
はら逸品うまいものフェス - 焼き鳥店主発の食フェスから、若手世代とラジオが交わる地域交流イベントへ
沼津市原・浮島地区で2017年に始まった食フェス「はら逸品うまいものフェス」。商工会実行委員会から独立した「美よしグループ」が若い世代の運営参画やコミュニティFM公開生放送を組み合わせ、2024年の第8回は来場者4,000人を記録した。
「はら逸品うまいものフェス」は、沼津市西部の原・浮島地区で2017年11月に始まった食のイベントである。地元で焼き鳥店を営む店主と沼津市商工会の若手有志が実行委員会を立ち上げ、原地区センター広場を会場に地元飲食店の逸品を集めて開催してきた。回を重ねるごとに来場者は増加し、2023年の第7回では約3,000人を集め、沼津市西部地区の秋の風物詩として定着した。(参考:令和6年度民間まちづくり活動支援事業 事業計画書(沼津市))
2022年(令和4年)の第6回を境に、発起人と若手有志の一部が「美よしグループ」として実行委員会から独立。以降は商工会が運営する「食」を核とした本体イベントに、美よしグループが独自にレーシングカー展示やアイドルライブなどの「にぎわいづくり」企画を上乗せする形で運営を続けている。2024年の第8回(11月10日開催)では、地元コミュニティFM局コーストFMによる公開生放送と動画同時配信を初めて実施し、来場者は前年から1,000人増の4,000人を記録した。(参考:事業計画書、令和6年度民間まちづくり活動支援事業 活動報告書(沼津市))
原・浮島地区はかつての駿東郡原町を中心とするエリアで、50年以上前に沼津市と合併した。国道1号バイパスの開通をきっかけに企業進出が相次ぎ、団地や住宅が立ち並ぶベッドタウンへと姿を変えてきた。ただし近年は、進出企業の統合や撤退に伴う人口流出、団地の老朽化、住民の高齢化が重なり、地域の活力低下が懸念されている。(参考:事業計画書)
このような状況の中、平成29年(2017年)、地元の焼き鳥店経営者と沼津市商工会の若手有志が発起人となり、原・浮島地区の魅力を「食」を切り口に発信しようと実行委員会を発足させ、同年11月12日に記念すべき第1回はら逸品うまいものフェスを開いた。以降、開催のたびに来場者は膨らみ、2023年の第7回では3,000人規模に達したものの、しょせんは食を楽しむイベントに過ぎず、人口流出や後継者不足といった地域の構造的な課題には手が届いていない、というのが運営側の自己評価だった。(参考:活動報告書)
加えて、地域活動の担い手不足も課題だった。地域に無関心な若者が多いわけではなく、盛り上げたいという意欲を持つ層はいても、既存組織側がその受け皿としてうまく機能できていない点にこそ要因があると運営側は分析している。上の世代が引退すれば後継者不在のまま地域活動そのものが消滅しかねないという危機感が、2024年度事業における若い世代の運営参画強化の動機となった。(参考:事業計画書)
2017年11月、焼き鳥店経営者を中心とする実行委員会が第1回はら逸品うまいものフェスを開催した。地元はもとより沼津市内外から出店した飲食店の味と若手ミュージシャンの演奏が若者の間で話題を呼び、開催を重ねるたびに来場者数は膨らんでいった。(参考:事業計画書)
2022年(令和4年、第6回)より、発起人と若手有志の一部が沼津市商工会の実行委員会から独立し、任意団体「美よしグループ」として活動を開始した。以降は商工会側の実行委員会が「食」を核とする本体フェスを運営する一方、美よしグループは協賛金を独自に集め、レーシングカー展示や地元出身アイドルによるステージなど、フェス会場に「にぎわい」を上乗せする企画を別枠で担う役割分担が定着した。立ち上げ時4名だったメンバーは、2022年の独立時点で9名、2024年時点では賛助メンバーを含め約20名まで拡大している。(参考:活動報告書)
沼津市の民間まちづくり活動支援事業補助金(ステップアップ型)を活用し、2024年9月から美よしグループ内で駿東伊豆消防本部・日本赤十字社静岡県支部・レーシングカー展示者・アイドルグループ・コーストFMとの調整を開始した。10月に出演オファーと内容確定を行い、11月に当日の役割分担を確認、11月10日の第8回本番では消防ポンプ車と日本赤十字社の献血車、レーシングカーの展示に加え、コーストFMによる公開生放送とYouTube同時配信を初めて実施した。あわせて地元の若い世代が当日運営に参画し、公開生放送への出演も担った。会場では学生による展示・アンケートブースも設置され、来場者から地域の魅力やインフラ、街づくりに関する意見を集めた。12月には振り返りの会合を開き、翌年以降の活動を協議している。(参考:事業計画書、活動報告書)
2025年1月11日には、フェスの運営ノウハウを生かした派生イベント「WinterFestivalぬま活らぼ」を株式会社プランエジの敷地内で開催した。会場には消防車やキッチンカーが並び、吹奏楽団と太鼓による演奏も披露された。小児がん経験者・患者の支援を目的とする「ゴールドリボン運動」に呼応し、地元小学生が主体となってレモネードを販売する慈善活動も行われた。同イベントは同年5月24日に規模を拡大して再度開催されている。(参考:活動報告書)
2025年11月9日には第9回が開催され、約25店の飲食ブース・キッチンカーが出店した。あいにくの雨模様となったが、それでも大勢の人出で会場は賑わい、目当ての逸品を求める来場者の姿が絶えなかった。この回では沼津西高校サッカー部がステージパフォーマンスを行うなど、高校生の協力も得られ、参画拡大が進んだ。(参考:「第9回はら逸品うまいものフェス」開催報告(号外NET沼津市)、沼津で「はら逸品うまいものフェス」(沼津経済新聞))
本事例の運営体制の特徴は、母体である沼津市商工会の実行委員会が「食」を核とする本体フェスを維持する一方、そこから独立した「美よしグループ」が協賛金を自前で集めてレーシングカー展示やライブ、コミュニティFM公開生放送といった付加企画を別枠で担う、二層構造にある点である。既存組織の意思決定プロセスを経ずに新しい企画を機動的に試せる体制であり、商工会の枠組みを壊さずに若手主導の実験的な取り組みを積み重ねられる構造は、既存団体の合意形成に時間がかかりがちな地域行事において応用可能な工夫といえる。(参考:活動報告書)
運営側は、来場者3,000人規模まで育った食フェスという枠組みだけでは、人口流出や後継者不足といった地域の構造的課題の解決には直結しないと自己評価した上で、2024年度に若手参画とメディア発信という新たな要素を意図的に組み込んでいる。同じイベントを継続・拡大するだけでなく、蓄積した集客力を地域課題に向き合う場へと転換しようとした点に、観光集客型イベントとは異なる問題意識がうかがえる。(参考:事業計画書)
コーストFMの公開生放送は、単にイベントを外部に周知するための広報手段ではなく、地元の若い世代がラジオに出演する機会そのものとして企画された点が特徴的である。会場に来た人だけが体験していた賑わいを静岡県東部地域全体へ音声で届けると同時に、若者自身がメディア出演を経験する場としても機能させている。(参考:事業計画書)
学生による展示・アンケートブースでは、来場者から地域の魅力、生活インフラ、街づくりに関する意見を収集しており、単発の集客イベントを軽量な住民意見収集の機会としても位置づけている。来場者数のような量的指標だけでなく、地域への意見という質的なデータも同時に取得している点は、他の集客イベントではあまり見られない工夫である。(参考:活動報告書)
消防ポンプ車、日本赤十字社の献血車、自衛隊関連の展示など、公的機関の協力による車両展示・体験コーナーは、来場者にとって家族連れでも楽しめるコンテンツになると同時に、各機関にとっても広報・啓発の機会となる相互利益的な連携である。運営側が新たな予算を投じずにコンテンツの幅を広げられる仕組みになっている。(参考:事業計画書、活動報告書)
美よしグループは、秋の本体フェスを一つ大きくすることだけに注力するのではなく、2025年1月に規模の異なる冬季イベント「WinterFestivalぬま活らぼ」を新設し、小児がん支援という別の社会的テーマと結びつけている。年間を通じて複数の接点を若者や子どもに提供するポートフォリオ型の展開は、一つのフラッグシップイベントに投資を集中させるモデルとは異なるアプローチである。(参考:活動報告書)
来場者数は、2023年の第7回で約3,000人、2024年の第8回で4,000人(前年比+1,000人)と増加傾向にある。事業計画書の段階で掲げていた成果指標「来場者3,500人(前年比+500人目標)」を大きく上回る結果となった。2025年の第9回は雨天の中での開催となり、公開されている資料の時点では具体的な来場者数は確認できていない。(参考:事業計画書、活動報告書、号外NET沼津市)
2024年に初めて実施したコーストFMの公開生放送・動画配信では、ラジオ局への感想メールが216人から寄せられ、会場参加者による直接投稿も39件あり、YouTube同時配信の接続数は274人(最大292人)に達した。当初の成果指標であった「ラジオ視聴者からの評価アンケート30件」という目標を大きく上回る反応が得られたことになる。(参考:活動報告書)
学生による展示・アンケートでは、来場者から「独自の魅力をもっとPRしてほしい(観光・文化)」「生活基盤の改善が求められている(交通・施設)」「世代を超えた交流拠点の整備を希望(賑わいと繋がり)」といった具体的な意見が集まった。数値化された満足度調査ではないものの、地域の魅力・インフラ・交流拠点整備という3つの論点が可視化された点は、今後の活動の方向性を検討する材料となっている。(参考:活動報告書)
連携先も広がりを見せている。2024年度は駿東伊豆消防本部・日本赤十字社静岡県支部・自衛隊静岡地方協力本部といった公的機関に加え、日本大学国際関係学部、明治安田生命、株式会社プランエジなど教育機関・企業との接点が新たに生まれた。派生イベント「WinterFestivalぬま活らぼ」は2025年1月の初開催後、同年5月に規模を拡大して再度開催されるなど継続的な展開につながっており、2025年の第9回では沼津西高校サッカー部がステージパフォーマンスに参加するなど、若手参画の裾野は年々広がっている。組織面でも、2017年の立ち上げ時4名だった美よしグループの母体は、2024年時点で賛助メンバーを含め約20名まで拡大した。(参考:活動報告書、号外NET沼津市)
既存の商工会・実行委員会組織を維持したまま、そこから独立した少人数の任意団体が付加企画を別予算で担う二層構造は、既存組織の合意形成コストをかけずに新しい企画を試したい地域で応用しやすい。消防・赤十字・自衛隊など公的機関の車両展示・体験コーナーは、双方にメリットのある無償コンテンツとして、予算をかけずに集客イベントの魅力を底上げする手段になり得る。また、地元コミュニティFM局と連携する際に、単なる告知としてではなく若者自身の出演機会として位置づけることは、地域メディアが存在するエリアであれば再現性のある若手参画策である。
本事例が示すのは、単発の集客イベントであっても、学生主体の簡易なアンケートブースを併設するだけで、来場者から地域課題に関する定性的な声を継続的に集められるということである。この仕組み自体には特別な予算や専門知識を要しないため、他地域の祭り・マルシェ形式のイベントにも比較的容易に組み込める。
一方で、本事例は沼津市商工会という既存の事業者ネットワークが土台にあったことで、若手有志が実行委員会を立ち上げやすかった側面がある。商工会や同様の事業者組織が存在しない地域では、立ち上げ時の母体探しから検討する必要がある。また、公開されている資料では美よしグループの協賛金の集め方までは詳細が確認できておらず、他地域で同様の「本体+独立派生団体」モデルを構築する際は、協賛金確保の具体的な仕組みを別途検討しておくことが望ましい。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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