
若葉区泉地域コミュニティバス(さらしなバス・おまごバス・いずみバス)
千葉市若葉区泉地域で、路線バスの相次ぐ撤退を受けて1998年から2008年にかけて開設された3つの循環コミュニティバス。沿線自治会・市・バス事業者の協議会が運賃改定などを継続的に協議し、20年以上運営してきた住民参加型公共交通の事例。
千葉市若葉区の泉地域では、千葉都市モノレール千城台駅を起点・終点として地域内を周回する3つのコミュニティバス「さらしなバス」「おまごバス」「いずみバス」が運行されている。いずれも民間路線バスの相次ぐ撤退を受けて、1998年から2008年にかけて段階的に開設された路線であり、沿線自治会・千葉市・運行事業者(現・京成バス千葉イースト)の三者で構成する「若葉区泉地域コミュニティバス運行協議会」が、運賃改定や事業者の変更、ダイヤの見直しを継続的に協議しながら運営してきた。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス、千葉県:コミュニティバス(定時定路線型)一覧)
運行開始から四半世紀余りが経過した2025年にも、協議会での協議を経てダイヤ改定とバス停名称の変更が実施されており、住民参加による継続的な見直しを重ねながら長期運営を続けている点が、この事例の特徴である。 (参考:京成電鉄バスホールディングス:ニュースリリース(2025年4月1日))
千城台駅周辺は千葉市郊外の住宅団地地域であり、かつては民間バス事業者による路線網が整備されていたが、利用者減少等を背景に撤退が相次いだ。まず1998年10月、千城台駅を起終点とする循環路線として「さらしなバス」が運行を開始した。次いで2005年9月、既存路線の廃止を受けて「おまごバス」が、2008年3月には「いずみバス」がそれぞれ開設され、3路線体制が整った。 (参考:千葉県:コミュニティバス(定時定路線型)一覧(令和7年3月31日現在))
背景にあったのは、公共施設や買い物先、通勤・通学先へのアクセス手段を失う「交通不便地域」の発生である。特に鉄道駅を持たない団地内の住民にとって、通院・買い物等の日常的な移動手段の確保は切実な課題であり、千葉市は路線廃止のたびに新たなコミュニティバスを立ち上げることで対応してきた。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス)
1. 撤退路線ごとの段階的な開設
3路線は同時に計画されたものではなく、既存路線の撤退が発生するたびに個別の代替バスとして立ち上げられてきた。さらしなバス(1998年)、おまごバス(2005年)、いずみバス(2008年)と、10年間で3路線が順次開設され、結果として千城台駅を拠点に地域全体をカバーする循環バス網が形成された。 (参考:千葉県:コミュニティバス一覧)
2. 運行協議会による一体的な運営体制の構築
3路線はそれぞれ別個の経緯で開設されたが、その後は沿線自治会・千葉市・運行事業者からなる単一の「若葉区泉地域コミュニティバス運行協議会」が3路線を横断して所管する体制に一本化された。協議会は令和元年時点で通算19回、令和8年4月時点で29回の開催実績があり、対面会議に加えて書面会議による意見募集(例:令和4年3月28日~5月9日)も実施するなど、住民が運行内容の見直しに継続的に関与できる仕組みを設けている。 (参考:千葉市:コミュニティバスに関するお知らせ)
3. 運賃改定
2019年12月1日には、協議会での検討を経て大人運賃を200円から300円へ改定するとともに、往復利用に適した1日乗車券(大人500円)や1,000枚限定の回数券を導入するなど、値上げを伴う持続可能性確保の判断を住民参加のプロセスで決定している。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス運行協議会事務局からのお知らせ(令和元年11月))
4. 事業者グループ再編に伴う更新(2025年)
運行事業者の千葉中央バスは、京成電鉄バスホールディングスによるグループ再編(バス会社15社を4社に統合)に伴い、2025年4月1日付で「京成バス千葉イースト」に社名変更した。泉地域コミュニティバスでも同時期にバス停名称とダイヤの変更が行われており、事業者側の体制刷新に合わせて案内情報が更新されている。同年2月には、4路線(さらしな・おまご・いずみ・おおみや)共通のモバイル1日乗車券と、千葉都市モノレールとの周遊きっぷ「チバノサト1日周遊きっぷ」の販売も始まった。 (参考:京成電鉄バスホールディングス:ニュースリリース(2025年4月1日)、千葉市:モバイルチケットの販売開始)
1. 単一駅を核とした循環型3路線のネットワーク構造
さらしな・おまご・いずみの3路線はいずれも千城台駅を起終点とする循環運行で、路線最長距離は約25~26km、停留所数は50~55か所とほぼ同規模である。個別の代替バスとして生まれた3路線が、結果的に一つの駅を核とする面的なネットワークへと発展した点は、単発の代替措置の積み重ねが広域の交通網に育った事例として注目できる。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス(概要))
2. 値上げも含めた住民合意による運賃・ダイヤの継続的見直し
多くのコミュニティバス事例では運賃引き下げや据え置きが語られやすいが、泉地域コミュニティバスは2019年に大人運賃を200円から300円へ引き上げる改定を、沿線自治会を含む協議会の合意形成を経て実施している。事業の持続可能性を維持するための負担増を住民参加のプロセスで決定した点は、単純な減便・値上げの押し付けとは異なる合意形成のあり方として参考になる。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス運行協議会事務局からのお知らせ(令和元年11月))
3. フリー乗降区間の設定
3路線には、指定区間内であればバス停以外の場所でも手を挙げて乗降できる「フリー乗降区間」が設けられている。住宅地内の細街路などバス停の設置が難しい区間でも柔軟に乗降需要に応える仕組みであり、利用者の利便性を高める工夫となっている。 (参考:千葉市:路線図)
4. 他地域のコミュニティバス・モノレールとの共通チケットによる広域周遊促進
2025年2月からは、泉地域の3路線に加えて別地域で運行する「おおみやバス」も含めた4路線共通の1日乗車券、さらに千葉都市モノレールとの乗り放題チケット「チバノサト1日周遊きっぷ」がモバイル販売されるようになった。個別に立ち上がった地域単位のコミュニティバスを、市域全体の周遊・観光ツールとして再編集し直す動きであり、日常の生活交通としての枠を超えた活用が図られている。 (参考:千葉市:モバイルチケットの販売開始)
1. 20年以上にわたる運行継続と複数回の体制更新
さらしなバスの開設(1998年)から27年、いずみバスの開設(2008年)から17年にわたり、3路線とも廃止されることなく運行が継続している。この間、2019年の運賃改定、2025年のダイヤ・バス停名称変更と、協議会を通じた見直しが複数回実施されており、単発の代替措置ではなく制度として定着していることがうかがえる。 (参考:千葉県:コミュニティバス一覧)
2. 令和5年度の年間利用者数
千葉市の集計によれば、令和5年度の年間利用者数はさらしなバスが16,547人(1日あたり約42.7人)、おまごバスが39,051人(同約97.6人)、いずみバスが30,665人(同約75.0人)で、3路線合計で年間約8.6万人が利用している。 (参考:千葉市:若葉区泉地域コミュニティバス(概要))
3. 路線ごとに異なる収支率
千葉県の調査(令和7年3月31日時点)によれば、運賃収入で運行経費をどの程度賄えているかを示す収支率は、さらしなバスが20.1%、いずみバスが35.8%、おまごバスが46.4%となっており、同一協議会が所管する3路線の間でも収支状況に大きな差がある。利用者数が最も多いおまごバスは収支率でも最も高く、逆にさらしなバスは利用者数・収支率とも3路線中で最も低い水準にとどまっている。 (参考:千葉県:コミュニティバス(定時定路線型)一覧(令和7年3月31日現在))
1. 路線廃止への対応を「単発の代替バス」で終わらせず統合運営へ移行する
泉地域の3路線は、それぞれ別の民間路線の撤退という個別の事情から生まれたが、開設後は単一の協議会が横断的に所管する体制へと統合された。路線ごとにバラバラに運営を続けるのではなく、後から一体的なガバナンス構造へ移行することで、事業者選定や運賃体系の統一、共通チケットの導入といった規模のメリットを引き出せる可能性がある。個別対応と広域統合を段階的に組み合わせる発想は、複数の廃止路線代替バスを抱える他自治体でも応用しやすい。
2. 「値上げ」を含む見直しを住民参加で決定するプロセスの設計
コミュニティバスの持続可能性を語る際、運賃改定は往々にして自治体や事業者側の一方的な判断として提示されがちである。泉地域の事例では、200円から300円への運賃引き上げを沿線自治会が加わる協議会での協議を経て決定しており、負担増という受け入れにくい変更であっても、意思決定プロセスに住民が関与することで合意形成が図られている。運賃改定を検討する他地域にとって、協議の場をあらかじめ制度化しておくことの重要性を示す事例といえる。
3. 路線別の収支データを可視化し、路線ごとの特性に応じた見直しにつなげる
同じ協議会が所管する3路線でも収支率が20.1%から46.4%までばらつく状況は、地域内の需要密度や沿線人口、通勤・通学動線との整合性によって、同じ枠組みの路線でも成果に差が生じることを示している。複数路線を抱える自治体にとっては、路線を一括りに評価するのではなく、路線単位で利用実態と収支を継続的に把握し、ルート・ダイヤの微修正や統合の検討材料とする視点が有効である。
4. モノレール・他地域バスとの共通チケットによる面的な移動需要の掘り起こし
生活交通として個別に運営されてきたコミュニティバスを、他路線や鉄軌道と組み合わせた周遊チケットの形で再提供する取り組みは、既存の生活交通インフラを観光・回遊需要の受け皿としても活用する視点を提供する。新規投資を伴わずに既存資源の使い方を組み替えることで、日常利用に加えて非日常の利用機会を創出できる可能性がある。
2026年8月時点の調査内容に基づいて作成
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