
第5次沼津市総合計画 後期推進計画(令和8年度〜令和12年度)の策定
沼津市が2026年3月、前期推進計画の終了を機に「第3期総合戦略」と一体的に後期推進計画を策定。EBPMの考え方を導入し、8つのまちづくりの柱に70の主要事業とKPIを紐づけ、全事業にデジタル技術活用欄を設けて進行管理する枠組みを構築した事例。
沼津市は2026年3月、令和3年度から令和12年度までを計画期間とする「第5次沼津市総合計画」の前期推進計画(令和3〜7年度)の終了を受け、後継となる「後期推進計画(令和8年度〜令和12年度)」を策定した。最大の特徴は、国の地方創生政策の見直しに対応するため、本来は別個に策定・改定されてきた「総合計画」と「第3期沼津市総合戦略」を一体的に策定した点にある。まちづくりの柱と総合戦略の基本目標の構造を統合し、EBPM(証拠に基づく政策立案)の考え方のもとで70の主要事業それぞれに活動指標・成果指標(KPI)を設定し、進行管理を行う枠組みを構築した。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画)
計画案は外部有識者や沼津市総合計画審議会の意見を踏まえてまとめられ、2025年12月18日から2026年1月19日にかけてパブリックコメントが実施された。提出意見は1名2件にとどまったが、市はその内容を精査したうえで意見の概要と市の考え方を公表し、令和8年3月に計画を確定させた。(参考:「第5次沼津市総合計画後期推進計画(案)」に関する意見募集の結果について)
第5次沼津市総合計画は、将来都市像「人・まち・自然が調和し、躍動するまち〜誇り高い沼津を目指して〜」の実現に向け、令和元年度に基本構想を議決、令和2年度に基本計画と前期推進計画を策定するという段階を踏んで構築された10年計画である。前期推進計画(令和3〜7年度)が令和7年度末で満了することから、後期の5年間(令和8〜12年度)に主要事業を絞り込み直し、社会経済情勢の変化を反映させた計画への更新が必要となっていた。(参考:総合計画とは?/沼津市)
沼津市は平成27年10月に「まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略」を策定して以降、令和3年3月の人口ビジョン改訂・第2期総合戦略策定を経て今回の一体的策定に至るまでの11年間、総合計画とは別立てで地方創生の戦略を運用してきた。策定支援を担った株式会社ブレインファームによれば、総合計画と総合戦略はともに「まちづくりの方向性」を扱いながら別々の体系・指標で管理されており、複数の事業が両計画にまたがって入り組んで位置づけられている状態にあった。この構造を棚卸しし、まちづくりの柱と基本目標を統合する必要性が、後期推進計画策定の背景の一つとなっている。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画策定支援業務委託/株式会社ブレインファーム)
国は令和7年6月13日に「地方創生2.0基本構想」を閣議決定し、「強い経済」「豊かな生活環境」「新しい日本・楽しい日本」を目指し、地方で安心して働き、暮らしていける生活基盤づくりを含む5つの柱からなる政策パッケージを示した。まち・ひと・しごと創生法に基づき地方版総合戦略の策定を求められている沼津市にとって、国の方針転換を踏まえて第3期総合戦略を策定し、総合計画の後期推進計画に整合させることが新たな課題となった。(参考:地方創生2.0基本構想について/内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局)
沼津市は2024〜2025年度の2年間、後期推進計画と第3期総合戦略という2つの計画を切り離さずまとめて作り上げるための策定支援業務を外部に委託した。受託した株式会社ブレインファームは、総合計画と総合戦略に入り組んでいた複数事業を棚卸しした上で構造を整理し、まちづくりの柱と基本目標を統合するとともに、EBPMの考え方に沿って各事業の指標を成果を測るものと活動量を測るものとに整理し直し、国が示した地方創生2.0の方針を第3期総合戦略にどう位置づけるかを整理する作業を担った。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画策定支援業務委託/株式会社ブレインファーム)
整理された計画案は、外部有識者と沼津市総合計画審議会の審議を経てまとめられた。前期推進計画時に実施されていたような住民参加型の地域別ワークショップは今回の後期策定では実施されておらず、専門家・委員会による審議とパブリックコメントを組み合わせた、より軽量な合意形成プロセスが採られている。(参考:第5次沼津市総合計画策定に係る地域別会議/沼津市)
計画案「第5次沼津市総合計画後期推進計画(案)」は2025年12月18日から2026年1月19日まで、沼津市ホームページ、市役所(政策企画課・生活安心課)、市内各市民窓口事務所、市立図書館で閲覧に供され、パブリックコメントが実施された。提出者は1名、意見は2件で、うち1件は「主要事業一覧の各事業説明において『デジタル技術の活用』の項目欄があるものとないものが混在しているため、全事業に項目欄を設け、該当なしの場合もその旨を表示すべきではないか」という指摘だった。市はこれを受け入れ、全70事業に「デジタル技術の活用」欄を統一して設ける修正を行った。もう1件の「安全な地域づくり推進事業」に熱中症対策を明記すべきという意見については、既存の環境基本計画や危機管理体制で対応済みであることを理由に、修正を見送っている。意見の概要と市の考え方が公表され、令和8年3月に計画が確定した。(参考:「第5次沼津市総合計画後期推進計画(案)」に関する意見募集の結果について)
多くの自治体では、最上位計画である総合計画と、まち・ひと・しごと創生法に基づく地方版総合戦略が、策定時期も所管も異なる別個の計画として運用され、同じような事業が両方に重複して位置づけられがちである。沼津市は後期推進計画の策定に際して、総合計画が掲げる「定住人口の確保」「交流人口の拡大」「産業の振興」「安全安心の確保」という4つの方向性を、そのまま第3期総合戦略の基本目標として読み替え、8つの「まちづくりの柱」の下に総合戦略の事業を包含する形で一本化した。二重の計画・二重の進行管理を解消し、単一の体系で事業を管理する構造を採った点に特徴がある。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画)
後期推進計画は、8つのまちづくりの柱の下に70の主要事業を位置づけ、それぞれに担当課、事業概要、デジタル技術の活用内容、5ヵ年の概算事業費(百万円単位)を一覧化して明記している。例えば沼津駅周辺総合整備事業(鉄道高架化等)に197億89百万円、中間処理施設整備事業に326億31百万円、水道施設更新・耐震化事業に120億39百万円を見込むなど、大規模事業の費用感を含めて公開している点は、事業の優先順位づけや予算編成の指針としての実務性を高めている。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画)
70の主要事業には、AIやビッグデータ、ドローン、VR/AR、GTFSデータ、ケアプランAI作成支援システムなど、事業ごとに異なるデジタル技術の活用内容が個別に記載されている。当初案では該当欄の有無が事業によってばらついていたが、パブリックコメントで寄せられた指摘を受けて全事業に欄を統一するという、具体的で検証可能な形で市民意見を反映させた点は、少数の意見であっても実務レベルの改善につなげた実践例といえる。(参考:「第5次沼津市総合計画後期推進計画(案)」に関する意見募集の結果について)
後期推進計画は、先行きが見通しにくい時代だからこそ、一人ひとりが安心して幸せを感じられているかという「ウェルビーイング」の観点を新たな軸に据え、まちづくりの参考指標として「沼津に愛着を感じ、住みたい、住み続けたいと思う市民の割合」を設定した。この指標を市民全体だけでなく、若者・女性という属性別にも分解して測定し、それぞれ個別の目標値(全体78.6%→80%、若者82.5%→85%、女性76.9%→80%、いずれも令和12年度目標)を設定している点は、満足度を単一の集計値で終わらせず、政策的に重視する層の実感を切り分けて追跡する工夫である。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画)
後期推進計画(第3期沼津市総合戦略)は令和8年3月付けで正式に確定・発行された。パブリックコメントで得られた1件の意見を反映し、全70事業に「デジタル技術の活用」欄を統一する修正が施された。提出意見自体は少数だったが、意見募集の実施から結果公表までの手続きが完了し、案から確定版への修正履歴が公開資料として残された。(参考:「第5次沼津市総合計画後期推進計画(案)」に関する意見募集の結果について)
後期推進計画は、総合計画のまちづくりの方向性ごとに参考指標と目標値を設定している。「ひとが行き交うまちへ」に対応する観光交流客数は344.1万人(令和6年)から500万人(令和12年)へ、「産業が元気なまちへ」に対応する経済活動別市町内総生産は8,662億円(令和3年)から9,095億円(令和10年)へ、「安全・安心のもとで暮らせるまちへ」に対応する災害に備えている市民の割合は68.9%(令和7年)から75%(令和12年)へ引き上げることが目標として明記された。社会動態については、令和6年度時点の転入超過を令和12年度も維持することが目標とされている。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画)
策定支援を担った受託事業者によれば、今回の一体的策定により、これまで個別に管理されていた複数事業が棚卸しされ、指標の整合性が確保された結果、各事業の実施が市政にどのような効果をもたらしたかを後から辿って検証できる体制になったとされている。70事業すべてにKPIと概算事業費が紐づけられたことで、令和8年度以降の毎年度の予算編成や事務執行の際に、進捗検証が可能な指針として活用できる状態になった。(参考:第5次沼津市総合計画後期推進計画策定支援業務委託/株式会社ブレインファーム)
まち・ひと・しごと創生法に基づく地方版総合戦略は、多くの自治体で総合計画とは別の審議体・別のスケジュールで策定・改定されており、同じような事業が両方の計画に別々の指標で位置づけられる非効率が生じやすい。沼津市が行ったように、総合計画の「まちづくりの方向性」を総合戦略の基本目標として読み替え、両者の柱を一本化する手法は、二重の進行管理コストを抑えたい他自治体にとって、具体的に模倣可能な再編モデルとなる。属人的な工夫ではなく、計画の記載構造そのものを変更する対応であるため、再現性が高い。
デジタル技術の活用状況を一覧化する際、活用がある事業だけを記載すると、読み手は活用していない事業の存在に気づきにくい。沼津市が採用した「全事業に欄を設け、活用がない場合はその旨を明示する」という形式は、DX推進の進捗を分野横断で可視化したい他自治体でも応用しやすい、小さいが効果的なフォーマット上の工夫である。
意見提出が1名2件という少数であっても、内容を精査し、実際に計画の記載形式を修正するというプロセスを踏んだことは、パブリックコメント制度が形骸化しやすいという一般的な課題に対する一つの実践例である。意見の採否理由(デジタル欄は統一、熱中症対策は既存計画で対応済みのため見送り)を明確に文書化して公表している点も、他自治体が同様の運用を行う上での参考になる。
「市民満足度」のような包括的な指標を単一の数値で管理するのではなく、政策的に重点を置く層(若者・女性など)ごとに切り分けて目標値を設定する手法は、特定の属性に向けた施策の効果検証を独立して行いたい他自治体にとって、KPI設計上の参考になる。全体値の改善が特定の層の実感を反映しているとは限らないため、層別の指標管理は施策の的確性を高める工夫といえる。
2026年07月時点の調査内容に基づいて作成
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