
世田谷区国民健康保険健康ポイント事業
世田谷区が国民健康保険加入の40〜74歳を対象に実施する健康ポイント事業。ウォーキングや特定健診受診などの健康行動を、区のデジタル地域通貨「せたがやPay」のポイント抽選で後押しし、健康づくりと地域内経済循環を同時に狙う取り組み。
世田谷区国民健康保険健康ポイント事業は、区の国民健康保険(国保)に加入する40〜74歳を対象に、日々のウォーキングや特定健康診査(特定健診)の受診といった健康づくりの取り組みを、抽選によるインセンティブで後押しする事業である。報酬として付与されるのは、区のデジタル地域通貨「せたがやPay」で利用できるポイントであり、参加者が積み上げたポイントを1,000ポイントを一口として抽選し、当選者に一口あたり3,000円相当のポイントを進呈する。令和7年度(2025年度)に続き令和8年度(2026年度)も実施され、令和8年度は定員を先着300人としている。 (参考:令和8年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します(世田谷区))
この事業の特徴は、健康施策のために専用のアプリや仕組みを新規につくるのではなく、区内にすでに広く普及したデジタル地域通貨のプラットフォームを土台に据えている点にある。健康行動への報酬が地域通貨として支払われるため、参加者が受け取ったポイントは区内の加盟店で消費され、健康づくりと地域内の経済循環が一本の線でつながる設計になっている。 (参考:令和8年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します(世田谷区))
市区町村が運営する国民健康保険は、被用者保険(会社員などが加入する健康保険)を離れた自営業者・退職者・非就業者などが加入するため、加入者の年齢層が相対的に高く、生活習慣病の予防や医療費の適正化が構造的な課題となりやすい。世田谷区も例外ではなく、区は「国民健康保険 第3期データヘルス計画・第4期特定健康診査等実施計画(令和6年度〜令和11年度)」に基づき、被保険者の特定健診受診や生活習慣病予防を計画的に進める枠組みを持っている。 (参考:世田谷区国民健康保険 第3期データヘルス計画・第4期特定健康診査等実施計画(世田谷区)、特定健診・特定保健指導(世田谷区))
データヘルス計画に基づく保健事業では、特定健診の受診率向上や、健診で把握したリスクに対する特定保健指導への接続が重要になる。しかし、健診の受診や日常的な運動習慣は本人の自発的な行動に委ねられる部分が大きく、「必要性は理解していても行動に移らない」層をどう動かすかが共通の壁となる。区が健康ポイント事業に取り組む背景には、こうした無関心層・行動未着手層に、金銭的・非金銭的な誘因を通じて健康行動の最初の一歩を促したいという狙いがある。
一方で世田谷区は、健康施策とは別の文脈で、2021年2月に区商店街振興組合連合会が区の支援のもとデジタル地域通貨「せたがやPay」の運用を開始していた。コロナ禍の消費喚起策としてキャッシュレス還元キャンペーンを重ねる中で、加盟店・利用者ともに急速に拡大し、既存の生活インフラとして定着していく。この「区民の多くがすでにアプリを入れている」という状態が、健康行動へのインセンティブを新たな仕組みを立ち上げずに配布できる素地となった。 (参考:世田谷区のデジタル地域通貨「せたがやPay」、運用開始から1年が経過し加盟店2,000店舗を突破(アイリッジ))
事業の起点は2022年7月、せたがやPayに歩数計健康アプリ機能「せたWalk」が搭載されたことである。これにより、決済アプリが日々の歩数やバイタルデータの推移をグラフで確認できる健康管理ツールを兼ねるようになり、健康ポイント事業の受付が開始された。開始当初は先着3,000名を対象に、せたWalkを活用した歩数記録とポイント付与が行われた。システムは、株式会社フィノバレーが運用する地域通貨基盤「MoneyEasy」が担っている。フィノバレーは事業開始当時はアイリッジの子会社だったが、2025年6月にTIS株式会社の連結子会社となっている。 (参考:世田谷区のデジタル地域通貨「せたがやPay」、歩いてポイントがたまる健康ポイント事業での利用開始(アイリッジ))
参加者は、区の電子申請から申し込んだうえで、任意に設定した取組期間の中で複数の健康行動に取り組む。取り組み項目は必須要件と加点項目に分かれており、必須要件はウォーキングを実施した日数(上限25日)と、特定健診を受診したことである。加点項目としては、参加者自身が定めた健康目標の達成(上限3件、各件25日分まで加点)、各種がん検診の受診、特定保健指導など保健事業への参加、後発医薬品(ジェネリック)の選択利用などが用意されている。これらの取り組みに応じてポイントが積み上がる仕組みである。 (参考:令和8年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します(世田谷区))
報酬の付与は抽選方式をとる。取組結果を期限までに報告した参加者を対象に、積み上げた1,000ポイントを一口として抽選を行い、当選者に一口あたり3,000円相当のせたがやPayポイントを進呈する。ポイントを多く積むほど抽選の口数が増えるため、健康行動を継続するほど当選機会が高まる設計である。加えて、景品への応募にあたっては健診指標の維持・改善が条件とされており、単なる行動量だけでなく健康状態そのものの改善に報酬を結びつける建て付けになっている。令和7年度は受付を7月1日〜8月末日、取組期間を令和7年11月末日まで、当選ポイントの付与を令和8年3月末までとし、令和8年度も同様のスケジュールで、定員を先着300人・参加費無料として実施している。 (参考:令和8年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します(世田谷区))
第一の特徴は、健康施策を単独で完結させず、既存のデジタル地域通貨インフラに「相乗り」させている点である。多くの自治体の健康ポイント事業が専用アプリや独自ポイントを新規に構築するのに対し、世田谷区はすでに区民の生活に定着したせたがやPayと、そこに搭載された歩数計機能せたWalkを活用した。参加者にとっては新しいアプリを導入する負担がなく、区にとっても健康行動の記録・報酬付与の基盤を独自に開発・維持する必要がない。既存プラットフォームの再利用が、事業の立ち上げコストと参加ハードルの双方を下げている。
第二に、報酬が「地域内で使えるお金」である点が、施策の性格を決めている。3,000円相当の報酬を現金や汎用ポイントではなく地域通貨で支払うことで、健康づくりの原資が区内の加盟店で消費され、地域経済に還流する。世田谷区はこうした地域通貨による価値の循環を、道路や公園などの整備を指す「街づくり」、住民が主体となる自治活動としての「まちづくり」に続く、非経済的な価値を生み出す第三段階の「マチづくり」と位置づけており、健康ポイント事業はその考え方を保健分野で具体化した施策と読める。健康・デジタル・地域商業という通常は別々に扱われる三つの領域が、一つの通貨基盤の上で接続されている。 (参考:世田谷区の「せたがやPay」2年間の成果は?デジタル地域通貨で非経済的な価値創造を目指す(ペイメントナビ))
第三に、財源と目的の設計が明快である。国民健康保険に基づく保健事業は、法令上、市区町村が運営する国民健康保険特別会計から支出される仕組みであり、本事業もこの枠組みに位置づけられる。被保険者の生活習慣病予防が将来の医療費適正化につながるという、データヘルスの費用対効果の論理に沿っている。取り組み項目に特定健診・がん検診・特定保健指導・ジェネリック医薬品の利用といった、医療費に直接関わる行動が並ぶのはそのためであり、報酬設計がデータヘルス計画のKPIと整合している。また抽選方式と健診指標の改善条件は、参加への誘因を保ちながら支出を制御し、報酬を実際の健康改善へ誘導する仕組みとして機能している。
事業の土台となるせたがやPay自体は、地域インフラとして相応の規模に達している。運用開始から2年が経過した2023年2月時点で、加盟店は約4,366店舗、支払いを行った利用者は約13万8,460人、累計決済額は108億円に達したと報告されている。健康ポイント事業は、この広い利用基盤の上に健康行動の記録・報酬機能を載せている点で、到達可能な母集団の広さという前提条件を備えているといえる。 (参考:世田谷区の「せたがやPay」2年間の成果は?デジタル地域通貨で非経済的な価値創造を目指す(ペイメントナビ))
健康ポイント事業そのものについては、令和7年度に実施した後、令和8年度にも継続して実施されている点が、公開情報から確認できる事実である。単年度で終わらず翌年度も予算化・実施されていることは、事業が一定の評価を経て継続の判断に至ったことを示唆する。一方で、参加者数や特定健診受診率・歩数などの健康指標の変化といった、事業の効果を直接示す定量データは、調査時点で公開資料からは確認できなかった。したがって現段階では、行動変容や医療費への効果を数値で断定することはできず、「既存インフラを用いた健康インセンティブの仕組みが構築され、複数年度にわたり運用されている」という到達点として捉えるのが妥当である。 (参考:令和8年度世田谷区国民健康保険健康ポイント事業を実施します(世田谷区))
なお、令和4年度の開始時に先着3,000名を対象としていたのに対し、令和8年度は定員を先着300人としており、対象規模は限定的である。全区民規模の健康増進策というよりは、国保加入者という特定の集団に絞った、費用を抑えたインセンティブ設計として位置づけて理解する必要がある。 (参考:世田谷区のデジタル地域通貨「せたがやPay」、歩いてポイントがたまる健康ポイント事業での利用開始(アイリッジ))
最も再現性の高い示唆は、健康インセンティブを「既存の地域通貨・決済インフラに相乗りさせる」という設計思想である。健康ポイント事業に取り組む自治体は多いが、その多くは専用アプリや独自ポイントを立ち上げ、開発・運用コストと利用者の導入負担を抱える。世田谷区の事例は、区民がすでに日常的に使うアプリに歩数計機能と報酬機能を載せることで、この二つの負担を同時に軽減できることを示している。地域通貨や決済アプリの普及が先行している自治体にとっては、健康施策の受け皿として既存基盤を再利用する発想が有効な選択肢になる。
次に、報酬を地域通貨で支払うことにより、健康施策の支出を地域内経済の循環につなげられる点である。健康づくりの原資が域外に流出せず区内商業に還流するため、保健部門の予算が商業振興の効果も持つ。健康・デジタル・地域商業という縦割りになりがちな領域を、一つの通貨基盤で横断的に接続する発想は、部局横断の連携を模索する自治体にとって参考になる。財源を国保特別会計に置き、医療費適正化の論理で正当化する組み立ても、同じく国保を運営する多くの市区町村が援用しやすいフレームである。
同時に、この事例の再現には明確な前提条件があることを見落とすべきではない。地域通貨への相乗りが成立したのは、せたがやPayが加盟店・利用者ともに広く普及し、生活インフラとして定着していたからである。加盟店網が薄い地域通貨では、報酬を受け取っても使い道が乏しく、地域内循環という利点も健康行動への誘因も弱まる。地域通貨がまだ普及していない自治体では、まず決済基盤を育てる段階から始める必要があり、健康施策だけを切り出して模倣しても同じ効果は得にくい。また抽選方式や少人数定員は費用を抑える一方で、当選しない参加者の継続動機をどう保つかという課題も残す。他地域が学ぶべきは仕組みの表面ではなく、「すでに普及した生活インフラの上に、目的の異なる施策を薄く載せて相乗効果を生む」という設計の考え方だといえる。
2026年7月時点の調査内容に基づいて作成
この記事は公開情報に基づき、AIを用いた詳細調査により作成されました。記事内容への修正依頼、お問合せ等は以下までお寄せください。
問い合わせ:support@groove-designs.com
よくあるご質問(FAQ)もあわせてご確認ください。
#
総合計画
#
まちづくり指針
#
エリアビジョン
#
景観計画
#
緑の基本計画
#
公共空間活用
#
ウォーカブル
#
公園活用
#
防災・減災
#
空き家活用
#
エリアプラットフォーム
#
公民連携プラットフォーム
#
公民連携
#
地域コミュニティ
#
地域交流拠点
#
多文化共生
#
子育て支援
#
文化芸術
#
自動運転バス
#
モビリティマネジメント
#
モビリティハブ
#
関係人口
#
移住促進
#
探究学習
#
グリーンインフラ
#
生物多様性
#
参加型予算
#
都市整備
#
まちなか
#
駅前広場
#
協働のまちづくり
#
リノベーションまちづくり
#
フューチャーセンター
#
スマートシティ
#
AI
#
リビングラボ
#
空きスペース活用
#
居場所づくり
#
子ども食堂
#
沿線まちづくり
#
健康
#
社会教育
#
持続可能な都市
#
計画策定
#
まちづくり
#
コミュニティ形成
#
ワークショップ
#
社会実験
#
市民参加
#
子ども・若者
#
子育て世代
#
シニア