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高津戸乗合タクシー地域主体運行移行(千葉市)
高津戸乗合タクシー地域主体運行移行(千葉市)

高津戸乗合タクシー地域主体運行移行(千葉市)

高津戸乗合タクシー地域主体運行移行(千葉市)

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千葉市緑区高津戸町で2023年に始まった乗合タクシー社会実験は、データに基づく候補地選定と数値目標によるPDCAを重ね、2026年1月に千葉市初の地域主体本格運行へ移行した。隣接地域への横展開も進んでいる。

高津戸乗合タクシー地域主体運行移行(千葉市)

概要

千葉市緑区高津戸町は、大型商業施設や医療機関に乏しく、路線バスの運行本数も極めて少ない「公共交通不便地域」に指定されたエリアである。市は2023年3月13日、この地区をモデル地区として事前予約制の乗合タクシー「高津戸乗合タクシー」の社会実験を開始した。地元住民でつくる協議会と行政が2年以上にわたって運行内容の改善を重ねた結果、利用が定着したとして2026年1月16日、千葉市で初めて社会実験から地域主体の本格運行へと移行した。 (参考:千葉市:デマンド型交通について乗合タクシー本格運行 交通不便地域、地元主体で(千葉日報オンライン)

本格運行に移行したのは高津戸町コースのみで、事前の利用者登録が不要になった一方、運営は高津戸町内会を母体に新設された「高津戸交通運営委員会」とタクシー事業者が担い、千葉市が経費の一部を補助する形に切り替わった。隣接する下大和田町・上大和田町、大椎台・大木戸台の2コースは、路線バス廃止を受けて2024年4月から社会実験を継続中で、2027年3月末まで運行期間が延長されている。さらに緑区平山町地区でも、高津戸町の取り組みを参考にした地域交通協議会が2023年から活動しており、同様の手順を踏んだ社会実験の準備が進む。 (参考:千葉市:デマンド型交通について公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

背景・課題

千葉市は地域公共交通計画に基づき、市内を鉄道駅・バス停へのアクセス状況で4段階(区分A〜D)に区分している。もっとも条件が厳しい区分D(駅・バス停のいずれへのアクセスにも30分以上を要する地域)は、市域面積の13.4%にあたる約3,633haを占めるが、そこに住む人口は市全体のわずか0.7%にあたる約6,700人にとどまる。人口が薄く広く分散しているため、路線バスなど従来型の公共交通では採算が合いにくいという構造的な課題を抱えていた。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

千葉市はこの区分Dをさらに14の候補地(No.1〜14)に分割し、各エリアの人口総数・65歳以上人口・可住地人口密度・最寄り駅までの距離という4つの指標で評価した。高津戸町北部等(No.10)は人口約1,600人、65歳以上人口約560人、可住地人口密度1,215人/km²、最寄りのJR土気駅まで約2〜3kmという条件で、4指標すべてが上位評価となり総合評価A、14候補地の中で最も優先度が高いモデル地区とされた。2021年2月1日、千葉市地域公共交通活性化協議会がこれを承認し、高津戸町がモデル地区に選定された。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

選定時に実施された住民アンケートでは、外出頻度が「週1〜2日」と答えた回答者が18%を占め、路線バス・タクシーの満足度は「不満・やや不満」がいずれも過半数を占めた。買い物や通院の主な行き先は最寄りのJR土気駅周辺に集中していたが、地形の起伏もあって徒歩や自転車での移動には負担が大きく、高齢化が進む住宅団地から駅や商業施設への足の確保が地域の切実な課題になっていた。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)千葉日報オンライン:公共交通不便地域解消へ 乗り合いタクシー運行開始 千葉市緑区高津戸町地区

取り組みのプロセス

1. 地元協議会の発足と運行計画の合意形成(2021年7月〜2023年3月)

モデル地区選定を受け、2021年7月31日に交通政策課をオブザーバーとする地元協議会が発足した。協議会は月1回程度のペースで移動ニーズや運行内容を話し合い、2023年12月時点で通算21回に及んでいる。2022年6月に公共交通事業者向けの説明会を開き、同年10月の地域公共交通部会で事業者公募を、12月の部会で運行計画案をそれぞれ承認した。約2年間の協議を経て、2023年3月13日に「高津戸乗合タクシー」が運行を開始した。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

2. 社会実験の開始と初期の運行内容(2023年3月〜)

社会実験開始当初の運行は、毎週月・金曜日、午前2便・午後2便の計4便で、高津戸町内の住宅地停留所7箇所と、あすみが丘周辺の商業施設・病院など施設側停留所6箇所を結んだ。料金は大人500円/小学生250円で、予約は前日17時が締め切りとされ、利用には事前の利用者登録も必要だった。乗降は「住宅地⇔施設」間に限定され、「施設⇔施設」間の移動はできない仕組みとした。開始から3か月後の2023年6月には高津戸町内全戸を対象にアンケートを実施し、「当日予約ができるようにしてほしい」「病院の受診時間に合わない」「起伏が激しく帰りの荷物を持ち帰るのがつらい」といった具体的な改善要望が寄せられた。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

3. 半額キャンペーンによる利用喚起(2023年7月)

運行開始から数か月間、月あたりの延べ利用者数は11〜21人程度で伸び悩んでいた。市は2023年7月の運行日9日間、往復利用者の帰り便を無料にする「運賃半額キャンペーン」を実施した。この施策により7月の延べ利用者数は99人へと急増し、以降も月30〜40人台で推移するなど、利用が定着する転機となった。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)千葉市:高津戸乗合タクシー料金半額イベントを実施します

4. 隣接地域への拡大と運行計画の反復改善(2024年4月〜)

下大和田町・上大和田町では2022年7月に、大椎台・大木戸台の各地区では2023年10月の減便を経て2024年3月末に、それぞれ千葉中央バスの路線が廃止となり、高津戸町に隣接するこれらの地域でも移動手段の確保が課題となった。千葉市は高津戸町での知見を踏まえ、2024年4月からこの2地区にもデマンド型交通の社会実験区域を拡大した。あわせて高津戸町コースも、往復利用を促すため運行便数を6便から7便に増便し、停留所を住宅地7→14箇所とほぼ倍増、施設6→8箇所へと増設するなど、利用登録者へのアンケートや地域からの要望をもとに運行計画の見直しを繰り返した。 (参考:公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

5. 地域主体の本格運行への移行(2026年1月16日)

3年近い社会実験を経て利用が定着したことを踏まえ、高津戸町コースは2026年1月16日に地域主体の本格運行へ移行した。事前の利用者登録は不要となり、予約のみで誰でも利用できる仕組みに簡素化された一方、運営は高津戸町内会を母体とする「高津戸交通運営委員会」とタクシー事業者・株式会社鹿野西岬タクシーが担い、千葉市が運行経費の一部を補助する体制に切り替わった。下大和田町・上大和田町、大椎台・大木戸台の2コースは本格運行の基準に達していないとして、社会実験を2027年3月末まで延長している。 (参考:千葉市:デマンド型交通について高津戸乗合タクシー 高津戸町コース リーフレット(令和8年1月改訂版)

この事例の特徴

エビデンスに基づく候補地選定

多くのデマンド交通導入事例が住民要望や陳情を起点にエリアを決めるのに対し、高津戸町の事例は、市内全域を交通アクセス状況で4区分し、その中でも最も不便な区分Dをさらに14候補地へ細分化したうえで、人口規模・高齢者数・人口密度・最寄り駅距離という定量指標で比較評価し、最優先地区を絞り込んでいる。声の大きさや個別の陳情ではなく、データに基づく比較を経て投資対象を決めた点が、限られた予算を最も効果の見込める地域に振り向ける再現可能な手法になっている。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

数値目標を伴う移行基準による段階的な判断

千葉市は社会実験の段階から「実利用者数」「利用者一人当たりの利用回数」「1日当たりの輸送実績」「収支率」という4つの評価指標に目標値を設定し、実績と突き合わせて社会実験の継続・拡大・本格運行移行を判断している。目標達成の有無を定期的に地域公共交通部会で確認するプロセスにより、「本格運行に移行してよいか」という判断が、なんとなくの空気ではなく数値の推移で語れるようになっている。 (参考:公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

住民協議会主導での運行計画の反復改善

約21回に及ぶ地元協議会での協議、開始3か月後・1年後といった節目での全戸アンケートを起点に、便数、停留所位置、予約締切時間といった運行計画の細部を繰り返し見直している。行政が最初に決めた仕様を固定的に運用するのではなく、住民の生活実感(当日予約のニーズ、坂道での荷物運びの負担など)をもとに設計を変え続けている点が特徴である。 (参考:新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

移行後の運営を担う受け皿組織の制度化

本格運行への移行にあたり、千葉市は町内会の熱意や個人のボランティアに運営を委ねるのではなく、「高津戸交通運営委員会」という組織を新設し、タクシー事業者・町内会・行政の役割分担を明文化した。問い合わせ窓口も「運営に関することは運営委員会委員または町内会役員」「運行に関することはタクシー事業者」「制度全般は市の交通政策課」と明確に切り分けられており、地域主体運行が特定個人に依存せず継続できる体制を志向している。 (参考:高津戸乗合タクシー 高津戸町コース リーフレット(令和8年1月改訂版)

調査時点の成果

利用実績は着実に積み上がっている。社会実験開始から約8か月後の2023年11月末時点で登録者数238人・実際に利用した人数54人だったのに対し、2025年12月末時点では高津戸町コースを含む3コース合計で登録者数642人(うち高津戸町コース280人)、2025年度(4〜12月)だけで延べ利用者数1,938人(うち高津戸町コース1,066人)に達している。高津戸町は1,311世帯の地区であり、登録者数はその2割超に相当する規模になった。 (参考:千葉市:デマンド型交通について新たな地域公共交通導入に向けた社会実験について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料2)

評価指標でも改善傾向がはっきりと表れている。高津戸町コースの収支率(運行経費に対して運賃収入等がどれだけ賄えているかを示す指標)は、目標値17.0%に対し2023年度実績が18.54%、2024年度(4〜12月)実績は24.30%まで上昇した。利用者一人当たりの利用回数も、目標値4.8回に対し2023年度実績8.5回、2024年度(4〜12月)実績17.1回と大きく伸びており、単発の利用ではなく生活の足として繰り返し使われるようになっていることを示している。 (参考:公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

こうした実績の積み上げを経て、高津戸町コースは2026年1月、千葉市で初めて社会実験から地域主体の本格運行へ移行した事例となった。あわせて、隣接する下大和田町・上大和田町、大椎台・大木戸台への社会実験区域拡大、さらに緑区平山町地区での地域交通協議会設立(2023年発足)とアンケート調査を経た運行計画立案という形で、高津戸町のプロセスを踏襲した横展開が進んでいる。 (参考:千葉市:デマンド型交通について公共交通不便地域モデル地区でのデマンド型交通社会実験の実施状況について(千葉市地域公共交通活性化協議会 資料1)

他地域への示唆

第一に、区分分けと候補地の定量評価という高津戸町の候補地選定手法は、特定の地形や人口構成に依存しない汎用的なフレームワークである。駅・バス停へのアクセス時間で市域を区分し、その中で人口規模・高齢者数・密度・最寄り駅距離を比較するという手順は、他自治体でも既存の統計データと地図情報があれば再現でき、複数の不便地域を抱える自治体が「どこから着手すべきか」を客観的に決める際の参考になる。

第二に、社会実験の開始前から実利用者数・利用回数・収支率といった数値目標を設定しておくことは、地域主体運行への移行を「機運の高まり」という曖昧な基準ではなく、追跡可能な指標で判断できるようにする。目標値と実績を照らし合わせる仕組みは、社会実験が長期化しがちなデマンド交通において、いつ・何を根拠に次の段階へ進むかを地域と行政が共有するための実務的な手がかりになる。

第三に、利用が伸び悩む時期に的を絞った利用喚起策(往復無料の半額キャンペーン)を投入し、その効果を月次データで確認しながら定着させたプロセスは、他地域が社会実験の初動で陥りやすい「登録は増えるが利用が伸びない」停滞を打開する一つの型として応用できる。

第四に、本格運行への移行時に「運営委員会」という受け皿組織を新設し、タクシー事業者・町内会・行政の役割と問い合わせ窓口を明文化した点は、地域主体運行がしばしば直面する「熱心な個人が抜けると続かなくなる」という属人化のリスクに対する具体的な備えになっている。移動手段の運営を地域に委ねる際には、組織と役割分担をセットで設計することの重要性を示す事例といえる。

参照元

2026年08月時点の調査内容に基づいて作成

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