
今津運動公園インクルーシブ化プロジェクト
福岡市西区の今津運動公園で、地域住民や障がい児の保護者による全3回のワークショップを経て、誰もが自分らしく遊べる「インクルーシブな子ども広場」を整備。車いす対応の砂場や水遊び設備などを備え、2026年3月にオープンした市内7拠点展開事業の一つ。
福岡市西区の今津運動公園(敷地面積約19.7ヘクタール、1992年開園の総合運動公園)にある子ども広場が、障がいの有無にかかわらず誰もが自分らしく遊べる「インクルーシブな子ども広場」としてリニューアルされた。福岡市が2023年1月に策定した「インクルーシブな子ども広場整備指針」に基づき、市内7区それぞれに拠点となる公園を整備する事業の一つで、今津運動公園はその西区拠点にあたる。(参考:今津運動公園(福岡市緑のまちづくり協会))
2024年度に地元住民と、障がいのある子を育てる保護者が加わって全3回のワークショップを開催してリニューアルプランを策定し、近隣の今津特別支援学校の教職員からの助言も設計に反映した。車いす対応の砂場や水遊びができる水路、勾配を生かしたすべり台などを新設し、2026年3月31日に「みんなの広場」としてオープンした。(参考:フクリパ、福岡市政だより(西区版))
福岡市は「ユニバーサル都市・福岡」の実現を掲げ、2021年11月に試験的な遊具設置を行ったのを皮切りに、インクルーシブな公園づくりの検討を始めた。担当職員は当初「バリアフリーに配慮した遊具を置けば十分」と考えていたが、障がいのある子どもや保護者へのアンケートを通じて、健常者と障がい当事者ではニーズそのものが大きく異なることに気づかされたという。(参考:IDEAS FOR GOOD)
2022年度には、舞鶴公園三の丸広場で仮設遊具を設置して利用状況を検証する社会実験を実施した。当初2022年11月30日までの予定だったが、来場者から好評だったため設置期間が延長され、約4カ月の実施期間で来場者は推計約51,000人にのぼった。この検証を踏まえ、有識者と障がい当事者が加わる審議の場での議論を経て、2023年1月に「インクルーシブな子ども広場整備指針」が策定された。(参考:舞鶴公園(福岡市緑のまちづくり協会)、IDEAS FOR GOOD)
当事者アンケートでは、遊具そのものよりも「駐車場が整備されていないと行けない」「トイレが整備されていないと利用しにくい」といった周辺環境の課題や、屋外で遊ぶという行為そのものにハードルを感じているという実態も浮かび上がった。担当職員は、遊具というハード面の対応だけでなく、公園に足を運びにくいと感じている心理的なハードルへの対応が必要だと認識を改めたと述べている。(参考:IDEAS FOR GOOD)
1. 全市指針の策定(2021〜2023年)
2021年度の試験的な遊具設置に続き、2022年度に舞鶴公園での社会実験や当事者アンケートを実施。有識者と障がい当事者が加わる審議の場での議論を経て、2023年1月に「インクルーシブな子ども広場整備指針」を策定した。この指針に基づき、市内7区それぞれに拠点公園を1カ所ずつ整備する方針が定められた。(参考:福岡市 インクルーシブな子ども広場)
2. 今津運動公園でのワークショップ(2024年度)
西区の拠点となる今津運動公園では、地域住民や障がいのある子どもの保護者らが参加する全3回のワークショップを開催した。基本方針として「海・山に囲まれた今津の風景の中で誰もが自分の過ごし方で楽しめる子ども広場へ」を掲げ、①利用者が気兼ねなく心地よく滞在できるよう配慮すること、②今津エリアに固有の風土や魅力を公園の中に取り込むこと、③利用者同士が互いの状況を理解し合い自然な交流が生まれる場とすること、という3つの方針のもとでプランを具体化した。(参考:フクリパ)
各回の議事は「ワークショップニュース」という名の紙面にまとめて回覧し、参加できなかった住民とも情報を共有する体制をとった。参加者が少ない回では、事前に実施した当事者アンケートの声を対話の材料として紹介するなど、声を上げにくい当事者の意見を間接的に議論へ反映する工夫も取られた。(参考:IDEAS FOR GOOD)
3. 整備・オープン(2026年3月)
2026年3月31日、リニューアルした子ども広場は「みんなの広場」として供用を開始した。車いす対応の砂遊びテーブル(高さの異なる2種類)、手押しポンプ式の水遊び水路、体幹の弱い子どもでも使えるユニバーサルデザインのブランコ、傾斜地を生かしたすべり台、クライミング壁、丸太ステッパー、回転遊具、ジャンプ遊具、芝生の丘などを新設し、クッション性のあるゴムチップ舗装を採用した。既存の人気遊具の一部も引き続き利用できるようにした。(参考:今津運動公園公式サイト、フクリパ)
1. 「一緒に遊ぶ」を目的化しない設計思想
福岡市の整備方針の核心は、当事者の声を受けて理念を転換した点にある。先行整備した百道中央公園でのイベントでは、障がいのある子どもを持つ保護者から「"一緒に遊ぶイベント"にはしないでほしい」「他の子どもたちと遊ばせるために来ているのではなく、その子自身が感じられる公園の空気を感じさせてあげたい」という意見が寄せられた。この声を受け、市は「みんなで一緒に遊びましょう」ではなく「自分らしく遊べる」ことを目指す方向へ理念を修正した。同じ空間を共有すること自体をインクルーシブの本質とし、交流を強制しない設計思想は、他自治体のインクルーシブ公園整備を検討する際にも参考になる視点である。(参考:IDEAS FOR GOOD)
2. アンケートとワークショップを組み合わせた二段階の声の集約
特別支援学校での配布や公園でのQRコード掲示などを通じて広く当事者アンケートを集め、そこで見えた「駐車場」「トイレ」といった実務的課題や心理的ハードルを、ワークショップの対話の材料として提示する二段階の設計を取っている。対話を経ていないアンケートの意見をそのまま採用するのではなく、話し合いの素材として活用することで、声を上げにくい少数意見を議論に反映しやすくする工夫である。(参考:IDEAS FOR GOOD)
3. 特別支援学校との地域連携
今津運動公園に固有の工夫として、近隣にある今津特別支援学校の教職員から直接助言を受け、遊具選定や配置に反映した点が挙げられる。全市共通の指針を土台にしつつ、地域の教育・福祉資源と連携することで、拠点公園ごとの地域事情を取り込んでいる。(参考:フクリパ)
4. 段階的検証を経た全区展開という再現性のある枠組み
今津運動公園単独の取り組みではなく、期間限定の社会実験(舞鶴公園)による効果検証→全市指針の策定→各区拠点公園での個別ワークショップという段階を踏んだ横展開の型を持つ。今津運動公園はこの枠組みの中で西区拠点として実装された事例である。(参考:福岡市 インクルーシブな子ども広場)
プラン策定プロセスの成果
今津運動公園では、地域住民と障がいのある子どもの保護者が参加する全3回のワークショップを経て整備プランが具体化され、車いす対応の砂場や水遊び水路など複数のインクルーシブ遊具の導入につながった。近隣の特別支援学校からの助言を反映した点も含め、住民参加のプロセスを経た上で2026年3月31日に供用が開始されている。(参考:フクリパ)
全市展開の進捗
2026年8月時点で、市内7カ所の拠点公園のうち百道中央公園、桧原運動公園、西南杜の湖畔公園、東平尾公園、今津運動公園の5カ所が供用を開始しており、残るアイランドシティ中央公園とかもめ広場は整備中である。舞鶴公園での先行検証実験では約4カ月間で推計約51,000人が来場し、当初予定より設置期間が延長されるほどの反応があったことが、その後の全区展開の後押しとなった。(参考:福岡市 インクルーシブな子ども広場、舞鶴公園(福岡市緑のまちづくり協会))
なお、今津運動公園のリニューアル後の利用者数や満足度に関する定量的な調査結果は、オープンから約4カ月半が経過した調査時点では公表が確認できなかった。効果検証は今後の追跡情報を待つ必要がある。
1. 「交流の強制」を前提としない設計への転換可能性
インクルーシブ公園というと「誰もが一緒に遊べる場」を目指しがちだが、本事例は当事者から寄せられた「そっとしておいてほしい」という声を受け、同じ空間を共有すること自体を目的とする設計へ転換した。これは今津運動公園という立地に限定される話ではなく、他地域が当事者ヒアリングを丁寧に行えば同様に得られる示唆であり、再現性のある視点といえる。
2. 匿名アンケートを対話の素材として使う二段階の声の集約手法
声を上げにくい当事者の意見を、まず匿名性の高いアンケートで広く集め、それをワークショップの対話素材として提示するという二段階の設計は、参加者が少ない場でも少数意見を議論に反映させる汎用的な仕組みとして、他分野の住民参加プロセスにも応用できる。
3. 全市共通指針とエリア単位ワークショップの二層構造
全市で理念・整備方針を統一した指針を先に策定し、その上で拠点公園ごとに地域事情(近隣施設との連携など)を反映するワークショップを重ねる二層構造は、複数拠点を段階的に整備する自治体にとって、ばらつきのある整備水準を防ぎながら地域性を取り込める再現性の高いモデルである。
4. 期間限定の社会実験を経てから本格投資する段階的アプローチ
舞鶴公園での仮設遊具による社会実験を経てから指針を策定し、全区展開に踏み切った手順は、初期投資を抑えつつ利用者の反応を確認してから本格的な整備へ進むという、財政制約のある自治体でも取り入れやすいリスク低減の手法として参考になる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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