
市民約7万人の健康データ横断分析と健康アプリAI実証(日立市・日立製作所)
日立市が5つの保険者の壁を越えて市民約7万人分の健診・レセプトデータを横断分析し、高血圧傾向を特定。あわせて健康アプリ「SaluDi」のAI疾病発症予測を市民305人で実証し、その結果をもとに高血圧予備群支援などの新たな健康施策へつなげた共創プロジェクトの事例。
茨城県日立市は、市民が加入する5つの保険者の枠を越えて約7万人分の健診データ・レセプト情報(診療報酬明細)を集約・横断分析し、市全体・年齢別・男女別・保険者別の疾病傾向を可視化した。その結果、市全体として高血圧の発症が比較的多いという課題を特定している。あわせて、沢井製薬の健康管理アプリ「SaluDi(サルディ)」を市民305人が利用し、AIが個人の健診結果に類似した集団の過去の疾病罹患率を提示する実証も実施した。これら2つの実証の成果は2026年5月25日に公表され、市はこれをもとに2026年度から高血圧予備群への支援強化や血圧計の市内設置、AIアドバイス機能の追加といった新たな健康施策に踏み出している。
この取り組みは、日立市と株式会社日立製作所が2023年12月に締結した包括連携協定に基づく「次世代未来都市(スマートシティ)共創プロジェクト」の重点テーマ「デジタル健康・医療・介護」の一環であり、両者が描いたグランドデザイン「住めば健康になるまち」を構成する具体的な施策にあたる。保険者の縦割りを越えて行政区域単位で健康データを束ね、現役世代を含む市民全体の健康像を把握したうえで施策に接続した点が特徴である。 (参考:日立製作所プレスリリース、IT Leaders)
日本全体で人口減少と高齢化が進み、医療費の増大が自治体の共通課題となっている。日立市でも国民健康保険の1人当たり年間医療費が年々増加しており、市民が主体的に疾病を予防し、健康に過ごせる期間(健康寿命)を延ばすことが急務となっていた。 (参考:日立製作所プレスリリース)
しかし、自治体が把握できる健康データには構造的な制約がある。多くの自治体では、保有・分析できる健診やレセプトのデータが国民健康保険と後期高齢者医療制度の加入者に限られ、企業に勤める現役世代の多くが加入する協会けんぽや健康保険組合のデータは別の保険者が保有している。このため、市域に暮らす人々全体の健康状態を一つの像として把握することが難しく、年齢層や属性ごとにどのような疾病リスクが偏っているのかを地域単位で捉えることができなかった。日立市の取り組みは、この「保険者の縦割り」によってデータが分断されている状況を、行政区域を単位として束ね直すことで打開しようとするものである。 (参考:IT Leaders、innovatopia)
2025年度、日立市は市民が加入する主要な5つの保険者と連携し、健診データとレセプト情報を統計化された数値情報として横断的に集約・分析できる基盤を整えた。連携した保険者は、国民健康保険、後期高齢者医療制度、全国健康保険協会(協会けんぽ)茨城支部、茨城県市町村職員共済組合、日立健康保険組合の5つである。これにより、従来は把握が難しかった現役世代を含む形で、市内40〜79歳人口の約75%に相当する約7万人分のデータが分析対象となった。 (参考:日立製作所プレスリリース、IT Leaders)
集約したデータをもとに、市全体に加えて年齢別・男女別・保険者別といった切り口で健康診断結果や疾病の傾向を分析した。その結果、市全体として高血圧の発症が比較的多いという傾向が明らかになった。高血圧そのものは全国共通の課題でもあるが、「自分のまちの数字」として地域の健康課題を客観的根拠(エビデンス)にもとづいて把握し、次の施策の重点をどこに置くかを判断できるようにした点に意味がある。 (参考:日立製作所プレスリリース、innovatopia)
データ分析と並行して、市民一人ひとりの健康行動を促す手段として、沢井製薬の健康管理アプリ「SaluDi」を活用した実証を行った。当初目標の300人を上回る305人の市民が参加し、本人の同意のもとで自身の健診データをアプリに登録した。SaluDiは、健康・医療データを個人が一元的に管理するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)機能と、AIによる疾病発症予測機能を備える。AIは、健康診断情報と疾病罹患に関するビッグデータをもとに、入力された情報と類似した健診プロフィールを持つ集団が過去にどのような病気にどの程度の割合で罹患したかを数値化して提示する。これは特定個人の発症を直接予測するものではなく、統計的な参照指標として自身の健康リスクを意識するきっかけを与えるものである。なお、SaluDiは医薬品医療機器等法上のプログラム医療機器ではない。 (参考:日立製作所プレスリリース、innovatopia)
実証は日立市が統括し、施策立案の責任主体を担った。日立製作所と日立システムズがデータ分析環境の構築・運用と施策立案の支援を担い、沢井製薬がSaluDiの提供とAI疾病発症予測機能の実装を担当するという役割分担で進められた。自治体が現場とデータを、民間企業が技術と実装力を持ち寄る共創の座組みである。 (参考:日立製作所プレスリリース)
第一の特徴は、保険者の縦割りを越えて健康データを行政区域単位で束ねた点である。協会けんぽや健保組合に加入する現役世代を含めたことで、対象は40〜79歳人口の約75%・約7万人に達した。国保と後期高齢者医療制度に限られがちな従来の自治体データの制約を踏み越え、市民全体に近い健康像を一つのデータ基盤で捉えたことが、この事例の土台になっている。 (参考:IT Leaders、innovatopia)
第二の特徴は、「集団のデータ分析」と「個人の行動変容」という二層を組み合わせている点である。約7万人の横断分析が地域全体の課題(高血圧傾向)を炙り出し、SaluDiのAI実証が個々の市民に自分のリスクを意識させ健康行動を促す。マクロな施策立案の根拠づくりと、ミクロな市民の意識変容を、一つのプロジェクトのなかで接続している。 (参考:日立製作所プレスリリース)
第三の特徴は、分析で見えた課題をそのまま次年度の具体策に落とし込んでいる点である。「高血圧が多い」という分析結果に対し、高血圧予備群への支援、血圧計の市内設置、AIアドバイス機能の追加という対応策を用意している。データ分析が報告書で終わらず、データにもとづく政策立案(EBPM)の循環として機能している。 (参考:日立製作所プレスリリース、innovatopia)
2026年6月時点で確認できる成果は、主に2つの実証の完了とその知見である。第一に、5保険者を横断して約7万人分のデータを集約・分析する基盤が整い、市全体・年齢別・男女別・保険者別の疾病傾向を把握できるようになった。とりわけ高血圧の発症が比較的多いという具体的な課題が特定された。第二に、SaluDiを用いたAI実証では305人が参加し、利用前後のアンケート調査で一部の市民にヘルスリテラシー(健康情報を理解し活用する力)の向上が確認された。これにより、健康アプリの活用が市民の健康行動を促すうえで有効である可能性が示された。 (参考:日立製作所プレスリリース、IT Leaders)
これらの成果を踏まえ、2026年度には新たな健康施策が予定されている。具体的には、高血圧予備群への支援強化、アプリと連動する血圧計の市内各所への設置、個人の健康状態や日々の行動データに応じてより個別性の高い助言を行うAIアドバイス機能の追加、各保険者と連携した施策の検討である。一方で、ヘルスリテラシーの向上が確認されたのは「一部市民」であり、健康行動の変容や医療費・健康寿命といった最終的な成果指標への効果は今後の検証に委ねられている段階である点には留意が必要である。 (参考:日立製作所プレスリリース、innovatopia)
第一の示唆は、健康データを「保険者単位」ではなく「行政区域単位」で捉え直す発想である。多くの自治体が国保・後期高齢者のデータに依存するなかで、協会けんぽや健保組合を巻き込んで現役世代を含めた地域全体の健康像を描けば、世代を横断した課題の偏りが見えてくる。複数保険者との連携合意とデータを統計情報として扱う基盤さえ確保できれば、自地域の健康課題を「自分のまちの数字」として把握する手法は、他の自治体にも応用可能である。
第二の示唆は、データ分析を政策の循環に組み込むことの有効性である。本事例は、横断分析で「高血圧が多い」という具体的な課題を特定し、それを翌年度の血圧計設置や予備群支援という実装に直結させた。分析を一度きりの調査で終わらせず、見えた課題を施策に落とし、その効果をまた測るというEBPMの循環として設計している点は、データ活用が報告書づくりで止まりがちな現場への教訓となる。
第三の示唆は、再現にあたっての前提条件を見極める必要があることである。この事例は、大企業の技術力・実装力と自治体のデータ・現場が揃って初めて成立した面が大きい。同様の座組みを持たない地域がそのまま再現するには、データ連携を担う事業者の確保が課題となる。加えて、複数保険者のデータを集約する以上、いったん束ねた情報から個人が割り出されてしまう危険や、本来の目的を超えた使われ方を防ぐ仕組みが欠かせない。あわせて、データをどう加工して個人を識別できなくしているか、AIがどんな根拠で助言しているかを説明できる状態にすること、そして市民が利用を望まない場合に断れる選択肢を保証することなど、個人情報の取り扱い体制の整備が前提となる。共創の相手や役割分担、データガバナンスをどう設計するかが、横展開の成否を分けると考えられる。 (参考:innovatopia、IT Leaders)
2026年6月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
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