
千葉市第2次実施計画の策定と市民参加
千葉市が2026年4月に策定した第2次実施計画(2026〜2028年度)の策定プロセス。素案段階の市民意見募集とパブリックコメントの2段階の意見聴取、全意見への市の考え方の公表など、総合計画の実施計画レベルにおける市民参加の実態を整理する。
千葉市は、10年間の総合計画である「千葉市基本計画」(2023〜2032年度)に基づき、2026〜2028年度の3年間に取り組む具体的な事業を示す「第2次実施計画」を2026年4月に策定・公表した。計画には189事業が環境・自然、安全・安心、健康・福祉、子ども・教育、地域社会、文化芸術・スポーツ、都市・交通、地域経済の8分野に整理されている。 (参考:千葉市:第2次実施計画(令和8(2026)〜10(2028)年度)、千葉市基本計画 第2次実施計画を策定|千葉市国際交流協会)
策定過程では、2025年3月の策定方針決定を起点に、事業素案段階での市民意見募集(2025年10〜11月)と計画案段階でのパブリックコメント手続(2026年2〜3月)という2段階の意見聴取を実施し、公募市民を含む千葉市新基本計画審議会での意見交換や市議会への報告と組み合わせた多層的なプロセスが設計された。一方で、寄せられた意見は素案段階で8名15件、案段階で7人15件にとどまり、理念を扱う基本計画策定時(素案への意見32人203件)と比べて参加規模が大幅に小さいという、実施計画レベルの市民参加に共通する構造的な課題も示した事例である。 (参考:第2次実施計画事業(素案)に対する市民意見の概要(PDF)、「千葉市基本計画第2次実施計画(案)」パブリックコメント手続)
千葉市の総合計画は、恒久的な理念を示す基本構想、10年間のまちづくりの方向性を示す基本計画、3年ごとに具体的な事業と事業費を示す実施計画の3層で構成される。2023年度にスタートした基本計画は「みんなが輝く 都市と自然が織りなす・千葉市」を将来像に掲げ、地方創生の人口ビジョン・総合戦略を統合した点や、多様な主体がまちづくりの担い手となる協働型の枠組みを特徴とする。実施計画は、この基本計画を具体化する事業パッケージであり、第1次実施計画(2023〜2025年度)に続く第2期として第2次実施計画が位置づけられた。 (参考:千葉市:千葉市基本計画がスタートしました!、千葉市基本計画(令和5〜14年度)に基づく実施計画について)
策定方針に示された人口見通しでは、千葉市の総人口は2026年の98万6,900人をピークに計画期間中に減少へ転じ、2028年には98万3,400人、65歳以上人口の比率は28.0%に達すると推計された。物価上昇や台風・豪雨、地震といった先を見通しにくいリスク要因が重なる社会情勢の中でも、足元の課題に対応しつつ地域の暮らしと経済を下支えすることが、計画に期待される役割として位置づけられた。また、計画期間中の2026年に千葉開府900年という節目を迎えることも、計画の背景として明示された。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF))
前提となる基本計画の策定過程(2019〜2022年度)では、ワールドカフェ形式の「千葉市100人未来会議」、市民48名程度で構成し約1年間自主運営された「千葉市まちづくり未来研究所」、小中学生対象の「こども・若者の力ワークショップ」、各区での区民と区長の意見交換会など、多様な参加手法が投入され、素案への市民意見募集では32人から203件の意見が寄せられ28件が原案に反映された。こうした創発型の参加を経て策定された基本計画を、事業レベルでどう具体化し、その過程にどう市民の声を組み込むかが、実施計画策定の論点となる。 (参考:千葉市:千葉市基本計画策定に向けた取組み、千葉市基本計画(素案)に対する市民意見募集結果)
1. 策定方針の決定(2025年3月)
市は2025年3月28日に「第2次実施計画策定方針」を決定し、計画の役割、事業選定の考え方、市民意見の聴取方法、スケジュールをあらかじめ公表した。方針では、第1次実施計画から引き続き100年先に引き継ぐ持続可能なまちづくり、ゆとりを生み・活かす創造的なまちづくり、多様性を活かしたインクルーシブなまちづくり、地域経済・社会の活性化、まちづくりを進める力を高める、という5つの視点を設定した。また、計画策定や内部事務の効率化、新たな政策的判断を要しない施設の維持修繕などは計画事業の対象外と明記し、政策的判断を伴う事業に絞り込む方針を示した。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF))
2. 審議会・議会と組み合わせた策定体制
策定方針では、公募市民を含む千葉市新基本計画審議会で基本目標やKPIについて意見聴取を行い計画策定に活用すること、計画事業案・計画案の各段階で市議会に報告することが定められた。市民意見募集とパブリックコメント手続を含め、審議会・議会・一般市民という3つの回路を策定段階ごとに配置する設計である。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF))
3. 事業素案への市民意見募集(2025年10月31日〜11月14日)
計画案の確定に先立ち、市は「第2次実施計画事業(素案)」を公開して市民意見を募集した。提出者は8名、意見は15件で、内訳は若葉区・緑区・花見川区の産業活性化や市街化調整区域の緩和、避難所への停電対応型空調機整備の明記要望、体育館冷暖房整備への賛同、バス路線再整備やモノレール駅舎リニューアルの事業化要望など、地域の生活基盤や個別事業に関する具体的な意見が中心だった。意見の全文概要は素案とともに市ホームページで公開された。 (参考:第2次実施計画事業(素案)に対する市民意見の概要(PDF))
4. 計画案へのパブリックコメント手続(2026年2月16日〜3月16日)
計画案の全文・概要版を公開して実施したパブリックコメントには、7人から15件の意見が寄せられた(電子メール11件、ファクシミリ3件、郵送1件)。分野別では環境・自然が5件と最多で、その全てが千葉公園水辺ゾーン再整備に関するもの、特に障害者雇用の場ともなっている池畔のカフェの存続を求める意見が4件を占めた。ほかに防犯街灯の公費負担化、町内自治会業務の負担軽減への異論、AI人材育成など、都市・交通4件、安全・安心3件、地域社会2件、総論1件が寄せられた。市は、全15件について意見の概要と市の考え方を1件ずつ対応させた一覧を公表した。 (参考:「千葉市基本計画第2次実施計画(案)」パブリックコメント手続、パブリックコメント手続の実施結果(PDF)、意見の概要及び市の考え方(PDF))
5. 計画の確定・公表(2026年4月)
第2次実施計画は2026年4月に確定し、189事業を8分野に整理した計画書が全体版・分割版・概要版のPDFで市ホームページに公開された。計画は千葉市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略を兼ね、市長マニフェスト(2025〜2028年度)の関連事業も位置づけている。 (参考:千葉市:第2次実施計画(令和8(2026)〜10(2028)年度)、千葉市基本計画 第2次実施計画を策定|千葉市国際交流協会)
6. データに基づく進行管理
各事業は毎年度の予算編成・決算のタイミングで実績を数値で確認し、その結果をもとに軌道修正を行う仕組みが取られており、社会情勢の変化に応じて内容を見直せる設計となっている。進捗状況は千葉市新基本計画審議会地方創生部会へ報告され、市ホームページ等で公表される。第1次実施計画でも同様の枠組みで、決算時点の取組状況報告書が毎年度公開されてきた。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF)、千葉市:第1次実施計画(令和5(2023)〜7(2025)年度))
計画階層に応じた参加手法の使い分け
千葉市は、10年間の理念を定める基本計画ではワールドカフェや市民研究所など創発型・対話型の手法を多用した一方、3年間の事業を定める実施計画では、審議会・議会・意見募集・パブリックコメントという制度型の手法に絞っている。参加手法を計画の性格(理念か事業か)に応じて使い分ける設計は、限られた行政資源の中での合理的な選択である一方、事業レベルでの市民の関与機会が制度的手続に限定されるというトレードオフも内包している。 (参考:千葉市:千葉市基本計画策定に向けた取組み、第2次実施計画策定方針(PDF))
パブリックコメントに先行する素案段階の意見募集
法定・条例上の手続であるパブリックコメント(案段階)とは別に、その約3か月前に事業素案の段階で市民意見募集を行う2段階設計を、第1次実施計画(素案意見募集2022年10月〜2023年1月、パブリックコメント2023年2〜3月)から継続している。案が固まる前の段階で意見を受け付ける仕組みを総合計画の実施計画に組み込んでいる点は、手続の形骸化への一つの対応と位置づけられる。 (参考:千葉市:第1次実施計画(令和5(2023)〜7(2025)年度)、千葉市:第2次実施計画(令和8(2026)〜10(2028)年度))
全意見への応答と「反映」欄の明示
パブリックコメントの結果公表では、15件の意見それぞれに市の考え方を対応させ、「計画案への反映」の有無を欄として明示した。第2次実施計画では反映に至った意見は無く、全件が「今後の参考」等の扱いだったが、反映しなかったことも含めて意見と応答を全件公開する形式は、行政の応答責任を検証可能にしている。 (参考:意見の概要及び市の考え方(PDF))
地方創生戦略・市長マニフェストとの一体化
実施計画が地方創生のまち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略を兼ね、市長マニフェストの関連事業を位置づけることで、複数の行政計画を一本化している。計画の乱立による策定・管理コストの増大(いわゆる計画疲れ)を避けつつ、総合計画を市政運営の実質的な中核に据える構成である。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF))
計画の確定と公開
2026年4月に第2次実施計画が確定し、189事業を8分野に整理した計画書と概要版が公開された。策定方針決定(2025年3月)から約1年で、素案公開、2段階の意見聴取、審議会・議会への報告を経て計画確定に至っており、策定方針で示したプロセスがおおむね履行された。 (参考:千葉市:第2次実施計画(令和8(2026)〜10(2028)年度)、千葉市基本計画 第2次実施計画を策定|千葉市国際交流協会)
意見聴取の実績と参加規模の限界
2段階の意見聴取は予定どおり実施され、結果もすべて公開されたが、意見提出は素案段階8名15件、案段階7人15件と、人口約98万人の政令指定都市の総合計画としては小規模にとどまった。基本計画素案(2021年)の32人203件と比べても、事業レベルの計画への関心喚起が難しいことがうかがえる。また、パブリックコメント15件のうち計画案の修正に至った意見は無かった。8分野のうち健康・福祉、子ども・教育、文化芸術・スポーツ、地域経済の4分野への意見は0件だった。 (参考:パブリックコメント手続の実施結果(PDF)、千葉市基本計画(素案)に対する市民意見募集結果)
個別の場所への関心が意見の中心
寄せられた意見の内容を見ると、計画の体系や目標設定よりも、千葉公園水辺ゾーンのカフェ存続(5件)、避難所の空調、バス路線やモノレールなど、特定の場所・施設・サービスへの意見が大半を占めた。市はカフェ関連の意見に対し「公園利用者や関係者、また民間事業者の意見を踏まえて整備を進める」と応答しており、計画への直接反映ではないものの、個別事業の進め方に対する市民の関心を顕在化させる回路として機能した側面がある。 (参考:意見の概要及び市の考え方(PDF))
なお、計画期間は2026年度に始まったばかりであり、189事業の進捗や KPI の達成状況は今後の各年度の検証・公表を待つ段階である。
実施計画レベルの参加は「制度を置くだけ」では機能しにくい
本事例は、素案段階からの2段階聴取という比較的丁寧な制度設計を行っても、事業レベルの計画への意見提出が数名〜十数件規模にとどまる実態を数字で示している。実施計画は予算を伴う具体的事業を定めるため、本来は市民生活への影響が最も直接的な計画だが、文書量が多く(千葉市の計画書は本編だけで約7MB・8分野構成)、争点が見えにくいことが参加の障壁になりうる。他地域で同種の計画に市民の声を取り込む場合、公開・募集という受動的な回路に加えて、分野別の対話機会や関心層への能動的なリーチを組み合わせる必要性を示唆している。 (参考:千葉市:第2次実施計画(令和8(2026)〜10(2028)年度))
「反映ゼロ」も含めた全件公開が応答責任の基盤になる
意見ごとに市の考え方と反映の有無を明示して公表する千葉市の形式は、特別な予算や体制を要さず、どの自治体でも再現可能な実務である。反映件数が結果としてゼロであっても、その事実が検証可能な形で残ることは、次期計画で意見聴取のタイミングや方法を見直す際の根拠になる。意見聴取の「実施」ではなく「応答の公開」までをプロセスの標準に含める点が参考になる。
個別の場所への愛着を計画議論の入り口として扱う
パブリックコメントで最多だったのは、公園再整備に伴う一つのカフェの存続要望だった。市民の関心は抽象的な政策体系ではなく、日常的に利用する具体的な場所から立ち上がることを示す典型例であり、計画手続とは別に、こうした個別の場所をめぐる声を関連事業の設計(本件では公園利用者・関係者との対話)に接続する運用が、計画への信頼を支える。総合計画の意見聴取を「計画文書への意見」に限定せず、個別事業への関心の受け皿として設計する視点は他地域にも応用できる。
計画の統合と絞り込みで実施計画を「使われる計画」にする
地方創生総合戦略やマニフェスト関連事業を実施計画に統合し、政策的判断を要しない事業を対象外とする絞り込みは、計画を毎年度の予算・決算と連動した進行管理の単位として機能させるための工夫である。計画体系が肥大化しがちな中規模以上の自治体にとって、3年サイクル・データ検証・審議会報告という進行管理の枠組みと合わせて、総合計画を形骸化させないための参照点となる。 (参考:第2次実施計画策定方針(PDF))
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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