
そごう千葉店まちづくり推進プロジェクト「KUTSUROGIBA(くつろぎば)」
千葉市とそごう千葉店が2022年度に連携を開始し、百貨店周辺の公開空地で居場所づくり「KUTSUROGIBA」を継続開催。事業者主導から人材育成スクールを経て住民主体の「グッドネイバーズプロジェクト」へと担い手が広がった公民連携事例。
千葉県千葉市中央区、京成千葉駅直結の百貨店「そごう千葉店」(1967年開業)とセンシティタワー周辺の公開空地を舞台に、地域住民が気軽に立ち寄れる居場所づくりイベント「KUTSUROGIBA(くつろぎば)」が継続開催されている。2022年度、千葉市のリノベーションまちづくり施策とそごう千葉店内で進められていた「プレイスメイキングプロジェクト」が連携を開始したのが出発点である。
当初は百貨店側のメンバーが主体だったが、2023年度に開催された人材育成プログラム「グッドネイバーズスクール(第5回リノベーションスクール)@ちば」をきっかけに、2024年度からは住民主体の「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」が並走するようになった。2025年度にはプロジェクト名称が「そごう千葉店まちづくり推進プロジェクト」に統合され、「新緑テラス」「夕涼みテラス」「Music TO TOWN」「Paper TO TOWN」など季節ごとにテーマを変えながら、2026年3月時点で通算16回目の開催に達しており、その後も2026年5月・7月と開催が続いている。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み、千葉市観光ガイド)
そごう千葉店は1967年の開業以来、千葉駅前の中核商業施設として地域の消費を支えてきた。千葉市は2015年に同店と地域活性化・地産地消等に関する連携協定を締結していたが、当時は個別の協力にとどまっていた。 (参考:Wikipedia:そごう千葉店、健美家)
大きな転機となったのが、親会社セブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武グループの再編である。そごう・西武に対しては2023年1月、千葉市長名で要望書が提出され、そごう千葉店を「まちのシンボル」と位置づけたうえで、既存の商業機能の維持が求められた。千葉駅周辺の活性化グランドデザインでは、そごう千葉店までの範囲が駅周辺の「歩行者中心の賑わい軸」における賑わい創出源の一つとされており、市にとって同店の店舗継続は都市計画上の重要課題だった。 (参考:健美家)
一方、再開発ビル「ウェストリオ」が2013年に完成したことをきっかけに、千葉市はリノベーションまちづくり(補助金に頼らず遊休不動産や公共空間を民間主導で活用する手法)に取り組み始め、2019年度からはリノベーションスクールを本格化させていた。稼働中の大型商業施設であるそごう千葉店が保有する公開空地は、こうした市の施策との接点になり得る資産でありながら、活用の主体や継続的な運営体制が定まっていなかった。 (参考:千葉市:リノベーションまちづくり事業)
そごう千葉店の立地も課題と機会の両面を持っていた。千葉駅東口(駅前広場・バスターミナルのある「表」側)に対し、西側の登戸・新宿・新町・新田町一帯は、個性的な店舗が集積する「裏チバ」と呼ばれるエリアとして以前から住民の間で認識されていた。そごう千葉店はこの表と裏の結節点に位置しており、公開空地をどう活用し両エリアをつなぐかが検討課題となった。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
1. 連携開始とKUTSUROGIBAの始動(2022年度)
千葉市のリノベーションまちづくり施策と、そごう千葉店内で進んでいた「プレイスメイキングプロジェクト」が2022年度に連携を開始した。センシティタワー及びそごう千葉店の周辺にある公開空地を人工芝敷きに整え、テーブルや椅子を並べて来店者が過ごせる空間をつくる「KUTSUROGIBA(くつろぎば)」の実施が始まった。当初の企画・運営はそごう千葉店側のメンバーが中心だった。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
2. 人材育成プログラムを起点とした住民参画(2023〜2024年度)
千葉市は2024年2月、「グッドネイバーズスクール(第5回リノベーションスクール)@ちば」を千葉市役所を会場に開催した(プレスクール2月15日、スクーリング2月23〜25日、参加者15名・2ユニット、企画運営は株式会社リノベリング)。センシティタワー・そごう千葉店周辺の公開空地を対象案件とした実践型スクールで、この活動をきっかけに「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」が発足した。2024年度からはこの委員会がKUTSUROGIBAと並行して独自企画を展開するようになり、住民が主体となる運営の担い手が加わった。 (参考:千葉市:グッドネイバーズスクール(第5回リノベーションスクール)@ちば、千葉市:「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」を主体とした取り組み)
3. 季節テーマを変えた定期開催への発展(2024〜2026年)
2024年5月の「新緑テラス」を皮切りに、7月「夕涼みテラス」、10月開催、2025年3月・5月開催、7月「Music TO TOWN」(音楽ライブと飲食を組み合わせた複合イベント)、11月「Paper TO TOWN」(リニューアル開催)、2026年3月「ピクニック」テーマ回と、季節ごとにテーマ・内容を変えながらおおむね年3〜4回のペースで継続開催され、2026年3月時点で通算16回目に達し、その後も2026年5月・7月と開催が続いている。 (参考:千葉市:KUTSUROGIBA(くつろぎば)新緑テラス、千葉市観光ガイド)
4. プロジェクト名称の統合と企画の多様化(2025年度〜)
2025年度からプロジェクト名称が「そごう千葉店まちづくり推進プロジェクト」に改められ、公開空地等の活用機会がさらに広がった。グッドネイバーズプロジェクト側でも「__ to TOWN」と題した企画シリーズ(「RECORD to TOWN」を2024年4月・2025年4月に開催)や、新宿公園での「ハレ縁日」(8月開催)など、KUTSUROGIBA以外の独自企画も並行して展開されている。 (参考:千葉市:「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」を主体とした取り組み)
1. 稼働中の商業施設が持つ「公開空地」を対象にした点
一般的なリノベーションまちづくりは空き家・空き店舗など遊休不動産を対象にすることが多いが、本事例は現役で営業する大型百貨店が保有する公開空地を対象とした点が異なる。しかも百貨店側がもともと進めていた独自の「プレイスメイキングプロジェクト」に、自治体施策が後から接続する形で連携が生まれており、行政主導で始まる典型的なリノベーションまちづくりとは成立の順序が逆転している。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
2. 運営主体が段階的に事業者主導から住民主体へ移行
2022年度の事業者主導のスタートから、実践型の人材育成スクールを経由して2024年度に住民組織「グッドネイバーズプロジェクト」が加わり、担い手を増やしながら継続してきた。単発のイベントとして終わらせず、育成プログラムを次の運営組織の母体として機能させている点は、公共空間活用イベントにありがちな「旗振り役がいなくなると続かない」という持続性の課題への一つの対応策になっている。 (参考:千葉市:「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」を主体とした取り組み)
3. 既存の地域アイデンティティ「裏チバ」との接続
新たな地域ブランドをゼロからつくるのではなく、以前から住民の間で使われていた「裏チバ」という呼称・エリア認識を企画コンセプトに取り込み、そごう千葉店を「表と裏をつなぐ玄関口」と位置づけている。既に存在する地域の愛称やイメージを足がかりにする手法は、他地域でも参照しやすい考え方である。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
4. 季節・テーマのローテーションによる企画の持続
「新緑テラス」「夕涼みテラス」「Music TO TOWN」「Paper TO TOWN」など、開催のたびにテーマを変えることで来場者を飽きさせない工夫がされている。単一フォーマットの反復ではなく、テーマに応じて音楽・フード・ワークショップ・工作といった出店内容を柔軟に組み替えている点は、複数年にわたる継続開催を支える運営上の工夫といえる。 (参考:千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
1. 開催頻度と継続性
2022年度の連携開始から2026年3月時点で通算16回目の開催に達しており、その後も2026年5月・7月と開催が続いている。千葉市の公式記録でも2024年5月から2026年7月にかけて少なくとも10回の開催情報が確認できる。単発の社会実験で終わらず複数年度にわたり定期的に継続している点は、公開空地活用イベントとして一定の定着を示している。 (参考:千葉市観光ガイド、千葉市:「そごう千葉店」を主体とした取り組み)
2. イベント内容の複合化
2025年7月開催の「Music TO TOWN」では、千葉県ゆかりのバンドやダンスグループなど8組が出演し、地元飲食店8店舗が出店するなど、当初の「休憩できる滞在空間」の提供から、音楽ライブと飲食を組み合わせた複合イベントへと発展した。 (参考:千葉経済新聞、号外NET千葉市)
3. 住民主体組織の確立と独自企画への展開
「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」が発足し、KUTSUROGIBAと並行して「RECORD to TOWN」(2024年4月・2025年4月)、新宿公園での「ハレ縁日」(8月)など、住民自身が企画するイベントが生まれている。これは一過性の交流イベントに参加するだけでなく、住民が自ら企画を立案・実行する担い手として定着しつつあることを示す成果といえる。 (参考:千葉市:「グッドネイバーズプロジェクト実行委員会」を主体とした取り組み)
4. 定量的な参加実績は非公開
来場者数や経済波及効果等の定量データは、調査時点で公式に公表されているものは確認できなかった。現時点で確認できる成果は、開催頻度・継続年数・企画の多様化・住民組織の自立といった定性的な指標にとどまる。
1. 大型商業施設の遊休空間は「空き家」以外のリノベーションまちづくりの対象になり得る
リノベーションまちづくりは空き家・空き店舗の再生が主眼になりがちだが、稼働中の商業施設が保有する公開空地・屋外スペースも、自治体施策と接続することで公共的な居場所に転換できる。大型商業施設を抱える他地域でも、施設側が独自に進めているプレイスメイキング等の取り組みの有無を確認し、そこに自治体の伴走支援を接続する形は再現性が高い。
2. 「人材育成の場」を住民主体化のトリガーとして設計する
事業者主導のイベントを住民主体に移行させるには、単に「住民を呼び込む」のではなく、リノベーションスクールのような実践型の人材育成プログラムを間に挟み、そこで生まれた具体的なチーム・企画がそのまま次の運営組織として独立していくプロセスが機能した。イベントの担い手不足に悩む地域にとって、育成プログラムを「次の運営組織の苗床」として設計する視点は、属人的な熱意に頼らない再現可能な手法として応用できる。
3. 既存の非公式な地域アイデンティティを企画の核に据える
「裏チバ」のように住民の間で既に定着している非公式な地域呼称がある場合、それを新規事業のコンセプトに取り込むことで住民の当事者意識を得やすくなる。新しい造語やブランドをゼロから立ち上げるより低コストで、かつ住民の共感を得やすい手法として他地域でも参考になる。
4. 大型店舗との関係を「要望・規制」から「共創パートナー」へ転換する契機にする
そごう千葉店をめぐっては、親会社の経営再編に伴う店舗継続への懸念が背景にあり、千葉市は要望書の提出という行政的アプローチに加え、リノベーションまちづくりという実践的な共創の枠組みを通じて店舗との関係を強化した。大型商業施設の存続・撤退リスクを抱える他地域にとって、行政と店舗が「要望する側・される側」の関係にとどまらず、公共空間活用という共通のプロジェクトを通じて日常的な協働関係を積み重ねるアプローチは参考になる。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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