
福山市SDGs未来都市・福山版サーキュラーエコノミー
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2023年5月に内閣府「SDGs未来都市」に選定された福山市が進める「福山版サーキュラーエコノミー」。行政課題と企業・市民の解決策を可視化してマッチングするデジタルプラットフォームを軸に、ものづくりのまちの技術と地域資源を新たな価値に転換する仕組みを追う。
広島県福山市(人口約46万人)は2023年5月19日、内閣府の「SDGs未来都市」に選定された(同月22日に選定証授与式が開催された)。提案テーマは「多様な主体が参画し、新たな価値を創造する『福山版サーキュラーエコノミー』の実現」で、広島県内では東広島市に次いで2例目の選定である。戦後復興の歩みの中で培われてきたとされる「思いやり・優しさ・助け合いの心」を指す福山市の理念『ローズマインド』を基盤に、行政が抱える課題と、企業・市民が持つ技術やアイデアをデジタル上で可視化してマッチングし、経済・社会・環境の三側面を統合的に循環させる仕組みづくりを進めている。 (参考:SDGs未来都市(福山市公式サイト)、福山市が「SDGs未来都市」に 内閣府選定、広島県内2市目(中国新聞デジタル))
中核となるのは、2023年度に構築された「福山市SDGs推進プラットフォーム」である。生産量日本一のデニムや植栽本数100万本のばらといった地域資源と、それぞれが抱える廃棄・活用課題をペアで可視化し、市内外の企業・人材の解決策とマッチングすることで新たな商品・サービスを生み出す仕組みとして設計されている。2023〜2025年度の第1期計画を経て、2026年度からは2030年度までの第2期計画へ移行し、取組を継続中である。 (参考:福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
福山市は鉄鋼・電子デバイス・機械・造船に加え、世界のハイブランドにも生地を供給する高品質デニムに代表される繊維産業など、多様な製造業が集積する「ものづくりのまち」として発展してきた。しかし計画書は、市内には優れた技術・ノウハウを持つオンリーワン・ナンバーワン企業が多い一方、中間工程を担う企業が多いためにその存在が外部に知られておらず、結果としてビジネス機会につながらないケースが見受けられると課題を整理している。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
2020年の国勢調査で460,930人だった福山市の人口は、2040年には約41万人まで減少すると推計されている。年少人口・生産年齢人口比率の減少が続く一方、高齢化率は上昇を続ける見通しで、地域経済を支える人材不足の深刻化が懸念されている。福山市はSDGsデジタルプラットフォームで得た知見のもと、市内外の企業・人材のリソースを掛け合わせ、継続的な人の流れと経済発展につなげる必要があるとしている。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
福山市では「ばらのまちづくり」に代表される市民と行政の協働が、まちづくりの根幹を成してきた。しかし近年の急速な少子高齢化や人口減少、価値観の多様化により、地域の担い手不足やそれに伴う負担増加など、コミュニティの維持に危機感が高まっているという。計画書は、地域の資源や個性を生かしつつ市内外の多様な主体が地域の垣根を越えてつながり、地域課題の解決や活性化につなげる仕組みづくりが必要だと位置づけている。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
環境面では、家庭ごみが減少傾向にある一方で事業系ごみは増加傾向にあり、総量は横ばい、温室効果ガスの排出量も横ばいで推移していた。計画書は、カーボンニュートラルの達成に向けては市民・事業者の環境問題への関心を高めるとともに、特に事業者に対して環境課題解決を通じた新たなビジネス機会の創出や生産活動の高度循環化を促していく必要があるとしている。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
福山市は2023年5月19日、内閣府から「多様な主体が参画し、新たな価値を創造する『福山版サーキュラーエコノミー』の実現」というテーマでSDGs未来都市に選定されたと発表され、同月22日に内閣府で開催された選定証授与式で中島副市長が選定証を受け取った。同年8月には第1期のSDGs未来都市計画(2023〜2025年度)が策定されている。 (参考:福山市が「SDGs未来都市」に 内閣府選定、広島県内2市目(中国新聞デジタル)、福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
先導的取組の柱として位置づけられたのが、「福山版サーキュラーエコノミーの実現に向けたデジタルプラットフォームの構築」である。企画財政局企画政策部の中山雅之課長らが中心となり、①課題の可視化、②リソースの可視化、③SDGsプロジェクトの創出、④高付加価値化、⑤高度循環化という5つのフェーズでプラットフォームを設計した。「生産量日本一のデニム⇔使用済み衣類の廃棄」「植栽本数100万本のばら⇔剪定されたばらの廃棄」「自然豊かな里山里地⇔耕作放棄地」というように、地域の魅力的な素材・資源とそれに伴う課題をペアで可視化し、福山ビジネスサポートセンターFuku-Bizやびんごデジタルラボ、まちづくりサポートセンターといった既存の支援機関を有機的につないでマッチングを図る仕組みとした。プラットフォームは2023年度中に構築され、周知を目的としたシンポジウムには市内の企業・団体から97名が参加した。 (参考:「福山版サーキュラーエコノミー」、福山らしい新たな価値創造へ(Circular Economy Hub)、福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト)、SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト))
デジタルプラットフォームの構想と並行して、地域資源を廃棄せず新たな価値に転換する象徴的な事業がすでに動いていた。2020年に始まった「REKROW(リクロー)」は、市内造船会社の使用済みデニムワークウェア約1,900着(約1.5トン)を回収し、福祉施設と協力して解体、国内外のデザイナーと協働してバッグやスニーカー、家具などにアップサイクルする取組である。また2023年度からは、市の花であるばらの剪定枝を粉状にして生地に混ぜ込む「ばらデニム」の試作が県内外7社の協力で始まった。福山市の進捗評価シートは、こうしたばらの剪定枝の再利用という発想が、木質タンブラーへの転用提案など他企業の取組にも波及する好例になったとしている。 (参考:REKROW: 福山デニムアップサイクルプロジェクト(Do well by doing good.jp)、バラの枝がデニムに変身!? 福山市と県内外7社、廃材活用し試作開始(中国新聞デジタル)、SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト))
2023年度に実施した企業・団体向けの認知度調査で「SDGsに取り組んだ企業に対するお墨付き・認定」を求める声が多かったことを踏まえ、福山市は2024年6月に「福山市SDGs推進宣言制度」を創設した。企業・団体が自らの取組や数値目標を宣言してプラットフォームに掲載できる仕組みで、開始から約2か月後の2024年8月末時点で100件を超える宣言があった。あわせて、環境配慮・多様な人材の雇用促進・働きやすい職場環境整備という3分野に取り組む企業を可視化する「グリーンな企業プラットフォーム」も2023年度中に官民連携で構築されている。 (参考:SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト)、福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
世界40か国が加盟する「世界バラ会連合」が主催する国際大会「世界バラ会議」の第20回大会が、2025年5月18日から24日にかけて福山市で開催された(世界バラ会議福山大会)。同連合の発足から約50年の歴史を持つ大会である。福山市はこの国際会議を、農薬散布を前提としない育てやすいばらの発掘などSDGsに寄与する取組や、プラットフォームで生まれた商品・サービスを国内外に発信する機会と位置づけて活用した。 (参考:2025年5月福山で開催!世界バラ会議とは?(広島県)、福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
多くの自治体のSDGsプラットフォームが企業の取組事例を一覧化するにとどまるのに対し、福山市のプラットフォームは「生産量日本一のデニム⇔使用済み衣類の廃棄」のように、地域の誇る資源とその裏側にある廃棄・活用課題を意図的にペアで提示する設計になっている。これにより、参加する企業や市民が「自分たちの技術やアイデアがどの課題に使えるか」を具体的にイメージしやすくなっている点が特徴的である。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
プラットフォームが生み出したマッチング事例には、「通学路の安全対策」という行政課題に、ある運送業者が保有する地図情報を組み合わせる、「がん検診等の受診率向上」という行政課題に、保険会社が顧客に対して行う受診推奨の手法を組み合わせる、といった事例が含まれる。企業間マッチングにとどまらず、行政サービス自体の改善を民間のリソースで補うオープンイノベーションの対象としている点は、他の多くのSDGs未来都市の取組とは異なる特徴である。 (参考:SDGs未来都市等進捗状況報告2024年度(福山市公式サイト))
福山市は本取組を「三側面をつなぐ統合的取組」と位置づけ、経済→環境(プラットフォーム参画企業の事業系ごみ減量)、環境→経済(プラットフォームを通じて創出したプロジェクト数)、経済→社会(ワーケーターと市内外企業の交流件数)、社会→環境(ごみの1人1日当たり排出量)といった具合に、一つの施策が他分野にどう波及するかをそれぞれKPIとして設定している。分野横断の効果を評価指標として明示的に設計している点は、効果検証の透明性という観点で他自治体の参考になりうる。 (参考:福山市SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
2024年度の進捗状況報告によれば、行政が持つ「課題」に対して企業の「解決手法」をマッチングしたプロジェクトが12件創出された。前述の通学路安全対策や、がん検診受診率向上の事例がその具体例である。あわせて、2024年6月に開始したSDGs推進宣言制度には228の企業・団体が宣言を行い、宣言内容をプラットフォーム上でPRすることで企業・団体の取組意欲を高める効果があったと報告されている。 (参考:SDGs未来都市等進捗状況報告2024年度(福山市公式サイト))
2023年度の進捗評価シートでは、複数の指標が2025年度目標を前倒しで達成している。市内企業のデジタル化を議論・共有する「びんごデジタルラボ」への参加企業数は2021年度の61社から2023年度には159社となり、2025年度目標150社を上回った(達成度110%)。福山ビジネスサポートセンターFuku-Bizの相談者売上向上率も86.7%となり、2025年度目標の70%以上を上回った。ワーケーターと市内外企業等の交流コーディネート件数は2021年度の10件から2023年度に30件となり、2025年度目標の30件を前倒しで達成している(達成度100%)。兼業・副業のマッチング件数は2022年度末までの累計7件に対し、2023年度単年度で目標の15件を達成し累計22件となった。 (参考:SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト))
環境面では、ごみの総排出量が2021年度の150千tから2023年度には139千tに減少し、2025年度目標の142千tを前倒しで達成した(達成度138%)。ごみの1人1日当たり排出量も893g/人・日から834g/人・日に改善している(2025年度目標842g/人・日に対し達成度116%)。社会面では、まちづくりサポートセンターに登録するボランティア・NPOなどの市民活動団体数が2021年度の208団体・社から2024年度には264団体・社となり、約26%増加した。 (参考:SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト)、福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
2025年5月に開催された世界バラ会議福山大会では、環境負荷の少ないばらの植栽・普及に加え、SDGsに寄与する新商品開発等に156件の市民・企業が参加した。第2期計画は、これらの取組が戦後復興と平和の象徴としての「ばらのまちづくり」とともに、国内外から「世界一のばらのまち」として高く評価されたとしている。また、環境配慮や多様な雇用に取り組む企業を可視化する「グリーンな企業プラットフォーム」は、2025年10月末時点で700を超える企業が参画するまでに拡大した。 (参考:福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト))
一方で、進捗が計画通りに進んでいない指標もある。再生可能エネルギーの発電設備導入容量は2021年度の254MWから2024年度には296MWと約16.5%増加したものの、2030年度目標の1,034MWとの差は依然として大きい。第2期計画は、国の交付金上限額の制約などから発電設備の導入容量が全国的にも伸びていない状況にあると分析している。ビジネスコンテストの応募数も2022年度の38件から2023年度は37件とやや減少しており、行政側は初年度の目新しさによる反動としつつ、事業自体の認知は拡大していると評価している。 (参考:福山市第2期SDGs未来都市計画(福山市公式サイト)、SDGs未来都市等進捗評価シート2023年度(福山市公式サイト))
福山市の手法の核心は、地域の誇る産業資源(デニム、ばら、里山里地)を、その裏側で生じている廃棄・活用課題とセットで棚卸しし、可視化する発想にある。この方法は特定のキーパーソンの人脈やカリスマ性に依存するものではなく、自地域の名産品・強みを起点に「それによって何が捨てられているか、何が余っているか」を逆算して洗い出すという、他の産業集積地でも再現可能な手順として応用できる。
多くの自治体のSDGsプラットフォームは企業同士や企業と市民のマッチングにとどまりがちだが、福山市は通学路の安全対策やがん検診の受診率向上といった行政自身の課題も、民間の技術・データ・ノウハウとマッチングする対象に含めている。行政サービスの改善そのものをオープンイノベーションの入口として開放する発想は、財政や人員に制約のある他の自治体にとっても、限られたリソースで課題解決の選択肢を広げる手段として参考になりうる。
経済施策が環境指標にどう波及するか、社会施策が経済指標にどう波及するかを個別のKPIとして設定する福山市の手法は、SDGsのような複合的な政策目標の効果検証を精緻化する上で参考になる。単一分野の目標達成率だけでなく、分野をまたいだ相乗効果を測定する枠組みを持つことで、施策の因果関係を後から検証しやすくなる。
福山市の実績は、びんごデジタルラボの参加企業数やワーケーター交流件数、ごみ排出量削減といった経済・社会・環境の一部指標では早期に目標を達成した一方、再生可能エネルギーの発電設備導入容量のように国の交付金制度など外部要因に左右される指標では計画通りに進んでいない。三側面を統合的に推進すると掲げても、分野によって進捗速度に差が生じうるという事実は、同様の統合型計画を検討する他自治体にとって、指標設計や目標設定の段階で織り込んでおくべき教訓といえる。
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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