
日立市 空き家利活用促進事業(利活用・除却・宅地再生の一体支援)
空き家率17.6%の日立市が、リフォーム・解体・宅地再生・空き店舗活用を束ねた一体的な補助制度を運用。空き家を地域集会所や高齢者の交流スペースなどまちづくり活動拠点へ転用する流れと、耐震基準で支援を振り分ける制度設計が特徴。
茨城県日立市の空き家利活用促進事業は、増え続ける空き家を「使う・壊す・再生する」の各段階で支援する、複数の補助制度を束ねた一体的な施策である。中核となる「空き家利活用促進事業」のもとに、空き家をリフォームして活用する「空き家利活用リフォーム補助金」、老朽空き家を除却する「空き家解体補助金(利活用型・宅地再生創出型)」、狭小地等を解消する「隣地統合補助金」が位置づけられている。さらに商業面では「まちなか空き店舗活用事業」や「店舗・オフィス開設支援事業」が併走し、住宅から店舗まで空き家・空き店舗の利活用を多面的に後押しする構成となっている。これらは令和8年度(2026年度)版として継続実施されている。 (参考:空き家利活用促進事業(令和8年度版)(日立市))
特徴的なのは、空き家をリフォームして「地域集会所、高齢者の交流スペース、自主講座や各種教室」などのまちづくり活動拠点へ転用することを補助対象として明記している点である。空き家対策を、単なる老朽家屋の処分ではなく地域の居場所づくりやコミュニティ拠点形成と接続しているところに、この制度群の方向性が表れている。 (参考:空き家利活用リフォーム補助金(令和8年度版)(日立市))
日立市は日立製作所の企業城下町として発展したが、産業構造の変化と人口減少により住宅ストックの空き家化が進んでいる。市の解説等によれば、住宅・土地統計調査ベースの空き家率は17.6%で、全国平均の13.6%を4.0ポイント上回る水準にある。とりわけ、市が職員による実態調査で把握した管理不全等の空き家は、平成28年度の約2,878戸から令和3年度には約4,214戸へと、5年間で約1.5倍に増加した。空き家の増加は、防災・防犯・景観・衛生面のリスクを高めるだけでなく、まちなかや既存住宅地の活力低下にもつながる。 (参考:第2期日立市空家等対策計画を策定しました(日立市)、日立市の空き家問題と対策(株式会社リネスト))
こうした状況を受け、市は令和4年(2022年)9月に計画期間を2022〜2026年度とする「第2期日立市空家等対策計画」を策定した。同計画は2017年策定の前計画の取組を基本としつつ、内容の充実・強化を図るもので、「目的と位置付け」「空き家の現状と課題」「基本方針」「施策」で構成されている。空き家を放置せず、利活用と除却の双方を促しながら宅地の再生・創出につなげることが、施策全体の通底するねらいである。 (参考:第2期日立市空家等対策計画を策定しました(日立市)、空き家対策(日立市))
中核の「空き家利活用リフォーム補助金」は、原則として築年数の浅い新耐震基準(昭和56年6月1日以後の建築確認)の戸建・併用住宅を対象とし、1年以上空き家であった建物のリフォームを支援する。活用方法は、リフォーム後の売却・賃貸、取得・賃借後のリフォームに加え、まちづくり活動拠点(地域集会所、高齢者の交流スペース、自主講座や各種教室等)としての利用、従業員向けの寮やシェアハウス等の福利厚生施設としての利用が対象として定められている。 (参考:空き家利活用リフォーム補助金(令和8年度版)(日立市))
一方、老朽化が進み利活用が難しい建物には「空き家解体補助金」が用意されている。解体後の跡地を売却・賃貸する、あるいは敷地を取得・賃借したうえで解体する「利活用型」と、土地の返地や自己管理の継続を前提とする「宅地再生創出型」に分かれ、いずれも旧耐震基準(昭和56年5月31日以前の建築確認)の建物を対象とする。利活用型では、解体後の跡地をポケットパークや共同農園などの公共的利用に供するケースも支援対象に含まれている。さらに、狭小地や無接道地を隣地と統合し200㎡以上の宅地として登記する「隣地統合補助金」により、解体後の土地が再び使える宅地として市場に戻る流れまでを後押しする。 (参考:空き家利活用促進事業(令和8年度版)(日立市)、空き家解体補助金(利活用型)令和7年度版(日立市))
商業・まちなか領域では、「まちなか空き店舗活用事業」と「店舗・オフィス開設支援事業」が住宅系の制度と並走する。空き店舗活用事業は、過去に営業実績があり3か月以上営業されていない店舗や3か月以上居住者のいない空き家を活用して出店する事業者、あるいは移動販売車で事業を始める事業者を対象とし、小売業・飲食業・サービス業などの開業を支援する。店舗・オフィス開設支援事業は、JR各駅から1km以内、ひたちBRT停留所から500m以内かつ商業地域・近隣商業地域といった立地要件を設け、まちなかへの出店誘導を意図している。住宅の空き家対策と中心市街地の商業再生を、同じ「空き家・空き店舗の利活用」という枠組みで束ねている点が、この事業群の運用上の特徴である。 (参考:日立市まちなか空き店舗活用事業のお知らせ(日立市)、茨城県日立市:日立市まちなか空き店舗活用事業(補助金ポータル))
第一の特徴は、空き家対策を「コミュニティ拠点づくり」と明示的に接続していることである。多くの自治体の空き家リフォーム補助は居住・売買・賃貸を主眼とするが、日立市は地域集会所や高齢者の交流スペース、自主講座・教室といった非営利のまちづくり活動拠点としての転用を、補助対象として制度に書き込んでいる。これにより、空き家という「負の資産」を地域の居場所という「共有資源」へ転換する経路が、制度の入口段階で用意されている。 (参考:空き家利活用リフォーム補助金(令和8年度版)(日立市))
第二の特徴は、耐震基準で支援を振り分ける制度設計である。リフォーム補助は原則として新耐震基準の建物、解体補助は旧耐震基準の建物を対象とすることで、安全に使い続けられる建物は「活用」へ、安全性に課題のある建物は「除却・宅地再生」へと、所有者の判断を誘導する設計になっている。空き家を一律に扱うのではなく、建物の状態に応じて利活用と除却の出口を分けている点が、再現性の観点で参考になる。 (参考:空き家利活用促進事業(令和8年度版)(日立市))
第三の特徴は、利活用・除却・宅地統合・店舗活用までを一連の制度パッケージとして配置していることである。「使える空き家は使う」「使えない空き家は壊して跡地を再生する」「狭小地は隣地と統合して宅地に戻す」「空き店舗は出店で埋める」という、空き家のライフサイクル全体をカバーする補助メニューが揃っており、所有者の置かれた状況に応じて選択肢を提示できる構成になっている。 (参考:空き家利活用促進事業(令和8年度版)(日立市)、空き家対策(日立市))
本制度群は令和7年度(2025年度)に続き令和8年度(2026年度)版として継続・運用されており、空き家の利活用・除却・宅地再生と、まちなかの空き店舗活用を支える枠組みとして定着している。空き家を地域集会所・高齢者交流スペース・自主講座教室等へ転用する活動拠点利用や、従業員寮・シェアハウスとしての福利厚生利用を補助対象として明文化したことで、所有者がコミュニティ用途を選びやすい制度環境が整えられている。 (参考:空き家利活用リフォーム補助金(令和8年度版)(日立市)、空き家利活用促進事業(令和8年度版)(日立市))
一方で、各補助制度の年度別の交付件数や、活用拠点化された空き家の具体的な事例数といった定量的な実績は、調査時点で公開情報からは確認できなかった。まちなか空き店舗活用事業など一部の制度は予算上限到達により受付を終了した年度があることから、一定の利用実態はうかがえるものの、施策全体としての成果は数値で検証しにくい状況にある。空き家の利活用がコミュニティ拠点としてどの程度根づいたかは、今後の実績データの公表を待つ必要がある。 (参考:茨城県日立市:日立市まちなか空き店舗活用事業(補助金ポータル))
第一に、空き家リフォーム補助の活用用途に「まちづくり活動拠点」を正式に位置づけることは、他地域でも応用しやすい工夫である。居住・売買・賃貸に限定しがちな補助メニューに地域集会所や高齢者の交流スペースといった非営利のコミュニティ用途を加えるだけで、空き家対策と居場所づくり・社会教育の双方を同時に進められる。補助要綱の文言という制度設計の一部分の調整で実装できるため、属人的なノウハウに依存しにくい点も再現性が高い。
第二に、建物の耐震性能で「活用」と「除却」の支援を振り分ける設計は、空き家を一律に扱うことの限界を超える示唆を与える。安全に使い続けられる建物を活用へ、課題のある建物を除却・宅地再生へと誘導することで、限られた予算を建物の状態に応じて配分でき、危険空き家の放置リスクの低減と良質ストックの再利用を両立しやすい。
第三に、利活用・除却・隣地統合・空き店舗活用を一体のパッケージとして設計する発想は、空き家対策を「点」ではなく「面」で捉える視点を提供する。解体して終わりではなく、跡地の公共的利用や隣地統合による宅地再生、まちなかへの出店誘導まで出口を用意することで、空き家対策を中心市街地の再生や宅地市場の循環といったより大きなまちづくりの文脈につなげられる。空き家施策を縦割りの個別補助で終わらせず、地域の空間全体をどう循環させるかという観点から制度を束ね直すヒントになる。
2026年06月時点の調査内容に基づいて作成
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