
西日本シティビル(博多駅前3丁目再開発)
西日本シティ銀行と福岡地所が博多駅前3丁目で進めた本店ビル建替え。老朽化した保有ビル3棟の連鎖的再開発の第一弾として、博多コネクティッドボーナス認定を受け2026年に開業した複合ビルの取り組みを整理する。
「西日本シティビル」は、西日本シティ銀行と福岡地所が共同で設立した特定目的会社「Walk」を事業主体として、福岡市博多区博多駅前3丁目で進められてきた本店ビル建替えプロジェクトである。老朽化した銀行本店本館の建替えとして2023年11月に着工し、2026年3月31日に竣工、同年7月21日に開業した。地上14階・地下4階、延床面積約7万5,700平方メートルの複合ビルで、銀行本店機能に加えオフィスフロア、商業店舗、多機能ホール「NCBホール」を備える。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ、西日本シティ銀行 西日本シティビルプロジェクト概要)
本計画は福岡市が推進する「博多コネクティッド」の認定制度「博多コネクティッドボーナス」を活用した4棟目の竣工事例であり、デンマークの建築設計事務所「3XN Architects」が内外装デザインを手がける日本初の建築物でもある。単発の再開発ではなく、西日本シティ銀行が保有する老朽ビル3棟を順次建て替える「連鎖的再開発」構想の第一弾に位置づけられており、地域金融機関が自社不動産を核にまちづくりへ関与する事例として整理できる。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ、西日本シティ銀行 西日本シティビルプロジェクト概要)
西日本シティ銀行は、博多駅前3丁目に本店本館(築48年)、本店別館(築51年)、事務本部ビル(築40年)の3棟を保有していた。いずれも老朽化と耐震性能の面で更新が必要な状態にあり、同行は2019年12月、これら3棟を一括ではなく順次建て替える「連鎖的再開発」構想を公表した。当初の計画では2020年6月に旧本店ビルの解体に着手し、2022年7月に新本店ビルを着工、2025年2月の竣工を目指すとされていたが、実際の着工は2023年11月、竣工は2026年3月31日となり、当初想定から1年強のスケジュール変更を経て完成に至っている。 (参考:Impress Watch「博多駅前のビル3棟を連続的再開発。西日本シティ銀行」)
この建替えの背景には、福岡市が2019年1月に始動させた都市再生プロジェクト「博多コネクティッド」がある。博多駅から半径約500メートル・約80ヘクタールを対象に、七隈線の延伸やはかた駅前通りの再整備に代表される交通面のてこ入れとあわせて、容積率などの規制を緩和し、耐震性能の高い建物への更新と歩行者動線の拡張を誘導していく仕組みで、2028年末までに約35棟の建替えを目標としている。西日本シティ銀行と福岡地所は「博多コネクティッドボーナス」の認定を追い風に、銀行の本店機能を軸としながらオフィス・商業・ホールを重ね合わせた複合施設へと計画を具体化させていった。単に自社ビルを更新するだけでなく、博多駅の賑わいを周辺に広げるという市の政策目標に沿う形で計画を組み立てた点が、この事例の出発点になっている。 (参考:福岡市 博多コネクティッド、西日本シティ銀行・福岡地所「本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日))
1. 連鎖的建替え構想の発表と旧本店ビルの解体(2019〜2020年)
西日本シティ銀行は2019年12月、老朽化した保有ビル3棟を順次建て替える構想を公表した。旧本店ビルは2020年6月に営業を終了して解体に着手し、49年間続いた店舗としての役割を終えた。建替え期間中、本店営業部は福岡支店内に仮移転して業務を継続した。 (参考:Impress Watch「博多駅前のビル3棟を連続的再開発。西日本シティ銀行」)
2. 博多コネクティッドボーナス認定と着工(2023年)
2023年3月、本計画は「博多コネクティッドボーナス」の認定を受け、計画の概要が公表された。地上と地下をつなぐ歩行者動線の要となる立体広場「コネクティッドコア」の新設、ZEB Ready認証取得を目指す環境配慮、BCP対応、3XN Architectsによる意匠設計など、計画の骨格がこの時点で明らかにされた。同年11月に新本店ビルは着工した。 (参考:西日本シティ銀行・福岡地所「本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日))
3. 名称・テナント決定から竣工まで(2025〜2026年3月)
2025年10月、ビル名称が「西日本シティビル」に決定し、フロア構成が公表された。地下2階に多機能ホール「NCBホール」、1階・地下1階に商業ゾーン、2階に銀行本店営業部、3階に大会議室・応接室、4〜9階一部に西日本フィナンシャルホールディングスグループの執務フロア、9階一部〜13階にオフィステナントフロアを配置する構成が固まった。2026年3月31日に竣工し、4月3日に竣工が発表された。竣工発表時点で、九州初出店となるSHAKE SHACK博多店やSTAND T-HAKATA-など商業テナント5店舗の出店も決定していた。 (参考:西日本シティ銀行・福岡地所「新本店ビルの名称およびフロア構成等の決定について」(2025年10月30日)、福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ)
4. 開業と周辺エリアの連動(2026年6月〜)
2026年6月8日にNCBホールの開館記念セレモニーが行われ、7月21日にビル全体がグランドオープンした。開業に前後して、隣接する明治公園がパークPFI方式によりリニューアルされ、8月7日に7店舗を擁する公園として再開園している。さらに9月には、西日本シティビルの9〜10階にコワーキング事業者「WeWork博多」が福岡3拠点目として開業する予定であり、単体ビルの開業にとどまらず周辺の開発・テナント誘致が連鎖的に進んでいる。西日本シティ銀行は今後、本店別館ビル・事務本部ビルという残る2棟の建替えにも着手する方針で、連鎖的再開発は現在も継続中である。 (参考:フクリパ「西日本シティビルが開業、いま熱い博多駅前3丁目の開発プロジェクト」、東京建物「明治公園」開園プレスリリース、WeWork Japan「WeWork博多」開業プレスリリース)
1. 地域金融機関保有不動産の「連鎖的再開発」モデル
本事例の最大の特徴は、単発の建替えではなく、金融機関が保有する老朽化ビル3棟を「本店本館→本店別館・事務本部ビル」という順序で段階的に更新していく長期構想の第一弾である点にある。業務を止めずに仮移転先を確保しながら1棟ずつ更新することで、資産価値と防災性能を計画的に引き上げていく手法は、まとまった不動産を保有する地場の金融機関や企業にも応用可能な再開発モデルといえる。 (参考:Impress Watch「博多駅前のビル3棟を連続的再開発。西日本シティ銀行」)
2. 公共的な立体広場を核とした民間ビル設計
敷地の北東角に配置された立体広場「コネクティッドコア」は、地上と地下それぞれの歩行者動線が交わる要衝として機能するよう設計されており、地域団体「博多まちづくり推進協議会」等と連携したイベント利用に対応する。民間の複合ビルでありながら、広場空間を単なる敷地内アメニティではなく、駅前エリア全体の回遊性を高めるための公共的な装置として位置づけ、外部の地域運営組織との連携を前提に設計した点が特徴的である。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ)
3. 海外建築家の起用と都市デザイン・文化面での差別化
内外装デザインをデンマークの3XN Architectsが担当しており、同事務所にとって日本初の建築物となった。鋸歯状のタイルとガラスを組み合わせた外装は、直射日光を遮ることでビル内部のエネルギー負荷を抑えつつ、周辺への光の反射も抑制する機能的な意匠となっている。建物低層部には、オーストリア出身の彫刻家エルヴィン・ヴルム氏の作品を屋外展示するなど、機能性だけでなく都市デザイン・文化面での差別化を図っている。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ)
4. 民間複合ビルへの文化インフラの組み込み
地下2階に整備された「NCBホール」は、最大約400席を有し、クラシック音楽や伝統芸能の上演といった文化催事から、セミナー・会社説明会などの実務利用まで幅広くこなせる多目的空間である。行政による公共ホール整備とは別に、民間の複合ビル開発の中に一定規模の文化施設を組み込み、地域の文化交流の受け皿を増やす手法は、公共財源だけに頼らない文化インフラ整備のあり方として注目できる。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ)
5. 環境性能とBCP機能の複合的な訴求
ビルはBELS「ZEB Ready」、WELL認証(WELL Core)、LEED認証、DBJ Green Building認証、CASBEE福岡など7種類の環境関連認証を予備認証を含めて取得しており、一次エネルギー消費量についてはビル全体でおよそ49%、事務所部分ではおよそ50%の削減を達成している。あわせて、法定の1.5倍の耐震性能を持つ大規模免震構造を採用し、72時間分の稼働に耐える非常用発電機を備えるとともに、災害発生時には帰宅困難者を受け入れる避難スペースとしても活用できる設計とし、環境性能と防災性能を同時に訴求している。 (参考:西日本シティ銀行・福岡地所「新本店ビルの名称およびフロア構成等の決定について」(2025年10月30日))
1. 博多コネクティッドにおける進捗への貢献
西日本シティビルは、博多コネクティッドボーナスの認定を受けたビルとしては、博多イーストテラス(2022年8月竣工)、コネクトスクエア博多(2024年3月竣工)、中央日土地博多駅前ビル(2025年6月竣工)に続く4棟目の竣工となった。福岡市によれば、博多コネクティッドが始動した2019年1月から2026年3月末までに35棟が建築確認申請を行い、うち30棟が竣工しており、2028年末までに約35棟の建替えという目標に対して着実に進捗している。西日本シティビルは、その中でも延床面積約7万5,700平方メートルという大規模な竣工事例として、計画全体の進捗を象徴する存在になっている。 (参考:福岡市 博多コネクティッド)
2. テナント誘致の実績
商業ゾーンには、九州エリアに初進出するハンバーガーチェーン「SHAKE SHACK博多店」や、東京・丸の内発の立ち飲み酒場業態をリブランディングした「STAND T-HAKATA-」など5店舗の出店が決定した。オフィスフロアには、コワーキング事業者WeWork Japanが福岡3拠点目となる「WeWork博多」を9〜10階に開業予定であり、博多駅前エリアでも屈指の広さを誇る基準階(最小40坪〜最大1,188坪まで区画可能)を強みにテナント誘致が進んでいる。 (参考:福岡地所・西日本シティ銀行「西日本シティビル」竣工のお知らせ、WeWork Japan「WeWork博多」開業プレスリリース)
3. 環境性能面での評価
BELS「ZEB Ready」認証において、西日本シティビルのオフィスフロアはオフィスビル部門で全国3位、西日本では最大規模の延床面積での認証取得となった。次世代人検知センサーによる照明・空調・外気量の自動制御など、取得した認証の裏付けとなる具体的な省エネ技術の導入が確認できる。 (参考:西日本シティ銀行・福岡地所「新本店ビルの名称およびフロア構成等の決定について」(2025年10月30日))
4. 回遊性の広がりに関する客観的な課題
一方で、街への効果を評価する上では留保も必要である。九州大学の黒瀬武史教授は、博多駅地区における人の回遊行動(ぶらぶら歩き)が現状では駅街区に集中しており、大名や今泉方面まで広く人が行き交う天神エリアと比べると、周辺街区への広がりは限定的であると指摘している。西日本シティビルの開業や隣接する明治公園のリニューアルは、博多駅から周辺への人流拡大に向けた材料の一つではあるが、大規模ビルの竣工そのものが直ちに面的な賑わいの拡大を意味するわけではないことを示す指摘であり、今後の裏通りエリアの魅力づくりが引き続きの課題として残されている。 (参考:フクリパ「西日本シティビルが開業、いま熱い博多駅前3丁目の開発プロジェクト」)
1. 保有不動産を段階的に更新する「連鎖型」再開発の応用可能性
地域金融機関や地場の大企業が老朽化した複数の自社ビルを保有しているケースは全国に少なくない。西日本シティ銀行の事例のように、業務を止めずに1棟ずつ順次建て替えていく手法は、まとまった投資を一度に行うことが難しい主体にとって、資産価値と防災性能を計画的に更新していく現実的な選択肢になり得る。特定の立地や企業規模に依存する要素は少なく、複数拠点を保有する地方の金融機関・企業一般に応用しやすいモデルといえる。
2. 都市再生インセンティブ制度と「賑わい創出」要件の連動
博多コネクティッドボーナスのように、容積率緩和という民間にとって明確な経済的インセンティブを提供する一方で、立体広場の整備や地域団体との連携イベント対応など「賑わい創出」に関する要件を認定条件として課す仕組みは、民間の建替え投資を公共的な回遊性向上に誘導する制度設計として、他都市の駅前再開発における官民連携のあり方の参考になる。容積率緩和という手段自体は多くの自治体で導入可能であり、認定要件の設計次第で民間投資の方向づけができる点が示唆的である。
3. 民間再開発と連動した文化インフラ整備
行政の財政制約から新たな公共ホールの整備が難しい地方都市にとって、NCBホールのように民間の複合ビル開発の中に一定規模の文化施設を組み込む手法は、地域の文化的な受け皿を増やす一つの選択肢になる。ビジネス用途(セミナー・会社説明会)と文化用途(コンサート・伝統芸能)を両立させる多機能設計にすることで、稼働率を確保しながら地域に開かれた施設として運営しやすくなる点も、他地域が参考にできるポイントである。
4. 「ハコ」の完成と面的な賑わいは別問題という認識
黒瀬教授の指摘が示すように、単体の大規模ビルが完成しても、それだけで周辺街区への人流拡散が自動的に起きるわけではない。他地域で駅前の旗艦再開発を計画する際は、ビル単体の集客力向上だけでなく、裏通りや周辺商店街の界隈性づくり、エリアマネジメント団体との継続的な連携など、面的な回遊性を生み出すためのソフト面の取り組みをハード整備と並行して設計段階から組み込んでおく必要がある。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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