
福山みらい創造ビジョン2026-2030
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福山市が2026年度から2030年度に実施する次期総合計画。少子化対策の目的を「出生率向上」から「若者・女性の自己決定を阻む障壁の除去」へ転換し、専門家提言とこども・若者の声をパブリックコメントの反映箇所まで追跡できる形で政策に組み込んだ。
福山市は2026年3月31日、2026年度から2030年度までの5年間を計画期間とする次期総合計画「福山みらい創造ビジョン」を策定した。第五次福山市総合計画の基本構想のもとで、2021年度から2025年度までを担った現行「福山みらい創造ビジョン」(第2期基本計画)の後継に当たる第3期基本計画であり、総合計画の基本計画と総合戦略を一本化した位置づけを引き継いでいる。 (参考:福山みらい創造ビジョン(第3期基本計画)- 福山市)
最大の特徴は、少子化と若者・女性の転出超過という2つの課題に対応するため、「福山版少子化対策の推進」と「若者や女性に選ばれる都市づくり」という2つの重点プロジェクトを設定し、5年間集中的に取り組むとした点にある。策定過程では、学識経験者による2つの外部会議(総合計画等策定に係る有識者会議、福山市少子化対策専門家会議)、18歳以上市民への意識調査、こども・若者への直接ヒアリング、そしてパブリックコメント(61件の意見のうち9件を計画に反映)という複数のチャネルを通じて意見を集約し、反映箇所をページ単位で公開した。めざす姿には「希望、安心、活力ある備後の中核都市」を掲げている。 (参考:福山みらい創造ビジョン(第3期基本計画)- 福山市、福山みらい創造ビジョン本編PDF)
現行計画「福山みらい創造ビジョン2021-2025」は、人口目標を2025年度に46.6万人と設定していたが、2020年国勢調査時点の実績はすでに46.1万人にとどまり、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2025年に44.4万人まで落ち込む見通しとなっていた。前計画期間中に注視してきた指標のうち、希望出生率(1.90)と合計特殊出生率の差は2019年の0.30から2024年には0.53へと拡大し、目標としていた縮小とは逆方向に動いていた。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
人口構造の将来推計はより厳しく、福山市の人口は2045年に40万人を割り込むと推計されており、年少人口と生産年齢人口の落ち込みが大きいことから、高齢化率は上昇傾向が続く見通しである。自然動態を見ると死亡数が出生数を上回る状態が長引いており、出生数自体もこの10年間で3割超落ち込んだ。社会動態面では日本人の転出超過幅が拡大傾向にあり、転入者数が減少する一方で転出者数は高い水準で推移しており、特に若者・女性の層で転出超過が目立っている。一方で外国人住民は2015年の6,992人から2025年には12,700人へと倍増し、技能実習や特定技能の在留資格を持つ人材は、製造業や介護分野の現場を支える存在になりつつある。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
学校教育の現場でも変化が表れており、福山市立学校の不登校児童生徒数は2014年度の470人から2024年度には1,575人へと3倍以上に増加した。また、社会全体で「男女の地位が平等になっている」と思う人の割合が低水準にとどまるなど、性別による格差や、性別に対する無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が根強く残っていることも、若者や女性の市外流出を後押しする一因とみられている。経済面でも、福山市の事業従事者一人当たり純付加価値額(438万円、2020年)は全国(599万円)や広島県(480万円)を下回り、総観光客数についても、コロナ禍前の水準にはまだ届いていない。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
少子化と若者・女性の転出超過という2つの動きが、市民の暮らしや地域経済に及ぼす影響の大きさを踏まえ、次期計画ではこの2点を最優先課題として位置づけ、他の7分野(こども・若者、地域経済、都市基盤、医療・福祉、ばらのまちづくり・文化・スポーツ、地域社会、安心・安全)の施策と組み合わせて取り組む構成とされた。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
福山市は、次期計画の検討に専門的知見を取り入れるため、性格の異なる2つの外部会議を並行して設置した。ひとつは「総合計画等策定に係る有識者会議」で、2025年7月から11月にかけて計5回開催された。座長を日本大学の末冨芳教授が務め、日本総合研究所の池本美香氏、京都大学の柴田悠教授、福山市立大学の長谷川良二教授、民間企業経営者らが参加し、現行計画の評価から「めざす姿」の方向性、政策分野ごとの論点までを議論し、2026年1月7日に提言書を市に提出した。 (参考:総合計画等策定に係る有識者会議から提言書が提出されました - 福山市)
もうひとつは、少子化という個別テーマに特化した「福山市少子化対策専門家会議」である。国立社会保障・人口問題研究所の政策研究調整官を座長とし、家族社会学を専門とする中央大学の山田昌弘教授、日本産婦人科医会の相良洋子氏ら家族・保育・医療の専門家で構成された。2025年10月28日の初会合から議論を重ね、2026年2月26日に枝広直幹市長へ提言書を手交した。この提言では、出生数の増加や合計特殊出生率の上昇を直接の目的とするのではなく、就職・定住・結婚・出産などの場面で若者や女性が自己決定を行う際に直面する障壁を取り除くことが、結果的に少子化の反転に資するという考え方への転換が示された。 (参考:少子化対策に関する提言書の手交式を行いました! - 福山市、福山市の専門家会議が少子化対策テーマの提言書を提出 - 中国新聞デジタル)
このほか、2020年度から継続する「福山みらいづくり懇話会」も2025年度に2回開催され、2026年1月20日の第2回会合では素案そのものが議題となった。 (参考:2025年度(令和7年度)第2回福山みらいづくり懇話会を開催しました - 福山市)
計画づくりの土台として、18歳以上の市民を対象に「福山市の新しいまちづくりに関する市民アンケート」を実施し、行政サービス66項目を重要度・満足度の2軸でマッピングした。その結果、「市内のバスや鉄道など利用しやすい公共交通網の整備」「こどもの遊び場の充実」「高齢者の外出や買い物などの生活支援」など21項目を、重要度が高いにもかかわらず満足度が低い「特に重点的に取り組む必要がある領域」として特定した。 (参考:次期福山みらい創造ビジョン策定に向けた調査・分析について - 福山市、福山みらい創造ビジョン本編PDF)
意識調査に加え、小学生から30歳代までの市民から直接意見を聴く取り組みも行われた。「福山夢・未来開花プロジェクト」の枠組みで、小学生から大学生まで29人が参加するワークショップを5班編成で1回実施し、まちづくりについて意見を交わしたほか、市内大学生への就職先選択基準に関するヒアリング、市内企業で働く若手従業員への働き方に関するヒアリングも実施された。参加者集めには、市の広報誌やウェブサイト、SNSでの告知に加え、市内の小中学校・高校へ募集要項を配布する方法がとられた。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
2026年1月27日から2月25日にかけて素案を公表し、意見を募集した。提出数は12通(電子メール9、持参1、ファックス1、郵送1)で、意見の件数は61件にのぼった。市はこれを「意見を計画に反映したもの」(9件)、「市の考え方を説明するもの」(28件)、「今後の参考とするもの」(24件)の3区分に整理し、それぞれの意見要旨と市の考え方をページ番号付きで公表した。 (参考:福山みらい創造ビジョン(素案)に係るパブリックコメントの実施結果について - 福山市、パブリックコメント結果報告書PDF)
計画に反映された9件のうち代表的なものとしては、「結婚・出産を望む人への支援」という項目名を「多様な生き方の尊重を前提とした結婚・出産を望む人への支援」に修正し、新たにSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の理解促進という項目を追加したことが挙げられる。これは意見提出者からの指摘に加え、パブリックコメント終了後に受けた少子化対策専門家会議の提言内容も踏まえた修正であったと市は説明している。このほか、不登校対応に「学習端末を活用したSOSの早期発見」を追加し、地域社会分野にユニバーサルデザインの推進を加え、セーフティネットの充実にアルコール・ギャンブル・ゲームなどの依存症予防と支援を加えるといった修正が行われた。こうした修正を経て、計画は2026年3月31日に確定し、4月14日には概要版もあわせて公表された。 (参考:パブリックコメント結果報告書PDF、福山みらい創造ビジョン(第3期基本計画)- 福山市)
福山版少子化対策の最大の特徴は、出生数や合計特殊出生率そのものを直接の政策目標に据えなかった点にある。少子化対策専門家会議の提言を受け、市は結婚や出産を推奨する構図ではなく、個人が結婚・出産を含む人生の選択を自己決定する際の障壁(働き方、ジェンダーギャップ、経済的負担、医療体制など)を取り除くことに施策の重心を置いた。パブリックコメントで寄せられた「出会いの場の創出よりも自己決定を支える教育への投資を優先してほしい」という意見に対しても、市はこの提言の考え方を援用して回答し、実際に項目名と記載内容を修正している。 (参考:パブリックコメント結果報告書PDF、福山市の専門家会議が少子化対策テーマの提言書を提出 - 中国新聞デジタル)
総合計画のように扱う政策領域が広い計画では、専門性の網羅と深さの両立が難しい。福山市は、都市経営やDX、教育など広範な分野を扱う「有識者会議」と、少子化という最重要課題に絞った「少子化対策専門家会議」を並行して設置することで、この課題を解決した。前者は経営学・行政学・都市経営の専門家、後者は人口学・家族社会学・産婦人科医療の専門家というように、会議ごとに人選の軸を変えている点も特徴的である。 (参考:総合計画等策定に係る有識者会議から提言書が提出されました - 福山市、少子化対策に関する提言書の手交式を行いました! - 福山市)
パブリックコメントの結果報告は、61件の意見を「反映」「説明」「参考」に区分した上で、それぞれの意見要旨と市の考え方を、計画本編の該当ページ番号まで紐づけて一覧化している。こども・若者とのワークショップについても、参加者から「実施規模や参加者募集方法が分からない」という透明性への懸念が寄せられたのに対し、市は参加人数(29人)、募集方法、意見が反映された具体的な施策項目(地域公共交通の充実、世界バラ会議を契機とした新たなばらのまちづくりなど)まで開示して応じている。 (参考:パブリックコメント結果報告書PDF)
目標指標にも、少子化対策を自己決定支援として捉え直した考え方が反映されている。「希望出生率と合計特殊出生率の差」(希望出生率を1.80に更新して算出、2024年0.43→2030年0.3以下。前計画期間中に用いていた希望出生率1.90基準では2024年時点で0.53)に加え、「社会全体で男女の地位が平等となっていると思う人の割合」(2021年度11.8%→2030年度25.0%)、「結婚、妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっていると思う人の割合」(新規調査→2030年度70.0%)といった、市民の意識変化そのものを測る指標が設定されている。出生数のような結果指標は変化までに時間を要するため、環境や意識の変化を早い段階で捉える指標を組み合わせている点が特徴である。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
計画は市全域を中央・東部・西部・南部・北部・北東の6地域に区分し、地域ごとの人口推計と特性に応じた方針を設けている。国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づく独自試算では、2050年にかけて南部地域で約39%、東部地域で約26%の人口減少が見込まれる一方、北東地域は約2%減にとどまるなど地域差が大きい。これを踏まえ、神辺駅西側、松永駅北口、沼隈・「道の駅アリストぬまくまと海を生かした南部地域」、駅家公園周辺など、6地域それぞれで住民主体の意見交換の場が先行的に立ち上がっており、市はこれを「他の地域にも取組を波及させる」段階と位置づけている。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
2026年9月時点で確認できる成果は、計画の実施効果そのものよりも、策定プロセスと推進体制に関するものが中心である。計画期間は2026年度に始まったばかりであり、出生率や転出超過といった中心指標の変化を検証するには至っていない。
パブリックコメントでは61件の意見のうち9件が計画本文の修正に直接反映され、うち複数件は少子化対策専門家会議の提言内容と重なる形で、少子化対策の項目名・記載内容の実質的な書き換えにつながった。意見の反映状況を件数・該当ページまで開示したことで、パブリックコメントが形式的な手続きにとどまらず、実際に文言レベルで影響を持ったことが確認できる。 (参考:パブリックコメント結果報告書PDF)
より具体的な制度化の動きとして、少子化対策専門家会議が2026年2月に提言書を提出してから5か月後の2026年7月、市は提言を受け、「若者・女性に選ばれる企業づくり」を官民で進めるための会議体を新たに発足させた。企業文化や働き方をどう変えていくかを議論し、具体的な取組につなげることをねらいとしており、提言が報告書にとどまらず新たな推進体制の設置という形で具体化した事例といえる。 (参考:福山市、若者・女性に選ばれる企業づくり推進へ 官民共同会議を発足 - 中国新聞デジタル)
前計画から引き継いだ基盤面では、福山駅周辺のウォーカブルエリア内の歩行空間の割合が2020年度の約50%から2024年度には約57%まで上昇し、2025年度目標の約60%に近づいている。人口10万人当たりの産科・産婦人科医師数、小児科医師数もいずれも増加傾向にあり、前計画の目標値達成が見込まれる状況にある。これらは次期計画における目標指標のベースラインとしても引き継がれている。 (参考:福山みらい創造ビジョン本編PDF)
一方で、地域公共交通のバス利用者数(2024年度3,702千人→2030年度4,420千人の目標)のように、長期的な減少傾向を反転させる必要がある指標も多く、少子化対策そのものの効果を含め、成果の検証はこれからの5年間の実施を通じて行われることになる。 (参考:福山のバス利用者数442万人へ、市が総合計画の素案まとめる - 中国新聞デジタル)
出生数や合計特殊出生率は、施策の効果が現れるまでに時間を要し、かつ個人のライフプランに関わるため行政が直接動かせる指標ではない。福山市の少子化対策専門家会議が示した「自己決定の障壁除去」という考え方と、それに連動する意識系KPI(男女の地位が平等だと思う人の割合など)の設計は、出生率という単一の遅行指標に一喜一憂しがちな他自治体の少子化対策にとって、目標設定のあり方を見直す具体的な参考例になる。 (参考:福山市の専門家会議が少子化対策テーマの提言書を提出 - 中国新聞デジタル、福山みらい創造ビジョン本編PDF)
総合計画のように扱う分野が広い計画ほど、特定の重点課題に対する専門性が薄まりやすい。福山市のように、行政・経営全般を扱う有識者会議と、個別の最重要課題(今回は少子化)に特化した専門家会議を並走させる体制は、属人的な工夫ではなく制度設計として他の自治体でも再現可能であり、総合計画の「広さ」と重点施策の「深さ」を両立させたい自治体にとって参考になる。 (参考:総合計画等策定に係る有識者会議から提言書が提出されました - 福山市)
パブリックコメントに対する回答を「反映/説明/参考」の3区分で件数集計し、反映箇所を計画本文のページ番号まで公開する手法は、担当者や首長の個人的な熱意に依存せず、どの自治体でも仕組みとして導入できる。こども・若者の意見聴取についても、参加人数や募集方法、反映先施策まで開示したことで、「意見を聞いたふり」という批判に対して具体的な事実で応答している。この透明性の設計自体が、他地域における市民参加プロセスの改善点として応用しやすい。 (参考:パブリックコメント結果報告書PDF)
少子化対策専門家会議の提言が、提出から5か月というスピードで官民共同会議という具体的な推進体制の設置につながった点は、外部提言の実装における一つのモデルといえる。多くの自治体で有識者提言が計画書の引用にとどまりがちななか、提言内容を担当課の新規事業やタスクフォースに翻訳する仕組みをあらかじめ想定しておくことが、提言の実効性を左右する。 (参考:福山市、若者・女性に選ばれる企業づくり推進へ 官民共同会議を発足 - 中国新聞デジタル)
2026年9月時点の調査内容に基づいて作成
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