
すぎナビ(杉並区公式電子地図サービス)
杉並区が提供する公式電子地図サービス「すぎナビ」。2022年にアプリからWeb版へ移行し、ダウンロード不要で防災情報や生活情報にアクセスできる。河川ライブカメラや災害時自動切替機能を備えた先進的な取り組み。
すぎナビは、杉並区が提供する公式電子地図サービスである。2015年11月に防災地図アプリとして配信を開始し、2022年4月にWeb版へ全面移行した。アプリのインストールを必要とせず、Webブラウザから即座に利用でき、防災情報に加えて公共施設、都市計画、交通、福祉・健康、子育てなど複数のカテゴリーの地域情報を提供している。善福寺川・神田川流域という水害リスクの高い地域特性を反映し、河川ライブカメラによるリアルタイム監視や、平常時と災害時で画面が自動切替する機能を実装している。 (参考:杉並区公式電子地図サービス【すぎナビ】)
杉並区は妙正寺川、善福寺川、神田川という3つの河川が流れる地形を持ち、長年にわたり浸水被害に悩まされてきた。2005年9月4日の台風14号では、下井草で1時間あたり112ミリ、総雨量263ミリという記録的な豪雨に見舞われ、床上への浸水が1,100件以上、床下への浸水が約650件に達し、戦後の区史において2番目に深刻な浸水被害となった。この「杉並豪雨」と呼ばれる災害は、区民の命を守るための確実な防災情報伝達システムの必要性を強く認識させる契機となった。 (参考:杉並の水害対策|すぎなみ学倶楽部)
2015年11月に配信を開始した防災地図アプリ「すぎナビ」は、オフライン対応や区民による危険箇所の投稿機能など先進的な機能を備えていた。しかし、アプリのダウンロードという行為自体が高齢者や緊急時のアクセス障壁となっていることが課題として認識されるようになった。災害時に「今すぐ使いたい」という切実なニーズに応えるには、より手軽なアクセス環境が必要だった。 (参考:杉並区が防災地図アプリ「すぎナビ」配信|高円寺経済新聞)
2015年11月1日、杉並区は首都直下地震などの大規模災害に備えた防災地図アプリ「すぎナビ」の配信を開始した。空間情報の総合企業であるパスコ株式会社と協力して開発されたこのアプリは、通常の地図機能に加え、通信インフラが断絶した災害時でも事前にダウンロードしたデータで動作する仕組みを備えていた。利用者が写真を投稿して安全な避難経路を地図上で共有できる機能も実装され、震災時のみならずゲリラ豪雨や台風接近時にも活用できる多目的な防災ツールとして運用された。 (参考:杉並区が防災地図アプリ「すぎナビ」配信|高円寺経済新聞)
2022年4月1日、区は防災情報配信の在り方を根本から見直し、スマートフォンアプリからWeb版への全面移行に踏み切った。多くの自治体が防災アプリの開発・普及に注力する中、杉並区はあえて逆方向へと舵を切った。同年10月末にアプリ版のサービスを終了し、Web版への完全移行を完了させた。この移行により、端末やOSに依存しない普遍的なアクセス環境を実現した。 (参考:杉並区広報課 X投稿、杉並区公式電子地図サービス【すぎナビ】)
2020年代前半、全国の自治体では防災アプリの開発・普及が主流となっていた。こうした中で杉並区がWeb版への移行を選択した背景には、「使いたい時にすぐ使える」というユーザビリティの本質的な追求があった。検索するだけで誰もが即座にアクセスできる環境を実現し、ダウンロードという障壁を取り除いた。 (参考:杉並区公式電子地図サービス【すぎナビ】)
すぎナビは「平常時」と「災害時」で画面構成が自動的に切り替わる設計を採用している。災害発生時には、避難所の開設状況と混雑度がリアルタイムで更新され、どの避難所が開設されているか、どこが混雑しているかを即座に確認できる。気象庁の警報・注意報とも連動し、気象情報が発表されると自動的に画面に反映される。 (参考:杉並区公式電子地図サービス【すぎナビ】)
善福寺川と神田川に設置されたライブカメラにより、区内の主要河川の水位をリアルタイムで監視できる体制を構築している。カメラをクリックするとYouTubeでのライブ配信を視聴でき、大雨の際に自宅周辺の河川状況を区民自身が確認できる。2005年の台風被害の教訓が、具体的な技術システムとして結実している。 (参考:杉並区河川ライブカメラ)
すぎナビは防災専用ツールではなく、公共施設、防災、都市計画、道路、交通、観光・文化・自然、福祉・健康・くらし、こども・子育てといった多様なカテゴリーの生活情報を統合した総合地図サービスとして設計されている。コミュニティバス「すぎ丸」の路線検索、AED設置場所の確認、シェアサイクルポートの位置など、日常的に利用される機能を備えることで、平常時からの継続的な利用を促している。 (参考:すぎナビポータル)
防災マップは日本語版のほか、やさしい日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タガログ語、ベトナム語、ネパール語を含む計8言語で提供されており、外国人住民への情報提供体制を整えている。 (参考:杉並区防災マップ)
パスコ株式会社のデータセンターにおいて24時間365日体制でシステム監視が行われており、冗長化されたサービスは二重三重のセキュリティ対策、耐震・防火・無停電等の設備で保護されている。Web版への移行により、アプリ版と比較して維持管理の効率化も実現している。 (参考:わが街ガイド|アスピック)
Web版への移行により、通信が遮断された状況での利用が困難になるという技術的課題が生じている。アプリ版で実装されていたオフライン機能は、Web版では標準的には提供できない。また、投稿機能がスマートフォン版のみに限定されているなど、デバイスによる機能差も存在する。 (参考:杉並区公式電子地図サービス【すぎナビ】)
杉並区の事例は、防災情報システムの技術選択において「最新技術の採用」ではなく「利用者の行動特性への適合」を優先することの重要性を示している。高齢者比率の高い地域やITリテラシーにばらつきがある地域では、ダウンロード不要のWeb版が有効な選択肢となりうる。
善福寺川・神田川という河川流域の水害リスクに対応した河川ライブカメラや、過去の被害経験に基づいた詳細なハザードマップなど、地域固有のリスクに特化した機能設計が区民の信頼獲得につながっている。他地域への応用においては、自地域の災害リスクの徹底的な分析が前提となる。
防災専用ツールは災害時にのみ使用されるため、操作に慣れることができない。日常的に使われるサービスに防災機能を統合することで、利用者は平常時からインターフェースに習熟し、災害時にも迷わず操作できる。公共施設案内や交通情報など、自地域で日常的にニーズのある情報を特定し、防災情報と統合したプラットフォームを構築することが実効性の高い防災システムの鍵となる。
2026年3月時点の調査内容に基づいて作成
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