肢を加え、その後令和6(2024)年10月には区民事務所にも対象を拡大した。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

こうした取組の結果、オンライン対応が可能な手続のうち実際にオンライン対応が完了した手続数は、令和4年度の618手続中241手続(39.0%)から、令和5年度には717手続中302手続(42.1%)へと増加した。年間申請総数に占めるオンライン申請の割合も40.7%から44.2%に上昇している。区はこの実績を踏まえ、令和8年度末を目途に、法令上の制約がある手続を除き原則すべての手続をオンライン対応可能とする方向で取組を加速させている。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

2. 住民情報系システムの標準化とガバメントクラウド移行

国の「地方公共団体情報システム標準化基本方針」に基づき、住民基本台帳システムなど住民情報系システムの標準化を進めている。令和5年度中に終えたFit&Gap分析(現行システムと標準仕様の相違点の洗い出し)で判明した課題のうち、令和6年7月末時点で中央電算(住民記録・住民税等)は課題総数3,365件中2,598件(77%)、小型電算(選挙・生活保護等)は541件中440件(81%)、連携小型電算(資金貸付等)は182件中144件(79%)の解消が完了した。あわせて、国の「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業(第2回)」に応募・採択され、クラウド移行に伴う事務処理や事業者間の責任分界等の検証にも取り組んでいる。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

3. 区民ニーズ調査を起点としたデータの利活用・オープン化

区は令和6年7月2日から31日にかけて、18歳以上の区民2,000人を無作為抽出し、行政データの公表内容や区政情報へのニーズに関するアンケートを実施した(回答者383人、回答率19.2%)。結果では、区政に関する情報で求めることとして「公表内容の分かりやすさ」(45.4%)が最多となり、知りたい情報の分野としては「防災・防犯関連」(20.0%)、「健康・医療関連」(18.0%)が上位を占めた。一方でオープンデータについては、回答者の70.8%が「見たことがない」と答え、認知・活用の面で課題が残ることも明らかになった。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

このアンケート結果を踏まえ、区は令和7(2025)年1月20日、公式サイトの刷新に合わせる形で「すぎなみデータラウンジ」を公開した。防災・防犯、まちづくり・地域産業、環境・みどり、健康・医療、福祉・地域共生、子ども(保育園の空き状況を含む)、学び、文化・スポーツ、人口統計、財政状況、行政評価、選挙という12分野のダッシュボードを一元的に公開し、区の状況を区民が随時把握できる環境を整えている。同年6月には、当初予算の内訳などをPower BIで図表化した「財政ダッシュボード」も追加公開した。 (参考:すぎなみデータラウンジ財政ダッシュボード

4. AI・自動化技術の個別業務への実装

内部業務では、申請書類の入力等の定型作業についてAI-OCR(AIによる文字認識技術)やRPA(Robotic Process Automation)を活用したツールの運用・拡充を進めるとともに、生成AIの導入については、個人情報保護に関わる論点を洗い出したうえで是非を検討する構えである。個別分野への応用例として、国保年金課では、過去の健診データをAIで解析して受診者ごとの将来リスクを推定し、生活習慣病の兆候がある被保険者に個別助言する仕組みを運用している。保育分野では、スマートフォンから連絡帳の閲覧・欠席連絡ができる登降園管理システムを令和6年度から区立保育園・こども園の全園で運用開始したほか、保育所利用相談向けのチャットボット導入とオンライン面談を進めている。 (参考:杉並区総合計画(デジタル化推進基本方針)/杉並区デジタル化推進計画(第2次)

5. デジタルデバイド対策と職員のデジタル人材育成

デジタル機器の操作に不安を抱える高齢者・障害者等を対象に、端末の使い方を学べる講座を定期的に開いているほか、音声・文字認識や多言語翻訳などアクセシビリティに配慮した技術導入を進めている。職員側の体制としては、令和7年度に「杉並区DX人材育成方針」を新たに策定し、この方針に基づいて職層別研修や体験型研修を充実させるほか、庁内から挙手制で選任する「DX推進サポーター」制度を新設した。外部人材であるデジタル戦略アドバイザーの知見に加え、内部人材の育成を制度として組み込んでいる点が特徴である。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

6. 令和7年度の計画修正と区民意見提出手続

令和7年12月3日、区は実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次)、区立施設マネジメント計画(第1期)とあわせて、デジタル化推進計画(第2次)についても5つの取組を修正する案を総務財政委員会に報告した。修正内容は、①窓口サービス改善ツールのスケジュール調整、②住民情報系システム標準化における目標時期の見直し、③要介護・要支援認定業務へのデジタル技術活用の新設、④DX人材育成方針の策定を反映した人材育成施策の修正、⑤本庁舎改築を見据えた情報インフラ再構築の見直し、の5点である。これらの修正案について令和7年12月1日から令和8年1月5日まで区民等の意見提出手続を実施し、令和8年1月に修正を決定、同年2月の区議会定例会で報告するというプロセスを経ている。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

この事例の特徴

1. 数値目標の未達を明示したうえで計画を修正する透明性

住民情報系システムの標準化について、当初計画では「令和7年度を新システム稼働の目標時期」と明記していたが、全国の自治体が足並みを揃えて同種のシステム移行に着手した結果、開発現場が逼迫し作業が滞る事態が生じたことを踏まえ、令和7年度の修正でこの目標時期の表現を削除し、「段階的に取り組む」という記述に改めた。目標を据え置いたまま実態と乖離させるのではなく、修正理由を明文化したうえで区民等の意見提出手続にかけて公式に計画を改める運用は、進捗が計画通りに進まない場合の対応として参考になる。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

2. 区民ニーズ調査を先行させたデータ公開設計

多くの自治体でオープンデータやダッシュボードの整備は保有データの棚卸しから始まりがちだが、杉並区はまず区民アンケートで「どの分野の情報を求めているか」を把握し、防災・防犯や健康・医療など需要の高い分野を軸に「すぎなみデータラウンジ」のカテゴリ構成を設計した。供給側の理屈でなく利用者ニーズを起点にデータ公開の優先順位を決めるプロセスは、他自治体でも再現しやすい進め方である。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

3. 個別業務のBPR(業務プロセス再設計)への踏み込み

令和7年度の修正で新設された「デジタル技術を活用した要介護・要支援認定業務の効率化」では、単にデジタルツールを導入するのではなく、BPR(Business Process Re-engineering)を通じて申請から認定までの一連の業務プロセス自体を点検・見直すという方針を掲げている。ツールの追加にとどまらず業務の流れ自体を再設計する視点は、単純なデジタル化に終わらせない工夫といえる。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

4. 外部評価と実務指標を切り分けて捉える姿勢

杉並区は時事通信社・時事総研による「全国自治体DX推進度ランキング2023」(総務省調査に基づく5観点評価)の市区町村部門で全国10位を獲得した。区議会側からは、このランキングは「業務改革の達成度ではなく推進過程における取組状況を示す指標に過ぎない」との指摘があり、掲示板の運用や選挙管理委員会のデジタル化などランキングに現れない実務上の課題も存在するとされている。区自身がDXの外形的評価(アウトプット)と実際の業務改革の成果(アウトカム)を同一視せず、要介護認定業務のBPRのように地道な業務再設計に取り組んでいる点は、外部評価に一喜一憂しない姿勢として注目できる。 (参考:全国自治体DX推進度ランキングに関する考察(堀部やすし区議note)

調査時点の成果

行政手続のオンライン化の進展

オンライン対応が可能な手続のうち実際に対応済みの手続数は、令和4年度の241手続(39.0%)から令和5年度には302手続(42.1%)に増加し、年間申請数に占めるオンライン申請の割合も40.7%から44.2%に上昇した。もっとも、令和5年度時点でも紙による申請が55.8%を占めており、オンライン化の余地は引き続き大きい。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

住民情報系システム標準化の進捗

令和6年7月末時点で、中央電算(住民記録・住民税等)は課題解消率77%、小型電算(選挙・生活保護等)は81%、連携小型電算(資金貸付等)は79%まで進捗した。区は国の「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業(第2回)」に採択され、クラウド移行に向けた実務的な検証を進めている一方、全国的な遅延を受けて令和7年度に目標時期の表現を見直す修正を行った。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について杉並区実行計画等の一部修正案の策定について

データ公開基盤の整備

区民アンケートで把握したニーズを踏まえ、令和7年1月20日に12分野のダッシュボードをまとめた「すぎなみデータラウンジ」を開設し、同年6月には財政ダッシュボードも追加公開した。人口統計や保育園の空き状況など更新頻度の高い情報も含め、継続的にデータが更新される体制が整えられている。 (参考:すぎなみデータラウンジ財政ダッシュボード

区民の利用実態に見る課題

区民意向調査(速報版)では、オンラインで手続を行ったことがある区民は回答者1,148人中558人(48.6%)にとどまり、未経験者(590人)にその理由を尋ねたところ「窓口・郵送による手続の方が慣れている」が35.6%で最多だった。これは、オンライン手続の環境整備自体は進んでいても、それだけでは区民の行動が自動的に変わるわけではないことを示す結果であり、区も今後の利用促進を課題として認識している。 (参考:令和6年度 区のデジタル化に関する取組進捗について

外部評価

時事通信社・時事総研による「全国自治体DX推進度ランキング2023」の市区町村部門で全国10位となった。ただし前述のとおり、これは取組状況を示す指標であり、業務改革の達成度そのものを示すものではないという留保がある。 (参考:全国自治体DX推進度ランキングに関する考察(堀部やすし区議note)

他地域への示唆

1. 未達を隠さず計画修正のプロセスに乗せる

外部要因(全国的なガバメントクラウド移行の遅延)によって当初の数値目標が維持できなくなった場合、目標を据え置いたまま形骸化させるのではなく、目標時期の表現を削除・修正したうえで区民等の意見提出手続を経て公式に計画を改定するという一連の手順は、他自治体が総合計画・実行計画等の中間見直しを行う際に参考になる。修正理由を「【令和7年度修正の理由】」として明文化し公開している点も、透明性確保の実務として再現しやすい。 (参考:杉並区実行計画等の一部修正案の策定について(総務財政委員会資料)

2. ニーズ調査を先行させたデータ公開の優先順位づけ

オープンデータやダッシュボードの整備を進める際、保有データの棚卸しから始めるのではなく、先に住民アンケートで「何を知りたいか」を把握し、需要の高い分野からダッシュボード化するという杉並区の進め方は、限られたリソースでデータ公開に着手する他自治体にとって再現性のある手順である。

3. DXの推進度評価とアウトカム評価を区別する運用

外部ランキングや推進度調査の結果を単純な成功指標として扱わず、実際の業務プロセスがどこまで再設計されたか(BPRの実施状況など)を別途チェックする姿勢は、DX推進計画のKPI設計において「取組の実施」と「業務改革の達成」を混同しないための参考になる。

4. 内部人材育成の制度化による外部依存の低減

デジタル戦略アドバイザーという外部人材の登用にとどまらず、独自のDX人材育成方針を策定し、挙手制でDX推進サポーターを庁内から選任する仕組みを整えたことは、専門人材の確保が難しい中小規模の自治体にとっても、外部人材への依存度を段階的に下げていく道筋として応用可能性がある。

参照元


2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

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