
一般財団法人杉並区交流協会(SACE)による多文化共生・国際交流事業
杉並区の外郭団体・一般財団法人杉並区交流協会(SACE)が、在住外国人への生活相談や日本語教室の会場提供と、国内10自治体・海外3都市との交流事業を一体的に担い、多文化共生と地域間交流を両立させている事例。
一般財団法人杉並区交流協会(SACE:Suginami Association for Cultural Exchange)は、JR阿佐ケ谷駅と東京メトロ南阿佐ケ谷駅から徒歩圏内の「みなみ阿佐ケ谷ビル」に事務所を置く、杉並区の外郭団体である。「人と人、地域と地域をつなぐ」という理念のもと、外国人住民への生活支援、国内外自治体とのネットワーク維持、多文化共生への理解促進という三つの領域で事業を展開している。(参考:杉並区交流協会|すぎなみ地域コム、Suginami Association for Cultural Exchange(SACE)|杉並区公式ホームページ)
行政の文化・交流課が政策の方向性を示す一方、SACEは日本語教室への会場提供、語学ボランティアの登録・派遣、外国人サポートデスクでの生活相談、国内10自治体・海外3都市との交流事業の実務を一手に担う実行部隊として機能している点が特徴である。会員数は250名にのぼる。(参考:杉並区交流協会|すぎなみ地域コム)
杉並区は1989年、北海道名寄市(旧風連町)との「交流自治体協定」、群馬県東吾妻町(旧吾妻町)との「友好自治体協定」を締結したのを皮切りに、国内自治体との交流を積み重ねてきた。現在は国内10自治体、および1990年に友好都市提携を結んだオーストラリア・ウィロビー市を含む海外3都市と交流関係を持つに至っている。(参考:自治体との交流|杉並区公式ホームページ、杉並の交流自治体(概要)|すぎなみ学倶楽部)
一方で区内では多国籍化も進んでいた。杉並区にはネパール人学校(エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパン)が2013年に開校するなど、ネパール人をはじめとする外国人住民のコミュニティが形成されており、区内在住外国人の国籍別人口でネパールは上位を占める。区は2025年1月に「杉並区多文化共生基本方針」を策定し、4つの重点項目・13の取組を掲げて施策を体系化した。(参考:「杉並区民の手でネパールの子どもたちに教育を!」キャンペーン第16弾|チャイルド・ファンド・ジャパン、杉並区多文化共生基本方針|杉並区公式ホームページ)
自治体間交流と外国人住民支援という2つのテーマは、いずれも行政の政策部門だけで実務を回すには専門性と継続性が求められる分野である。区はこの実務機能を担う組織として、2006年4月にSACEの前身となる任意団体を発足させた。(参考:杉並区交流協会|すぎなみ地域コム)
1. 任意団体から一般財団法人への移行
SACEは2006年4月、任意団体として発足した。その後、外国人住民への支援プログラムを拡充し組織基盤を強化する目的で、2021年4月1日に一般財団法人へ移行し、現在の体制となった。代表者は理事長の井上泰孝氏が務める。(参考:Suginami Association for Cultural Exchange 公式サイト(英語版)、杉並区交流協会|すぎなみ地域コム)
2. 日本語教室への会場提供とボランティア支援の仕組み化
SACEは自ら日本語教室を運営するのではなく、区内のボランティアグループに事務所内の会議室を提供する形をとっている。みなみ阿佐ケ谷ビル5階のSACEフロアでは、1994年発足の「LTC友の会」による「阿佐ヶ谷教室」をはじめ、複数のボランティアグループが曜日を分けて日本語教室を開講している。区が運営する「東京日本語教室サイト」でも、SACEの拠点を会場とする教室が複数紹介されている。(参考:東京日本語教室サイト|杉並区の教室一覧、Learning Japanese Language|杉並区公式ホームページ)
3. 外国人サポートデスクによる生活相談
SACEは事務所内に外国人サポートデスクを運営し、在住外国人からの生活相談に日常的に対応している。加えて杉並区役所本庁舎内にも、曜日ごとに英語・中国語・韓国朝鮮語・ネパール語の通訳が対応する外国語サポートデスクが設けられており、その案内資料はSACEが作成・公開している。区の文化・交流課による総合窓口と組み合わさることで、来所者が言語や相談内容に応じて適切な窓口にたどり着けるようにしている。(参考:外国人との交流|杉並区公式ホームページ、杉並区役所外国語サポートデスク案内|杉並区交流協会)
4. 交流自治体との継続的な事業
国内交流では、新潟県小千谷市との2004年の災害時相互援助協定を契機に、その5か月後に発生した中越地震で杉並区が支援を行うなど、防災協定を軸とした関係が交流事業に発展した例がある。福島県南相馬市とも2005年に同様の協定を結び、東日本大震災の際に支援を実施している。SACEはこうした交流自治体の物産販売、写真展、ツアー企画などの実務を担い、11月の「すぎなみフェスタ」では交流自治体合同の物産展を開催している。さらに杉並区役所1階ロビーには「コミュかるショップ」を常設し、名寄市の菓子、南相馬市のうどん、小笠原村のレモンゼリー菓子、小千谷市の米菓など交流自治体の物産を通年で販売している。(参考:杉並の交流自治体(概要)|すぎなみ学倶楽部、コミュかるショップ|すぎなみ学倶楽部)
5. 国際協力活動との連携
SACEは区・区教育委員会とともに、NPO法人チャイルド・ファンド・ジャパンが主催する「杉並区民の手でネパールの子どもたちに教育を!」キャンペーンを後援している。区民から集まった古本や書き損じハガキ、未使用切手を換金し、ネパール国内の経済的に厳しい地域で暮らす子どもたちの就学を後押しする資金に充てる仕組みで、2025年12月開始の取組は第16弾を数える継続事業となっている。(参考:「杉並区民の手でネパールの子どもたちに教育を!」キャンペーン第16弾|チャイルド・ファンド・ジャパン)
行政の実務執行組織としての一体運営
多くの自治体では、外国人支援と自治体間交流(姉妹都市・友好都市)は別々の部署や団体が担うことが多い。SACEはこの2つの機能を一つの法人に統合し、日本語教育の会場提供から自治体間の物産販売まで、性質の異なる事業を一体的に運営している点が特徴である。区の文化・交流課が政策立案を担い、SACEが実務執行を担うという役割分担が明確であることも、事業の継続性を支えている。(参考:外国人との交流|杉並区公式ホームページ、自治体との交流|杉並区公式ホームページ)
「場を提供する」支援モデル
SACEは日本語教室を自ら企画・実施するのではなく、区内で既に活動しているボランティアグループに会議室という場を提供する黒子役に徹している。運営主体は複数の独立したボランティア団体のまま、会場という共通インフラだけをSACEが担うことで、教室ごとの独自性を保ちながら区内の日本語学習機会を面的に広げる仕組みになっている。(参考:東京日本語教室サイト|杉並区の教室一覧)
物産販売による交流の日常化
SACEは杉並区役所1階ロビーに「コミュかるショップ」を常設し、交流自治体の物産を通年で販売している。行政手続きで区役所を訪れた区民が偶然目にする形で交流自治体との関係を意識できるようにしており、イベント時だけの一過性の交流に終わらせない仕掛けとなっている。(参考:コミュかるショップ|すぎなみ学倶楽部)
任意団体からの法人化による継続性の確保
2006年の任意団体としての発足から15年を経た2021年に一般財団法人へ移行したことで、区の外郭団体としての位置づけと財産的基盤が明確になった。これにより、複数年度にわたる交流事業や、区教育委員会・NPOとの共催事業といった、任意団体では担いにくい継続的・対外的な連携が可能になっている。(参考:Suginami Association for Cultural Exchange 公式サイト(英語版))
日本語学習機会については、みなみ阿佐ケ谷ビルのSACEフロアを会場とする教室だけでも、1994年発足の「LTC友の会」による「阿佐ヶ谷教室」など複数のボランティアグループが曜日ごとに教室を開講しており、区が運営する「東京日本語教室サイト」からも継続的に案内されている。(参考:東京日本語教室サイト|杉並区の教室一覧)
組織運営面では、会員数250名を擁する一般財団法人として、機関紙「杉並区交流協会だより」(2026年7月時点で第81号)とニュースレター(2025年12月時点で第159号)を継続発行しており、2006年の発足から事業を途切れさせずに続けてきたことがうかがえる。(参考:杉並区交流協会|すぎなみ地域コム、一般財団法人 杉並区交流協会公式サイト)
国際協力の分野では、チャイルド・ファンド・ジャパンとの共催によるネパール教育支援キャンペーンが2025年12月時点で第16弾に達しており、区・区教育委員会・エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパンとの連携枠組みが長期にわたり維持されている。(参考:「杉並区民の手でネパールの子どもたちに教育を!」キャンペーン第16弾|チャイルド・ファンド・ジャパン)
「支援」と「交流」を同じ組織に統合する設計
在住外国人支援と自治体間交流は、担当部署が別であることが多いために縦割りになりがちである。SACEのように両者を一つの実務組織に統合すれば、多文化共生の視点を自治体間交流の企画にも反映させやすくなる。物産販売や姉妹都市イベントの現場に多言語対応のノウハウを持つ組織が関わることは、他地域でも応用可能な設計思想といえる。
ボランティア主体の活動に場を提供する黒子役
日本語教室のようにボランティア主体で成立している活動は、担い手の確保や会場の確保が課題になりやすい。SACEのように行政系の組織が会議室という物理的インフラだけを提供し、教室の企画・運営は各ボランティア団体の裁量に委ねるモデルは、既存の担い手を尊重しながら活動基盤を安定させる手法として、他自治体でも参考になる。
任意団体から法人化するタイミングの設計
SACEは発足から15年を経て一般財団法人に移行しており、組織の実績や必要性が明確になった段階で法人化するという時間軸を辿っている。立ち上げ当初から重厚な法人格を整えるのではなく、任意団体として活動実績を積んでから法人化するという順序は、限られた人的・財政的資源で組織を持続させたい他地域の中間支援組織にとっても現実的な選択肢となりうる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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