
千葉市空家等対策計画(改定)
千葉市が2024年3月に改定した空家等対策計画。特定空家を2030年度に15件へ削減する目標に加え、改正空家法に基づく「管理不全空家等」区分の新設、民間法人による伴走型支援、政令市初の固定資産税減免条例など、多層的な空き家対策を展開する。
千葉市空家等対策計画(改定)は、千葉市が2018年7月に策定した「千葉市空家等対策計画」を、2024年3月に全面改定したものである。「千葉市住生活基本計画」が2023年3月に改定されたことと、2023年12月に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律)への対応を主な契機とし、当初想定していた8年間の計画期間の終盤にあたる時期に内容を刷新した。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月)|千葉市、千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版)
改定計画は「対策を総動員して、空き家を『へらす』『つかう』『なくす』」を基本目標に掲げ、倒壊等の危険がある「特定空家等」の件数を2021年度の102件から2030年度に15件へ削減する目標と、統計上の「その他空き家」(賃貸・売却の予定がなく活用の見通しも立たない空き家)の増加を抑える目標の2つを数値目標として設定した。空き家ガイドブックを軸にした発生予防啓発の強化に加え、改正空家法で新設された「管理不全空家等」という予備軍カテゴリーへの対応や、民間法人が所有者に伴走する新たな支援制度の活用検討を盛り込んだ点が、2018年の当初計画からの大きな変化である。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版)
改定から2年余りが経過した2026年7月時点の進捗報告では、特定空家等件数はすでに31件まで減少しており、目標の15件に着実に近づいている。さらに2026年3月には民間11団体を「空家等管理活用支援法人」に指定し、8月には政令指定都市では例がないとされる、空き家を除却した土地の固定資産税等減免条例が施行されるなど、計画改定を起点に新たな制度が矢継ぎ早に整備されている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料、千葉市、空き家解体後の税負担を軽減 放置防止へ条例制定|日本経済新聞)
2023年の住宅・土地統計調査によると、千葉市の住宅総数は510,700戸で、1973年(昭和48年)の176,700戸から一貫して増加を続けている。空き家数も同期間に14,800戸から52,700戸へと拡大したが、空き家率は2003年(平成15年)の14.4%をピークに緩やかな減少傾向にあり、2023年時点では10.3%と全国平均13.8%を下回る水準にある。ただし、賃貸・売却用や別荘等の二次的住宅を除いた「その他空き家」(活用の見通しが立たない空き家)は2018年時点で15,800戸あり、増加基調が続いていた。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
千葉市の市街化区域内には、立地適正化計画上の居住促進区域に立地し、開発から40年以上が経過した5ha以上の「高経年住宅団地」が24団地あり、あわせて21.1万人が暮らしている。これらの団地の高齢化率は36%と市平均の26%を大きく上回っており、住民の高齢化とともに空き家化が進みやすい構造的な課題を抱えている。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版)
2017年度に千葉市が実施した空家等実態調査のアンケートでは、空き家所有者の困りごととして「解体して更地になると固定資産税等の負担が増加すること」が最多の回答(回答389件中128件、32.9%)となった。次いで「売却したいが売却相手が見つからない」(109件)、「解体したいが解体費用が高額で解体できない」(85件)が続き、除却に伴う税負担増と費用負担が空き家放置を招く二大要因として浮かび上がった。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
2023年3月に上位計画「千葉市住生活基本計画」が改定されたことに加え、同年6月には空家法が改正・公布され、6カ月以内の施行が定められたのち、同年12月に施行された。この改正では、放置すればいずれ特定空家等に至る恐れのある空き家を「管理不全空家等」として位置づける規定や、民間法人を「空家等管理活用支援法人」として市区町村が指定できる制度が新設された。千葉市は2024年1月にパブリックコメントを実施したうえで、同年3月に計画を改定した。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月)|千葉市、千葉市:空家等管理活用支援法人について)
千葉市は2013年4月に「空き家等の適正管理に関する条例」を施行し、2014年6月には空家活用相談窓口を設置した。2015年の空家法全面施行を受け2016年度から法に基づく調査・指導を開始し、2017年6月〜2018年2月には市内全域を対象とした空家等実態調査を実施した。この調査結果を踏まえ、2018年7月に「千葉市空家等対策計画」を策定・公表し、同年10月には不動産関連7団体との協定を締結した。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版)
2019年5月、空き家所有者と活用希望者の橋渡しを行う「すまいのリユースネット(空家等情報提供制度)」の運用を開始した。2021年4月には空き家専門相談制度を新設するとともに、発生予防や管理方法、活用事例などをまとめた「空き家ガイドブック」を発行し、区役所やコミュニティセンターなど市内の公共施設で配布を始めた。一般相談は千葉市住宅供給公社への業務委託により「すまいのコンシェルジュ」が窓口となり、専門相談は協定団体と連携して対応する体制を構築した。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版、千葉市:空家に関する施策)
改定計画は「方針1 空家等の発生予防」「方針2 空家等の利活用の促進」「方針3 管理不全な空家等の解消」「方針4 関係団体等の多様な主体との連携」の4本柱で構成され、あわせて46項目(重複掲載を含む)の具体的施策を設定した。改定にあたり、空き家ガイドブック・チラシによる普及啓発の拡充、相続関連の「おくやみハンドブック」を活用した啓発、外部セミナーとの連携、高経年住宅団地の空き家問題解決に取り組む団体への支援、空き地バンクの検討などが新規または強化施策として盛り込まれた。進捗は、建築士・宅建業者・大学教授・弁護士・司法書士等の専門家8名で構成する千葉市空家等対策協議会が年1〜2回、指標に基づいて確認する体制とした。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版、千葉市:千葉市空家等対策協議会)
改正空家法の施行を受け、千葉市は2024年度に「管理不全空家等」(特定空家等の予備軍)の判定基準を新設するとともに、特定空家等の判定基準も見直した。これに伴い、従来から特定空家等として扱ってきた物件をすべて再調査するとともに、これまで特定空家等に該当しないとされてきた物件についても新基準で再調査を実施し、より早い段階から行政指導の対象を捕捉できる体制へと切り替えた。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
2025年10月、千葉市は指定方針や募集要領を制定して申請受付を開始し、2026年1月末に受付を終了、同年3月24日付けで11団体を「空家等管理活用支援法人」として指定した(指定期間は2029年3月31日まで)。指定を受けたのは、空き家買取・活用を専門とする株式会社から地元密着のNPO法人、宅地建物取引業や不動産の業界団体まで幅広く、対応分野も売却・賃貸・解体・管理・相続・権利関係など多岐にわたる。活動パターンには、市が所有者から取得した「空き家所有者情報提供等同意書」に基づき情報を提供する「同意書型」と、支援法人自らが所有者を発掘して働きかける「掘り起こし型」の2つがあり、いずれも支援法人が個々の所有者の事情を踏まえて解決策を提案し、専門家とも調整しながら伴走する「伴走型支援」を行う点が共通している。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料、千葉市:空家等管理活用支援法人について)
2026年6月、千葉市議会第2回定例会で「千葉市空家を除却した土地に係る固定資産税等の減免に関する条例」が可決され、8月1日に施行された。住宅が建つ土地には固定資産税等を軽減する「住宅用地特例」が適用されるが、空き家を解体して更地にすると特例が外れ、税額はおおむね3倍程度に増加する。この条例は、1年以上空き家だった住宅を解体した土地について、除却翌年度に生じる税負担の増加分を1年度に限り減免するもので、日本経済新聞によれば、こうした制度を条例化したのは政令指定都市で初めてだという。制度設計にあたり2026年1〜3月に実施したパブリックコメントでは「減免期間が1年度では短い」との意見も寄せられたが、関係団体へのヒアリングで、市内の戸建て住宅が売買で流通するまでにかかる期間はおおむね1年以内との回答が得られたことを踏まえ、1年度の減免期間で施行された。 (参考:千葉市、空き家解体後の税負担を軽減 放置防止へ条例制定|日本経済新聞、千葉市:空家を除却した土地に係る固定資産税等の減免について、第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
2026年8月には、町内自治会や地域活動団体、空家等管理活用支援法人などを対象に、空き家・空き地の普及啓発や活用整備にかかる費用を補助する「(仮称)千葉市空き家・空き地管理活用応援制度」も新たに開始される予定である。同年3月末に終了した「すまいのリユースネット」に代わり、住民主体の空き家・空き地対策を後押しする狙いがある。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
千葉市の計画は当初2018〜2025年度の8年間を想定していたが、上位計画の改定と改正空家法の施行という2つの外部要因が重なったことを受け、計画期間の途中である2024年3月に改定に踏み切った。多くの自治体計画が固定的な見直しサイクルで運用される中、法制度の変化に応じて機動的に内容を更新した点は特徴的である。 (参考:千葉市空家等対策計画(令和6年3月改定)概要版)
改正空家法が新設した「管理不全空家等」という概念を、千葉市は既存物件の全数再調査というかたちで速やかに実装した。従来の「特定空家等(危険な状態になってから行政指導)」という事後対応型の枠組みに、「管理不全空家等(危険化する前に把握・指導)」という予防型の枠組みを重ね、空き家の劣化ステージに応じた二段階の対応を可能にしている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
空き家相談の窓口を市直営や単一の外郭団体に集約するのではなく、不動産売買を専門とする株式会社、NPO法人、宅建協会や不動産協会といった業界団体まで、性格の異なる11法人を公募・指定して並立させている。所有者は自身の悩み(売却したいのか、管理だけ頼みたいのか、相続で困っているのか)に応じて相性の良い相談先を選べる設計であり、支援法人には3カ月ごとの業務報告書と年度終了後の事業報告書の提出を求め、市が活動状況を継続的に把握する監督の仕組みも組み込まれている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
空き家ガイドブックによる啓発や相談体制の整備が「情報・心理面」の障壁に働きかける施策であるのに対し、固定資産税等減免条例は「除却後の税負担増」という経済的な障壁に直接手を打つ施策である。所有者アンケートで最多回答だった課題にピンポイントで対応し、かつ政令指定都市として初めて条例化に踏み切った点が、他の空き家対策との違いとして際立つ。 (参考:千葉市、空き家解体後の税負担を軽減 放置防止へ条例制定|日本経済新聞)
高経年住宅団地における空き家発生対策を、除却や活用の促進だけでなく、子育て中の世帯や新婚世帯、パートナーシップを宣誓したカップルなどを対象にした住み替え支援(結婚新生活支援事業・子育て世帯住替え支援事業)による若年層の流入促進とセットで運用している。空き家を「減らす・使う」施策と、団地に新たな住民を呼び込む施策を、同じ高経年住宅団地という単位で組み合わせている点が特徴的である。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
2026年7月15日開催の第15回千葉市空家等対策協議会に報告された内容を中心に、2026年8月時点で判明している範囲の成果を整理する。
特定空家等の件数は、2021年度(当初値)の102件から2025年度末(2026年3月末)時点で31件まで減少し、2030年度目標の15件に近づいている。年度別の推移を見ると2018年度の145件をピークに2019年度以降は一貫して減少しており、市は自主的な改善を促す行政指導を粘り強く続けてきたことと、所有者不明の物件では財産管理制度を活用してきたことを主な要因として挙げている。一方で、特定空家等に移行する前段階である管理不全空家等への予防的な取り組み強化が今後の課題とされている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
賃貸・売却用等以外の「その他空き家」数は、2018年度の15,800戸から2023年度は13,700戸へと減少した。改定計画が設定した2030年度の目標値18,100戸(国の全国計画に基づき増加を15%程度に抑制する水準として設定)を、現状値がすでに下回っている。市は、空き家ガイドブックを活用した適切な管理・活用の啓発や、協定を結ぶ団体と共同で運営する専門家相談の窓口を拡充してきたことに加え、千葉市では中古住宅の流通がある程度活発であることも、減少を後押しした一因とみている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
改定計画が掲げる46の具体的施策(重複掲載を含む)のうち、2026年7月時点で40項目(86.9%)が「実施」段階に達しており、前年度の37項目(80.4%)から進捗した。この1年で新たに「実施」段階へ移行したのは「売却や建替え等が困難な特定空家等への支援策の検討」と「空家等管理活用支援法人の活用の検討」の2施策で、いずれも支援法人の指定(11者)によって具体化した。一方、「空き地バンクの実施」は制度設計の検討段階にとどまり未実施のまま、「高経年住宅団地での空き家問題の解決を図る団体への支援」も検討中にとどまっている。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料)
2025年度(令和7年度)実績として、すまいのコンシェルジュによる一般相談が89件、協定団体と連携した専門家相談が25件記録された。空き家の譲渡所得3,000万円特別控除の申請件数は172件で、2021年度の110件から2024年度には193件まで増加した後、2025年度はやや減少している。財産管理制度の活用では、相続財産清算人の申立てが4件、不在者財産管理人の申立てが1件行われた。2026年3月末で運用を終えた「すまいのリユースネット」は最終年度の成約件数が0件にとどまり、後継となる支援策への移行を後押しする結果となった。空家等管理活用支援法人については、2026年3月末(令和7年度末)時点で、市が所有者から取得した「空き家所有者情報提供等同意書」が58件に達している。 (参考:第15回千葉市空家等対策協議会 会議資料、すまいのリユースネット(千葉市空家等情報提供制度)|千葉市)
特定空家等の件数だけを追う指標設計では、行政が対応できるのは既に危険な状態になった物件に限られる。千葉市が改正空家法に基づいて導入した「管理不全空家等」という予備軍区分と、それに伴う既存ストックの全数再調査は、危険化する前の段階で所有者への働きかけを可能にする仕組みであり、同じ法改正の枠組みを活用できる他の自治体でも再現性が高い。
自治体単独では空き家相談に必要なマンパワーや専門性を確保しにくいという課題に対し、千葉市は不動産事業者からNPO、士業団体まで性格の異なる複数法人を公募・指定するかたちで解決を図った。単一の相談窓口を自前で運営するよりも、既存の民間リソースを審査・指定し、市は情報提供と監督に徹するという役割分担は、大都市に限らず様々な規模の自治体で応用できる制度設計の型といえる。
空き家放置の一因である「解体すると固定資産税等が増える」という構造は全国共通の課題であり、国の制度改正を待たずに市独自の条例で対応した千葉市の事例は、同様の課題を抱える他自治体にとって具体的な選択肢を示している。ただし、パブリックコメントで指摘された「減免期間の長さ」を巡る論点が示すように、制度設計は自地域の不動産流通実態(売買までの平均期間等)を踏まえて検証する必要があり、他地域がそのまま模倣するのではなく、自らのデータに基づいて設計し直すことが求められる。
高経年住宅団地という同一のエリア単位で、空き家の除却・活用促進策と、子育て世帯・新婚世帯向けの住み替え支援策を組み合わせている点は、空き家を「減らす」だけでなく地域コミュニティの担い手を「増やす」という需要側からのアプローチを伴っており、除却や活用促進にとどまりがちな一般的な空き家対策計画に対して示唆に富む視点を提供している。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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