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杉並区帰宅困難者対策(駅前滞留者対策連絡会・一時滞在施設整備)
杉並区帰宅困難者対策(駅前滞留者対策連絡会・一時滞在施設整備)

杉並区帰宅困難者対策(駅前滞留者対策連絡会・一時滞在施設整備)

杉並区帰宅困難者対策(駅前滞留者対策連絡会・一時滞在施設整備)

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東京都帰宅困難者対策条例に基づき杉並区がJR中央線4駅で構築した駅前滞留者対策連絡会と一時滞在施設37カ所の受入体制。駅ごとの地形特性に応じた計画づくりと官民の役割分担、計画書自身が認める運用上の課題までを整理する。

概要

杉並区は、東京都帰宅困難者対策条例(平成25年4月施行)に基づき、区内を走るJR中央線の荻窪・西荻窪・阿佐ケ谷・高円寺の4駅それぞれに「駅前滞留者対策連絡会」を設置し、駅ごとに「駅周辺エリア防災計画」を策定・運用している。連絡会は鉄道事業者や駅周辺事業者、警察・消防などで構成され、大規模地震発生時に駅前で発生する滞留者の誘導ルールや、区・事業者が共同運営する「情報提供ステーション」の設置手順を具体化してきた。 (参考:帰宅困難者の対策|杉並区公式ホームページ杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

あわせて区は、地域区民センターや都立高校、宗教施設・企業施設などを一時滞在施設として指定し、2026年1月時点で区立9カ所・都立3カ所・民間25カ所の計37施設を確保している。コンビニエンスストアやガソリンスタンドなどを対象とする「災害時帰宅支援ステーション」は、チェーン店については東京都が一括で協定を結び、個人経営店など区内単一で営業する事業者は区が個別に協定を結ぶという役割分担で運用される。 (参考:帰宅困難者の対策|杉並区公式ホームページ杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

駅前滞留者対策連絡会は2013年7月の荻窪駅を皮切りに、2016年1月に西荻窪駅、2017年3月に阿佐ケ谷駅、2018年3月に高円寺駅と、5年弱をかけて区内JR4駅すべてに設置された。各駅のエリア防災計画は西荻窪(2018年)、阿佐ケ谷(2021年)、荻窪(2024年)、高円寺(2026年)の順に改訂されており、駅ごとの地域特性を踏まえた内容へと段階的に具体化が進められている。 (参考:杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

背景・課題

対策の直接の契機は2011年の東日本大震災である。首都圏では鉄道の大半が運行を停止し、道路の大渋滞と携帯電話のふくそうによる安否確認困難が重なり、東京都内だけで約352万人の帰宅困難者が発生した。これを受けて国と都は同年9月に「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会」を設置し、翌2012年9月に「駅前滞留者対策ガイドライン」を含む5種類のガイドラインを策定、2012年3月には東京都帰宅困難者対策条例が公布され、2013年4月に施行された。 (参考:東京都帰宅困難者対策条例の概要|東京都防災ホームページ

条例は、従業員等の施設内待機と3日分の飲料水・食料の備蓄を事業者の努力義務とする「一斉帰宅抑制」の原則を掲げ、知事が都有・都管理施設等から一時滞在施設を指定・確保すること、公共交通機関停止時の帰宅支援を行うことなどを定めている。「駅前滞留者対策」自体は杉並区独自の枠組みではなく、都が区市と共同して駅周辺の事業者等による協議会を設立するという都全体の制度であり、2023年4月1日時点で都内52カ所に同様の協議会が設置されている。杉並区の4連絡会は、この都の標準的な枠組みを区内の各駅に実装したものにあたる。 (参考:駅前滞留者対策の概要|東京都防災ホームページ東京都帰宅困難者対策条例(東京都例規集)

杉並区の被害想定(多摩東部直下地震、マグニチュード7.3、令和4年5月公表)では、区全体で帰宅困難者数51,411人、学校・職場・買い物客・移動中の人などを含めた区内滞留者数は約41万6千人にのぼるとされる。JR高円寺駅だけでも1日あたりの乗降客数はJR約8万人・東京メトロ2駅(新高円寺・東高円寺)で約6万人にのぼり、荻窪駅ではJRとメトロを合わせて約23万人が乗降する。駅ごとの地形的制約も異なり、西荻窪は駅前広場が中央線他駅に比べて狭く、荻窪は南口に広場がない、高円寺は駅前広場が十分な滞留スペースとは言えず老朽木造住宅密集地域を抱える、阿佐ケ谷は南口広場は広いものの丸ノ内線出入口周辺の滞留スペースが不足する、といった課題がそれぞれの駅周辺エリア防災計画に明記されている。 (参考:高円寺駅周辺エリア防災計画杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

取り組みのプロセス

1. 駅前滞留者対策連絡会の設置と行動ルールの策定

区は鉄道事業者、駅周辺事業者、警察署・消防署などを構成員として、荻窪駅(2013年7月)、西荻窪駅(2016年1月)、阿佐ケ谷駅(2017年3月)、高円寺駅(2018年3月)の順に駅前滞留者対策連絡会を設置した。各連絡会は「組織は組織で対応する(自助)」「地域が連携して対応する(共助)」「公的機関は地域をサポートする(公助)」という3層構造の「地域の行動ルール」を策定し、滞留者の誘導方法・役割分担、情報提供方法、誘導場所の選定、誘導計画やマニュアルの策定、駅前滞留者対策訓練の実施を所掌事務としている。 (参考:杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

2. 情報提供ステーションの設置・運営

各駅の周辺には、区と地元事業者・町会・商店会等(「駅周辺事業者等」)が連携して運営する「情報提供ステーション」を設置する計画になっている。区職員(帰宅困難者対応班、発災後おおむね3時間を目安に配備)と駅周辺事業者等が共同で運営し、テント、机・椅子、投光機及び発電機、メガホン、ヘルメット、帰宅困難者支援マップ(配布用)など、駅ごとに10〜20品目程度の資機材を備えて情報提供にあたる。避難誘導は、発災直後は施設内待機を基本とし、一時滞在施設が開設された段階で誘導を行うという2段階方式が取られている。 (参考:荻窪駅周辺エリア防災計画阿佐ケ谷駅周辺エリア防災計画高円寺駅周辺エリア防災計画

3. 一時滞在施設の確保

一時滞在施設の内訳は、区内各地域区民センターを核に、コミュニティふらっと永福や杉並芸術会館(座・高円寺)、杉並公会堂といった区の文化・集会施設、都立高校3校(杉並・豊多摩・農芸)、さらに宗教施設や企業施設など民間の協力先にまで広がっている。2026年1月時点で区立9カ所・都立3カ所・民間25カ所の計37施設が確保されており、最大受入人数は高円寺地域区民センターの957名から、小規模な民間施設の25名まで幅がある。荻窪地域区民センターが改修工事のため2026年9月末まで利用できない期間は大宮前体育館が代替施設として指定されるなど、施設リストは固定的ではなく継続的に更新されている。 (参考:帰宅困難者の対策|杉並区公式ホームページ

4. 帰宅困難者用備蓄の配備

駅前滞留者および区内通過者向けの対策として、区は杉並第一小学校、杉並第十小学校、桃井第一小学校、桃井第二小学校、桃井第三小学校、阿佐谷中学校、旧杉並第四小学校の7校に、非常食(クラッカー)計4,900食を備蓄している。 (参考:杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

5. 災害時帰宅支援ステーションの官民役割分担

徒歩帰宅者への水・トイレ提供などを行う「災害時帰宅支援ステーション」は、東京都が全都立学校(島しょを除く)やコンビニ・飲食チェーンなど広域展開する事業者と一括して協定を締結する一方、区は「区内単一で営業する事業者」と個別に協定を締結し、帰宅支援対象道路の沿道における支援体制整備を担うという役割分担になっている。都全体では37組織が協定を締結し、コンビニ(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン等)や飲食チェーン(吉野家、ドトール、タリーズコーヒー等)、東京都石油業協同組合などが対象となっている。 (参考:帰宅困難者に対する支援|東京都防災ホームページ杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

この事例の特徴

1. 駅ごとの個別カスタマイズ

杉並区の4つの駅前滞留者対策連絡会は、都が示す共通フォーマットに沿いながらも、各駅の地形・交通結節点としての特性に応じて内容を書き分けている点が特徴的である。西荻窪は駅前広場の狭さ、荻窪は南口に広場がない立地、高円寺は東京メトロ新高円寺駅からの流入と木造住宅密集地域の存在、阿佐ケ谷は丸ノ内線出入口周辺の滞留スペース不足というように、駅ごとに異なる課題を個別に整理したうえで避難誘導計画や情報提供ステーションの設置場所を検討している。一律のテンプレートを機械的に当てはめるのではなく、現地の地理的制約を踏まえて計画を作り込んでいる。

2. 隣接区の施設情報を先行して組み込む実務的な工夫

高円寺駅周辺エリア防災計画(2026年1月改訂)は、高円寺駅周辺の一時滞在施設8カ所に加えて、隣接する中野区側の一時滞在施設6カ所(明治大学中野キャンパス、帝京平成大学中野キャンパス、早稲田大学中野国際コミュニティプラザなど)の所在地までを先行して計画書に掲載している。新宿・中野方面から高円寺駅周辺への帰宅困難者の流入を想定し、区境を越えた情報を先行的に整理している点は実務的な工夫といえる。ただし同計画は「隣接区(中野区)との連携」自体を「今後検討すべき課題」として明記しており、施設情報の整理が進む一方で、中野区との公式な連携体制の構築はまだ途上にある。 (参考:高円寺駅周辺エリア防災計画

3. 官民協定の階層構造

コンビニや飲食チェーンなど広域に展開する事業者は東京都が一括して協定を結び、個人経営の商店など地域に根差した事業者は区が個別に協定を結ぶという役割分担は、限られた基礎自治体の行政リソースを、都道府県レベルでは対応しきれない地域密着型の事業者との個別調整に振り向ける合理的な設計になっている。

4. 運用上の制約を計画書自身が明記している

高円寺駅周辺エリア防災計画は「連絡会委員には震災救援所役員を担っている方も多く、滞留者対策の対応が困難な実態がある」「一時滞在施設への誘導などに要する人員不足の課題がある」と、体制の脆弱性を率直に記載している。理想的な体制像だけでなく、実際に連絡会を担う人材が他の防災業務と兼務している実情まで公開している点は、同種の取り組みを検討する他自治体にとって参考になる情報開示のあり方である。 (参考:高円寺駅周辺エリア防災計画

調査時点の成果

1. 区内JR全4駅への体制拡大

2013年7月の荻窪駅での連絡会設置を起点に、2018年3月の高円寺駅設置まで、5年弱で区内を走るJR中央線の全4駅に駅前滞留者対策連絡会と駅周辺エリア防災計画の体制が整えられた。西荻窪(2018年)、阿佐ケ谷(2021年)、荻窪(2024年)、高円寺(2026年)と各計画は改訂を重ねており、単発の計画策定で終わらず継続的に更新されている。

2. 一時滞在施設37カ所・最大受入957名の確保

2026年1月時点で区立9カ所・都立3カ所・民間25カ所、計37カ所の一時滞在施設が確保されている。最大受入人数は高円寺地域区民センターの957名を筆頭に、施設ごとに25名から900名超まで幅広く整備されている。

3. 備蓄・情報基盤の整備

区内7校への非常食4,900食の備蓄に加え、区は公開型GIS「すぎナビ」を活用した災害情報の収集・発信体制を整えており、一時滞在施設の開設状況等を防災行政無線等で提供する仕組みを構築している。 (参考:高円寺駅周辺エリア防災計画杉並区地域防災計画(震災・風水害編)

4. 課題が計画書に明記されている点も含めた到達状況

一方で、杉並区地域防災計画第8章(令和6年修正)は、東日本大震災から時間が経過し企業や都民の条例認知度が低下傾向にあること、行き場のない帰宅困難者向けの一時滞在施設確保・備蓄の充実が必要なこと、JR4駅の情報提供ステーション運営を担う人員体制の明確化や資機材の備蓄・訓練の充実が必要なことなど、複数の項目で未達成の課題を自己点検の形で明記している。東京都防災ホームページの「駅前滞留者対策訓練の様子」ページには八王子・蒲田・渋谷・上野・池袋・品川・北千住・新宿の8駅の訓練事例が掲載されているが、杉並区内4駅の具体的な訓練実施日・参加人数といった対外的な実績発信は、今回の調査では確認できなかった。体制の骨格は整った一方、実働訓練の実績を定量的に示す情報発信は今後の課題として残されている。 (参考:杉並区地域防災計画(震災・風水害編)駅前滞留者対策訓練の様子|東京都防災ホームページ

他地域への示唆

1. 標準テンプレートを地域特性に応じて書き分ける

東京都のガイドラインという共通の枠組みがあっても、それを機械的に適用するのではなく、駅ごとの地形・交通結節点としての特性、周辺の住宅密集度、隣接駅からの流入経路といった要素を個別に分析したうえで行動ルールを設計する必要がある。杉並区の4駅がそれぞれ異なる課題を明記している点は、複数の駅を抱える自治体が対策を横展開する際の実務的な参考になる。

2. 正式な広域連携の前段階として、情報の先行整備から着手できる

隣接自治体との正式な協定や合同訓練の実施には時間がかかることが多いが、高円寺駅周辺エリア防災計画のように、まず隣接区の受入施設情報を自らの計画に組み込むという情報整理は、体制構築の合意形成を待たずに着手できる現実的な一歩である。ただし、情報を計画書に載せるだけでは連携が完成したことにはならず、実際の誘導ルールや費用分担まで詰める次の段階が必要になる点は留意すべきである。

3. 広域事業者と地域密着事業者で協定の主体を分ける

コンビニなど広域展開する事業者との協定は都道府県レベルで一括して結び、個人商店など地域に根差した事業者とは基礎自治体が個別に協定を結ぶという役割分担は、行政リソースが限られる基礎自治体が、より地域の実情に即した調整に注力できるモデルとして他地域でも応用可能である。

4. 協議会運営を担う人材の負荷を計画段階で織り込む

高円寺駅前滞留者対策連絡会の計画書が「委員の多くが震災救援所役員を兼務し対応が困難な実態がある」と明記しているように、協議会という「仕組み」を作ることと、発災時に実際に動ける「体制」を維持することは別の課題である。同種の協議会を新たに設計する自治体は、運営を担う人材の確保・育成をあらかじめ計画に組み込む必要がある。

5. 体制整備と対外的な成果発信は分けて評価する

一時滞在施設や連絡会といった体制の骨格が整っても、実際の訓練実績や参加人数といった定量的な成果が対外的に発信されていなければ、住民や事業者の防災意識向上にはつながりにくい。体制を作ることと、その運用実績を可視化して周知することは別の取り組みとして意識的に進める必要がある。

参照元

2026年8月時点の調査内容に基づいて作成

東京都
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