
京都市歴史的風致維持向上計画(2期)
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歴史まちづくり法に基づき京都市が2021年に認定を受けた第2期計画。建造物という「ハード」と祭礼・生業という「ソフト」を一体で捉え、7つの歴史的風致を軸に約13,632haの重点区域で建造物指定や無電柱化などのまちづくり事業を進める10年計画。
京都市歴史的風致維持向上計画(2期)は、「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(歴史まちづくり法)に基づき、京都市が2021年3月29日に国土交通大臣・文部科学大臣・農林水産大臣の認定を受けた法定計画である。2009年11月策定の1期計画に続く計画で、計画期間は令和3年度から令和12年度(2021〜2030年度)の10年間にわたる。 (参考:京都市:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)の認定について【概要版、計画本冊】)
計画は、歴史的建造物という「ハード」と、そこで営まれる祭礼・生業・暮らしという「ソフト」が一体となって形成する「歴史的風致」を維持向上の対象とし、「祈りと信仰のまち京都」「暮らしに息づくハレとケのまち京都」「ものづくり・商い・もてなしのまち京都」「文化・芸術のまち京都」「伝統と進取の気風の地」「京の街道とその周辺」「千年の都を育む水・土・緑」の7領域で構成される。重点区域「歴史的市街地地区」は認定時点で約13,575ha、その後の軽微な変更を経て現在は約13,632haに及び、市街化区域の相当部分を対象に、歴史的建造物の指定・保全、道路の美装化・無電柱化、地域の歴史まちづくり活動支援などハード・ソフト両面の取組を進めている。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版、京都市都市計画局広報資料)
京都は三方を山に囲まれた盆地に鴨川・桂川などの清流が流れ、平安京への遷都以来1200年余の歴史を持つ。各所に点在する寺院・神社や京町家の存在が京都の歴史の厚みを物語っており、それを舞台に祇園祭をはじめとする年中行事、伝統産業の営み、花街文化などが今日まで受け継がれてきた。こうした建造物と人々の活動が一体となった状態を、歴史まちづくり法は「歴史的風致」と定義している。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
京都市は2009年11月に1期計画を策定し、街なみ環境整備事業を通じて歴史的建造物を保全したほか、都市再生整備計画事業では岡崎地域の活性化や沿道の修景に取り組み、国際観光資源高質化支援事業を財源に「京の道づくり事業」を進めるなど、国の支援制度を組み合わせて活用してきた。しかし2020年度末の1期計画終了時点でも、多くの歴史的建造物や町並みの保全は十分ではなく、次のような課題が継続的に残っていた。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
これらの課題に対応するため、京都市は2021年3月12日付けで2期計画の認定申請を行い、同月29日に認定を受けた。 (参考:京都市都市計画局広報資料)
2期計画では、1期計画で設定した6つの歴史的風致を発展させ、7つの歴史的風致に拡充した。1期の「京郊の歴史的風致」を、旧街道沿いの暮らしを描く「京の街道とその周辺」と、農業用水や山林・農地の営みを描く「千年の都を育む水・土・緑」の2つに分割・発展させたことが主な変更点である。重点区域も、景観計画区域内の美観地区・美観形成地区、建造物修景地区、風致地区へと拡大し、「歴史的市街地地区」として認定時点で約13,575ha、その後の軽微な計画変更を経て約13,632haとなっている。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
重点区域内にある戦前(概ね昭和25年以前)築造の建造物で、伝統や歴史を映す意匠に優れ、地域固有の歴史的風致を形づくっていると認められるものが「歴史的風致形成建造物」に指定される。指定対象は建築物に限らず、道・橋・用水・庭園・公園なども含まれる。指定の前提として、対象となる土地・建物の所有者全員から同意を取り付ける必要があり、第三者機関「京都市歴史まちづくり推進会議」の意見を踏まえたうえで市長が指定を行う。手続きは、所有者からの事前相談・調査等同意書の提出、市による現地確認、候補建造物の選定と制度説明、指定提案書の提出、第三者機関への意見聴取、指定の告示、標識の設置という流れで進められる。 (参考:歴史的風致形成建造物について(概要))
重点区域の拡大に伴い、より多くの建造物を指定していくため、2期計画では「歴史的風致形成建造物指定提案制度」を新設した。行政が一方的に候補を選定するだけでなく、建造物の所有者自身が京都市に指定を提案できる仕組みであり、詳細は都市計画局都市景観部景観政策課が窓口となっている。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版、歴史的風致形成建造物について(概要))
計画は、歴史的建造物そのものの保全にとどまらず、町並み景観の整備、周辺の自然環境の保全、地域の担い手づくり、伝統産業や文化芸術の継承、観光と市民生活の調和という6つの領域を横断する方策のもとに、具体的な歴史まちづくり事業を計画期間内に位置付けて実施している。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
例えば、明治期に整備された琵琶湖疏水の沿線では、地元住民が1969年に発足させた「哲学の道保勝会」が倒木除去や案内標識設置、桜まつりの開催など、ハード整備と並行したソフト面での維持活動を50年以上にわたり継続している。 (参考:哲学の道保勝会とは)
計画は認定後も進行管理・評価を継続しながら、指定候補建造物の追加などの軽微な変更を随時行っている。直近では令和7年度末(2026年3月)の変更で、錦天満宮・法輪寺(祈りと信仰)、瀧尾神社・北観音山町会所・山伏山町会所・澤井醤油本店(暮らしに息づくハレとケ)、西陣の岡本邸・真崎邸・三宅邸・近又(ものづくり・商い・もてなし)、亀屋伊織・内藤清商店(文化・芸術)など、7つの歴史的風致のうち6つで新たな指定候補建造物が追加された(「伝統と進取の気風の地」は既存指定の番号整理のみで、新規建造物の追加はなかった)。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)令和7年度末変更 新旧対照表)
歴史的風致という概念そのものが、建造物という「ハード」と、そこで営まれる祭礼・生業・暮らしという「ソフト」を一体のものとして定義している点が特徴である。単に建造物の外観を保存・規制するのではなく、祇園祭の山鉾巡行、瑞饋祭の巡行、西陣織や京友禅のものづくり、花街の舞・踊りといった「活動」そのものを維持向上の対象として計画に明記している。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
歴史的風致形成建造物に指定されると、相続税算定における土地・建物評価額の30%控除、修理・修景費用の一部補助、京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例に基づく建築基準法の一部適用除外という3種類の支援を受けられる。一方で、増築・改築・移転・除却の際は着手30日前までの届出義務、補助を受けた場合は完了後10年間の維持・継承義務、京都市との一般公開協定の締結義務が課され、支援と管理責任がセットで設計されている。 (参考:歴史的風致形成建造物について(概要))
国土交通省と近畿地方の認定都市が連携し、各都市の歴史的風致を写真とデータで紹介する「歴まちカード」を発行している。京都市も2期計画の認定に合わせてカードを更新し、京都市景観・まちづくりセンターと嵯峨鳥居本町並み保存館で配布している。京都市単独の取組にとどまらず、全国の歴史まちづくり計画認定都市とのネットワークの中に位置付けられていることがうかがえる。 (参考:京都市都市計画局広報資料)
2期計画は無電柱化や道路美装化などのハード事業を柱の一つに位置付けているが、京都市が財政再生団体転落の懸念に直面したことを受け、2021年度から3年間、歴史的市街地を含む観光地の無電柱化事業について新規予算計上が見送られた。京都市財政室は「景観より防災を優先せざるを得ない」と説明しており、国の認定を受けた計画に位置付けられた事業であっても、自治体の財政状況次第で実施ペースが左右されうることを示す実例となっている。 (参考:日経クロステック:京都市が歴史地区の無電柱化を中断、看板政策が財政危機で、京都新聞:京都の観光地「無電柱化」、財政難でストップ)
令和8年8月7日時点の指定状況一覧によると、1期計画期間中に指定された建造物が147件、2期計画に入ってからの新規指定が126件確認でき、合計で273件の建造物が歴史的風致形成建造物として指定されている。御霊神社、四条町大船鉾会所、黄桜酒造(仕込蔵)、松本酒造、上七軒歌舞練場、月桂冠旧本社、錦天満宮など、寺社・酒蔵・歌舞練場・京町家といった多様な用途の建造物が対象となっている。 (参考:歴史的風致形成建造物の指定状況(2期・令和8年8月7日時点)、歴史的風致形成建造物について(概要))
2021年3月29日時点で、歴史的風致維持向上計画(歴史まちづくり計画)の認定都市は全国で86に達していたが、うち1期計画を終えて2期の取組へ移行済みだったのは京都市を含む25都市にとどまっていた。国土交通省の集計によると、令和8年5月22日時点で全国の認定計画数は102計画に拡大しており、京都市は制度創設初期の1期認定(2009年)から継続して取り組んできた先行都市の一つに位置付けられる。 (参考:京都市都市計画局広報資料、国土交通省:歴史的風致維持向上計画認定状況について)
2021年度の計画開始から5年が経過した令和7年度末の変更でも、7つの歴史的風致のうち6つで新たな指定候補建造物が追加され続けている。指定提案制度により所有者側からの働きかけを含む形で候補が発掘されており、一過性の取組ではなく継続的な仕組みとして機能していることがうかがえる。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)令和7年度末変更 新旧対照表)
一方で、無電柱化については、2021年度からの3年間、財政難を理由に歴史地区を含む観光地での新規予算計上が見送られた経緯が報じられている。花見小路や産寧坂周辺など既に整備が完了した区間がある一方、計画に位置付けられたハード事業のすべてが当初想定どおりのペースで進んでいるわけではないことも、調査時点で確認できる事実である。 (参考:日経クロステック:京都市が歴史地区の無電柱化を中断、看板政策が財政危機で)
多くの自治体の歴史的景観保全は、建造物単体の保存や外観規制にとどまりがちである。京都市の事例は、その建造物で営まれる祭礼・商い・暮らしといった「活動」までを計画に明記し、支援対象として位置付けている点で示唆的である。稀少な歴史的建造物が少ない地域であっても、そこに息づく年中行事や生業を保全対象として捉え直す視点は、京都以外の歴史ある市街地でも応用可能な考え方である。 (参考:京都市歴史的風致維持向上計画(2期)概要版)
行政主導のトップダウン型指定だけでなく、所有者自身が指定を働きかけられる「指定提案制度」を設けることで、限られた職員体制でも把握しきれない歴史的建造物を継続的に発掘できる。計画開始から5年を経た令和7年度末時点でも新規の指定候補が複数追加され続けている事実は、この仕組みが一過性でなく持続的に機能していることを示しており、広範囲の歴史的建造物を抱える他自治体にも参考になる制度設計である。 (参考:歴史的風致形成建造物について(概要)、京都市歴史的風致維持向上計画(2期)令和7年度末変更 新旧対照表)
相続税評価減免や修理費補助といった経済的な支援と、増築・改築・除却時の事前届出義務、補助後10年間の維持義務、一般公開協定の締結といった管理義務をセットで制度設計している点は、所有者の自発的な保全意欲を引き出しつつ公共性を担保する仕組みとして再現性がある。民間所有の歴史的建造物の保全に取り組む他地域でも応用しやすい枠組みといえる。 (参考:歴史的風致形成建造物について(概要))
無電柱化事業の新規予算見送りの事例は、国の認定を受けた長期計画であっても、自治体財政の状況次第でハード事業の実施ペースが左右されうることを示している。歴史的風致維持向上計画のような10年単位の長期計画を運用する他自治体にとっても、財政変動時にどの事業を優先するか、ハード事業とソフト事業のバランスをどう保つかをあらかじめ検討しておくことの重要性を示す事例である。 (参考:日経クロステック:京都市が歴史地区の無電柱化を中断、看板政策が財政危機で、京都新聞:京都の観光地「無電柱化」、財政難でストップ)
2026年08月時点の調査内容に基づいて作成
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