
こどもの居場所づくりコーディネート事業
沼津市社会福祉協議会が受託し、こどもの居場所の創設・運営相談やマッチング、後援制度の運営を行う事業。ひとり親家庭向け支援から全市民対象へと段階的に発展し、寺院やNPO、個人商店など多様な担い手による33拠点のネットワークを形成している。
沼津市は「こどもの居場所づくりコーディネート事業」を社会福祉法人沼津市社会福祉協議会に委託し、こどもの居場所を作りたい人・運営している人・支援したい人・利用したい人の4者をつなぐ相談窓口を、健康福祉拠点「サンウェルぬまづ」に設置している。市が個々の居場所を直接運営するのではなく、相談対応、支援者とのマッチング、広報支援、セミナー開催、運営者同士の連絡会運営という「つなぐ」機能に特化している点が特徴である。 (参考:子どもの居場所/沼津市子育てポータルサイト)
事業は2022年度(令和4年度)に現在の形で市から委託が始まったが、それ以前の2019年度から社協独自の相談支援・連絡会が行われ、2020年度にはひとり親家庭を対象とした事業として一度制度化されるなど、段階を踏んで対象を広げてきた経緯がある。2024年度(令和6年度)には新たに5ヶ所が加わり、活動拠点は合計27ヶ所となった。2026年7月時点で市の後援を受ける居場所は33件に達しており、寺院、NPO法人、地区社会福祉協議会、個人商店、自治会、高校生ボランティアなど、公私を問わない多様な主体が担い手となっている。 (参考:沼津市の社協活動2025、こどもの居場所に参加したい/沼津市社会福祉協議会)
こども家庭庁は2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」を閣議決定し、国・地方自治体・地域住民・こども本人を含めた多層的な協力体制の構築を政策の根拠として位置づけた。こども食堂や学習支援、放課後の居場所など、地域住民が主体となって運営する「こどもの居場所」づくりは全国の自治体で推進されている。 (参考:こども・若者の居場所づくり/こども家庭庁)
沼津市社会福祉協議会は2019年度(令和元年度)から、居場所に関する相談支援や居場所運営者の連絡会を独自に実施していた。2020年度(令和2年度)には、市から「ひとり親家庭等生活向上事業『こどもの居場所』」を受託し、対象をひとり親家庭の子どもに絞った事業として制度化された。しかし、こどもの居場所は本来ひとり親家庭に限らず、地域の子ども全般の見守りや多世代交流の場としても機能しうるものであり、対象を限定した枠組みのままでは、支援したい住民や企業とのマッチング、居場所同士の連携拡大には限界があった。 (参考:沼津市の社協活動2025)
2022年度(令和4年度)、沼津市はこの事業を「沼津市子どもの居場所づくりコーディネート事業」として再編し、対象をひとり親家庭に限定しない全市民型の枠組みに拡大した。単なる利用者向け補助制度ではなく、居場所を「作りたい人」「運営している人」「支援したい人」「利用したい人」の4者を横断的につなぐコーディネート機能を明確に位置づけたことで、地域に散在する子ども支援の担い手が一つのネットワークとして可視化・組織化されていったとみられる。 (参考:沼津市の社協活動2025)
こどもの居場所相談窓口はサンウェルぬまづに設置され、平日9時~16時(12時~13時、祝日・年末年始を除く)に電話・メール・LINEで相談を受け付けている。窓口担当者による出張相談にも対応しており、居場所を新たに立ち上げたい住民が地区に出向かなくても相談できる体制を整えている。相談・立ち上げ支援は年間を通じて継続的に行われている。 (参考:子どもの居場所/沼津市子育てポータルサイト)
事業では、食品・飲料・調味料・未使用の学習教材・寝具・調理器具・食器・活動資金といった物資や資金の提供、集会所や空き室など活動場所の提供、スタッフとして関わる人材の提供という3種類の支援を随時募集し、居場所側のニーズとマッチングしている。実際に、市民や企業からの食品・菓子・文房具などの寄付が、活動する子どもたちのもとに届けられた実績が2024年度の活動報告に記録されている。 (参考:子どもの居場所/沼津市子育てポータルサイト、沼津市の社協活動2025)
沼津市は「沼津市子どもの居場所づくり後援制度」を設け、相談窓口を通じて立ち上げ・運営された居場所に市の後援を付与し、公式サイトおよび社会福祉協議会のサイトで一覧を公開している。利用したい住民は、この一覧から活動日・対象年齢・活動内容を確認したうえで居場所を選ぶことができる。 (参考:子どもの居場所/沼津市子育てポータルサイト)
事業では、こどもの居場所づくりに携わるボランティアの養成を目的としたセミナーを毎年開催している。2024年度は6月に「こども学習支援ボランティア講座」をサンウェルぬまづで開催し、市民45名が参加、居場所の新規立ち上げやボランティア活動への参加につながった。2025年2月には企業の社会貢献をテーマにした講座も開催され、沼津市内で活動する複数のこども食堂・居場所団体が登壇し、日頃の運営で直面する課題や今後の展望を語ったことで、企業と居場所団体が接点を持つ機会となった。 また、2024年度は5月と11月の年2回、居場所の運営者や関係機関が集う連絡会を実施し、拠点同士が顔の見える関係を築き、日頃の悩みを共有し合える土壌を育てた。 (参考:沼津市の社協活動2025)
沼津市の事業は、市が個別の居場所を直接運営・管理するのではなく、相談・マッチング・広報支援・ネットワーク形成という中間支援機能に役割を絞り、実際の運営は住民・NPO・寺院・商店など多様な主体に委ねている。行政が担うのは、こうした担い手が孤立せずに活動を継続できるよう支える「土台」の部分であり、限られた行政リソースで多くの居場所を面的に広げられる設計になっている。
2026年7月時点で市の後援を受ける33件の居場所の運営主体を見ると、寺院(大中寺、法華寺、覺法寺、妙海寺など)、地区社会福祉協議会、主任児童委員・民生委員児童委員協議会、NPO法人、一般社団法人、個人が営む飲食店、自治会、高校生によるボランティアグループなど、公私や世代を問わない担い手が並ぶ。こども食堂という単一の形態にとどまらず、学習支援、遊び場、ダンス教室、駄菓子屋など活動内容も幅広く、単一の運営モデルを押し付けない緩やかなネットワークとなっている。 (参考:こどもの居場所に参加したい/沼津市社会福祉協議会)
このネットワークの中では、来店客が食事分の「リボン」をあらかじめ購入して店先に掲示し、来店した子どもがそのリボンと引き換えに、料金を支払わずに食事を受け取れる「フードリボン」形式を採用する飲食店型の居場所が複数存在する。また、居場所を応援する自動販売機で飲み物を買い、備え付けのカゴに入れておくことで、地域の子どもが無料で受け取れる「ドリンクリボン」という仕組みを導入する事業所もある。こうした「支払いを未来の誰かのために先渡しする」運営の工夫が、独立した複数の運営主体の間で共通して見られる背景には、年2回の実践者連絡会などの場を通じて緩やかにノウハウが共有されている可能性がある。 (参考:こどもの居場所に参加したい/沼津市社会福祉協議会)
2020年度にひとり親家庭という明確なニーズを持つ対象から事業を始め、相談支援や連絡会の実績を積んだうえで、2022年度に全市民を対象とするコーディネート事業へと再編した経緯は、いきなり包括的な制度を立ち上げるのではなく、対象を絞った小規模な取り組みで実績とノウハウを蓄積してから対象を広げるという段階的なアプローチの一例といえる。 (参考:沼津市の社協活動2025)
2024年度は新たに5ヶ所が加わり、活動拠点は合計27ヶ所となった。2026年7月に確認した沼津市社会福祉協議会の一覧では、市の後援を受ける居場所は33件に達しており、継続的な拠点数の増加が確認できる。 (参考:沼津市の社協活動2025、こどもの居場所に参加したい/沼津市社会福祉協議会)
2024年6月開催の「こども学習支援ボランティア講座」には市民45名が参加し、居場所の立ち上げやボランティア活動への参加につながった。2025年2月開催の企業向け講座には32名が参加し、居場所団体と企業が接点を持つ機会となった。 (参考:沼津市の社協活動2025)
年2回の実践者連絡会が2024年度も予定どおり開催され、居場所同士の情報交換や協力関係の強化が図られた。2025年度の社協事業計画にも「相談・立ち上げ支援(通年)」「居場所の連絡会」「セミナー開催」が年間事業として組み込まれており、単発の取り組みではなく恒常的な事業として定着していることが確認できる。 (参考:沼津市の社協活動2025)
自治体が個々の居場所の運営費や人員を直接手当てしようとすると、対応できる箇所数はすぐに頭打ちになる。沼津市のように、相談受付・マッチング・広報支援・ネットワーク運営という中間支援機能を社会福祉協議会などの中間支援組織に委託し、実際の運営は住民や事業者の自主性に委ねる設計は、行政のリソースを増やさずに担い手の裾野を広げるモデルとして、他地域でも応用しやすい。
いきなり全市民を対象とした包括的な事業を立ち上げるのではなく、まず明確なニーズを持つ対象(沼津市の場合はひとり親家庭)に絞った小規模な事業で実績とノウハウを積み、その後対象を広げるという順序は、予算や体制が限られる自治体でも着手しやすい進め方である。
居場所の運営は個々の住民やボランティアの熱意に支えられていることが多く、孤立すると継続が難しくなりやすい。年複数回の連絡会という定期的な対話の場を設けることは、単に情報共有の場としてだけでなく、フードリボンのような個別の運営の工夫が他の運営者にも伝わり、ネットワーク全体の質を底上げする機会として機能しうる。
市が一定の関わりを持って居場所を後援し、一覧として公開する仕組みは、利用したい住民にとって「安心して足を運べる場所」を見つけやすくすると同時に、寄付や場所の提供を考える支援者にとっても、どこにどう関わればよいかを判断しやすくする効果がある。運営主体が多様であるほど、こうした公的な可視化の仕組みの重要性は増す。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
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